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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第二章 第二部 目指すべきところ
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第二十幕 「戦士階級」

アイツが私を嫌うのはアイツの勝手だ

だけど私も自分が嫌い

自分のことだけど、勝手だなって思う

しょうがないじゃん


「私は好き好んでこんな立場に居るわけじゃない。」


「我が自暴自棄なのは認めます……ディダ様は我のことを『告げ役』といってくれましたが。本部に戻っても我が役目を終え、栄誉を得るに能う人物であることを認めてくれる人なんて同族、家族にもいないと思います。」


目を伏せ、心底落胆した表情でルドは話を切り出した。


「理由は……色々とあります。我が『ハクトウ』の氏族の出でありながら、微塵も空戦の才を持たぬこと。空の戦士として戦うことすら(いと)い、『風の便り』を届けることしかしてないこと。風のマナが拙いのに、精霊王の寵愛(ちょうあい)を受けていること。

狩りの才すら無いのに大飯ぐらいなこと。不器用なこと。喋りが苦手なこと。

ズボラで寝坊助なこと。肉ばっか食べて野菜嫌いなこと――」


「まってまって。どんどん話が()れてるわよ、ルド。言わんとしていることは理解したから、ちょっと止めなさいな。そういう細かいところはさておき、貴女が個人的に同族や家族から疎まれているってのは理解したから!」


のっけからダメな方向で全力なルドを見て一同が目を剥いている。彼女は見事に自身の自信の無さの理由をまざまざと示してみせた。


実に卑屈だ。


自分がまたやってしまったことに気づいたルドは、さらに眉尻を下げて悲壮な顔つきになっている。



「シャル。申し訳ないけども補足説明できる?」


私はある程度彼女の境遇を予測・理解できたものの、その確証が欲しくて物知りな彼女に助けを求めた。


「はい、もちろんです。」

シャルは朗らかな笑顔で立ち上がると、彼女の隣に移動して寄り添うように座り直した。


ルドが不安げな顔でシャルを傍目に見る。



「まずは……『空の民』の風習からでしょうか。」


そんな彼女の反応を気にすることもなく、シャルは悠々と騙り始めた。


「自由に大空を舞い、吹き荒れる風をまとい、大海すら超える『空の民』。獣の因子を持って生まれ社会を築く我々獣人の中でも、さらに一線を画した存在だと言われています。この子達は、生まれながらにして総じて強い風のマナの才能を持ち合わせ、生まれてまもなく本能的に空を飛ぶからです。


野生の鳥類とちがって、親の教導はあまり関係なく、本当に幼い頃から精霊の声を感じ取り風のマナを全身に捉えて空へと飛び立ちます。」


自分の言葉が合っていることを確かめるようにゆっくりと言葉を刻みつつ。ルドの横顔を優しい笑顔で見つめながら。シャルは私たちに知識を語ってくれる。


「故に育児の期間は短く。親の愛情をあまり知らずに育つ種でもあります。もちろん狩りの腕を幼い頃から備える者など居ませんから、小物を狩ることができるようになるまでは親の庇護下にあるのが普通です。」


そりゃそうだ、生まれてまもなく幼く小さな者が、牙も爪も無い状態で軽い体重で何を狩るというのだ。


「小鳥同様、樹の実や虫を喰むこともしますが……まぁ足りませんよね。通常の鳥類とちがう、獣人としての体躯を維持するためには生き物を狩り、その血肉を喰らうことは必須です。

故に、鳥人族は単独で狩りを行えない者を一人前の大人として認めません。」


「そこら辺はあなた達陸の獣人族も一緒じゃないの?」


私は素直にふと湧いた疑問をシャルに投げかける。


「もちろんそうですよ。ただ、我々は道具と言葉を使い、連携と工夫を凝らします。罠を用いて狩ることもできます。空を個人で飛び回る鳥人族と、陸を集団で駆け回る我々は本質が異なります。」


「……風を感じて飛ぶことは個人の感覚に大きく依存するのです。まして風の『境目』は非常に流動的ですので……それを読みながら連携して狩りをするのは、本当に一部の氏族以外には出来ないのです。」


