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開戦


 ルフィス歴1299年、ディーベルク王国はアルフォード王国に対し突如、宣戦布告をする。後にこの戦争は統一戦争と呼ばれ、後世に残る大きな戦争となる。この物語はこの戦争のきっかけとなった宣戦布告と開戦前の兵士達の心情を書いた物語である。




――輸送ヘリWF−44内にて――



 いったい、どれほどの時が流れたのだろう…。

 腕時計を見てみると出発してからまだ数分しか経っていない。しかし、自分の中では既に半刻が過ぎた感じだった。

 機内には異様な雰囲気が漂っていた……。


「まぁ、無理もないかぁ。今から戦争をおっぱじめようというのだからなぁ…」


 そう、全ての発端はあの第一声からだった…。




――四日前、ディーベルク城にて――



「まず、諸君らに一言述べたい。諸君らは真の戦士だ!」


 緊迫した会場内を包み込むかのようにその声は強く、そして重くひびき渡った。

 ディーベルク国王の演説はその一言から始まった。


「諸君らも知っていることだろうが近頃、隣国のアルフォードが不穏な動きを見せている。その動きを諜報部に調べさせたところ、アルフォード王国が我が国に進攻しようとしていることが判明した。これは我が国の一大事である!我が国の理念は争いのない世界を作ることである。しかし、今その理念を貫こうとすればたちまちこの国は彼らに滅ぼされることだろう。我々に残された道は一つ、アルフォードの我が国への進攻の準備が整う前に彼らに先制攻撃を掛け、アルフォードをこの世から葬りさることである! 諸君らにとってこの戦争は苦痛となることだろう。だが私は諸君らに約束しよう。この戦争が集結した後、真の平和な世界が訪れることを!」


 緊迫した会場内から一気に歓声が上がった。この国に、この王に、そして民のために、命を捧げよう。誰しもが国王の言葉に心を打たれたのだった。


 兵士達の心は一つになっていた・・・。




――輸送ヘリWF−44内にて――



「…やるしかないんだな……」


 しかし、そうはいってもほとんどの兵士はこの戦いが初陣となる者ばかりである。

 周りの兵士を見てみると、手足をがくがくと震えさせている兵士や、神に祈りを捧げている者もいる。誰しもが恐怖や不安でいっぱいなのだろうと思っていた…っが、中には全くといって動じていない者もいる。

 特に目に止まったのがどう見ても十代と思われる青年だ。髪は蒼く、腰には変わった形をした剣を差しており、先ほどから表情をぴくりとも変えない。しかし、その眼からは内なる闘志を感じられる。


「あんなに若いやつまでもが戦場に駆り出されるのか……『全てはこの国のために』か…可哀想なものだ。しかし、変わったやつだ。あの歳で平然としているとは大したもんだぜ」



 男は青年兵士を眺めながら自分があの歳の頃、何をしていたかを思い出していた。当時の彼は家の近くの公園で友達数人とよくファームズ(サッカーのようなもの)をやって汗を流し、泥だらけになって家に帰り、母親に叱られる、そんな平和な生活を送る青年だった。

 時代は変わった。今や、アルフォードとディーベルクは完全なる敵対関係が出来上がり、戦争を始めてしまった。老若男女問わず、戦争に駆り出せる者は駆り出され、町はどこにいこうとも緊張と不安の渦が渦巻き、平穏さは失われている。

 男は争いごとが嫌いだった。本当なら戦争など起こしてほしくなかった。だが今、自分はその戦争の真っ只中にいて、敵という名の人を何人も殺そうとしている。

 何故か?答えは簡単だ。家族を、その家族のいる町を護りたかったからだ。戦わなければやがてアルフォードの進行軍に町は焼かれ、妻も息子も殺されるだろう。

 家族は彼にとってこの世に二つとない宝石であった。自分の命そのものといってもいい。


 ヤラナケレバヤラレルノダ…………


 男はその言葉を内なる自分に言い聞かせ、必死に戦争を肯定させた。男にもはや迷いはなかった。


「神よ、我はここに誓う。我が身がどれほど紅き血によって汚れようとも我、家族を護るために命を狩る罪を厭わない。ただ、我が最愛なる家族さえ護ることができるのなら……。神よ、どうかこの罪深き愚者にご加護を……」


 そうこうしている内にようやくヘリは作戦ポイントへと近づいてきた。

 機内の緊迫感はピークに達していた。


「降下用意!」


 ヘリの最後尾にあるハッチがゆっくりと開いていく。隙間からは太陽の日差しが機内を侵食していき、蒼穹の世界が顔を出している。

 指揮官の指示のもと兵士たちはハッチへと足を進め、パラシュートなどの装置の再点検を行う。

 そして運命のカウントダウンが始まった。


 カウントと並行して全兵士たちが見つめる中、降下ランプがゆっくりと点灯し始めた。


 一つ目が点灯し、一間置いて二つ目が点灯。そして…

 一瞬、時が止まった…、そして再び動き出すと運命のランプが点灯した。



    戦士達は大空へと飛び立った……


 



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