幻獣エリア5
エルファリアは声色を変え尋ねる。強制度は『魅惑の眼』ほどではないにしろ、エルファリアは声を変える事によって、催眠術の様に、自分の言う事に従わせる事が出来る。
ドクタは脳に微弱な振動がある事を感じた。声による微弱な振動波か、何を言った所で信用されないだろう。できればこの手段は使いたくはなかったのだがな。
「患者はどこにいますか」
質問を質問で返され怪訝な顔をするエルファリアだが、すぐに合点がいった。やはり人間は卑屈だねぇ、痛い所を突かれたら話を逸らすでありんすね。
しかし患者がいる場所を知っているのはエルファリアだけであり、モリやミッコリも知らない。そう、エルファリアが喋らなければ。
なっ。
三度エルファリアは驚愕する。
わらわの口が勝手に……。口を閉じようと抵抗を試みるも……操られているかのように口は勝手に開く。
おのれっ人間どもめぇ。無効化させようと動こうとしたが……ミッコリと同じで動けなかった。
眉間と鼻に皺をよせ、嫌悪感をあらわにしながら。
「わ・…らわのすわっ……ている……奥の壁……に隠し扉が……あるでっありんす……いつのまにこんな事をやったのかぇ」
大した精神力だとドクタは感嘆する。ドクタがやった事は、見えない糸で、数センチ離れた場所に固定し、合図で何千にもぐるぐる巻きにされた糸で縛り、最後に中枢神経に微弱な無属性の魔法を送り、無効化させた。
エルファリアに口を割らせたのもごく簡単で、耳の奥にある神経を麻痺させ、中枢機能に魔法を送った事により幻惑を見せ、今エルファリアの正面に居るのは……モリだった。
先ほど言った言葉もモリの声で、悲壮な声でミッコリは訴えようとしたが、体と声を封じられればどうしようもない。
「いつの間にって……最初からですよ。心配しないでください。エルフェリアさんが起きた時にはすべて上手くいっています」
これが、刺客とかならすでに命は無く、利害を持つ者なら、とっくに操られていた。エルファリアにとって幸運なのは、相手がドクタだった事。エルファリアは永遠に理解できないかもしれないが、ドクタに裏表は無く、ただ患者を治したいだけだった。
ドクタの声を子守唄にし、エルファリアの意識は暗転した。
ドクタはエルファリアをゆっくりと横たわらせ、奥にある壁を触り、扉を見つけ開ける。
中は6畳ほどで、布団に人化ができないほど弱っているのか、50cmほどの、三つの尻尾を持った狐の姿があった。
呼吸は微弱、息苦しそうな感じだ。顔色が悪く骨も浮き上がっていて食欲不振。
既に病名はドクタの中で決定的となっていたが、念のため解析魔法をかけ確信に至る。
間違いない、肺炎だ。
肺炎とは肺の中に微生物が侵入する事により、肺の一部が水浸しになる病気で、生命にもつながる危険なものだ。
症状としては、発熱、咳、痰、胸痛、呼吸困難などがよくあげられ、場合によっては食欲不振が唯一の症状の場合があり、見つけにくい病気の一つだ。
肺結核や低酸素血症も疑ったがそれは無く、これなら早めに治療できるとほっと胸を撫で下ろす。
実は現在ドクタの魔力量は四割ほどで、エルファリア達に魔法を使い続けてるため減り続けており、糸も後二本ほどしか出せない。そんな状況だったので、長時間の治療は難しい状態だった。
治療を開始しようと言葉を出そうとしたが、うっすらと目を開けた患者と目が合う。
「心配しなくてもいいですよ。私が必ず貴方を治します」
心配させないようドクタは笑顔を見せ、優しく語り掛け、安心したのか患者は再び目を閉じた。
「それでは、手術を開始します」
糸を肺の部分まで侵入させ、水浸しになっている部分の外側に張り付け、回復魔法をかける。
時間にして二十分ほどで終わり、念のため第二改変を使い、患者が正常になったかどうか見て……。
「手術は完了しました」




