21話~マジウザいんですけどぉ~
「はぁ?マジウザいんですけどぉ~」
ジョン王にゲームの進行について尋ねようと声を掛けたところ、先程までの優しい顔はどこにいったのだろうか、この世の者とは思えない異物を見るかのような目で言い捨てた。
「あの、気に障ったようでしたら申し訳ありません。僕だけテレポートがされなかったみたいで、この後どうすれば良いのか」
「マジキモいんですけどぉ~」
「・・・・・・どうすればよいのでしょうか」
「マジウザいんですけどぉ~」
何度話しかけても、「マジキモいんですけどぉ~」「マジウザいんですけどぉ~」としか返答がなかった。・・・・・・いずれにせよ、この協会から出るしかない。僕は何もわからない状態のまま、協会を後にした。
協会をでると、そこは活気溢れる市場が広がっていた。大勢のNPCキャラで賑わっている。NPCとわかっていなければ、本物の人間とまるで区別がつかないほど表情も言葉も豊かで、何度話しかけても「始まりの街へようこそ」としか話さないような、雨が降ろうと槍が降ろうと、後ろの村が燃えていようと、不屈の精神で同じ場所に立ち続けるキャラなど、どこにも居なかった。それに人間だけじゃない。獣人、エルフ、ドワーフ、妖精・・・・・・とにかくいろんな種族が入り乱れ、この街の活気を生み出していた。
「誰か一人ぐらい話を聞いてくれる人が居るだろう」
おっあそこに八百屋をやっている気のよさそうな獣人がいる。
「あの、すみません」
すると、さっきまでどんな泣く子も思わず微笑んでしまうような笑顔を振りまいていた八百屋を営む犬の獣人は、急に牙をむき眼光を鋭くして、
「はぁ?まじウザいんですけどぉ!」
「・・・・・・このリンゴ、ください」
「はぁ?まじキモいんですけどぉ!」
お客であってもこの対応。リンゴを買う事に対してマジキモいといわれてしまった。どこにキモい要素があったのか。
このままでは埒があかないので、別の人に声を掛けてみよう。おっ、やさしそうなおばあさんがベンチに腰掛けている。
「ちょっとお聞きしたいんですけど・・・・・・」
「はぁ、まじウザいのぉ」
「・・・・・・」
先程まで垂れ目がちでニコニコしていたおばあさんが、目をカッと開き言い放つ。そして僕が離れていくと、もとの表情に戻る。なんなんだ、いったい。
「××ちゃんキモい~」
「こらっ!そんな汚い言葉を使っちゃいけませんっ」
・・・・・・あの親子なら少しは話を聞いてくれるだろうか。
「すみません、奥さんちょっと伺いたいんですけど」
「はぁ?マジキモいんですけどぉ!」
子供にだめと言っておいて、自分は見ず知らずの他人に対していきなりキモい発言。子は親を見て育つんだぞ、言ってることとやってることが違うと子供は誤解するんだぞ。もうやけくそだ、子供にも聞いてみよう
「ごめんね、ちょっとお話聞きたいんだけどいいかな」
「はぁ、マジキモいんですけどぉ」
子供にまでキモいといわれてしまった。しかも先程は母親が注意していたにもかかわらず、今度は完全なる知らん顔である。
どんな人に話しかけても答えは変わらない。
マジキモいマジウザいマジキモいマジウザいマジキモいマジウザいマジキモいマジウザいマジキモいマジウザいマジキモいマジウザいマジキモいマジウザいマジキモいマジウザいマジキモいマジウザいマジキモいマジウザいマジキモいマジウザいマジキモいマジウザい
宿屋に入ってゆっくりしようと思ったら、マジキモいと受付すらさせてもらえなかった。張り紙に書いてあったクエストを受注しようとギルドとやらに出向いたら、マジウザいとクエストすらもらえなかった。物を買おうと市場を訪れたら、八百屋の獣人と全く同じ反応だった。
僕は人から離れるように歩いて行き、誰も居ない廃村へたどり着いた。ぼろぼろで朽ちかけた、昔ながらの木造建物が何軒か建っていたので、その中から一番作りがマシなものを選び、今日の寝床にした。六畳一間と、ところどころ蜘蛛の巣と錆がついたキッチンのみ。欠けた食器の類いや30年くらい前のカレンダー、止まった時計、過去の生活が偲ばれる乱雑な様子は、不気味だった。もし、この家で亡くなった人が居るのならば、その霊が出てきそうな雰囲気である。風呂はなかったが、前の住人はドラム缶に入っていたのだろうか、歴史を感じるさびたドラム缶が家の裏にあった。
