表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の冒険譚  作者: 宮永・ゆかり
5/5

第五話 ドルニール山賊団

エレン村に到着した二人は・・宿を取ると消耗品や武具の調達をした

夕方以降でも賑わう村の光景を見たリナはいろんなものに興味を抱く・・

今までが休まれない日々だったので安心感があった。


自分が手にした力、これからの事、知らないことがたくさんある彼女にとって

ギルの存在が必要不可欠であり、今後も供に歩むと決意した

この村が新たなスタート地点でもある。

 少女の依頼で死の淵岳を探索するギルとリナ、二人は断崖と隣接する道を壁際寄りに歩いていた。崖の下を見れば深い谷底になっていて、底の方では川なのか水が流れていた。


 ビルで例えるなら30階ほどの高さになるのか、高所恐怖症じゃなくても意識が飛びそうなくらいに恐怖心を煽られる。なるべく下を見ないようにして道を進んで行く。


「思ったのですが・・エレン村って山頂に位置してるんですか?結構谷が深いですが」


 思えば、関所を出た時には既に深い谷底の上に居たのでリナは不思議に思っている。周りが岩山に囲まれてる事や今居る場所が山岳地帯であることから、エレン村は平地とは異なる場所にあると感じていた。


「如何にも次の街に行くなら下山して、エレン村に行くなら登頂して行くんだ」


 現在居る場所がユーラシア大陸の雲南省であって、此処は山岳密集地帯で死の淵岳以外にも様々な名称の山脈や山岳地帯が存在する。次の街もエレン村とは違う石造りの芸術的な町である。


 そして、エレンの森、エレン村、死の淵岳とすべてがリナこと水島聡が頭の中で描いた幻想物語の舞台であり、リナが創った物語が正しければ此処に拠点を構える山賊団は…


 ''ドルニール山賊団''


 悪逆非道で女子供にも容赦を知らない血も涙もない集団である、金品物資の強奪だけでは飽き足らず女性は凌辱と言う卑劣極まりない外道であった。レンの両親が山賊に捕まったとなれば大体の予想がついてしまう。


「しかし、此処は谷間があるだけあって風通しが良いですね」


 不穏な面持ちで歩るくリナの顔めがけて吹き付ける風に煽られる髪を掻き分けながら呟いた。高所と言う所もあるけど、何処を見渡しても高い崖になっていて逃げ道がない風が強風のように感じた。


「まぁ、荒らしってわけじゃないけど軽いものとかは飛ばされやすいから気をつけてね」


 ギルも風に煽られないように旅人用のローブで風を防ぎつつ忠告する。バッグは基本肩で斜め掛けしてるので飛ばされることはないけど、帽子は飛ばされるのでフード付きのローブを選んでよかったと思うリナであった。


 空は快晴で見通しが良好で行く先々で冒険者や商人とすれ違いながら探索する二人、次の街まで距離があるにしても一本道を進み続けているのに建物らしきものが見当たらなかった。


「今どれくらい歩いてるんでしょう?魔物とかも出ない平和な道ですね」

「半分くらい行ってると思うけど、此処は管理下にあるから魔物は滅多に出ないよ」


 管理下にあるのに山賊が暴れ回ってるのはどういう事かと思うリナだったけど、今通ってる道が通りやすいように人の手で整備されてるから間違ってないだろう。なら、山賊は何処から現れるのだろうか。


 崖下も崖上も断崖絶壁で今通ってる道以外に通れる場所がない、空を飛んでくるわけでもないのに不可解だらけだった。舞台は物語に沿ってるけど、細かい部分までは創ってないから想定できない。


 現在は正午過ぎだけど、山賊の活動時間は夕暮れ以降なのでその前に拠点を見つけて対策を取っておきたかった。しかし、周りを警戒しながら歩いてたのに気が付けば次の街の関所に着いてしまった。


「ここまでに分かれ道が無かったけど、一体どうなってるんだろうな?」


 ギルは来た道を振り返りながら首を傾げた。


「隠れられる場所もないですし、すれ違う人々で怪しい人もいませんでしたね」


 リナも指で顎を擦りながら考えていた、門番に聞いても山賊がどのようにして襲ってきてるのかわからない状況なのでこっちでも注意喚起しかできてなかった。


 仕方ないのでもう一度来た道を注意深く見渡しながら戻った二人だけど、何も見つけることが出来ずにエレン村に帰ってきてしまった。空を見れば陽が沈みかけていて薄暗くなってきていた。