ルドがおずおずと控えめな口調でシャルの発言を補足をする。

鳥人族特有の実感と肌感を伴う実情。


なるほどね、判りやすい理由だ。


「ありがとう、ルド。」


シャルがニコニコしながらルドの頭を撫でている。

だが彼女の表情は相変わらず暗く落ち込んだままだ。


「『ハクトウ』の氏族は鳥人族においては戦士階級にあたります。」

少し真剣な顔つきに変わったシャルが話を続ける。


「その大きな翼と鋭く頑強な蹴爪は風のマナの才能を伴い、とても強力な戦闘力を有するのです。過去には嵐すら御する才能を持った英雄を排出しています。それは他の鳥人族から羨望と尊敬を集め、支配階級の『蒼天の覇者(そうてんのはしゃ)』から厚い信頼を得ています。」


「『蒼天の覇者』……イヌワシの因子を持つ鳥人族で、とても高いカリスマを持ちつつ自身も空の覇者に相応しい膂力を有する氏族ですね。鳥人族でも長命な種ですし、生涯唯一の伴侶とともに領域を治世する鳥人族たちの名王は人族の歴史にも数多く記されています。」


エミリアも自身の知識をもってシャルの話を補足してくれた。


「はい。そんな彼らを我々陸の獣人族も『空の民』を風と自由を愛する者として、心から畏怖(いふ)しています。」


「畏怖……恐れているんですか?尊敬や羨望ではなく?」

意外な彼らの関係性にリリスが反応した。彼女にしてみれば陸と空の領域を分かち住まう彼らの関係性として違和感があるのかもしれない。


私も彼らの関係性については造形が浅いかも。

興味が無いというわけではないけど。


「ええ。恐れています。『空の民』は普段こそ個別主義で単独行動が主体ですけども、それは『自由さの裏返し』です。彼らは自分たちの自由が侵されることを何よりも厭います。氏族として、種族として、それらを侵害されたと判断した時の彼らは……本当に苛烈だそうですよ。」


「シャルさん、それはもしや『死の雨』の逸話の?」

ルーカスも何かに思い当たったのか口を挟む。


『死の雨』?私は知らない話だ。


「はい。我々陸の獣人族が口伝する教訓の一つ。


旧時代に領地を奪い合い勢力争いに明け暮れた好戦的な()()()()()()、種と氏族は伏せますが……順風満帆に快進撃を続けた彼らは陸の大方を併呑し、やがて北方の鳥人族の領域に手をかけようとしたそうです。

『空の民』といえど、休む場所と種の繁栄に陸地は欠かせません。争いを避け高原や切り立った高地に居を構えた鳥人族たち。本来干渉することのないはずだった『空の民』にその獣人族は牙を剥きました。

……理由はしりませんけども。


結果は悲惨でした。

多くの鳥人族の怒りを買った彼らは、春の芽吹きの季節から秋の実り季節までおよそ八ヶ月の間、空からの攻撃を一方的に受け続けました。

頭ほどの大きさの石、礫器(れっき)の大矢、よく燃えるように獣脂を含ませた(わら)と火矢、ありとあらゆる汚物、大地と森を枯らす呪いの風。

目の良い彼らは昼夜を問わず、多種多様な鳥人族によって執拗に攻撃を続け、徹底的に彼らを攻撃し続けた。そうして彼らは山を追われ、高野を追われ、平源を追われ、森を追われ、穴蔵に追い込まれたそうです。


停戦交渉も完全降伏も()()()()。彼らはひたすら逃げ続け、飢えと空からの恐怖に怯えながら、なんとか厳しい冬を越えました。しかし、翌年の芽吹きの季節、再び始まった苛烈な空からの死。


彼らの心を折るのには十分だったのでしょう。


最終的には慣れ親しんだ環境を手放し、別大陸に逃げ延びたそうです。


そうやって『完全に相手を滅ぼした』ことの有る『空の民』の逸話。

それを見て、直接的に狙われなかったものの間接的に甚大な被害を受けた陸の獣人族たちに連綿と語り継がれる教訓の一つ。


『空の民を侵すべからず』です。」


ぞっとする話だ。


文字通り手も足も出ない空から、延々と降り注がれる火や汚物、当たれば死ぬ石。明確な敵意と殺意をもって遥か上空から狙われ続ける。


高度な魔術が体系化された現代ならば、もっと深刻な事態になることだろう。それだけ『空を抑えられること』は恐ろしいのだ。


色々なことを想像してしまった私は、思わず背筋に尋常ならざる怖気を感じて、密かに身を震わせた。



「ま、それも昔の話だよな!今はあたしら陸の獣人族と空の獣人族は文化的にも交流があるし。それこそ『風の便り』を届けてくれる相手として敬っている。彼らの便りに助けられた獣人族の逸話も結構あるんだぜ!」


