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プロローグ

 人生なんて獣と同じ弱肉強食だ。強いものが生き残り弱いものが隅に追いやられる。

 生き残るには、両親が作ったレールの上を走り強者になるか、自分で一段ずつ昇るか……。


 俺は、自分で言うのも何だが両親が医者をやっている所謂勝ち組。

 

 東京大学医学部をトップの成績で卒業。その頃には父が院長となっており、卒業前にその病院に入ることが内定している。


 親に決められた人物と結婚し、はては親の後をついで院長。


 正に順風満帆だった……野心を持っているものならばの話だが。


 そんな人形みたいな生活をするのは御免だ。医者を目指したのは、高額な手術を受けられない貧しい人達を救ってあげる事。それにはいろんな経験が必要で、親の病院はまさにそんな条件を満たしてくれる場だ。


 四十にもなると外科の中では世界的にも有名になり、おかげで病院の規模は拡大。念願だった貧しい人を救う目的は、イベント形式だが、ワクチン無料接種に、無料診断等の日を年に何回か設ける事が出来た……。最も親を初め医者連中は渋ったが、最後は無理やりねじ込んだ形になる。


 そんな幸せな時間は長くは続かず、親に進められた結婚を断った事により、微妙な空気となる。さらに内部の派閥抗争で勝手に祭り上げられた事により険悪化。


最終的に医療ミスをなすりつけられ、島の診療所に転勤となった。


 その事は、当時の新聞やテレビでも大きく取り上げられ、『堕ちた天才医師』などと書かれていた。


 助けたかった貧しい人達にも冷たい目で見られ、罵倒され……失意のまま診療所に旅立った。


 俺は一体何を助けたかったのだろう……と。


 その島は人口百人と小さく、むしろ野生動物の方が多く、四分の三が森で覆われている島だった。


 ここでも俺の噂が響いているのか、人一人来ず、森を散策するのが日課となっていった。


 そこで、…………自分の価値観を変える出会いをする。


 そこには、怪我をして横たわっている、大型犬よりも若干大きい、ふさふさした毛並みの動物がいた。


 呼吸が弱く、診療所まで担ぎ、抵抗する気力も無いのか動物はされるがままとなっている。まずいと思った俺は足早に向かった。


 結果的に言えば、体内に弾が入っており、臓器を傷つけないよう取り除き、出血した部分を抜糸し、事無き事を得た。


 二週間もすれば、元気になり、一月程経過を見て、森に返した。


 それからだろうか、ちょくちょくその動物が来て、白衣を引っ張り、患者の元へ案内してくれるのは。


 それから俺は獣医学に興味を持ち文献をあさり、住民たちは気味悪がってますます近づいてこなくなった。


 何回か元いた病院から送還通知が来たが無視し、気付けば五十になった。


 診療所には、人はいないが、森の動物達がひっきりなしに来るので、寂しくはない。


 むしろ、ようやく助けたかったものが何なのかが理解できた気がする。


 最初に出会った犬は十年来の付き合いで驚く事にこちらの言葉を理解しているようだ。


 大きさもゆうに二mは超え、まるで物語に出てくる狼の様だ。最も初老の男はさして気にしていないが。


 初老の男と犬には、言葉は通じないが、この十年間で強い信頼関係が出来上がっている。



 余談だが、既に獣医の世界でも有数の腕になっており、閉鎖空間に居る為、知る由も無かった。


 その日も普通の一日だと思っていた……密猟者が船から出るのを見るまでは。


 急いで狼に動物達を森の奥に誘導する様頼む。自分は、殺気だって森を散策しようとしている……密猟者達の間に立ち塞がる。最初は理由を聞いた。どうやらあの狼が目的らしく、偶然診療所に来ていた所を住民が見て、金になると判断して猟師を雇ったらしい。


 何処までも人間は……。


 憤りを感じたが、今は説得するため、真摯になって言葉を紡ぐが聞き入れて貰えず、揉み合いの末……最後は撃たれた。


 人を撃った事で、警察に捕まる事を恐れた男達は、血相を変えて逃げ出す。おびただしい血の海の中で横たわっている俺はそれを見つめ。


「良かった……」


 もう既に助かる事は無いだろうと、もっと数分の命だと悟り、仰向けになる。


 そこには息を切らした狼がおり、懸命に傷口を舐めていた。


「すまないな……先に行くよ……お前に会えて……心が救われ、本当に良かった」


 狼の頭や体を撫で……俺の生涯は幕を閉じた。


「うぉぉっぉんんん」


 狼の悲しい遠吠えが何時までも……何時までも鳴り響いた。


 その後、狼主導の元、人間の集落を襲い……この島は無人島となった。


 今でも無き医師に感謝するように診療所には動物達で溢れかえっていた。


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