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魔女の冒険譚  作者: 宮永・ゆかり
2/5

第二話 慢心故の甘さ

「あなたの願いを叶えてあげます」

夢に出てきた女性、ロアナがそう呟いた・・・


楽しいけど、ただそれだけの現実世界。別に不満と言うわけでもないけど、僕にとっては足りないものがある。

子供の頃から続けていた、幻想物語。


異世界を旅する少女・・・

ある夜、夢の中に出てきた女性がその願いを叶えてくれて、僕は異世界に転生した。そこは現実世界とは異なり、ファンタジー世界だった。


何も持たない状態で放り出された青年・・水島聡は自身の状態に驚愕しつつも、自分が置かれてる状況を無理やり理解し、探索する中で一人の若者と出くわす。

若者から衣服を借りて、人里まで案内してくれると言って共に同行する。


出口を目指して歩いていく中、何気ない会話をする二人は・・

嚙み合ってるのか合ってないかと息詰まりつつあった。

ぎこちない雰囲気で話す二人の目の前に・・あるものが立ちはだかる。

 広大な森の中、木々から伸びる枝を風がなでて微かな音を奏でる。静寂に包まれる森の一角、交互に地を駆ける足音が静寂をかき消していく。


「はぁ・・はぁ・・リナ!急いで走るんだ」

「ごめんなさい・・ごめんなさい・・!」


 複数の狼に追われるように逃げ惑う男女。男のを方は、脇腹を抑えながら少女の手を引いては知っている。抑える脇腹からは血が溢れ、表情も険しいものになっていた。


 一方、少女の方は涙を浮かべながら手を引かれて共に走っている。二人に起きた結末は、それは一時間前の出来事だった。








「リナさん!君は僕の後ろに居るんだ!」


 ギルは剣を抜き、迫りくる狼の群れを睨みながらリナを後ろに庇った。迫りくる6頭の狼の内3頭は二人のサイドを横切り、残り三頭が二頭を後ろに従えギルに飛び掛かった。


 ギルはリナの頭を手に取りしゃがませると一頭を回避した。その後ろから迫る二頭の狼のうち、右狼を下から潜り込むようにして一直線に切りつけて、左の狼をリナの手を引きながらそのまま駆けるようにしてやり過ごした。


「すごい・・」


 切られた狼は鳴き声を上げながら地面に倒れ、やり過ごされた狼は両サイドを駆けた狼と合流して、反転するようにして再び二人に襲い掛かった。


「リナさんはそこに居てください!すぐに仕留めます!」


 ギルはリナを木の影に隠すとそのまま前進し、再び飛び掛かって来た狼を華麗に回避するともう一頭に切りかかった。もう一頭、もう一頭と狼を次々に撃退していき、残りは二頭だけになった。


 唸るように威嚇する狼に対し、ギルは焦る表情を一切見せずに剣を構えていた。両者が睨み合う中、風だけが注がれて辺り一帯に静寂が包み込む。


「あれだけの狼を一人で倒すなんて・・ギルと言う冒険者はかなりの手練れだ」


 そこら一帯に転がる狼の亡骸を見て、ギルがどれだけ強いかと言うのをリナは自覚した。自分よりも年下の青年がここまで出来るなんて、これが異世界と言うものか。


 睨み合いを続ける両者の中、木の陰に隠れるリナは自分の右手を見る。物語の自分は魔法少女であり、もしかしたら魔法が使えるんじゃないかと思う。


「僕はこの世界を生きていかないといけないんだ・・このまま何もしないのは良くないんじゃないか?」


 右手を見つめながら目を細めるリナ。自分は冒険者であり、このような戦闘は今後も多く訪れる。ここで何もできなければ生きていくことはできない。


 狼は二頭だけ、ギルの方を睨んでいてこちらには気づいていない。自分を信じて、私なら出来る。


「ギルさん!私も加勢します!」

「リナさん!?」


 リナは木の影から出てくると威勢よく狼を睨んだ。リナの声に気づいた狼が振り返り、唸り声を上げながら威嚇する。

 

