封印された少年
闇。
その言葉すら、生ぬるい。
それは重たく、湿って、沈黙すら音を立てて崩れていきそうな“絶対”だった。
それでも、その中に――彼はいた。
呼吸。心音。思考。感覚。
「ああ……また、夢だな」
少年――ユリウスは、重くゆっくりと目を開けた。
視界に飛び込んでくるのは、天井一面を覆う魔法陣のような螺旋文字群。
否、それは“本”だった。しかも、ページが宙に浮かび、空間そのものを編んでいるような異常な空間だ。
「これは……」
驚くでもなく、彼はただ観察した。
目を細め、呼吸を整え、そして自分の手を見た。
小さい。白い。これは子どもの手だ。
そして――見覚えがない服。全くの異国の衣装。
(……転生か。しかも、これは……魔術世界だな)
思考は冴えていた。彼は“前世”を思い出す。
日本。高校生。物理のテスト中、謎の光とともに意識を失った。
そして今、自分はこの異様な空間で目を覚ました。
その瞬間、頭の奥に、雷鳴のようなノイズが鳴る。
『ユニークスキル《分解解析》を起動します。構成対象を選択してください』
頭の中に、鮮明なUIのような視界が浮かぶ。
周囲の“本の壁”を選ぶと――
【構成解析:進行中……構成言語:古代セントラ語/魔素結晶配列数:12,592,001】
【この空間は:魔術図書館《エル=オルト》の第零階層に該当】
「……なるほど。“俺”は封印された、ってことか」
彼の目の奥が輝いた。
その輝きは、“恐怖”の欠片すらなかった。むしろ――興奮だった。
「ここ、面白すぎる」
魔術と構造。原理と術式。
今までの世界では“ない”ものが、ここには“ある”。
ユリウス・レイヴンの物語は、こうして始まった。
千年の時を越えて封印された図書館から――異常な魔術偏愛者の、異世界再構築が幕を開ける。
この物語が誰かの心に留まることを願って