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第七話 王都脱出作戦

 会食での一件はあっという間に城内に広まり、今や王都にまで届く勢いを見せていた。

 曰く、三人の姫が一人の騎士を取り合っている、と……。


「冗談じゃねぇよこのやろう……」


 俺は騎士じゃない。と言ったところで誰も聞きやしない。

 悪夢のような会食から次の日。俺はたった一人で王都を歩いていた。

 時刻はちょうど昼時。あたりにはランチタイムと洒落こんでいる人が多数見受けられる。

 そう、俺はこの時を待っていたんだ。

 朝、与えられた部屋のベッドで目を覚ますと何処から入ってきたのかレティアが潜り込んでいても騒がず。

 出会い頭から稽古だ稽古だと五月蝿いリィンを追い払い。

 誰に付けるつもりか分からない首輪を手に、嬉々として俺を探すアーシェリアから逃げ続け。

 ようやく俺は、この時を迎えていた。


「さぁ、逃げるか」


 王都脱出作戦、スタート。


 なるべく人の目が無い時に王都から脱出し、そのまま隣国のヴェルノア王国へと逃亡する。

 出来ることなら夜中に決行したいところだが生憎と城門が閉まってしまう。王都の門もしかり。

 それなら、と次善の策として昼食時に決めた。

 俺は予めレティアにはアーシェリアと昼食を取ると、リィンにはレティアと昼食を取ると教え二人きりになりたいから邪魔をするなと釘を刺しておいた。

 アーシェリアにはリィンと昼食を取ると教えたのだが……面と向かってそんなことを言えばどんな目に合わされるか分からなかった。なので、そこら辺で捕まえた若い騎士の青年に伝言を頼んだ。 

 彼はアーシェリアに会えるのが嬉しいのか涙目になっていたが、俺も心を鬼にすることにした。許してくれ、名も知らぬ騎士。

 これで三人の姫は互いに牽制しあって俺を見逃すはずだ。完璧だ……今度こそ俺の策が役に立つ!

 ククク……、フハハ……、ハァッーーハッハッハッハ!!

 おっと……こうしちゃいられない。何はともあれこの王都から出るのが先決だ。

 ……ん? あれは……。


「――――でな、――――きってばさ――」

「へぇ――――らず――ですね」


 飲食店の店先に設置されたテーブルで談笑しているのは何処か見覚えのある金髪ロングの後ろ姿。

 そいつは騎士団の制服を身につけている。ジェインだ……あのやろう……ここで会ったが百年目だ!

 近づいていくと談笑していた相手の姿が眼に入る。見覚えのある顔……というか身内だったので俺の中で遠慮するなとゴーサインが出た。

 だが辿り着く前にそいつの目が驚きに見開かれる。チッ、気づきやがったか。


「あっ……ちょ、ちょっと……うっ」


 俺はにっこりと笑みを浮かべながら人差し指を唇に当て黙れとサインを出す。

 よしよし、良い子だ。邪魔をするなよ?


「……? しっかし兄貴も相当抜けてるよな。他の参加者なんているわけがないのにさ。でもよ、あんまり楽しそうだったから水を差すのも気が引けるだろ? それで見送ってみたら本当に姫護になりそうだしさ」

「ぅあ……う、うしろ……」

「は? 後ろ……?」


 一体何があるんだと言わんばかりに無造作に振り返ったジェインは俺の存在に気づくとまるで人形のように固まる。抜けてる……そうか、お前は俺のことをそんな風に見ていたんだな。


「あ、兄貴……姫護就任、おめでとうございま――痛っー!!!」

「まだ決まったわけじゃねぇ、よ!」


 身体強化を発動してジェインの頭を鷲掴みにする。みしみし、と嫌な音が響き渡る。


「あ、兄上! それ以上はやり過ぎです!」


 対面に座っていた身内、レオニカが声を上げる。

 ふむ……流石にこれ以上やると不味いか。

 離してやるとぐったりとジェインはテーブルに突っ伏す。反省しろ。


「よう、レオニカ。元気でやってるか?」

「はい。兄上こそ壮健そうで何より……なんだか大変なことになってるようですが」


 レオニカ・ウォー・ヴァンレイン。ヴァンレイン家の三男だが兄弟で一番の出世頭だ。

 剣の腕はもちろん、学識もある。まさに知勇兼備と言えるだろう。

 オヤジ殿もレオニカは将来ヴァンレイン家を継ぐ子だと言っていた。俺も全くの同意見を持っていた。


「そう、そのとおりだ。全く、面倒な事になったよ」


 だが、その面倒を止める手立てはあった。王都でジェインに会ったとき、姫護関係の情報を知っておけば俺は城へ行くなんて愚行をするはずがなかった。

 それを問うと、ジェインは顔を押さえながら身を起こして言った。


「だってよ……こうでもしなきゃ兄貴は騎士なんてやらないだろ?」


 当たり前だ。お前は何を言ってるんだ。というか何があってもやる気は無いっての。


「俺は……兄貴がもう一度騎士をやってる姿を見たいんだ。兄貴は俺の目標なんだよっ……」


 なっ……!? よく覚えてるな。記憶の中だからって美化しすぎてやしないか?