冷え込んだ空気を払拭するかのごとく、明るい口調で話すティガの声。


「ティガの言う通りですね。今は我々陸の者も、空の者も文化的、商業的に交流して共生関係にあります。

少し話がそれてしまいましたが……そんな彼ら、『空の民』は古い時代から自他の境界をハッキリとさせた自由を愛し、規律と戒律を重んじる種なのです。」


「むしろルドがそこまで追い込まれる理由として深く納得に足る話だったわ。……鳥人族は自由であるために、個の才能を重んじる。この才能と種の規律をもってして『空の民』としての誇りと戒律を維持する。

戦士階級の生まれなのに狩りもろくに出来ない貴女に、氏族どころか種の名誉たる高位精霊からの『風の便り』が届いたことは、『風の民』にとって単純に面白くないことどころか、規律を乱しかねない行為。」


「はい。相変わらず聡明ですね、セレナ。私もそういった話だと考えています。彼女は従来の役割を果たせてないのに精霊に愛されている。それが自由と伝統を乱す行為だと……家族からすら嫌われているのでしょう。」


いつの前にかルドはシャルにもたれ掛かり、静かに涙を流していた。そんな彼女を慈愛あふれる微笑みと優しい手つきで頭を撫でている。


やっぱり本物の母性は凄いね。



「……ルドさんは別に悪いことなんてしてないんですね。ただ、一族の伝統にない生き方をしている。それだけで、家族から嫌われてる……そんなの理不尽すぎます。」


リリスも暗い顔で俯いてしまっている。目尻には僅かに涙。


一族どころか種として違う生き方をしている両親の下に生まれ育ったリリスにとっては他人事ではないだろう。ましてそれが一族を救うためにやっていた行為なのに、決して理解されないと確信できること。


その疎外感と心細さ。もしかしたらルドの心境を一番理解できているのはリリスなのかもしれない。

その瞳は悲しみに明け暮れるというより、どこか悔しさを含んだものだ。


相変わらず優しい子。



だから私はそれで納得しないで、もう一歩ルドの心に踏み入ることにする。


「ルド。私が思う限りでは、貴女が疎まれる理由はもう1つか……2つあるんじゃないかと思ってるのだけど、違うかしら?」


彼女を慰めるシャル、空気を変えようとするティガ、話を聞いていたローム兄妹、同情するリリス。


全員が驚きと疑問の顔をする。

ただ一人、ミアを除いて。


「……本当に、聖女に対しては隠し事すること、些かも叶いませんね。」


自嘲気味で乾いた笑顔で彼女は私の疑いを認めた。


「私は……『獣化』が出来ません。空で戦うこともできず、戦士階級として役立たずの烙印を押されています。最低限の役目を果たせぬ者が『告げ役』の栄誉を得るなど、私だって言語道断だと思います……。」



「やっぱなー!ミァはなんとなーくわかってたがャ。」

そんな彼女がさらけ出した弱さを、なぜか嬉しそうに、でも優しい目のミアが口を開く。


「ルドの感じはなー、少しまえのミアとおんなじだがャー。自信がなくて、自分が嫌いで、甘えんぼだがャ!」


ずけずけとルドの心の傷を抉り倒すミアにシャルが呆れた顔になる。ティガはどことなく嬉しそうだ。


それはなんでもないことなんだ。


とでも言いたげに、ミアが明るい口調で言い切ると。

笑顔のまま私の方をみる。


「なー、セレャ。ルドにもとっくんできんかャ?」

ワクワクした顔のままミアはそういった。


うむ。

予想通りの流れだ。


この子も随分成長したもんだよ。


おねーさん嬉しいよ。


春の雨は好きです

花粉の飛散量が減るから


まじでつらい、かふんしょー

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