遠くから市場の賑わいが耳を澄ませばかすかに聞こえる。あとは風がこのぼろ屋を軋ませる音。マジキモいマジウザいといわれ続けた後にはとても心地よいBGMだった。
どんなに言われ慣れた言葉でも、それは重くのしかかるものだ。僕が過去に言われたことも、その情景とともにきっちり残っている・・・・・・嫌なことを思い出した。
気を紛らわすかのように自分のモニターを見てみる。見ると空腹ゲージというものがあり、もう三分の一も減っていた。何も食わねばきっと餓死するようなシステムにでもなっているのだろうか。情報が何もないのでわからない。いっそこのまま餓死して又復活して、また餓死して、だれかが魔王を倒してくれるのを待つのもありだ。
いや・・・・・・何を弱い気になっている。こんなものぼっちには当たり前ではないか。社会は敵だ。表向きは協力、一致団結、友情、公平無私、平等、そういった美辞麗句で飾り立てた社会は、キモいウザいという簡単な言葉で、自己と相容れない者を異物と切り捨て、自分は間違っていないと美辞麗句を盾にのたまう。それに屈し、大多数に与することを正義とする。それができない者を病や障害など一つの言葉でラベリングし、排除する。そして装飾品で身を固めた社会は大多数に与する強者と排除される者を作り、強者の自己満足に利用する。優越感、弱者を助けるという行為によって受ける賞賛。社会は敵だ。そして人は、他者をむしばむ、そう、さながら毒だ。
魔王?協会?人間?魔族?知ったことではない。僕はぼっちだ。敵は、潰す。倍返しではたらないな、100倍返し、いや全部壊してやろうではないか!
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翌朝。僕は一人で状況整理に努めた。
今手持ちにあるのは廃村で拾ったクワ、トンカチ、斧、本、後は初期装備でもらったどんな大きさの物でもスポスポ入るリュックに、この世界の通貨の金貨がひーふーみー・・・・・・数は・・・・・・ああ100枚と書いてある。
リュックにアイテムを入れると、簡単な説明書きと量がわかるようだ。試しにクワをリュックに入れると「個数1、ただのクワ。畑を耕す。効率は悪い」、斧は「個数1、ただの斧。木を切る。なかなか切れない」、本は「個数1、観光名所10選。フリーダムキングダムの観光名所をわかりやすく解説」、トンカチ「個数1、ただのトンカチ。叩く物。バーゲンセール品」。試しに僕の服もリュックに入れてみよう。Tシャツ「個数1、ぼっちとプリントされたTシャツ。大セール商品なのにもかかわらず売れ残った伝説の品」・・・・・・装備のしょうもなさが再確認された。
唯一役に立ちそうな金貨100枚だが、この世界の物価やレートはわからない。そういえば昨日のリンゴが銅貨1枚だった。銅よりも銀、銀よりも金、ちょっとひねったラノベやマンガだとその上に聖金貨みたいなのもあった気がする。しかし、だれも相手にしてくれない以上、現段階ではお金すら役に立たない。
本も一応見てみる。『~特集!ここであなたの彼氏(彼女)と仲を深めちゃおう!~大人気遊園地でワクワク、この国唯一の鉱山で暗い洞窟ドキドキ、超有名な縁結びのお寺でナムナム、この国最大級のプールでキャッキャッウフフ・・・・・・』もういい、まぶしすぎてうんざりだ。しかもイラストが昭和チックで、なぜか読後の後味が悪い。
ステータスを見てみた。
「装備品はぼっちTシャツに長ズボンで防御力0、魔力0、レベル1、体力100、攻撃力1、清潔ゲージに、空腹ゲージ、特殊能力は・・・・・・ぼっち、つまりないのと同じ」
さらに現実で使っている能力である、視界に収めたものは手を触れずとも物理的に操ることができる力は、ゲーム内では使えなかった。現実より、仮想世界の方が弱いという逆転現象が起きている。
「喫緊の課題は食料だな。どのペースで空腹ゲージが減っていくのかはわからないが、とりあえず狩猟漁労採集、あわよくば安定供給システムを作ることができればいい」
僕は、さびきったドラム缶や欠けた食器など、家にある物はとにかくなんでもリュックに詰めて、廃村のさらに奥に広がる森の中に入っていった。
