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湖エリア1

 フェルマは危険なので説得を試みるも、ドクタの気迫に負け、二人は湖に行くことになった。


 途中気配はするが、ボスであるフェルマがいるおかげで、だれも襲ってこず、二人は森の中を歩いていく。舗装もされてない、でこぼこした険しい道無き道。だが、前世の時長年森にいた経験もありすいすいと歩いている。まるで前世のように一匹と一人の姿がそこにはあった。


「それにしても、我の言葉が分かり、たぐいまれなる治療技術、ドクタは聡明なのだな」


 不意にフェルマが話しかけてきた。治療技術も魔獣語も難解で、普通ならドクタみたいな子供にできるような代物では無い。フェルマを治した治療技術は言わずもがなで、魔獣語も一五歳~十八歳が通う学園の生徒が三年間専攻して、ようやく二割の人が理解できる難易度。だからフェルマは純粋に興味があった。


「そんなに難かしい事なのですかね……まぁ、そのおかげで捨てられたのですけど」


 最後の方は自嘲気味に呟く。まだ捨てられたばかりなので、そこまで割り切れるはずもなく、心の傷が疼く。


「そうか……すまない、悪いことを聞いたな」


 フェルマは自分が言った言葉は後悔し、尻尾と頭は下に向きうなだれる。


(「我はなんてことを聞いてしまったのだ。この森でも、親が殺され子供だけになってしまった者達は数えきれないほども知っている。だが一年生きられたものは一割も満たず、大人になるまで生きられたのは一%以下と聞く。そんな過酷な所でドクタは前を見据えている。我が守らないと」)


「ですが後悔はしていません。私は私がやりたいことを突き進むのみです」


 前世の時からもそうだったように……。


 歩く事三十分。目の前に湖が広がっている。このエリアは水様生物が多く、ギルド指定の危険ランクは最下級でもDランク。これは、水中での戦闘の難しさからランクが上がっており、純粋な戦闘能力は、むしろ黒人狼の方が少し上である。


 噂通り、ドクタやフェルマの耳に悲痛な叫び声が聞こえ。


「ネルチャ、出てきてくれ」


 フェルマはここのエリアボスの名前を叫んだ。途端に水面が波打ち、盛大な水飛沫とともに現れたのは、全長十mほどあり、すごく垂れた目に1メートルほどある長く白い長老髭、体全体を覆う甲羅には、幾多の傷跡がついており、長年の戦いの歴史を物語っていた。


 彼は、最古参のエリアボスで、千年は優に超えている。別名千年亀。ギルド公認ランクAの、百体しかいない個別討伐指定になっている。ちなみにフェルマも個別討伐指定の一員だ。


「久しいのぉ~フェルマよぉ~……今日は珍しい客人を連れてきたのぉ~」


 顔を下に向きネルチャはドクタを見つめる。


 一般人なら失神し、冒険者なら絶望するレベルだが、ドクタは視線をそらさずじっと千年亀を見つめた。


「いい目をしておるのぉ~。フェルマから紹介にあったネルチャよのぉ~」


「これは失礼しました。私の名前はドクタと申します。今日はここに患者がいると聞きましたのでフェルマさんに案内を頼みました……私は医者ですから、可能な限り、全力で治します……その前にネルチャさんどこか具合が悪い所はありませんか?」


 ネルチャは髭を触り、首を左右に動かす。考えているときの癖だ。


「体の節々が痛くて、困っていた所じゃ~……何とかできるなら助かるのじゃがのぉ~」 


 ドクタは頷き、早速ネルチャの体を解析する。


 体内に血が固まっている部分があるな……骨もすりへって、さらにひびが入っている。特に足の関節が歪んでおり、一番酷いな。長年の蓄積からネルチャの体はガタがきており、早急に治さないと最悪動かせなくなるかもしれなかった。


 だがドクタは事もなげに言う。


「陸に上がってもらえないでしょうか。治療しますので」


 前世の医療だけでは、短期間の治療は無理であったであろう。しかし魔法を組み合わせる事により、それを可能にした。


 魔力の残量は……八割。寝たことにより回復したから問題無い……本命の患者の分も大丈夫だ。ネルチャは二つ返事で陸に上がってきて。


「これより手術を開始します……激痛がはしるかもしれませんが、私を信じて、なるべく動かないでください」


 フェルマはネルチャの方を向き。


「我も瀕死の重傷からドクタに助けられた。案ずる事はない、信頼できる」


 どうやって治療されたか分からないフェルマだったが、それだけは言えた。


 それを聞き、ネルチャも安心したのか。


「宜しく頼むのぉ~」


 身を委ねることにした。


 まず治療魔法で亀裂の入った甲羅を治す。次にドクタの手から透明の糸の様なものが出現する。それを解析魔法で表示している、ネルチャの血が固まっている部分の近くから侵入させる。二つの属性、解析魔法、治療魔法。ドクタが出した無色の糸の様なものは、ドクタが試行錯誤して開発した、誰でも使える無属性魔法。


 三つ同時展開させるのは至難の業で、ドクタも最初は一つの魔法毎にしか使えなかったが、図書館で魔法関連の文献を読み漁り、魔法の概念を理解し、自身の魔法の才能も手伝って、七歳から二年間、四六時中練習する事により習得できた。余談だが他にもいろいろできるようになり、無詠唱で魔法を放てるのもその一つだ。


 血が固まっている部分に糸を当て、治療魔法を送り、固まりを無くす。血管が細くなっている部分は、糸を円状にし、周りを治療する事により正常にし、骨がすり減った部分やひびは、その部分に糸を巻き、魔法を流すことで回復。


そしてドクタは、本命部分の足の付け根部分に移動し軽く息を吸う。


「すいませんフェルマさん、ネルチャさんが動かないよう、足の付け根部分を固定してはもらえませんか」


「あっ……ああ分かった。我に任せてくれ」


 呆気にとられていたフェルマは我に返り、前足からネルチャの付けの部分を抱く。


 それを見てから歪んだ骨部分に糸を巻きつけ治療しながら正常な場所まで移動させる。これはかなりの激痛を伴い、我慢していたネルチャだったが、反射的に体を動かそうとする。だが治療している足の付け根部分はフェルマが抑えているため、最小限に抑えられている。


「手術完了しました」


 ドクタ自身気付いてないが、晴れ晴れとした良い表情でそう告げた。


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