 こちらを睨む狼に対して、やはりに恐怖心があるようで両足を震わせる。頬には冷や汗が零れ落ち、静かに生唾を呑んだ。


「リナさん!君は魔法が使えるのか?」


 ギルがリナを心配そうに訊ねる。正直、魔法が使えるなんてわからない・・しかし、このまま何もしないで見ているのは嫌だった。自分だって冒険者であり、幻想物語では主人公だから。


「私は魔法少女です!ここで何もできなければ・・・この先やっていけないから!」


 リナは力強く答える。そして、右手を前に差し出すと静かに念じた。辺りは再び静寂に包まれ、風の音だけが聴こえる。神経を集中させて数分、数十分と時だけが流れるけど何も起こらない。


「どうして?何で何も起きないの!?」


 もう片方の腕を前に出して念じても何も起きない。物語の中だったら、何かしらの攻撃魔法が発動するはずなのに。思う通りに行かないことに焦りを感じて前を見れなかった。


「リナさん、危ない!」


 ギルの叫び声で咄嗟に我に返ったリナは、目の前から迫ってくる狼に後ずさるも足がもつれて地面に倒れる。


 襲い掛かる二頭の狼にもうダメだと目を閉じたその時、誰かに抱えられる感じがした。


「・・・え?」


 リナは薄っすらと目を開けると目の前にはギルが居た。目を大きく見開きよく見れば、一頭の狼に左脇腹を噛まれ、もう一頭の狼はギルが防いだであろうと剣に嚙みついていた。


「この子には手を出させないぞ!」


 そう怒声を上げながら脇腹を噛んできた狼を蹴り飛ばし、もう片方の狼を力任せにそのまま切り伏せた。


 そして、リナの手を掴むとそのまま距離を取るように駆けた。蹴り飛ばされた狼も体勢を立て直すと自慢の脚力で追いかけて来た。








「くそ・・やはりに狼の方が脚力が上か・・・!」


 傷の痛みとリナを連れてる事に上手く走ることが出来ないギルは、狼との距離が縮まることに焦りを感じている。一方、リナの方は何もできない自分に対して足手まといだと感じて涙を流している。


 狼との距離が残り600mくらいに差し掛かった時、このまま逃げても無駄と悟ったギルはリナを背にして剣を構えた。


「このまま逃げても埒が明かないな・・悪いが、此処で終わらせてもらうぞ!」


 血が止め処なく溢れる脇腹を抑え、右手で剣を引くように構えると姿勢を少し落とした。狼との距離が徐々に狭まってくる、残り100mの所でギルは狼に向かって駆けた。


 ギルが間近に迫ってきた狼はそのまま飛び掛かり、ギルはその瞬間サイドに避けて横一文字に切りつけた。狼は鳴き声を上げなが地面に倒れた。


「ギルさん!」


 ギルはそのままの勢いで地面に倒れ、リナはギルの安否を気にしつつ駆けてきた。苦痛に苦しむギルを抱きかかえながら木に寄せた。


「はは・・すまないね、こんなざまで情けない」

「いえ、私こそでしゃばったマネをしてしまってすいません・・そのせいでギルさんが」


脇腹を抑えながら苦笑いをするギルに対して、自分のせいでギルが負傷したことに罪悪感を感じながら暗い表情をする。


「気にすることはない、ディスペル・マジックがまだ解けていなかったんだね」


 ギルの慰めが痛かった。別に魔法がかかってるわけでもない、自分がこの世界の人間じゃなく、ここが自分で創った物語の世界で自分が転生者だって言えるわけでもない。


「・・・・・・」


リナは何も言えずに俯いていた。


 ギルはバックから薬を取り出すとそれを飲み干した。その瞬間、身体から光が発せられると脇腹の傷が塞がってきた。


「ポーションも安くないんだけどな・・リナ、あまり落ち込むこともないぞ?」


 ギルは空き瓶をバックにしまいながら、リナの頭をそっと撫でた。今にも泣きそうなリナ、再びぎこちない雰囲気が辺りを包む。


 見兼ねたギルが此処に居ても仕方ないからとリナに手を貸しながら立ち上がる。剣を納刀して、リナの手を引きながら歩き始める。しかし、歩いてる途中でギルが不穏な面持ちで辺りを見渡す。