「んー・・周りの人もいなくなってきたし、僕たちも一旦宿に引き返そうか?」


 ギルは周りを見ながら作戦の練り直しを提案した。確かに先程までの行き交う人々がまばらになってきていて、冒険者が数人歩いてる程度だった。夜になれば死の淵岳が無人と化すだろう。


 山賊は集団で活動するので夜出歩くのは危険を伴った、リナは戦闘経験がない上に魔法も未熟だし、ギルがベテランであっても奇襲や地の利を得ている山賊の方が遥かに脅威的である。


「何処かに必ず潜んでいるのに見つけられないのが悔しいですね・・」


 リナは拳を握って歯を噛み締めながら顔を歪ませていた、こうしてる間にも次の計画を立てながら嘲笑ってる山賊達の姿を想像すると腸が煮えくり返る。


 苛立ちを見せるリナを宥めるように肩を軽く叩くギルはリナを連れてエレン村に戻った、前回泊まった宿屋に戻るとレンが笑顔で出迎えた。表情から察するように何か成果があったのかと言う期待の目だった。


 言い出しづらい状況だけど、悲痛な思いで事情を話すとレンの表情が暗くなった。店主もそんなレンの頭を撫でながら慰める、不甲斐ない自分たちが恨めしく思うリンとギルであった。


「次の計画だけど、闇雲に歩いてるだけだと今日みたいなことになるから、何かアクションを起こしたいね」


 寝室に置かれてるテーブルに向かい合わせで座る二人、ギルは机の上で両手を組みながら案を講じた。山賊名は特定できても場所までは特定できないリナはギルの案に耳を傾けた。


 今日一日探索して分かったことは、崖沿いに作られた一本道以外に道が存在しなかったことと他に隠れられそうな場所がなかったことだ、考えられることは隠し通路の存在だった。


 通ってきた道の何処かに隠し通路が存在して、山賊達はそこを利用して襲撃をしてるとギルは考察した。昼間ならともかく、夜だったら闇に紛れれば相手に気づかれることなく襲うことができる。


「明日からは崖の方もくまなく調べましょう、隠し扉的なのがあるかもしれないし」


 次の方針が決まった、死の淵岳の歩道を歩きながら崖に怪しいものが無いか調べるやり方だ、手探りになっていくけど悠長に時間を割けていられないので手当たり次第にやる事にした。


 外は既に真っ暗な状態で村内はいつもと変わらずに冒険者たちで賑わっていた、毎日がお祭り気分のように安心感と高揚感が感じられた。


 残りの自由な時間は、ギルが書物を読んでリナは窓から外の様子を眺めて過ごしていた。レンは店主の手伝いで食器洗いや接客などをやって住まわしてくれる恩義を返している。


「ん?誰かが死の淵岳の方から駆けてきている?」


 外を眺めていたリナが死の淵岳関所の方から冒険者が急ぐように駆けてくるのを目にした。ギルもそれを聞いて窓から顔を覗かせる。


「大変だー!山賊が出たぞ!冒険者が襲われたーー!」


 駆けてくる冒険者の言葉に周りが騒然とした、リナとギルも顔を見合わせて冒険者の下に駆け付ける。駆けて来た冒険者は息を切らせながら人々の前で膝をついた。


 冒険者の一人が崩れた冒険者を介抱してると周りの冒険者も事情を聞こうと詰め寄る。その場に座り込んだ冒険者も息を整えながら事の事情を周りの人に伝える。リナとギルもその場に着くと周囲の人に紛れるようにして話を聞いた。


 冒険者は火急の用事で危険な夜を承知で隣の町に行こうとした、腕には自信があったので山賊の奇襲を警戒しながら死の淵岳を下っていく、そこで何か揉めるような声を行く先で聞いたと言う。


 彼は気づかれないようにその場の様子を確認すると二人の冒険者が複数人の山賊と交戦していた、相手は5,6人で連携を取る形で冒険者を襲う。冒険者もかなりの手練れで奮戦していた。


 山賊側は苦戦を強いられていたけど、数の暴力には抗う事も出来ず最終的に冒険者の方が討ち取られた。現場を見ていた冒険者は怖くなって逃げるようにしてエレン村に引き返したのだった。


