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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第二章 第二部 目指すべきところ
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第十五幕 「高原」

風が囁く、世界の流れと各地の噂を

それは他愛のない内容のものばかり

だけど、時折。

静かに語られ、伝えられる『便り』


「こんなに心を締め付ける役目だとは思わなかったな……。」


場所は冷たい風の吹き抜ける高原。

どこの山かもわからないけども、植物相から判断するに結構北の方だと思われる。原っぱには高山植物と木立が散在している程度で、殆どが岩肌。


そして山肌を流れる雲。

ここは相当な高い位置にあるようだ。


周りの連峰には雪の積もった山々が見受けられる。


もしかしたらここはトレードウィンドの西に在る『白峰山脈』のどこかかもしれない。


登ったことが無いから眼下に見える景色がどこなのかもわからないけども、見渡す限りの大自然で、人工物も見えない。


そうとう未開のエリアな可能性がある。



「わひー……ほんとに此処が夢の世界なのですか……?」


ルドは口を半開きにしながら周りを見渡し、唖然としている。

見回す風景が余りにも現実的すぎて違和感が無いことが違和感なのだろう。


「はい、正確にはルドさんが意識しイメージした世界。になりますが……どうでしょう?違和感や不足はありませんか?」


いやに丁寧で、よそよそしい態度で彼女へと問いかけるリリス。

リリスにしては珍しく、ルドへの警戒が解けずにいるのだろう。


ファーストコンタクトがアレでは仕方のないことだろうけど、純朴で温和な彼女にもちゃんとした負の感情も持ち合わせていたことに、ちょっとだけ安心してしまう。


「はい!我のイメージした通りの場所だと思います!これって飛んでみても大丈夫でしょうか?」


「大丈夫……だとは思います。流石に大気の循環や、気流の完全再現まではできている確信を得たことが無いので『風読み』にとって満足頂ける空になるかは不明ですが……。」


素直に自分の不安を伝えるあたり、それでも彼女のことをちゃんと気遣えるくらいには心配しているようだけど。


しかし『夢見』と言えど完全な自然な流体のシミュレートは難しいのか。


当然と言えば当然だろう。

『夢見』が再現する世界は、あくまでイメージや記憶の再現と模倣だ。現実世界相当の完全な物理現象の再現は、私の『理力』込みでも無理なのだろう。



「ものは試し。ということ、でっ!」


そう言って、ルドは背中の翼で大きく羽ばたき、上空へと昇ってゆく。

バサバサと風を孕む羽音を響かせて、人が空へと舞い上がる。


「やはり魔術的な補助はあるのね。」

彼女の周りに気流を生み出す風のマナの流れを感じ、私は感想を零す。


「そりゃ、人体があの程度の翼で空を飛ぶなど困難を極めます。体の構造がよっぽど軽量化されていたとしても、空力的に非効率です。魔導工学の粋を集めた『魔導飛空挺』も動力や浮力に風のマナなどを用いますが、流線型の機体はどう足掻いても避けられなかったですからね。大戦後期までに開発された魔導飛空艇の数々は初期型こそ装甲をや銃砲を大量に装備した空飛ぶ戦艦でしたけども、今や装甲は魔導障壁依存、軽量化による速力強化とと魔導砲による対地対空攻撃と兵装の専門化も進みました。」

私の感想にルーカスが反応する。しかも、やたらにべらべらと詳しく。


こいつ、妙に飛空艇への造詣が深いわね。

好きだったりするのかしら?


