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第三話 入城・書庫の精霊?

 警邏中の二人と別れ、無駄にでかい城門へとたどり着いた俺は早速門番に推薦状を検分してもらっていた。

 しかし、俺が推薦状を出した瞬間に信じられない物を見るような目になったのはなぜだろうか。

 そんなに胡散臭かったか? いや、仕方がない。なにせ姫護選定で現れた男が魔導師用のローブ着てたらそりゃ疑う。

 魔法を使えば容姿なんて簡単に欺けるし推薦状の偽造なんてお手の物だろう。

 おそらく偽造防止の魔法もかけてあるだろうが所詮は人の知恵。同じ人に破れないハズがない。

 待ち時間が暇なので貨幣偽造防止魔法をどうこうしてしまうような魔法を考えようとした直後、城門が耳障りな音を立てて開いた。

 門が開き、出迎えたのは執事服を着た白髪の爺さんだった。

 爺さんとは言ってもまだ現役らしく、引き締まった体躯はまだ老いを見せていない。


「久しぶりじゃねぇかジジイ。まだくたばってねぇとは驚いた」

「抜かせ小童が。まだまだ現役じゃわい」


 この執事の名はゴロード・ギィ・アドルノ。俺がまだガキの頃、オヤジ殿に連れられて来たときにはよく世話になったものだ。

 執事としての腕はもちろん一級品で、さらには武芸にも長けていた……はず。おぼろげにしか覚えていない。

 そういえば俺がガキの頃といえば十年以上前。だがこいつは今と変わらないジジイだった気がする。……魔法か? それとも健康法か? 聞いてみるか。


「ジジイ、若さの秘訣は何だ?」

「早寝早起き」


 即答かよ。ってかそんな事で若さが手に入れば苦労はせんわ!


「教えたくないなら素直に教えたくないって言えよ」

「一日一善」


 このジジイ……。


「分かったよ、もういい! んで、俺は姫護選定の為にここに来たわけだが?」

「……晴天の霹靂と申しましょうか。正直、来るとは思っておりませんでしたわい」

「正直に飯も部屋も用意してませんって言えよ、おい」

「ほっほっほっほ。まだ部屋で休むにも夕食を取るにも早すぎますのう。ここは一つ、城内を見回ってはどうかと。懐かしい顔の一つや二つ会えるでしょうとも」


 うっわー……こいつ認めないつもりだよ。あくまで押し通すつもりだよ。

 まぁここで逆らっても仕方がない。乗るしか無いか。


「へいへい。そうさせてもらいますよっと。ところで俺の他には何人集まってるんだよ? 結構いたりすんのか?」

「……っ! あぁ、まだルシア一人じゃ。まさか一番乗りとは本当に驚いたわい。……よほど姫護になりたいと見える」

「けっ、言ってろ! 最後に笑うのはこの俺だ!」


 俺には秘策があるんだよ……!

 しかし、ジジイの反応が幾分か遅れやがったな。……まさか本当に一番乗りでビビったのか。

 まぁ、やる気なんざゼロなわけだが!


「(なるほど……これは面白くなってきたわい)」

「……? 悪い、何か言ったか? 聞き取れなかった」

「空耳じゃろう」


 ……ふぅん?