「奴らは冒険者の身包みを剝ぐのに夢中だったから気づかれなかったけど、あれは地獄だ」


 冒険者は顔を下に向けながら怯えていた、声の震えからもどれだけの恐怖だったかは誰もがわかっていた。冒険者は門番にも報告してきたけど、明確な情報が無ければ向こうも動くことはできないだろう。


 しかし、これは千載一遇のチャンでもあった。山賊がどこから現れたのか突き止めることが出来れば対策を練ることもできる。今までは山賊の場所が特定できなかったから何もできなかったけど、場所さえ分かればこちらも動くことができる。


「リナ、奴らが退散する前に動くぞ」


 ギルの言葉にリナは頷き二人は門番の許に向かった。門では兵士たちが集まって対策を練っていた。


「すぐに山賊たちを撃退しなければ!」

「待て、迂闊に行動しては危険だ!まずは状況の把握を優先しよう」

「しかし団長!このままでは山賊たちに逃げられます!」

「今度こそ奴らのアジトを突き止めるチャンスです!」


 この非常事態に兵士たちは混乱していて何もできていなかった、このままでは山賊たちに逃げられてしまう。リナはそんな光景を飽きれながら見ていたけど、ギルは険しい表情で兵士たちの許に駆け寄った。


「すいません、よろしければ我々が現場に赴きます!」


 ギルは言い合いになってる間に割り入って強く主張した。その言葉に周りの兵士が一瞬止まったけど、団長はその言葉を取り消す。


「だめだ!冒険者であっても一般人を危険に巻き込むことはできない」

「しかし、早く対処しなければ山賊たちに逃げられます!過ちを繰り返すのですか?」

「う・・しかし、まずは本部との連携を・・」


 ギルは団長の弱腰姿勢に嫌気をさして、リナに合図を送ると門の外に出た。リナも団長に目を向けながらその後を追った。


「こら!君たち待ちたまえ!」


 団長の言葉は虚しくも風に消し去られ門が静かに閉ざされた。周りの兵士も動揺を隠しきれずに閉じた門を茫然と見つめながら立ち止まる。


 此処は死の淵岳の街道、辺りに外灯がなく深い闇が広がっている。松明の明かりを頼りにギルとリナは襲撃現場に急いで向かった。奴らは冒険者の後始末もある為、ある程度の時間を有するので急げば間に合うはずだ。


 ギルは何の苦もせずに走ってるけど、整備されてない道と動きなれてなリナはその後を追うのに精一杯であった。暗闇で地面も見づらく、たまに足が縺れて転びそうになるけど、何とあ踏ん張って足を引っ張らないようにする。


 幸いにも襲撃現場がエレン村から近かったため、数分で現場に到着することができた二人、微かに聞こえる話し声に足を止めて岩陰に隠れる。そっと様子を伺うと山賊たちは身ぐるみ剥いだ冒険者を始末するところだった。


「たく、手間取らせやがって・・負傷者は居るか?」

「一人が軽傷・・二人が重傷を負ってる」

「わかった、お前ら二人で重傷者をアジトに連れていき俺とお前でこいつらを始末するぞ!」

「よし、さっさとしないと自警団が来ちまうからな」


 山賊たちは重傷を負って倒れる二人の山賊を軽傷を負った山賊ともう一人の山賊で担ぐように去り、指示を出した山賊ともう一人の山賊で冒険者を谷底に落とす作業を行った。


 何の躊躇もなく落とされる冒険者を見たリナは口を手で覆いながら動揺する。これが人間のすることなのか?平和な世界で生きてきた彼女にとっては信じられない光景である。


「リナ、気をしっかり持て!そんなんじゃいざという時に動けないぞ」


 ギルは小声でリナに言い聞かせて気を持たせた、リナもその言葉で我に返り改めて現場に目を向ける。作業を終えた二人の山賊は辺りに注意を向けながら、やり残しがないか入念に確認するとその場を後にした。


 現場を離れる山賊の後を気づかれない距離を保ちながら二人は追う、足音を立てないように忍び足で松明の灯りも山賊の松明を頼りに消していた。灯りがない道は地面のない暗闇の上を歩いてるようで歩行も困難を強いた。


「リナ、足元に気を付けて・・気づかれずに落ちないようにね」

「わかってます・・手探りで歩いてるので大丈夫です」


 互いに注意を言い聞かせながら山賊達の後を追うこと数十分、山賊達の足が止まって崖の方に目を向けながら何かをしていた。松明の灯りを照らしながら岩肌を手で触っている。


その時、突然地響きと共に岩肌が二つに裂けるようにして開かれ、大人二人分が通れる洞窟が現れた。二人の山賊が注意深く辺りを警戒すると洞窟内に入っていき、扉が地響きと共に閉ざされた。