「どうかしたんですか?」


 周囲を見渡すギルを見て、リナは訊ねた。


「いや、さっきの戦闘で闇雲に走ったじゃない?そのせいで方角がわからなくなっちゃってね」


 ギルは眉を八の字にさせながら頬を搔いた。本来なら出口まで目と鼻の先だったのに、遭遇した狼に追いかけ回されて方角なんて気にしていられなかった。


 方角を知るために空を見上げようにも木々が生い茂っていて、光が射し込んでるにもかかわらず正確に見ることが出来ない。


「困ったな・・何処かに切り株があればいいんだけど」


 切り株の年輪で方角を知るって言うのは、山で迷ったときの対処法の一つでもある。ギルはそれをしようとして辺りを探索していた。射し込む光も段々と消えていき、辺りも薄暗くなっていく。


「まずいな・・このままだと野宿になりそうだ」

「辺りが段々と暗くなってきましたね・・」


 状況は非常にまずかった。このフランの森は暗くなると辺りが闇の中のように見えなくなる、何もできない私が一緒に居るだけでもギルの負担は大きかった。


 ギル一人ならともかく、何もできない私はギルに守られないとやられてしまう。周りの警戒と私の護衛でギルの休まるときがあるのか、先ほどの戦闘で疲労もあるのに。


「仕方ない・・ここで野営するから、一晩明かそうか」


 ギルはそう提案すると焚火を始めた。近くから枝を集めてまとめるように積み重ねつつ、火打ち石を使って火を熾す。


「ギルさんは野宿の経験とかあるのですか?」

「そうだね、あっちこち旅をしてるからね」


 手慣れた感じで火を熾すギルを見て、リナは感心そうに見つめていた。そんなリナに対して、ギルは自身の経験を伝える。


「ギルさんは、何処出身で何年くらい旅をしてるのですか?」

「そうだね、出身はアルファール帝国領で現在から数えて6,7年くらいかな?」


 ギルが口にするアルファール帝国領。ユーラシア大陸の北に位置し、僕の居た現代ではロシアに当たる。広大な領地を支配し、軍事力と政治力も他国から右に出る者が居ない。


「ギルさんにはご家族が居るのですよね?若く見えますが・・今はおいくつなのですか?」


 見た感じのギルは20代前半に見え、旅に出てから6,7年と言うと疑問に思う所がたくさんあった。


「そんなに若く見えるかな?歳は22だよ」


 若くというよりは若すぎるとリナは思った。そして、ギルは焚火を眺めながら自らの経緯を話し始めた。


 ギルの生まれはアルファール帝国領のカリン村と言う、シベリア地区の北側にある田舎町である。ギルは10歳までそこで育ち、15歳で村を出た。


 当時のギルは8歳の頃に訪れた旅人から、旅の話を聞いて冒険に憧れていた。そして10歳の時に体を鍛えて15の時、父に認められて旅に出たそうだ。


 旅をする中で経験を積み、18の時にとある国で最愛の人と出会い結婚したのである。20の時に娘を授かり、家族三人で幸せの日々を過ごしていた。


「っという事は、娘さんがまだ間もないのに再び旅に出たのですか?」


 話を聞く中で今のギルの年齢からすると娘さんの年齢は2歳くらいだと思う。リナにとっては最愛の娘と妻を置いて旅に出たことが不思議に思えた。


「本来ならずっと暮らすと思うんだけどね・・僕は旅をやめれなかったんだ」


 リナの問いかけにギルは苦笑いをしながら答えた。そして、焚火の炎に再び視線を戻すと目を細めた。


 ギルが再び旅立ち始めたの21の時、妻と暮らす国で仕事を見つけたギルは活き活きとした感じで励んでいた。そして、仕事する中で街を行き交う旅人を見かけていた。


 そんな旅人を見ていく内に自身の冒険心が再び芽生えてきた。仕事は問題なくこなしてるけど、気持ちが落ち着かなかった。


 そんな夫を見て察した妻が、盛大にギルを旅へ送り出してくれたと言うのだ。本来なら娘の事を考えるのが当たり前だけど、妻はギルの事を一番に理解していたのだった。


