黒影の刺客
翌日。
ユリウスはいつも通りギルドへ向かっていたが、その途中――背後に殺気を感じた。
(……来たな、“本物”)
振り返る間もなく、屋根の上から何かが飛び降りてくる。
黒い外套に全身を包み、魔力を抑え込んだ刺客。
ナイフが陽光を反射した瞬間、ユリウスは片手を上げた。
「解析開始――」
ナイフが彼の目の前で止まった。
まるで空間ごと凍り付いたかのように。
「お前……魔術を使っていないのに、術式が見えるのか……?」
刺客が動揺している隙に、ユリウスは指先を軽く動かす。
その動作だけで、刺客の武器が空中で粉々に砕け散った。
「俺のスキルは、“魔術だけ”じゃない。あらゆる構造を解析し、壊せる」
刺客は素早く後退し、闇の魔法陣を展開。
影が広がり、複数の分身が現れる。
「影分身か……古典的だな」
ユリウスはため息混じりに手をかざした。
「分解――そして、模倣」
影の分身たちが一瞬で霧散したかと思うと、ユリウスの足元から全く同じ影分身が発生。
オリジナルの術式を解析・再構築し、逆に利用してみせたのだ。
「なっ!? 俺の術式を……!」
分身たちは逆襲し、刺客を圧倒。
最後にユリウスは冷たく言った。
「二度と俺に手を出すな」
影が消え、刺客は逃走。
ただ――逃げ際に言葉を残した。
「……“黒の王”が、お前に興味を持った。覚悟しておけ」
戦いが終わり、ユリウスは夜の街を歩く。
月明かりの下、彼は新たな仮説を立てていた。
(この世界には、俺が知らない“王”がいる……そして、それは俺と同じく魔術を解析できる存在かもしれない)
口元が吊り上がる。
「なら、会ってみたいな。壊す前にな」