「私もジェイン兄さんと同じです」

「おいおい、そりゃないだろ。買いかぶるなよ」

「事実です」


 ……あぁ、もう。怒る気が失せたぜ。


「はぁ……まぁいい。過ぎたことだしな。それに、どうせ姫護なんざやる気は無いしな」

「えっ? どういうことだよ?」

「ふっ……聞きたいのか? この俺の策を! 言っておくが先のようなチャチな物じゃないぞ? 今度こそ完璧な手際で俺はこの王都……いや、この国から脱出して見せる!」

「へ~ぇ? それであんな姑息な手段を使ったってわけ、だ。これはお仕置きが必要かしら?」


 …………?

 お、おい。ジェイン? いや、レオニカか? どっちでもいいや……声真似うまいなーうん。本物と聴き間違えたぜ。まさかこんな所にお姫様がいらっしゃるわけがないじゃないか。騙されないぞ、ははっ……。


「……こっちを見なさいよ」


 むっと癇に障ったような声。俺はギギギ、と音が聞こえそうなほどぎこちなく首を回す。

 街中でも相変わらずの黒ドレスのアーシェリア。可愛らしい笑顔が向けられているが俺は蛇に睨まれたカエル状態。

 ダレカ、タスケテー。


「ア、アーシェリア……んむっ!?」


 唇を人差し指で抑えられる。い、一体何をなさる気でしょうか。


「昔のようにアーシェと呼びなさいって言ったでしょう?」

「そ、そうだったな……悪い、アーシェ」


 よろしい、と頷くアーシェ。というか今気づいたが好奇の視線が多いこと多いこと。

 いつのまにやらレオニカやジェインは離れたところで野次馬化している。いや、まさかそれは他人の振りか!? お兄さん、そんな薄情な弟達に育てた覚えはありません!


「この国を脱出、かぁ」

「な、ななな、なんのことでしょうか」


 アーシェは俺に体を近づけてつぶやく。

 聞かれた……もうダメだ。俺はきっとこのまま首輪を付けられて城で幽閉されるんだ。

 そして三人の姫のペットに……あ、騎士じゃないならいいかも……いや待て、流石にそれは……。


「まぁ私は気にしてないけど。……どうせ無理だしね」


 なんだと? 


「無理だと? 一体どうして……」

「封縛の書。ふふっ……自分が書いた魔導書のせいで身動き取れなくなるなんて想像してたかしら?」


 ……封縛の書は俺が書いた魔導書だ。例に漏れず禁書指定とされて一般には出まわって無いはずだが……一応王城には一冊納めた。まさかそれを使って?

 魔導書とはいわば魔法の指南書。あれによって習得出来る魔法は確か……束縛の魔法だ。


「……まさか」

「試してみれば分かるけど、今のアンタは王都から一歩も出ることの出来ない体になってるわ」

「王都に縛り付けたってのか? 一体いつの間に……」

「さぁ? 別にいつだっていいでしょう。あ、でも確かめるのは後にしてよね?」


 言うが早いかアーシェは俺の腕を抱きつくように取る。まるで恋人同士がするように腕を組んで城へと歩き出す俺たちを次々に人は避けていく。死ぬほど恥ずかしい。

 こいつは自分の立場を分かっているのだろうか。王女だぞ王女。天下の往来でこんなこと……。


「なんで腕を……普通に歩かせてくれ。もう逃げないからよ」

「嘘をついた罰よ。今日一日はアタシに付き合いなさい。大丈夫、壊しはしないから!」

「壊さなきゃ何でもしていいとか思うなよ!? 俺にもな、手段ってもんがあるんだぜ!?」


 舌噛み切って自害すんぞオラァ!


「……それは困るわね。今度自殺防止の魔具でも取り寄せておかなきゃ」

「誰か助けてー!!」


 割とマジで叫ぶ。冗談よ、と言って笑う彼女の笑顔を間近で見てドキリとする。これが俗に言う吊り橋効果という奴か……。

 後日、王都から出てみようとしたが束縛の魔法が発動し本当に一歩も外に出ることは叶わなかった。

 誰だこんな厄介な魔法作った奴は! ……あぁ、俺か。

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