そこら辺はちゃんと男子してんのね。



「陸には陸に、空には空に、海には海に適した構造というものは間違いなく存在します。一昔前に我が軍で計画された『魔装機兵計画』をセレナ様はご存知ですか?」


ルーカスが続いて何やら喋り始めた。

まそうきへい?聞いたことのない単語だ。


「いいえ。知らないわ。」


見たこともないし。

機兵というくらいだから兵器なのだろうけど。


「魔導工学の発展に伴い、一兵卒の強化を目的とした強化鎧装(きょうかがいそう)の一案です。超大型魔導器を背負わせ、物理的・魔術的防御力を高めた大型鎧を兵士に装備させて、陸上を高機動で移動させたり、空を飛ばせたり。立体的な高速機動をさせつつ、各所に仕込んだ大型魔導兵器による高い瞬間火力攻撃を行う戦術および兵器を開発する計画でした。」


「過去形なのね。」


「ええ。計画は頓挫(とんざ)し失敗とされ中止が決定されましたので。試作機は大小さまざまに何機か開発されたのですが。いかんせん開発と維持コストが高すぎるということで別方向に移行しそちらが採用されました。」


「別方向?」


「セレナ様もご覧になったでしょう。『環境適応型魔導特殊兵装と特殊礼装銀』の初期型フォートレスアーマーと軽量型ライトフォートレスのことですよ。」


あぁ。あの負のマナに耐えるために開発された強化鎧のことか。

初期型は大戦中の兵士たちが装備しているのを、軽量型はグリーンリーフ村でヴァルド隊が着用しているのを確かに見ている。


「なるほど。大型の強化外装を用意するコストを小型で人間大のサイズに抑えることで数を揃えて戦力の増強としたわけね。」


「その通りです。結局のところ、一番の目標は『極寒の死地』における軍事行動を可能とするための性能だったわけですし。」


「つまり、貴方が言いたいことは……『何でもできるように、高性能であれもこれもと要求を増やすと、結局何もできなくなる』って話ね。」


「はい。なのでルドさんの『空を飛べる』という特性は、最たる要因は高度な風の魔術による飛翔なはずです。その特徴的な翼の生えた体は副次的なものであって、魔術における戦闘機動における補助の役割が目的の存在なのかと考えます。あの両翼一つに人体を空に飛ばせるほどの性能はありえません。」


「ま、確かに。それにあの動きを魔術だけで細かく制御しようとするのも、かなり大変そうだわ。両翼で風を切り裂いて飛び回るのは合理的ね。」


はるか上空で自由自在に飛び回るルドの姿を見ていると心からそう思う。

縦に横に斜めに円を描き急上昇と急降下をしつつ、直角と言わんばかりに空中で軌道を変える。


とてもじゃないけど空中機動戦で鳥人族には勝てそうにもない。


「それにしても彼女の目的とは何でしょうかね。」


エミリアが私たちの会話に混ざりつつ、疑問を口にする。


「さてね。鳥人族の思考は読みづらいというのは俺も聞いているが。彼女が何をしようとしているのかさっぱりだよ。」


「シャルたちは?何か思い当たる情報はもっている?」

私は首をひねり後方で身を寄せ合ってる三姉妹に声をかける。


「ちょ、ちょっと思い当たりませんね。とっ、というかっ!ここここがどこかもわわわかりません!」

「ていうか、アイツ!あんなに高く飛んで寒くねーのかよ!ここだって雲の上だぞ!?」

「さぶいのャ!凍えるのだがャー!!」

シャルとティガとミアは口々に喋りながら、身を寄せ合って互いに抱き合いうずくまっている。

シャルやミアはともかく、ここまで来るとティガでも寒いらしい。


寒さに打ち震える、ねこちゃん状態。


「あわ!ごっ、ごめんなさい!温感を切るのを忘れてました!!」


ガタガタ震えているシャルたちのことが頭に全く無かったのだろう。

彼女たちの震え声にハッとしたリリスが慌てて『夢見』を調整する。


ふっと周りの空気が柔らかくなる。

相変わらずこの感覚は不思議だ。


「うぶぶぶぶ……さむ……あれ?急に空気が……。」

「あったかくなった……いや、違う。寒くないし暖かくもない、なんだろう凄い不思議な風の感触だな。」

「ちょっと怖いがャ……。」


「ごめんね。ルドさんの記憶のままに空間を再現したから、気温もそのままだったの。今は、皆の外気温の感じは自分の体温程度にしたから……ちょっとなれないかもしれないけど。あまり温かいのも視覚との齟齬になっちゃうし、寒いよりはいいかなと。」


