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第四話 入城・突然の決闘

 庭園に行こうと意気込み、歩き出したところで俺は我に返った。


「庭園って、何処だ」


 書庫までの道のりは朧気ながらに分かったが、庭園までの道のりは完全に記憶にない。

 仕方がないので誰かに道を尋ねようと考えるが……


「こういう時に限って誰もいねぇんだよな」


 こんなことなら書庫の精霊(自称)に行き方くらい聞いとけばよかった。本当に精霊かどうかすらも怪しい存在だったが……。

 階段を上り下りするがそもそも外に出るルートが分からん。窓の外に芝生が見えるからいざとなれば窓から出ればいいんだが……さてどうしたものか。

 さ迷い歩いていると前方の角から人影が現れた。渡りに船。声をかけるべき、なのだが……


「なんだありゃ。ドレスか? 鎧か? どっちかにしろよ」


 カチャカチャと金属音を立てながら歩く人影は女性だった。金髪をポニーテールにした少女だ。着ている服は赤のドレス、なのだがところどころ金属が使われているし手甲までしている。腰には剣。騎士……なんだろうか。あんなタイプは初めて見る。しかも雰囲気からして高貴な人っぽい。ぶっちゃけ、関わると面倒そうだ。

 だが、ここで素通りしてしまうとまた無駄にさ迷うことになる。えぇい、一か八かだ。


「失礼、庭園までの行き方を教えてはもらえませんか?」


 精一杯丁寧に聞こえるように頑張る。公の場以外では殆ど使わないから自分で言ってて違和感がある。

 彼女は怪訝な表情でこちらを向いた。


「なんだ? その程度の事は使用人にでもっ――――!」


 怪訝な表情が言葉の途中で驚きに染まる。

 今日は良く驚かれる日ですなー、って思ってる場合じゃないね。なんで驚いてんだこの子。

 別に見るからに怪しい格好ではないし、怪しい雰囲気も出してない……はず。

 となると実は知ってる人だったので驚いたとか? 少女の綺麗な顔を見つめて記憶と照らし合わせてみるが一致する物がない。初対面のはず……なのだが。


「ルシ、ア?」

「はい?」

「す、すまない。人違いだったら謝る。もしや……貴殿はルシア・ウォー・ヴァンレイン殿では?」


 貴殿って、そんな呼び方するのオヤジ殿以外に初めてみた。それも女の子が。

 いや、まぁそれは置いておこう。肝心なのは初対面のこの子が何故俺の名を知っていたか、だ。

 可能性その一、憎きアーシェリアが人相書きまで作って悪評を広めている。

 可能性その二、実は俺と彼女は昔に一度会っていて俺が忘れているだけ。

 可能性その三、実は俺の首に賞金がかけられていて彼女は俺の首を狙う賞金稼ぎ。

 ……まぁ三は無いな。自分で考えておいてなんだが賞金首って有り得ないしな。

 となると一か二? まぁそれ以外もあるだろうが……個人的には二がいいね。こんな綺麗な子と知り合っておいて忘れるなんて昔の俺はアホかと問いたいがそこはまぁ気にせずに行こう。


「あぁ、たしかに俺はルシアだが……何処かで会ったことありまし、た?」

「そう、か。……ルシアか」


 ん、あれ……様子がおかしい。急に俯いて若干震えているように見える。

 感動……? いや、その割には何故、手が剣へと伸びているのでしょうか? 誰か教えてー。

 こ、この震えって……まさか、武者震い?


「――ここで会ったが百年目っ!!」

「うぉ!? あぶねぇ!!」


 一息に剣を抜刀した彼女はその勢いを殺さずに斬りかかってくる。どう見ても刃引きされてません、本当にありがとうございます――じゃねぇよボケ!!

 嫌な予感がしていたおかげですぐに回避行動に移れた。

 一手目の横薙ぎを上体を逸らして回避。さらに身体強化の魔法を発動する。

 続く喉元を狙った突きを裏拳で弾くと同時にバックステップし距離を取る。


「おいおい……俺が何をした? とりあえず落ち着けよ。ここは城内だぜ?」

「聞く耳持たん!」

「頼むから持ってくれっとと!!」


 剣を下段に構えて駆け出した少女の姿を見て俺はすぐさまに反転して逃げ出す。

 理不尽な暴力、超怖い。


「逃げるな卑怯者!」

「逃げるに決まってんだろうが! というかせめて理由くらい教えてー!」

「自分の胸に聞いてみろ!」


 …………分からん! というかアレが誰かも分からないのにそんなの無茶だ!

