幻獣エリア4
やはりばれていたか。ドクタは魔法を解除し、元の目に知覚される。
いつか看破されるだろうとは、ドクタは思っていたが、まさか初見で見破られるとは思って無かった。だてにトップを張っている訳じゃないか。表面上は眉ひとつ動かしてないが、手のひらには嫌な汗を掻いていた。
しかし、まだ策はある……相手の出方次第だがな。
「さすがは、エルファリアさんですね。ですが、昨日ふと耳にした事がありまして、予防線を張らせていただきました」
緊迫した空気の中、ミッコリは静かにドクタを無効化しようと動こうとしたが……金縛りにあったかのように指一本動かなかった。
なっ!
冷静沈着で、エルファリアの右腕として働いていたミッコリだが、この様な事態は想定外で、誰がやったかは一目瞭然だった。
お館様……この男は危険です……。
固定された目に写るエルファリアに、必死になって眼差しを送った。
「ミッコリ……いやぇ、モリもかぇ……何かやったのでありんすねぇ」
「操り人形の様に誰かに支配されて治療するのは御免こうむりますので、少しの間無効化させていただきました……私はあなたの娘さんを治したいだけです。邪な思いやあなたの娘さんに危害を加える気はありません」
これはドクタの嘘偽ざる本音だった。しかしエルファリアを初め、この森の住人の大半は人間の言う事など信用していなく、特に人語を解すここ幻獣エリアはそれが顕著であった。
「そうさねぇ」
扇子で顔を隠し、エルファリアは思案する。
少年のふりして、中身は化け物かぇ。顔を隠したり理由の一つは、エルファリアの動揺を悟られないためである。モリの事はある程度推測はできていた。人間の魔法使いの使う魔法の一つとして、反射の魔法があり、おそらくそれを使って、逆にモリを洗脳させ、内容を聞き出したのだと思った。幻獣エリアの住人は妖術使いであり、魔術ではないのだが、魔法使いを洗脳させ試した結果、成功率はそんなに高くはないが、逆洗脳された者がいる事が報告された。だから一番『魅惑の眼』が得意なモリを用立て、盤石の体制だった。しかし蓋を開けてみれば、報告された時は成功と言われたが結果は失敗。可能性は低いが相手は子供なので侮ったのだろうと思う事にした。
だから入ってきた瞬間、洗脳者にしては、妙に足取りがしっかりしていた事と、目以外の部分が正常だった事から動揺もせず、都合のいい解釈や慢心などもせずに、すぐに見破ったのだ。ドクタには演技経験などはないため、それは仕方ない事だ。
それよりもありえない事は、エリファリアがピンチになると、すぐに行動に移すミッコリが、先ほどから一歩も動かない事だ。
エルファリアから見ても、ドクタが何かしたのは分かってはいたが、何をしたのかは分からなかった。この部屋に来てからドクタの事は見ていたが、目立った動きはなく、ここに入ってくる時は正常だった。にも拘らず、今はあんな状態だ。
警戒するにこした事はないかぇ……全く厄介でありんすねぇ。
「見返りは何かぇ」
子供という侮りは捨て、厄介な敵としてエルファリアは認識した。




