きみの名1
「僕は君を愛せない」
それが最初に言われた言葉だった。
「僕は遊び人だし、女の人好きだから、1人には絞れないんだ」
暗闇の底へ、突き落とされた気分だった。
「だからそれが不満だと言うなら…この婚約、破棄してくれて構わない。咎める事は一切しないと約束する」
「――…」
直感的に、彼には好きな人がいるのだと確信した。
でも。
「破棄はしません。私にも、心を預けた方がいますから」
彼は目を見開いた。
その表情に、私の心は大きく打つ。
彼が好きだった。幼い頃からずっと。
だから私は、嘘をついた。
政略結婚でも何でもいいから、彼の傍にいたかった。
「そうか。じゃあ、よろしく」
断る事が出来ない事なんて、私も彼も知っている。
私たちの結婚は、親が、国同士が決めた、覆せない決定だから。
あれはいつの頃だったんだろう。
父から、彼がお前の婚約者候補だと、紹介された。
彼は使節団について、遥か南の国から私の国へとやってきていた。
金の髪に、左右の色が違う不思議な瞳。
(きれい……)
私は言われるままに彼に会い、そして恋をした。
我ながら単純だと思う。
確かにお互い王族であるから、国の決めた相手と結婚する事が当たり前である。
けれども、時代が移るにつれ、そんな考えも廃れてきた。彼はその筆頭だろう。数々の浮き名は、海を越えてまで伝わってきていたから。
けれども、こうして結婚の準備は整えられていく。
彼も、いくら遊び歩いているとは言え、婚約自体を破棄するつもりはないようだ。
彼の心を得られないかもしれないとは思っていた。
それでも、夫婦として寄り添ううちに、私を少しでも好いてくれればいい。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
母国のものよりもずいぶん軽い衣装をつまみ、正式な礼をとる。
「シャルティン様のお役に立てるよう、精一杯努める所存です」
シャルティン・サミン・オディアート。
サミン国第一王子であり、王位継承者。
彼が私の婚約者だ。
今回の話はシャルティンの結婚話です。
恋愛要素強めで書けたらなぁと思ってます。
またしばらくお付き合い下さい。