 とりあえず身体強化は出来ているから追い付かれる事は無いはず。

 後はうまく撒けばどうとでも――そう考えた直後に風切音。髪が三、四本宙に舞う。

 ていうか追いついてきてるー! 足速いし、怖い!


「剣を、出して、戦え!」

「待って、あぶっ、もう嫌だー!」


 ドタドタと城内で暴れる少女(俺は逃げるだけ)。

 何度か使用人や他の騎士とすれ違うが皆ぽかんとしたまま助けてくれない。しかも以外と周囲が見えているのか調度品や絵画などに一切被害を出さない。

 ヤバい。今のところ奇跡的に無傷だがそのうち怪我人が出る。俺は物言わぬ骸になるかもしれん。

 そして、考え事をしていたからか。はたまた少女が誘導したのか。俺は城内の練兵場の中央に追い込まれていた。ここには訓練中の先客が十数人いたが、今は全員おとなしく壁際で見守ってくれている。

 最初は俺を叩き斬ろうと意気込む少女に助太刀しようとする者もいたが……


「邪魔をするなっ! これは決闘だ!」


 という威厳ある少女の一喝でおとなしくなった。

 というか決闘を受けた覚えはないんだけどねー。もし先ほどまでの一方的な構図が決闘なのだとしたら俺は決闘の定義を再認識する必要が出てくる。

 しかし、出口は彼女の背後。もう逃げられない上にギャラリーも興味津々で見つめている。

 やるしか無いようだ。


「あー……俺が勝ったらさ、なんで襲ってきたのか教えてくれるか?」

「まだ思い出さないのかっ……!」

「ど、どうどう。忘れたのは謝るからさ……」


 こ、怖い。怖すぎる。蒼の瞳にメラメラと炎が燃え盛っているように見える。


「ふんっ……いいだろう。ただ、私が勝ったら一つ条件を飲んでもらおうか」

「な、なんなりとどうぞ」

「私が勝ったら――お前にはもう一度騎士を目指してもらう」


 …………なんだって?

 騎士? なんでこいつがそんな条件出すんだ? 分からん。分からんが――


「負けるわけにはいかねぇな」

「……そんなに騎士になるのが嫌?」

「あぁ、そうさ。騎士なんて冗談じゃない。騎士になるくらいなら死んだほうがマシだ」

「そ、そこまで言うか」


 何故か彼女の気迫が揺らいだ。いや、まぁ言葉の綾って奴ですけどね?


