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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
序章 旅の終わりと、旅の始まり
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第一幕 「馬車の中」

とある世界の、とある大陸にある、とある国家へむかう、とある道。

一台の馬車が、ゆっくりと進んでゆく。


旅に出るのか、戻ってきたのか。

それは読んでみてのお楽しみ。


「拙作ではありますが、楽しんで頂けたら嬉しいな。」


眼前には広大な平原。


視界の端々には小高い丘がぽつりぽつりと見えるものの、緩くなだらかな地面が延々と広がっている。

遠くには深い森の濃い緑が見え、眼の前の土地が拓かれた豊かな場所であることが見て取れる。


視界の端へと遠ざかっていく緑に何気なく目を向けていると、水の流れる音がしていることに気づく。

ふと目を向けると、きらきらと反射した陽の光が目に飛び込んでくる。目線を上にやり太陽の位置を確認すると、正午の少し前といったところか…。


眩しさに目を細めながら、少し早めの雲の流れを眺め、窓から吹き込む心地よい風を肌で感じる。



「どうやら、無事時間通りに到着できそうです。」

—突然、背後から声がかかる。


「はい、ありがとうございます。」

自分が馬車に乗っていたことを思い出し、振り返りつつ顔を向けた、予定通り目的地に到着できることを伝えてきた御者に返事をした。


「お体、痛い所など有りませんか?ここまでの長旅、本当にお疲れ様でした。」

丁寧な言葉遣いで此方を気遣ってくれる。


「いいえ。とても快適な乗り心地でした。」

世辞などではなく、本当に。

同乗している仲間達は、すやすやと寝息を立てて会話に気づかないくらい熟睡している。



たった2年。

自分たちが居ない間に随分と技術は進歩したものだと感心する。

広く大きく豪華な作りの馬車なのに四頭立てで全く揺れていない。

これはアレかな?「魔導工学(まどうこうがく)の恩恵」ってヤツだろうか。



「王都についても、凱旋パレードの開始予定までにいくらか時間が有るはずですので。すこし落ち着く余裕も有るでしょう。もう暫くご辛抱ください。」


「はい、お気遣い感謝いたします。」

私が逡巡し、視線を泳がせていると

若い男の御者がこちらに目線をよこしてきたので、しっかりと見つめながら微笑み返す。



目線が合う前に、スッっと若い御者は前を向き私に告げる。

「ほら、みえてきました。」



進行方向に目をやると地平線に懐かしい建物が見えてくる。

都を囲む白い城壁、その向こうにそびえ立つ白亜の城と黄金の塔。


少し目を細め無言で、じぃっと見つめていると。

再び彼はこちらに声をかけてくる。

今度は前を向いたまま。



「それと…大変申し訳無いのですが…。」

少し苦笑するかのように、軽く肩をすくめながら御者は続ける。


「…その、皆さんを起こしていただけますか?随分としっかりお休みになられてるようですし、そろそろ起きていただいたほうがよろしいかと。」


なるほど。


と、再び向き直り、馬車の室内状況を確認する。


座席は前列・中列・後列に分かれており

前列だけ進行方向と逆側を向いていて、中列と後列は前向きだ。

後列は本来「荷物置き場」なんだけれども。


あれは荷物じゃないな、うん。

大事な仲間。とても頼りがいのある。


私は馬車の前列左に座り、右にはソフィアが眠っている。

向かいの中列にはレオンとシルヴィアが横並びで座り、後ろの広いスペースにはグラムが仰向けに寝ている。


肩を軽くゆすりながら声をかけた。

「ソフィア様、起きてください。まもなく到着だそうですよ?」


「ぬぁ。」


ぬぁ。て

随分とまぁ、だらしのない。



「ソフィア様!もう!起きてくださいまし!」

少しだけ声と揺する手の力を強めて、再び彼女を起こそうとする。


「お、おぉ。 —はいはい、起きてるよ、起きてますよー。」



ようやく投げ出していた上体を起こした彼女は、一瞬外の景色に目をやり声をあげる。

「えっ、もうこんな所なの?!」


さすがソフィア。起き抜けにちらっと風景を見ただけで地形から位置を認識している。

ぬぁ。って言ってたけど。


「ねぇ!レオ!!シル!!!もう着くよ!…起きなさいっ!!!」

向かい合っていた座席の2列目に座って対象的な寝姿を披露していた二人をソフィアは遠慮なく足蹴にする。私の代わりに目的を果たしてくれるのは大変ありがたい。