「そうかい。あ、王との謁見はどうすんだ。報告しないでいいのか?」

「私の方から伝えておこう。どうせその様子じゃ手ぶらじゃろうしの。王も忙しい身じゃからの」

「そいつは助かるねぇ。俺も丁寧な口調で話すのは苦手なんだよ」

「知っておるわい。あぁ、あとあまり調度品を壊すなよ。はしゃぎすぎんようにな」

「壊さんわ!! いつまで俺をガキ扱いしてんだよ、俺はもう二十四歳だ!」


 と、言う事で探検イベント発生。

 しかしあんま部屋の中覗いたところで面白そうな物はなさそうだ。

 となれば必然的に庭園や城壁の上か。いや、そういえば魔道書の禁書を保管してる場所があったなー。そっちも捨てがたいが流石に白昼堂々は不味いか。夜だな、やるなら。

 それにしても……ジジイは懐かしい顔と言ったが実は王都へ来たときの記憶は殆ど残っていない。

 そこまで面白い物は無かったってことかねぇ。ついでにあの頃って言ったらまだ騎士を目指してる真っ最中だった気が……そりゃ忘れたくもなるわな。

 ……そう考えるとあまり動きまわっても仕方がねぇなぁ。思い出もへったくれもねぇし。

 よし、どうせだし書庫に行って適当に本でも読んどくか。禁書の保管位置も知れればなおよし。

 ……なんだか城に来ても屋敷でやってるような事と変わらない気がしないでもない。


「よし、ここか」


 かなりおぼろげな記憶で書庫への道を歩み、今ようやくたどり着いていた。

 扉の真上に掲げられているプレートには『書庫』の二文字。

 しかし、ずいぶんと使われていないのかホコリまみれだ。


「うへ、掃除してやれよー」


 などと言いつつも自分でやるわけがない。というわけで突入ーっと思ったが。

 ガチャガチャとドアノブは五月蝿く鳴くばかり。鍵でもかかってるのだろうか。

 しかし、今更鍵を借りてくるなんて面倒なマネはしたくない。


「……まぁ、こういう時の為にあるような魔法でして」


 念のために周囲を見渡して人影が無いことを確認……オーケー。

 俺は空間魔法で持ち歩いていた荷物の中から金細工を取り出す。

 後は鍵穴に合わせて金を錬成してやればあら不思議どんな扉も――カチリ――開けてしまえるのだ!


「それじゃあお邪魔して……あれ?」


 意外や意外。外のプレートの様子からは想像もつかないほどに綺麗に掃除されていた。

 埃にまみれた惨状を想像していただけに驚きを禁じえない。


「この感覚だと清浄化の魔法か。結構頻繁に使われるのかねぇ」


 それにもっと広い空間かと思えばそれほど広く無い。いや、狭いと言っていいほどだ。

 しかもこの部屋には扉が一つ、すなわち俺が開けたこの出入口しかない。禁書の保管庫は別の場所みたいだ。至極残念。


「禁書は別の場所か。しかし参ったな……。俺はここ以外に書物が保管されてそうな場所は知らねーぞ、おい」


 まぁ、ここまで来てしまったんだし何冊か拝借していくか。今時の書物は無さそうだが古き良きを重んじるのもたまにはいいだろう。

 一番手近にあった書架に近づき適当に一冊手に取ってみる。どれどれ……


『汗濡れ女主人~支払いは体で~』


「…………えっ、はぁ!?」


 な、なんだこれ? これは俗に言うエロ小説って奴か。

 なんでそんなモンが城の書庫に保管されてんだよ。しかも入り口に最も近い書架によ!

 いや、きっと何かの間違いだろう。そうに違いない。とりあえず戻してっと。さぁ気を取りなおして次に……


『恥辱勇者~私は魔王様の下僕~』


「戦えよ勇者。マゾかお前は!?」


 おいおいおいおい? なんかおかしいぞ、これ。

 城の書庫ってこんなエロエロな物置いていいのか?

