表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私はここに何をするためにやってきたのか

作者: たなか

 文章にすると若干哲学的にも感じられますが、そんな高尚なことを考えているわけではありません。誰にでもよくあるただのド忘れです。目的があって自分の部屋からキッチンまでやってきたはずなのですが、それが何だったのか全く思い出すことができません。


 こういった場合、大抵持ち物がヒントになります。もしリモコンを持ってリビングにいれば、すぐに電池交換だと気づくでしょう。しかし、RPG風に表現するのならば、現在私の右手にはガムテープ、左手には破れかけのストッキングが装備されています。謎が謎を呼ぶとはまさにこのこと。この二つを同時に使った経験なんて、これまで生きてきた中で一度もなかった気がします。


 第一、ど忘れにしてはあまりにも本格的に記憶が飛んでしまっているのです。片付け下手なせいで足の踏み場もないほど散らかったリビングの床を、空手で鍛えた運動神経を発揮して器用に避けて進みつつ、取りあえずソファーに腰かけて考えます。


 これは、もはや記憶喪失というべきレベルなのではないでしょうか。だとすれば、それだけショッキングな出来事が私の身に降りかかったということになります。


 とはいえ、家の中で一体どんな恐怖体験が起こり得るというのでしょう。もし強盗なら今頃無事では済まないでしょうし、空き巣だったとしても(確かに犯罪レベルの部屋の汚さではありますが)通報もせず一旦自室まで二つの謎装備を取りに行く意味が分かりません。


 生まれてこのかた幽霊なんてお目にかかったことがありませんし、他に怖いものと言えば……。




 そこまで思考を巡らせて、やっと全てを思い出しました。




 そう、私は先程まで珍しく部屋の掃除をしていたのです。恥ずかしながら、基本的に面倒事からの現実逃避のためにしか片付けをしないので……。そして、掃除機を掛けている最中に、あの忌まわしき黒い悪魔が現れたのでした。


 でも、まだその段階では冷静かつ慎重に対応しようとしていたのです。以前、普通に掃除機で吸い込むのは悪手であると書いてあるネット記事を見ました。奴らのしぶとさは半端ないので、しばらく気絶する程度で死にはせず、そのまま放置すれば極めて悲惨なことになってしまうらしいのです。


 ノズルの先にストッキングを装着してゴムで縛り、その状態で吸い込むことにより奴を安全に捕獲して処理できるという退治法を学んでいた私は、悪魔の動向に注意を払いつつ落ち着いてぼろぼろのストッキングを掴んでいたのですが……まるで自分に訪れる危機を察知したかのように……奴は飛びました。


 動転した私は後先考えず速攻で奴を吸い取り、その後呆然と立ち尽くしました。本来は一刻も早く中の紙パックをガムテープで厳重に密封し、さらにビニール袋で包んで念のため殺虫剤を撒いて捨てるべきだったのです。時すでに遅し。私の頭の中は(既に奴が目覚めていたら……)という恐ろしい妄想で満たされていました。


 そして最後の手段である「ホウ酸を掃除機で吸い込んで息の根を止める」作戦を行うことにしたのです。残念ながら脳内にこびりついた恐怖映像により記憶が自主規制されてしまっていたようです。




 さて、記憶を取り戻し、すべきことがはっきりしたおかげで、やっと次の問題解決に移ることができます。




 ソファーに座ってからずーっと目が合っている、床に横たわり口をガムテープでぐるぐる巻きにされ、顔面痛々しいアザだらけの黒づくめの男性。彼は一体何者なのでしょう?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なるほど
[良い点] 先生!! その男の人、仮にめっちゃ先生好みのイケメンでも触ったらあかんやつですから! ポイしてくださいポイ!! というのはとにかく、呆然状態からあっちへ行きこっちへ行き、ああこういう話な…
[良い点] >彼は一体何者なのでしょう? Gの擬人化とか?それはそれで嫌だW [一言] 今さきほどGが出て大騒ぎになった我が家にはタイムリーな話でした。 新しいゴキホイホイを組み立て、その真ん中に誘引…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