条件
ひし形の光物が真上に移動した頃、のんびりと宴をした所で待っていたフェルマとドクタの前にホークが現れた。
「どうでしたか」
ホークが言いづらそうにしていたので、ドクタから話を切り出した。
「その……なんだ」
まだ踏ん切りつかないのか、ホークはうんうんうなっていたが、覚悟を決める。かっ……と見開き話し始めた。
「とりあえずは移住する事に関しては了解を取り付けた」
まさか許させるとは思っていなかったので、素直に嬉しそうな表情になるフェルマを尻目に、ドクタは難しい表情だ。
やはりそうか……。ホークやフェルマが難しいといった理由。何故賛成多数になったのか。それを考えればおのずと分かった。
「追加の条件は何でしょうか」
上手い話には理由があり、敵対勢力の提案を、諸手をあげて賛成するなどありえない。
ドクタの考えは当たっており、ホークは申し訳なさそうにしながらも、ポツリポツリと続きを話し始めた。
「ドクタの言う通り条件の方だがよ……賛成した五エリア……俺とネルチャ以外の他三エリアに一人で回り、そこのボスに面会する事。そこで『力』を見せ、認められる事。最後に……気に入らなければ何をしても許される事だ」
ホークは感情を出さないよう機械的に言ったがフェルマが顔を紅潮させ。
「それでは殺されに行くようなものじゃないか。我は認めぬぞ」
フェルマの言う通り、その条件だと死にに行くようなもの。圧倒的に不利な条件だ。
ホークも自分の不甲斐なさに拳を握り締める。しかし例えフェルマが居ても同じ結果だったであろう。
むしろ思った事を口に出すので、言質を取られてもっと不利になっていたのかもしれない。エルファルアが場をコントロールし、最終的にはドーグが有無を言わせず決定した。ホークやネルチャも何とか有利な条件にしようと頑張ったが、数の優位で、どうする事も出来ず、何とか全エリアを回るのは阻止した。反対したエリアから認められることなど九十九%ありえない事なので、よくやった方だといえる。
「ここまでしていただけてありがとうございます。いつから行けばよろしいのでしょうか」
ドクタは思ったよりも悪くない条件に、ひとまず安堵した。考えうる中で最悪の条件よりも二回りほど優しい条件。感謝こそすれ、怒りや失望などもってのほかだ。
「ドクタは我が居なくても大丈夫なのだな……パートナーの我が居なくても」
どんよりと沈みがっくりと項垂れるフェルマ。これからも共にいるものだと思っていた。条件とはいえ、間違いなく危ない状況になる。なのにあっさりと要求を呑むドクタに、自分はいらないのかと酷く落ち込んだ。
「もちろんパートナーのフェルマが居ないと心細く感じます。ですがここに住むために必要な事で私の患者さんになるものがいるのなら行きたいと思います。だから、終わったら必ずここに帰ってきますので、フェルマはここで待っていただけないでしょうか」
そう言われればフェルマも認めるしかなかった。
「絶対帰ってくるのだぞ。我との約束だ」
ドクタからそうではないと言われ、フェルマは気分が上向く。約束の印として、ドクタの耳を甘噛みする。その行為は、森で親しい者の間で約束が果たされるようにと、まじないの様なものだ。
「盛り上がってるとこ悪りぃーが、できるだけ早く来るようにだとさ……行くときになったら言ってくれ、境界線まで案内すっからよ」
「分かりました。すいませんが少しの間待っていてください」
ドクタはホークに断りをいれ、フェルマと話し合う。体感にして一時間ほどで、フェルマもドクタも話足りず名残惜しかったが、ホークが待っているので終え、ドクタはフェルマの上に跨り、ホークとフェルマは疾走する。一時間半ほどでエリア間の境界線までついた。
フェルマから降り。
「忠告しとくが、特に女狐やエリアには騙されるんじゃねぇーぞ」
「優しいんですねホークさんは。それでは行ってきます」
心配するホークとフェルマに手を振り、他エリアに侵入する。
それから歩く事十分。これは……。目の前に驚きの光景が広がっていた。