サキュバス的懸念を含んだ状況説明がリリスから語られる。


ふんふんと頷きながらホッとした表情になる三姉妹。

感心した顔で、両手を広げて高原の風だけを感じる兄妹。


私はグリーンリーフ村でメイの意識に潜り込んだ『夢見』を思い出しながら風を受ける。あの時同様、温冷も快も不快もない圧だけを感じる不思議な触覚。


薄目で全身に風をうけつつ、ふと横を見る。

不安な表情で上空のルドを見上げるリリスが視界に映る。


ふん。と、私は意気込み一つ鼻を鳴らしリリスの隣に移動する。


「そんな不安な顔しないの。リリスだって気づいてるんでしょ?ルドに悪意が無いことなんて。」


「うん……。」


今回はルドとの接続を上げるためにリリスが中央に寝そべり、ルドを抱っこしている状態。右隣に私、ミア、シャル。左隣にエミリア、ルーカス、ティガ、といった配置だ。

ルドの羽根が邪魔になるので彼女はうつ伏せ。


ちなみにルドも他の鳥人族同様、衣類を付けていなかった。

陰部を隠すように腰蓑のような羽飾りと下着のような布履きは付けていたが、それ以外は完全に全裸だ。


でも羽毛がモコモコのレオタードのように彼女の胸部から鼠径部までを覆ってるので違和感は無い。


ていうか、一つ疑問に思ったのが……鳥人族って胎生なのかな卵生なのかな……胸部がもこもこすぎておっぱいの大小どころか乳首の存在すら見えんのだが。

『夢見』に入る直前、リリスのたわわな乳房とルドのふさふさの羽毛が合わさる時にそんなことを考えていた。


すげーどうでもいいことだけど。




ちなみに『夢見』をするにあたって、当然ルーカス以外は全員全裸だ。

猿轡はしていないが目隠しとパンツは履いてもらった。


当然だよね。



「感情の香り、嗅げたんでしょ?」

「はい……感謝と喜び、便りを運べたことに対する達成感。そんな感じでした。」


「じゃぁどうしてそんなに不安げなんですか、リリス様。」

ルーカスもちらちらと彼女のことを気にしていた。恩人の危機とあらば、色々と庇ったり手を貸そうと、彼なりの気遣い。


やっぱ根はいい奴なんだよね。

普段がムカつくだけで。


「それは……えっと……。」

言い淀んでシャルの方をちらっと見るリリス。


「そうですね。ルーカスとエミリアにも後で見せましょう。ルミナス王国の中核たちにとっても大事な判断材料にもなるかもしれません。リリス、後で手を貸していただけますか?」

リリスの意図を察したのだろう。そして自身の『先見の瞳』が見せた『この世界の結末』をローム兄妹にも見せることに同意してくれる。


「……どうやら我々が知るべきことは多そうですね。」

「良かったじゃないか、エミー。上司たちが泣いて喜ぶよ。」

「泣きはするかもしれませんが、喜びますかね……?」


ため息をつく妹に、軽口で場を和ませる兄。

さらに深い溜め息をつく。


ぼちぼちこの兄妹のやり取りも見慣れた。


「私からも見ることをお勧めするわ。リリス、大変だったら後ででもいいからお願い。」


「はい。わかりました。」


すこし力ない笑顔で微笑むリリス。

その笑顔が痛ましい。


早くなんとかしてあげたいと切に思う。



そんなやり取りを終えた頃。


ひとしきり空を舞い終わったルドが、風切り音を鳴らしながら我々のところへと下降してくるのに気づく。


彼女の表情は、覚悟と意気込みに満ちた思わせぶりなもの。



さて、何が起きるのか……油断は出来ないわね。

私はもう一度、ふんす!と鼻を鳴らして気合を入れる。



たとえ何を見ても、聞いても、知ったとしても。


彼女は、私が守る。


鳥型の亜人は卵生か胎生どちらが良いか

これには学会を二分して長く議論がなされています


私はハイブリッド型を主張の異端児です

つまり、卵で産まれておっぱいで育つ


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