私と向かって左側に座っている男は彼女の足が触れるかという時にすっと足を動かして避けてしまう

静かに瞼だけを開き、体と組んだ手は微動だにせず。

目線だけをススッと左右に動かしたかと思うと

そのまま右窓の外を流れる風景に視線を固定させている。



おまえ実はずっと起きてただろ、それ。

こっわ。


あきれながらもう片方の男性に目をやる。


私と向かって右側に座り、だらしなく寝ていた男は彼女の蹴りをしっかりと喰らい、更に連続攻撃にさらされている。

「…いぃ。痛い、ったいってー。わかったからぁー。そんなに蹴ること無くなーい?」


開ききらない瞼に指を添え目尻を拭い、口をへの字に曲げた彼は投げ出していた足を引っ込めて無事な方の足ですりすりとさすっている。



「いいから、後ろのをさっさと叩き起こしなさい。

到着まで、あと…10分と掛からないわよ。」

状況の説明と問題が発生していることを端的に伝えるソフィア。


ぎょっと、事態を把握した二人は目を見開いて慌てて振り返り、身を乗り出す。

「おいっ!起きろっ!!」

「グラムさん!!!起きてください!!!!」

彼女の足技を食らっていた二人が、今度は後部座席に仰向けに横たわっている大男を一切の遠慮なしに叩き出す。

バシバシと肌を張る音が車内に響く。



さーすがソフィア。

またまた、ご明察ですよー。

早駆けでもない4頭立ての馬車が、目算で約5km/h。

だいぶ視界の先で大きくなってきた、趣味の悪い黄金色の塔を基準に三角法を用いて—…



……何いらんこと考えてるんだ私。



んなことよりもー

この若く礼儀正しい御者は見事な腕前で馬を御し、私達の快適な旅を気遣いつつも予定の移動時間をしっかり短縮。

普通ならば、乗客が寝ていたとしてもしっかり目を覚まして

目的地で休憩をして、しかも身だしなみを整えて

大事なイベントに臨むくらいの余裕を見事に確保してくれている。

だというのに…、後ろの大男のせいで最低30分は予定がずれ込む可能性がでてきた。


己の愚鈍さで才気溢れる将来有望な若者の未来を潰す気ですか、このくろがねのなんとかさんは。

なんて無責任な事を頭で考えつつ、この後の展開を予測する。


「アレしか…無いか。」

ぽそり、とソフィアは呟く。


予想通り、次のターンでソフィアは正解を導き出す。

『この時間制限つきイベントバトルは物理アタッカー二人の攻撃では攻略不可』との判断下し、すぐさま作戦の切り替えを提案する。

後衛が俯瞰で状況を観察し臨機応変に指示を出すのは、パーティーにおけるサブリーダーとしての大事な役目だ。


「レナ、お願い。」

「仕方が有りませんね…。レオン様、シルヴィア様。万が一に備えてお願いいたします。」

攻撃の手を止め、二人は同時に頷くと。何を言われるでもなく両手を構え、展開に備えるため集中する。


私は巨体の頭部に手をかざし、力を行使する。

囁きもせず、詠唱も無く、いのー…りもやっぱいいや。

そして念じる。


彼の身体に干渉し、脳の作用を活性化。

ノルアなんとかリンを強制的に分泌させる


直後、「ッスヴォァ!」と、巨体に相応しい肺活量で個性的な吸気音を発しながら対象は急激に上体を起こし、構えていた二人はすかさず巨体を抑え込んだ。


「大丈夫だから!!!起こしただけだからーーー!!!!!」

「非戦闘状態です!!!グラムさん!!!!!敵は居ません!!!!!!!」

その巨体から繰り出される膂力を制するべく、全力で声をかける二人は真剣そのものだ。


深い眠り状態から大量の脳内麻薬をキメさせられた巨漢は、突如として自身におきた副交感神経の急激な活発化による心拍上昇を動悸を全身で表しながら

ふーす、ふーすっ!ふーす、ふーすっ!!と鼻で大きく呼吸を続け

焦点の定まってない目で目線だけを動かす。

両腕と上体を抑え込んでいる二人が彼の呼吸に合わせて浮き沈みしている



うっわ、すっご。レオンの癖っ毛が上下してる。



…ふと視線を感じ振り返ると、すんごい心配そうな顔でのぞき窓から此方を凝視する御者に気づく。

いつの間にか馬車もしっかりと停車している。



—目的地、にはまだ少しあるー、かな?



凄いぞ、若き敏腕御者。

キミ、危機管理能力まで完璧じゃん。



—ほんっと、ごめんなさい。

私が申し訳無さそうに、上目遣いで頭を下げると。

バッチリ目があっていた御者は苦笑いを向けてくれた。


まず、最初はのんびりと。


物語の冒頭は、何が起きるのか、そんな予感がワクワクさせてくれます。


あなたはワクワクしてくれましたか?


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