魔術を喰うスキル
時間の感覚は、なかった。
だがユリウスは、退屈しなかった。
目の前には、構造。構造。構造。
この空間そのものが“魔術で構築された本の集合体”であり、それぞれに異なる魔術形式が埋め込まれていることがわかった。
「三重式構文に分岐型ルーン……こんな設計、前世じゃ“空想科学”扱いだったな」
「面白すぎるだろ……この図書館」
《分解解析》を使いながら、彼は何百冊という“魔術本”を読んでいた。正確には、内容ではなく構造を読んでいた。
通常の魔術師なら、1冊読むのに1ヶ月はかかるような本を、彼は5分で解析していた。
……もちろん、その代償もある。
「……っつ……!」
鼻から血が垂れた。
(またか……脳が追いついてねぇ)
解析に耐えられるだけの魔力耐性と精神容量が、今のユリウスには圧倒的に足りない。
けれど彼は笑った。
「限界があるなら、それを超えればいい」
このスキルは、“魔術の本質を壊して読む”能力。
そして彼は、“壊す”ことに何の抵抗もなかった。
数時間後、ある書架に近づいたとき、空間が突然歪んだ。
ズズズ……ッ!!
本棚の列が音を立てて開き、そこから黒い霧が漏れ出した。
(来たな……この図書館、“完全な放置空間”じゃない)
霧の中から、異形の存在が浮かび上がった。
それは――**本の束を身体に埋め込んだ“魔術生命体”**だった。
『侵入者、確認。封印解除未許可。処理対象と認定』
『対象名:ユリウス・レイヴン。ユニークスキル保持者。優先排除対象』
「へぇ……魔術で動く自動警備兵、か」
「面白い。解体してやるよ」
ユリウスは右手を前に出す。
スキル発動――《分解解析》
すると、敵の身体構造が彼の視界に文字列として浮かび上がる。
【対象:ガーディアンNo.032】
【魔術核:中心腹部/駆動式:双輪術式展開型/弱点:左膝裏連結部】
「そこか……っ!」
敵が魔術を詠唱するよりも早く、ユリウスは転倒を狙って床の構造に魔力を流し、破壊した。
敵の身体が崩れ、隙ができた瞬間、ユリウスは本棚に刺さっていた**石英の棒(魔術媒体)**を引き抜き、弱点部へと投擲!
――ゴンッ!
クリティカルヒット。
ガーディアンが崩れ落ち、霧へと消えた。
静寂が戻る。
「……あー。楽しい」
「このスキル、敵に使えるってことは……あとは魔法も、自分の身体も、世界そのものも“分解”できるってことだろ?」
笑ったその目に、理性はあった。
でも、その奥にあったのは――狂気だった。