魔術師登録と沈黙の拒絶
騎士たちはユリウスを街まで案内した。
街の名は《カルティナ》。
石畳の道、露店の賑わい、行き交う人々――しかし、城壁の外とは違い、どこか“息苦しい”空気が漂っていた。
(……魔術を持つ者が、少ない)
歩くだけで分かる。
この街では、魔術を使える人間は“特別”で、同時に“恐れられて”いる。
騎士の一人がユリウスに言った。
「少年、お前の腕前はただ者じゃない。だがこの街で魔術を使うにはギルド登録が必要だ」
「未登録のまま使えば……犯罪者扱いされるぞ」
ユリウスは肩をすくめた。
「……じゃあ、登録すればいいだけだろ?」
向かったのは《魔術師ギルド》。
街の中心にそびえる塔のような建物で、内部には魔法具や古文書が並び、緊張感ある空気が流れていた。
受付に座っていた女性が、書類を出す。
「名前、年齢、出身地をお願いします」
「ユリウス・レイヴン。十二歳。……出身は……遠くの村だ」
適当に答え、登録の手続きは進んだ。
しかし、試験官がユリウスを見て目を細める。
「君、魔力の波が……普通じゃないな」
「そう?」
試験官は不審そうに眉をひそめ、こう告げた。
「登録には簡単な魔術試験がある。君がどの程度の魔術師か、確かめさせてもらおう」
広い試験場。
ユリウスの前に、試験官が魔術人形を配置した。
「この人形を一撃で仕留められれば合格だ。どんな魔法を使ってもいい」
ユリウスは微笑む。
「じゃあ――」
彼は指先を人形へ向けた。
詠唱なし。
ただ、意識で魔力の流れを“組み替える”。
「構造解体――再構築。崩壊の式」
――次の瞬間、人形が一瞬で粉々に分解された。
音もなく、まるで最初から存在しなかったかのように。
試験官が凍りつく。
「な、何だ今のは!? 術式の反応が……解析不能……?」
周囲の魔術師たちがざわつく。
「あの少年、やばい」「人間か?」
そんな声が飛び交う中、ユリウスは淡々と答えた。
「ただの……魔術です」
だがその瞬間、ギルドの上層部から声が響いた。
「――その子供を、危険指定に回せ」
ざわめきが広がる。
ユリウスはゆっくりと振り返った。
階段の上に立っていたのは、ギルド長と思しき老人。目は冷たい。
「お前は、“制御できない術”を持っている。街にとって危険だ」
(なるほど、こういう世界か……)
ユリウスは小さく笑った。
「拒否する。俺は登録する。それだけだ」
老人は目を細めたが、試験官が慌てて仲裁した。
「ギルド長、力は制御されていました! 少なくとも今は害意は――」
沈黙。
結局、条件付きで登録が認められた。
だが、ユリウスの存在はすでに“危険”としてマークされた。
宿を取った夜、彼は窓辺で独りつぶやく。
「……俺は、世界に歓迎されてないな」
だがその目は、決して曇らなかった。
「面白い。だったら――この世界の魔術、全部俺が解き明かしてやる」