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奇襲

 目を覚ますと……元いた場所で、死んではいなかった。むしろあの激痛が無くなり、手の指を動かしても、違和感無く動かせる。

 

 さらに一番信じられない事だが、致命傷の傷が跡形も無く回復しており、損傷した臓器も復活していた。


 少年は何処にいるのかとキョロキョロ見渡して……横で木を背にして寝ていた。


(「こうして見ると、何処にでもいるような普通の少年だな。何も装備してない所を見ると捨てられたか。我ながら情けない……我を忘れていたとはいえ、幼い少年に殺意を……ましてや命の恩人に……」)


 我が思想にふけっていると、誰かが柄づいてくる気配がし、目つきを鋭くさせそちらを見る。


 数分後出てきたのは、森での最下層、儂が取り仕切っているエリアの生物で名は黒人狼ブラック・ワーウルフ


 黒い毛並みが特徴の全長2メートルの人狼で、AからZまである危険ランク指定で、Eランク。ギルド登録ランクも初めはZから始まりJランクで一人前と言われておりEランクもあれば一流。つまりはそれでようやく最底辺と戦うことができるのだ。ちなみにこの森はランクC以上でないと侵入許可が下りない。


「ひひひ、ボスまだ生きていたんですか。ちょうど良かった。今のあんたは満身創痍、そこの小僧ともども食らって、俺たちがこのエリアのボスになってやるよ」


 10匹ほどの群れが一斉に……向かって襲い掛かる。


 愚かな。大方、先ほどの戦闘を隠れて動向を見守り、戦闘音がしなくなったら、様子を見にのこのこと姿を現し、我の外見と状況でいけるとふんだのだろう。事実、人間との戦いで深手の重傷を負い、そのエリアの者にやられたケースは少なくない。実際我もそうなっていた可能性は高い……最底辺の奴らにやられる気はないがな。


「へっ」


 それは一瞬の出来事だった。リーダーと思わしき男が間抜けな声を出す前に、全員、胴体と首に永遠の別れを告げる。その間……は動いてもなければ、敵の方に振り向いてさえいない。しいて言うなら、

右後ろ足を振りぬいただけだ。


 我は人間が憎い。幾多の同胞を殺しただけでは飽き足らず、幼い子供まで平気で殺すのだ。武器を持った人間を見ると殺したい衝動に刈られる。だが、武器も何も持ってない少年を殺すなどといった、人間同様犬畜生にも劣る行為はもってのほかであり、我は、受けた恩は義で返す主義だ。


 それから少年が起きるまでずっと外敵に目を光らせていた。









 少年は目を開ける。眠ってしまったか、まずは現在の状況を確認しよう。


 体は……少し気怠いが毒や風など症状はない。外傷なし。脈拍も正常


 次に少年は周りを向く。


 あれはブラッグウルフか、もうすでに全員が死んでいる。ということは。


 少年は生きている者に目を向けた。


「良かった。人以外を治すのは初めてだが、うまくいったみたいだな」


 改めて直した者を見る。三メートルはあろう巨大な体に4脚歩行、白銀の神秘的な毛並みに、鋭い爪。そして、何者も噛み砕くような鋭利な歯。それは元の世界の……と似ていた。


「助けてくれて礼を言う。我の名はフェルマ。このエリアのボスをやっている。差し支えなければ貴公の名を教えていただきたい」


 俺は……。


 これまでの事が脳裏に浮かぶ。


 良かった事、楽しかった事、初めて家族だと思え充実した日々。そして……裏切られ、捨てられた事。

 二度目の人生、少年は生まれてから今までの事を振り返り。


 今までの名前を捨てよう……そうだな。


「私の名前はドクタとでも呼んでほしい。それに私は医者として当然の事をしただけです」


 当然じゃないことを当然と言える人は少ない。


 それが、人間から討伐の対象とされている獣の治療を、自分が倒れるまでやったのなら尚更だ。


 フェルマは虚をつかれた様子になり、笑い声をあがる。


「ふふふ、妙な事を言うものだなドクタよ。気に入った。我にできることがあったら何でも言ってくれ」


 それならドクタの中でもう決まっていた。


「ほかにどこか具合の悪いものはいませんか」


 予想斜め上の解答に、フェルマは頭を抱える。


「いいか、まず、この森には七つのエリア、七人のボスが存在する。全てが反目しているわけではない。だが昔、縄張り争いで数多くの死者が出たため、今は不可侵を貫いており、もし、違うエリアに足を踏み入れてしまったら、殺されても文句は言えない……そういう暗黙の了解となっている。そして我もボスの一人だ。友好エリアが二つあるが、後は敵対しているエリアだ」


 だからフェルマは困っている。叶えてやりたいのはやまやまだが…無理なものは無理なのだ。天地がひっくり返っても、突然敵対エリアから友好エリアになる……なんて事はありえない。

つまり勇者にありがちな奇跡は起こらないのだ……自分で何かをやらない限りは。


「危険だという理由で患者がいるのに逃げ出す医者などになりたくない。治すものになった時、とっくに覚悟はできています」


 ドクタ目は嘘偽りがなく、真摯な眼差しでフェルマを見る。


 説得は無理だと諦め、フェルマは腹を括る。唸りに唸って……頭の上に電球の球が光って思い出したかのようにやがて一つの噂を口にする。


「我のエリアより南方、湖があるエリアに妙な鳴き声がするという噂が聞いたことがある。

幸いそのエリアのボスとは友好があるから、いきなり襲われることはないと思うが……」


「案内してください……それが私のの仕事ですから」


 そして、この行動が、森に大きな変動を与えるとは、まだ誰も知らなかった。




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