長らく人の手が入っていない鬱蒼とした森。足下ほどだった雑草も、奥に進めば進むほど腰から胸の辺りまで伸びており、地面を野放図に張っている木の根が僕の足を阻む。だんだんと木々が空を覆い、周囲は暗くなってくる。時折、地面がぬかるんでいるところもあり、ジメジメとした空気は心を重くした。
あまりにも現実との区別がつかない。ゲームであるという安心感、そして100倍返しという目標がなければ、とても立ち入りたいとは思えないような場所だ。
僕はずんずんと奥に進んでいったが、食べることができそうな山菜も、木の実も、獲物も何も見つからなかった。さらには雨まで降ってきた。幸い、樹齢何百年はあるだろうと思われる大木の根っこがいい感じの寝床を作っており、僕はそこに潜り込んだ。そしてそのまま寝てしまった。
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次の日、目を覚ましたら別世界・・・・・・なんて奇跡など起きるはずもなく、大木の木の根の中で目を覚ました。
また僕は森の中を歩き続けた。前日の雨で地面はぐちゃぐちゃ。清潔ゲージはもう0%になっている。匂いが強烈になっているが、悪影響がそれくらいならぼっちには関係ない。それに対して空腹ゲージはもう半分も切っていた。どういう原理がわからないが、ゲームの中でも空腹を感じる。喉も渇く。口にしているのは雨水くらいだ。フリーダムワールドとは名ばかりのサバイバルゲームか何かなのか、これは。
あいかわらず何も見つからなかったが、段々地面の勾配が高くなっていることに気付く。もう帰り道もわからない。ただただ急勾配になりつつある地面を息をきらしながら進む。
すると・・・・・・
「やっと開けた場所が!」
そこには、直径50~60メートルくらいの非常に透き通った湖があり、その中心には訳ありげな古代ローマ建築っぽい銅像が決めポーズを取っている。その銅像は、ところどころコケが付着してはいるものの、久しぶりに見る日の光に照らされて幻想的な雰囲気を醸し出していた。そして、その銅像の後ろには・・・・・・
「果物!なんの果物かよくわからないけど果物の木!」
遠目に見てみると形は星形、色は虹色。レアアイテムの雰囲気がプンプン漂っている。僕は強烈な空腹に後を押されるかのごとく、湖に駆け寄った。
その瞬間、10メートルくらいはある青いドラゴンが湖から飛び出してきた。ゲームっぽい敵の紹介文章は一切出てくることもなく、ただ正体不明の見た目青いドラゴンが雄叫びを上げている。体にビリビリ伝わる振動、見るからに強そうな体躯。リアルな恐怖がそこにある。
「バァ?バィキォィベェブベェボォ!」
何を意味不明な鳴き声をあげているのだ。
「バァ?バィキォィベェブベェボォ!」
なんだ?
「バァ?バィキォィベェブベェボォ!」
地獄の底から湧いてくるような不快な鳴き声だが、このモンスターは何も攻撃をしてこない。ただ、よくわからない、しかしどこかで聞きまくったような鳴き声ばかり出してくるのみで動きすらしない。それならば。
僕は、湖を囲むように生える大木に、ひたすらただの斧をカンカン打ち付けた。切れ味が悪い。非常に時間がかかる。しかし、その間、
「バァ?バィキォィベェブベェボォ!」
と鳴くだけで微動だにしない。時間を掛け、めきめきと倒れた大木はドランゴンの脳天に直撃。
「バァ?バィキォィベェブ・・・・・・ブッ!?」
急所。クリティカルヒット。気絶。というメッセージが浮き出る。おそらく倒し切れてはいない。どうする?動き出したらまず勝ち目はない。くそっ・・・・・・あっ!
僕はリュックをあけ、気絶した青いドラゴンを保管することにした。巨大なドラゴンが小さいリュックの中に、まるで掃除機のごとく吸い込まれていく。ドラゴンに付着した水滴はリュックの中に入らないのか、ドラゴンがリュックに吸い込まれるときにびちゃびちゃと水滴がはねて僕の全身を濡らす。
「ビシャビシャだよ、まったく。さて、説明書きは・・・・・・『気絶した青緑龍。魔王を守護する龍の内の一体。敵味方関係なく暴れる』・・・・・・!?」
思いのほか重要そうな、しかも最強クラスのモンスターだった。
うれしさがこみ上げる。マジキモい、マジウザいと言われ続けたあの日からもう何日。久しぶりの心の高ぶりに、空腹も忘れてたった一人、深い森の奥地で小躍りしていたのだった。