「なるほどね・・通りで見つけることができないわけだ」


 閉まった扉の前に立った二人は断崖絶壁となった岩肌を眺めながらギルは呟いた。


「山賊は手をかざしてましたけど、何か仕掛けのようなものがあるんでしょうか?」


 リナは松明の灯りを岩肌に照らしながら問いかけた。


「奴らが魔法を使えるわけでもないし、何かからくりがありそうだね」

「どうします?このまま探索しますか?」

「いや、今回は奴らがどこから来たのかを探りたかっただけだから、一度戻って報告しようか」


 慌てて駆け付けたから軽装以外は手ぶらだった。このまま探索するのは危険と悟ったギルは、このことを村の自警団に報告するためにその場を後にした。村ではギルたちの証言を基に団長を筆頭に兵士たちで対策が練られ、後日その現場の調査をすることになった。


 ギルとリナも道案内として現場に赴くことになって、二人は宿屋に戻ると部屋で身支度を整えて休むことにした。明日から本格的な山賊退治が始まる、相手側の人数は把握できないけど相当な数だと予想ができる、戦闘に慣れてないリナにとっては不安で心が締め付けられる。


「リナ、身体が震えてるけど大丈夫か?」

「え?あ・・うん、ちょっと怖いなと思って」


 ギルの気遣いにリナは無理な作り笑顔で答えた。手の震えや普段とは違う笑顔にギルは目を閉じながら、そっとリナの頭に手を置き撫でた。リナも咄嗟の状況に動揺しつつも優しい手つきに段々と心地よさを抱いた。


「大丈夫だよ、何かあったら僕が必ず守るから」


 ギルは笑顔でそう言ってくれた、その言葉には不思議と頼もしさと安心感が感じられ、今まで抱いていた不安が一気に拭われた気分だった。


「うん、私はギルを信じてます・・でも、私も精一杯頑張ります!」


 勇気付けられたリナは先ほどまでの不安が消え、迷いのない真っすぐな瞳で力強く決意した。その表情にギルも安心し、二人は明日に備えてゆっくり休むことにした。


 翌朝、門の前では団長を先頭に招待規模の自警団が列で待機していた。二人はその光景を横目に団長の許へ駆け寄った、団長も二人の姿を見ると一礼をして官舎に案内した。


「昨晩の件は感謝申し上げる、貴殿らのおかげで我々は過ちを犯さずに済んだ」

「いえ、この一件は今に始まったことでもないですし・・我々も貢献出来てよかったです」


 ギルと団長は昨晩の一件の話をしていて、リナはギルの後ろに静かに立ちながら二人の会話を伺っていた。リナの姿に見惚れてるのか、外の兵士たちでリナの事を称賛するような小さい声が聞こえる。


 リナが視線を向けると兵士たちが咄嗟に顔を隠しす、リナは特に気にすることもなく視線を戻す。


「さて、話は本題に入るが・・二人には山賊の隠れ家へ案内してもらいたい」


 山賊の襲撃から10年近くの年月が経ち、一向にアジトを見つけ出せなかった双方の村と町の自警団は頭を悩ませていた。一時期は王国からの援助もあったけど、成果には至らず犠牲ばかりが増える。


 今回の一件で山賊のアジトへ続く隠れ家を発見したことは、偉業として称えられる程の大きな成果である。すぐに隣町と協力して対処したいけど、敵に勘繰られるとまずいので迂闊に公にはできなかった。


「敵の数は把握できない・・今回は少数先鋭で対処したいと私は考えている」

「正論ですね。敵の情報もわからないし、あの洞窟を大勢で通るのは無理でしょう」


 山賊が隠れ家に入るのを確認したけど、あの大きさを中隊以上で通るのは不可能だろう。それに運悪く気づかれれば身動きも取れずに全滅してしまう。


「私に一計があるのですが・・まずは、僕とリナで先行して山賊の様子を探ろうと思います」


 少数でも自警団が動けば山賊に勘付かれてしまう。それなら二人で行動すれば気づかれるリスクは減り、身動きも取れやすいから内部の実態を探ることが容易である。


 頃合いを見て合図を送り、団長が隊を率いて突入して山賊を一掃するという計画である。その時にギルたちで山賊をかく乱させることができれば、被害も最小限に抑えてアジトを制圧することもできるだろう。


