黒竜と連鎖する術式
崩れた床の下――闇の中で、巨大な黒竜がうねった。
鱗は闇のように硬く、赤い瞳は憎悪に燃えている。
アリアが震える声を漏らす。
「……S級魔物……どうしてこんなのがここに……!」
ユリウスは冷静に解析を始めた。
【対象:黒竜】
【魔核:胸部奥深く、三重防御層】
【特性:魔力反射/高熱炎/再生術式・強】
(核を壊すには、通常の魔法じゃ足りない。術式そのものを“崩壊”させる必要がある)
黒竜が咆哮し、灼熱の炎を吐き出す。
アリアが剣で防ごうとするが、熱で押し戻された。
「くっ、こいつ……!」
ユリウスが前に出て手をかざした。
「防御式・改良型――鏡壁」
透明な壁が展開し、炎を反射。
黒竜が怒り狂い、翼で地面を吹き飛ばす。
「アリア、時間を稼げ」
「了解っ!」
彼女が剣で突っ込み、竜の動きを引きつける間、ユリウスは空中に光の陣を描いた。
それは複雑すぎて、普通の魔術師には理解不能な分解式の多重連鎖陣。
「解析完了。組み換え開始――」
陣が輝き、彼は低く呟いた。
「――連鎖崩壊・完全展開」
光の鎖が何本も走り、黒竜の鱗に絡みつく。
一つ一つの鎖が鱗の術式を分解し、防御層を次々に破壊。
黒竜が苦悶の咆哮を上げた。
「アリア、今だ!」
「任せろっ!」
アリアが跳躍し、弱点を狙って剣を突き立てた。
鎖の光が核へ侵入し、最後にユリウスが指を鳴らす。
「崩れろ」
――轟音と共に、黒竜は光の粒子となって消滅した。
静寂が訪れる。
アリアが肩で息をしながら笑った。
「……信じられない。あんた、本当に人間?」
「どうだろうな」
彼は黒竜が残した漆黒の核を拾い上げた。
(これ……普通の魔核じゃない。封印術式が組まれてる)
その核が微かに光り、耳元で囁く声がした。
『――ユリウス、次は“城”で会おう』
(また、あの声……)
遺跡から脱出した二人は核を持ち帰り、試験は圧倒的な成功で終わった。
だがギルド長は、不気味な笑みを浮かべていた。
「やはり……あの少年は“世界を揺るがす”」