「……だが、今の軟弱なお前は見るに絶えん。せめて、魔導は辞めさせてやる」

「テメェが俺の何を知ってるか分からねぇが……人の生き方にケチつけてくれるなよ」


 彼女が剣を構え直す。その姿はかなり様になっていて素直にかっこいいと褒めたいくらいだ。

 対する俺は落ちていた練習用の剣をだらりと握っているだけ。やべぇ、重い。

 練兵場の中がシンと静まり返る。

 互いの隙を伺っているように見えるかもしれないが、俺は隙を伺ってはいない。

 先手を取る気は無いのだ。彼女が動いてから動けばいい。

 そうこうしている内に外から練兵場の中に数人が入ってくる。

 場内がにわかに騒がしくなるが彼女は動かない。はて、なんで打ってこないかねぇ。

 疑問に思っていると入ってきた数人の内一人が突如として大声を上げた。


「あれー! ルシア兄さん何やってるの!?」

「ん?」


 声に反応して視線を向ければそこには元気いっぱいに手を振る金髪の少年。俺の弟、末っ子のエリック・ウォー・ヴァンレインがいた。


「おー、エリック! 今決闘中でよ」


 剣から左手を離して手を振り返す。その瞬間、彼女は獣のような速度で迫ってきた。

 彼女の剣が振り上げられる。剣から片手を離しよそ見をしていた俺の剣は地面に剣先をついたままピクリとも動かない。


「…………くっ!」


 彼女は歯噛みをするが、それでも一切の手を抜かずに豪速で剣を振り下ろす。

 鉄でも断ち切れるのではと思わせるその剣は、俺の肩に迫り――――勢い良くすり抜けた。


「――んなっ!?」


 剣はそのまま地面へと突き刺さる。彼女は状況が理解出来ていないのか不自然な態勢のまま呆然としている。

 そして俺は、展開していた幻惑の魔法を解除して姿を現す。彼女から見て左前、ちょうど俺が居たと思わせていた場所から3歩ほどずれた場所。

 彼女はとっさに剣を抜くがしっかりと力が入っていない。

 俺は左手に持った剣を一振りして彼女の持っていた剣をはじき飛ばした。

 呆然とした表情でへたりこんだ彼女の眼前に剣先を突きつける。


「俺の勝ちっと……卑怯とか言うなよ? 俺は魔導師。決闘でも魔法に頼るのは当然だろ?」


 彼女の表情が徐々に歪んで行く。あーあー、やっぱ怒るか面倒だなー……あ、あれ。怒……ってる?

 ぽたりぽたりと地面がたちまち濡れていく。え、ちょっと待ってそれはマジで予想外で……


「……ぅ、うわああああああああん!」


 だ、大号泣。ギャラリーの視線が痛い。というより殺気すら乗ってる。

 いやいやいや、待たれい待たれい! 俺のせい? いや、俺のせいしかないんだけどさ!


「と、とりあえず落ち着けって! ほら、今回はこんな終わり方だけど次は気をつければいいだろ、な? お、俺もちょっち大人気無かったかなーなんて反省したりするからさ! ……あーもうまた相手してやるから泣くなよ!」

「ぅっ……ぐすっ……ほんとう?」


 綺麗な顔が涙でぐしゃぐしゃになっている。やべぇ、すっごい罪悪感だわこれ。

 とりあえず取り出したハンカチで顔を拭ってやる。なんか子供の世話をしているような錯覚がおきる。見た目で判断すれば十代後半といったところだろうが……。


「マジですよ、マジ!」

「練習……付き合ってくれる?」

「と、時々なら」

「私が勝ったら……騎士だからね」

「……勝てたらな。ただ、今回みたいに泣いてくれるなよ?」

「ぐすっ……がんばる」


 彼女は剣を拾うとすたすたと出口へと歩いて行く。

 練兵場を出る手前で、彼女は振り返った。

 燃えるような蒼い瞳で俺を睨みつける。正気に戻ったのか子供っぽい雰囲気が失せていた。


「覚えておけよ、ルシア……」

「り、了解しました」


 彼女が居なくなった瞬間、練兵場の空気が一気に弛緩する。

 あ、そういえば結局彼女はなんで襲ってきたんだろうか……聞くの忘れてた。

 心当たりを探っている最中、エリックが近づいてきた。

 エリック・ウォー・ヴァンレイン。ヴァンレイン家の末っ子。半年ほど前に王城勤務になった新米騎士だ。悪戯好きのやんちゃ坊主で良く手を焼かされたものだ。まだまだ子供なところが多いので今後の成長に期待している。

 そうだ。とりあえずエリックに彼女の名前を聞いてみよう。名前があれば意外とすんなり思い出せるかもしれん。


「久しぶり兄さん! リィン様に勝つとか兄さんって本当はすごかったんだね!」

「あぁ久しぶりだな弟よ。開口一番微妙な褒め言葉ありがとう。お前が今まで俺をなめてたことがよーく分かった」


 リィン様……様をつけなきゃならんほど偉い奴だったか。

 しかし、尚更分からん。全く記憶にないぞ。


「冗談だよ冗談~。でもなんで決闘なんてしてたの? 何かやらかした?」

「何もやってねぇ。ルシアだ、って言ったら襲いかかってきたんだよ。しかし……リィンか。リィンねぇ……全く聞き覚えが無いな」

「え……」


 え、何だその目は。何言っちゃってるのこの人って感じの目は何だ?


「ひょっとしてジョーク……」

「言ってない」

「……最強だね、ルシア兄さん!」


 ありがとう。褒められてる気はしねぇけどな。


「てめぇは知ってるのか」

「むしろ知らないのはこの王都で兄さん一人だと思われます」

「マジか……それで?」


 一体何者だあいつは。


「第二王女」

「……はぁ?」


 ダイニオウジョ。……第二王女?


「あの人は第二王女リィン・ドラグ・エルヴェディーレ様。『姫騎士』の名で通ってるお姫様だよ」


 ………………誰か嘘だと言ってくれ。

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