「なるほど、確かに敵の実態がわからなければ気づかれるのはまずいな」

「人数はおろか・・兵器や陣地構成がわからなければ、隠れ家を見つけただけでは意味ありません」

「貴殿の言い分は分かるが・・後ろのお連れさんは戦闘経験とかあるのか?」


 団長も歴戦を潜り抜けた猛者でもある、一目で相手の事をある程度見抜くことができる。団長の目からリナが実戦経験が乏しいことを見抜いていた、リナもその目に思わず尻込む。


「確かにリナは経験が浅い・・だけど、彼女の魔法は強力で僕も傍に居てくれると安心する」


 ギルは上手く口にすることができないリナを庇うようにして主張した。リナもそんなギルを見ながら、昨晩ギルが言ってくれた言葉を思い出して供に応えた。


「そうか・・それならこの件は貴殿らに託そう。だが、無理だけはするなよ?」


 多少の不安はありつつも、二人の信頼関係を察した団長はギルの案を確立させると二人にエールを送る。ギルとリナは互いに向き合って頷くと団長に頭を下げて官舎を後にする。


 ある程度の下準備を終えた山賊討伐隊は例の隠れ家の前に立つと周りを固めた、団長とギルとリナは扉があった前に立つと起動のスイッチを探る。


「しかし、本当に一見すると何の変哲もない崖だな」


 そびえ立つ崖は天辺が見えないくらい高く、眺めてるだけでも首が痛くなる。それ以外は街道と棒柵が建てられてない谷底で何も感じなかった。


「まぁ、そのせいで10年間も好き勝手にやられてたくらいですからね」

「ほんと、山賊風情が巧妙な企てをするもんだな」


 団長の言う通り、これだけの仕掛けを山賊だけで行えるとは思えなかった。昨晩の襲撃も用意周到で統率もしっかりしていた、考えてみれば疑問に思えるところがたくさんあった。


 「・・・・あ、ありました!ここだけ他とは違う感じがします」


 ギルと団長がいろいろと考察していると岩肌を手探りで探していたリナが一部だけ他とは違う岩肌に気が付いた、その声を聞いた二人もそこに目をやる。


 確かに他とは形が異様に違っていて、遠目からでは気づきずらい形になっていた。団長は二人を後ろに下げると慎重な面持ちでその部分を押した。


 ガコッ!


 突然岩が押し込まれると昨晩と同様に地響きが発生した。


 ゴゴゴゴゴゴッ!ガコンッ!


 咄嗟に後ろに下がる団長、先ほどまで何の変哲もない岩肌だった崖の一部が裂けた。周りの兵士も動揺しながら驚く、目の前に暗闇が広がる洞窟が姿を現した。


「まさか・・こんなことがありえるなんて」


 団長も思わず息をのんだ、これまでに散々調査してきたのに見つけることができず、こうしてあっさり現れたことに信じられなかった。リナとギルは洞窟を見つめながら互いに覚悟を決めるようにして頷いた。


「では、我々はここから侵入していきます。団長たちはここで待機しつつ備えてください」

「わかった、合図を確認したら直ちに強行する」

「わかりました。では、行こうか」

「はい!」


 ギルは松明に火を灯すとリナを後方に連れて洞窟内に侵入する。団長は二人の様子を心配そうに見つめつつ、二人は静かに闇の中へ消えていった。


 洞窟内は入り組んでいて、所々に蝙蝠が犇めき合っている。道も歩きづらいために大軍で進行しなくて正解だった、歩き続けても休憩スペースがないことからアジトまでの通り道だと推測できる。


「ちょっと歩きづらいけど、転ばないように気を付けてね?」

「はい、ですが・・岩で支えてないと結構危ないですね」


 突起物やごつごつとした道のりは険しい登山道を歩いてるようだった、壁や突き出てる岩で体を支えなければ転びそうで危なかった。たまにギルが手を貸しながら洞窟内を歩く二人、歩いても歩いても出口が一向に見えない。


 今居るのが崖の中なのでどれだけ長いんだと突っ込みたくなる感じだった、出口が見えない所を見るにアジトは洞窟内にあるんじゃないかと二人は考えていた。地図ではここ一帯は山岳になるので外に建物は考えられない。