 いや、百歩譲って置いていいのだとしてももっと奥に配置して然るべきだろう。

 俺みたいな成人ならともかくガキが見つけたらどうする。まず間違いなく誤った知識植えつけるぞ。

 まさか……この棚全部がエロじゃねぇだろうなぁ。

 こうなりゃヤケだ。片っ端から確認してやるか。


『村長さんやめて! 嗄れた手のひらで踊る媚肉』

『淫乱女騎士~隊長の淫靡な生活~』

『鬼畜魔導師』


 …………………………。


 エロだ。マジでエロしか見当たりません、本当にありがとうございました。

 お、これで最後か。どれどれ……


『麗しの姫君~姫は淫乱牝奴隷~』


「ってアウトォォォオオオ!! おいぃ……王城でこのネタは不味いだろ!? 本当に誰だこいつ持ち込んだ奴は!」


 床に向かって本を勢い良く叩き付ける。

 本は大事にしなければならないがこういう場合は例外だと思う、マジで。


《………………》

「……ん?」


 などと一人でやっていると耳が奇妙な音を拾う。

 最初はただのノイズかと思ったがどうやら違うようだ。


《……エ……パ……》

「声……いや、テレパスか?」


 テレパスは意思疎通用の魔法で離れた場所にいる人同士が会話をするために使われる魔法だ。

 直接頭に響くように伝わるのだが、先ほどの俺はどうやら耳で聞いていると錯覚していたようだ。

 何かを伝えたいのだろうか。ととりあえず待つこと数瞬。突如、チャンネルが合ったかのようにハッキリと伝わってきた。


《……エロガッパ》

「五月蝿いわ、ボケェ!」


 ……ハッ! いきなり理不尽な罵倒を受けたのでつい怒鳴り声を上げてしまった。

 ついでに拳で書架を殴ってしまった。ギシギシと軋みをあげているが……多分、大丈夫。


《……エロ乱暴者》

「ぅ……く……なんなんだよテメェは?」


 湧き上がる衝動を抑えて口を開く。テレパスの声はまだ幼い少女のような印象を受ける。


《私は、書庫の幽霊》

「せめて精霊にしておいたほうが聞こえは良いと思うぞ」

《………………》


 あ、黙った。


《私は、書庫の精霊》

「やり直すのかよ!」

《貴方が今殴ったその書架――》

「あ、あぁ。悪いそんなつもりじゃなかったんだ。つい、っていうかなんていうか……」


 殴ったのは流石に不味かったか? 精霊(自称)の気に障ったのかも……


《――そこはエロ本コーナー》

「さっき知ったわ、んなこと!」


 ガンガンッ! と拳を書架へと叩きつける。

 ナメてんのかこの精霊(自称)め……。


《ところで私は名乗ったのですが?》


 いや、名乗ってないだろ。書庫の精霊とか胡散臭すぎるわ。まぁいい。


「そいつは失礼。俺はルシア・ウォー・ヴァンレイン。魔導師だ」

《っ! ……おや、あの有名なルシアさんですか》

「へぇ、こんな放置プレイ真っ只中の書庫にまで俺の名が知れてるのは意外だ」


 有名、とか言われるとテンション上がってくる。だが、


《えぇ、生まれついての騎士でありながら魔導に傾倒する変態。しかも書く魔導書のことごとくが禁書指定されるほどの変態と聞いてます》


 悪い意味で有名だったってオチかよ。いや、うん予想してたよ。泣いてなんかないやい!


「評判悪っ! というか何でも変態に結びつけんな。何処で聞いたんだよ!?」

《城の中。アーシェリアが言いふらしてます》

「……誰だ、そりゃ? なんでそんな知りもしねぇ奴に罵倒されなきゃならんのだ」


 腹が立ってくる。アーシェリア、だっけか覚えたぜその名……。


《??……本当に、知らないのですか?》

「初耳だ。なんでそんな事聞くんだよ?」


 そもそも王城に知り合いなんて数えるほどなんだから知るはずも無し。


《それなら、いいです。アーシェリアに会いたいなら庭園に行けば会えるかもしれません》

「ほほう、それはいいことを聞いた。実物も知らずに罵倒するその性根を、俺が叩き直してやらぁ!」


 勢い良く扉を開けて外に飛び出す。……おっと、忘れてた。

 来たときと同じように鍵をかけてっと……オーケー!

 次の目的地は庭園。俺の悪い評判言いふらしているというアーシェリアとかいう奴をシメる!

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