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決意

――満月の夜、とある城内の廊下にて――

 


 蒼色の髪をした青年は廊下にたたずんでいた。

 青年は窓から見える真夜中の城下町の景色をただ茫然と眺めていた。

 その景色はいつもと変わらない美しい景色だった。

 そこに一人の軍人が不思議そうな目で声を掛けてきた。


「どうしたのですか?何か不審なものでも見えましたか?」


「君はこの景色を見てどう思う?」


 尋ねられた青年はその軍人の質問に答えず逆にその軍人に問いかけた。


「は? この景色ですか? …いや、別にいつもと変わらない景色ですが……」


 突然の問いかけに若い軍人は訳も分からず、率直に感じたことを述べるので精一杯だった。


「そう、いつもと変わらない平和な景色だ……」


 そう言うと青年はまた窓から見える景色を眺め始めてしまった。

 その軍人はどうすることも出来ず、ただその場を立ち去るばかりだった。


「そう、私はこの窓から見える平和で美しい景色を守らなければならない。民も、そして国王も……」


 景色を眺める男の髪は蒼く、その腰に差している剣は変わっていた。この世界で剣といえば両刃のものが一般的であるが青年が所持しているものは片刃であったのだ。

 変わっているといえば彼の外見もかなり変わっている。彼が身に付けている軍服は黒く、闇夜に溶け込みそうな感じだ。また、彼は顔の上から半分を仮面で覆っていた。その仮面もこれまた黒く、その形状は虎をイメージさせる。

 彼は頭の先から足のつま先まで全身黒ずくめなのだ。

 仮面に隠れてその表情は読めなかったが仮面を通して町の景色を見つめるその眼には、何処か強い決意が感じられた。

 そう、彼は決意していた。自分自身に、国民に、そして…敬愛なる国王に……




――王の間にて――



 翌朝、仮面の剣士は王の間を訪れ、国王の目の前で膝を地に付け頭を下げていた。男の他にも複数の臣下が国王の左右に立っていた。彼らはみな式典用の軍服や衣装を身にまとっていた。

 しかし、仮面の騎士だけは例外だった。彼は漆黒の甲冑にも似たバトルスーツを装着し、これまた漆黒のマントを羽織っていた。さらに、マスクと企画が同じなのだろう、マスクとメットがきれいにフィットしている。これによって彼の頭は完全に虎の形となった。

 国王は青年に歩み寄るとその右手を軽く持ち上げ、彼の仮面を通して見える目を見つめた。


「×××よ、御主はこれまで我が国のためによく戦い、数々の勝利をもたらしてくれた。これこそ正しく忠臣たる者の行いだと思っておる。そして御主がもたらせた勝利は民を喜ばせ、また戦場における兵士に勇気を与えた。よってこれまでの功績を称え御主に軍事面での特権と『黒騎士』の名を授ける」


「はっ、ありがたきしあわせ! その名に恥じぬよう更なる戦果をもたらすことをここに誓います」


 仮面の剣士の仮面の下から数滴の涙がこぼれ落ちた。

 青年はこの国王を尊敬し、心の底から感謝していた。 

 彼は捨て子だった。まだ物心がついていないときに城の前に捨てられた身寄りのない子だった。

 そんな青年を救ってくれたのが今、彼の目の前にたたずむ国王だった。国王は城の外に散歩に出かけていたときに偶然、彼を見つけたのだった。

 国王はこのままでは赤ん坊が死んでしまうと思い、そのまま城に連れて帰り、彼を保護したのだ。そして赤ん坊の体調が回復すると、自分のツテを頼り、その者に彼を養子に取らせたのだった。

 その話を青年は言葉を大分覚えた頃に義父から聞かされた。そして彼は国王が命の恩人であることを知った。それ以後、彼はその義父の下で剣の腕を磨き、いつしか国王に仕えるのを夢見ていた。

 そして彼が十四のとき、その夢はついに叶い、青年は護衛兵として国王に仕えるようになった。(彼の仮面はその名残のようなもので国王以外にその素顔を見せないという忠誠心の現われによるものである)

  仮面の剣士は現在、十六歳となり、その忠誠心はより一層のものとなっていた。


(この国王のためなら…自分はどんなことでもやってみせよう……)


 青年は改めて目の前で自分の右手を取るこの男に、心の中で誓うのであった……。

 後に彼は『黒騎士』と言う名で敵国の兵士たちに恐れられることとなる。


 敬愛なる国王が名づけ、この国の名称から取った堂々たる名……


   

  『ディーベル・クリスト』と言う名を仮面の奥に秘めながら……






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