「もし、アジトが洞窟内だとしたら・・突撃は難しいですね」

「そうだね、一本道だし火器とか使われたらひとたまりもないよ」


 それ以外にも向こうから来る山賊と出くわすのもまずい、こっちは松明を使ってるから何かあれば一発でばれてしまう。そうなれば大声で仲間に知らされて危険を伴ってしまう。


 奴らの行動は夜以降になるから出くわす可能性は少ないけど、緊張と不安は常に隣り合わせである。団長は合図を送るように言ってたけど、音が響きやすい洞内では到底難しい。


「リナ、この一件は僕たちだけで対処した方がよさそうだ」

「ギルの考えてることはわかりますが・・私たちだけで大丈夫でしょうか?」

「確かに確実とは言えない・・でも、僕はリナを信じてるよ」


 これまでに何かをしたわけでもないから、ギルが抱いてくれる期待は逆にプレッシャーになる。でも、戦える術があるのに何もできないのは冒険者としても嫌だった、できることならギルの力になりたい。


「私だって未熟でも冒険者です。後方は何とかしますので前だけを見てください」

「頼もしいね・・なら、後ろは任せたよ」


 何の根拠もない、これまでにギルを助けたことは何一つないのにギルは私を信じてくれた。私自身ができること、自分の持つ力がどこまで通用するかこの場ではっきりさせたい。


 洞内を歩くこと数十分、先の方から複数の人の声が聞こえた。二人はその場に伏せて火を隠すようにしながら慎重に進む、次第に奥からうっすらと灯りのようなものが漏れ出していた。


「見つけた・・やはりにアジトは洞窟内にあったか」

「すごい、こんなに大きな空洞でこれだけの建物が建てられてるなんて・・・」


 二人は岩陰から目的の場所を見渡すと先ほどまでの細い道とは違って、東京ドームの半分程度の空洞で中心点に遺跡のような砦が建てられていた。周りは円形のドーナツ状で階段を使って降りる形になっている。


 自分たちが居るところが最上階の三階で周りの階ごとで散らばるように山賊が立っていて、砦の見張り櫓や城壁にも警戒するように山賊が配置されていて隙が無かった。


「まるで一つの国だな・・・砦は中規模の大きさでも人数は1万近くか」

「一万・・そういえば、外周の所々に穴が開いてますね」


 砦から目を離して周りを見ると二つの松明で照らされるように所々に穴がある、そこを守るように山賊も各二人体制で守っている。


「恐らく、倉庫とそういうのだろう・・別の場所に出る抜け道も考えられる」


 そう言われると二人が居る入り口にも二人の山賊が見張るように立っている。


「侵入するにはあの二人を何とかするしかないな・・でも、下手気にやれば気づかれる」


 今居る階にも所々に山賊が談話したり、歩いているから暗殺も安易にすることができない、悠長にしてたら敵に気づかれるから状況は一転して切迫していた。打開策を迫られる中、ギルは頭を回転させながら考えていた。


 リナも何かできることがないか辺りを見渡しながら考える。アジトは隠れられる場所が一切なく、一人倒すにも周りに気づかれることから構造上は山賊の考えではありえない地下要塞だ。


 一度戻るにも距離がありすぎて時間もかかる、それに奇襲を前提にしてるからそんなことしてたら敵に気づかれてしまう、八方塞がりの状態で硬直する二人は何もできずに時間だけが経過していく。


「あの・・私に考えがあるんですが良いでしょうか?」


 リナは何かに閃くようにしてギルに問いかけた。


「ん?何か良い策でもあるのかな?」

「成功するかはわかりませんが・・合理的だと思います」


 ギルはリナを見ながら首を傾げる、リナは笑みを浮かべながらギルの先の天井を見た。ギルも同じようにして天井を見るけど、特に変わったことはなくリナの考えてることが思いつかなかった。


 蟻の入れる隙間もない地下要塞でリナが考え付いた策というのは、前も後ろにも道がない二人が立たされた状況を打開する術は、すべてはリナの考えによって展開が大きく左右されていく。

今年ももうすぐ終わりですね・・(一年が長いようであっという間だった)

新作の投稿がだいぶ遅れましたが私は元気です><

そして、だいぶ遅れてしまって申し訳ない;


来年はどうなるかわからないけど、少しずつでも執筆していきたいですね・・

途中から始めた小説ですが・・マイペースで頑張っていきます

来年も末永くよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