「妻は本当に優しくて・・常に寄り添って支えてくれた。娘の事でも大変なのに・・僕の心を尊重してくれたんだ」


 気が付けば、焚火を眺めるギルの表情がほころんでいた。さっきまでの表情とは別人のように穏やかで、妻と娘を愛する父親のような表情をしている。


「その歳ですごいですね・・私よりもしっかりしてます」


 リナは改めて感心していた。もうすぐ30近くになる自分は、独身貴族で家族の事なんて興味がなかった。その若さで苦難を乗り越えて、家族を築いて支え合える事に尊敬の念を抱いた。


「すごいと言われても・・リナさんは10代だよね?逆にその歳の魔法使いが今まで一人で旅するのもすごいと思うけどね」


 ギルからして見れば、今のリナは10代半ばの少女に見えていた。実際、幻想物語のリナは16と言う設定になっている。リナもそれに気づいて慌てて口裏を合わせる。


「あー・・そうでしたね、今の私は10代の少女ですね」


 ギルは一瞬疑問に思ったけど、あまり気にしなかった。話してるうちにどれだけの時間が経ったのだろうか、周りは闇に包まれていて焚火の火だけがそこ一帯を強調している。


 沈黙の時間がしばらく続く、リナは焚火の火を眺めながら俯いていた。余った枝を焚火に放り込みながら、リナの方を見るギル。


「不安なのかい?」

「え・・?」

「何だか元気がないように見えるけど・・」


 長年旅をし続けてきた感と言うやつだろうか、ギルはリナの表情を見て何かを抱いてる事に気づいていた。


「いえ、このまま魔法が使えなかったらどうしようかと思いまして・・・」


 自分が異世界人である事を隠し通そうとするリナは、ギルに悟られないように自分は魔法が使えないことを濁しながら言った。


「ディスペル・マジックは個人差もあるけど、そのうち戻ると思うから深刻にならなくても大丈夫だと思うよ?」


 魔法が使えるかもわからない、使えないかもしれないと思うリナと真実を知らずに励ますギル、二人の微妙なすれ違いが場の空気を重くしていく。


 本当の事を伝えたほうが良いのだろうか、本当の事を言っても信じてもらえない、或いは怪しい目で見られてしますかもしれない。嘘つきと軽蔑される恐れもあるリナにとっては、それが怖かった。


「・・・リナさん、本当の事を話してくれるかな?」

「・ギルさん?」

「君の表情は何かが違う、本当に魔法が使えるのかな?疑うつもりはないけど、ここは安全な場所じゃない・・この先何が起きるかわからないのにこんなんじゃ僕も不安だよ」


 ギルの言葉は正論だった。本当に魔法が使えなければ戦法も変えていかないといけない、ギルは私がただ単に魔力を失ってるだけと思っているから、魔力回復を頼りにしている。


 しかし、リナの表情から何かを隠してる事を察したギルが真実を促すように詰め寄った。リナもこれ以上は隠し通せないと悟って、意を決した。


「わかりました・・本当の事を言います。だけど、言ったところで信じてもらえないかもしれませんが・・聞いてください」


 真剣な眼差してギルを見る。ギルも静かに頷きながらリナの話を聞いた。


「私はこの世界の人間じゃないんです・・別の世界から転生して来ました」


 リナはすべてを話した。自分の世界がどんな所でどうやって来たのか、此処がリナが創り出した幻想物語の世界で自分は魔法少女の設定だったという事も。


「・・・・・・・」


 ギルは険しい表情で黙り込んでいた。普通に考えれば、この人は何を言っているんだと思われるのが当たり前だった。異世界人と言うのが百歩譲ってそうかもしれないけど、此処が創られた世界とは思えるわけがない。


 リナはギルの表情を見ながら、疑われてると感じていた。信じてもらえてないと思ったリナは、暗い表情をしながら俯いた。


「おかしいですよね・・こんなのバカげてますね・・・」


 ギルは静かに目を閉じて何も言わない。沈黙が広がる中、場の空気が息苦しいくらいに重かった。


「なるほどね・・君の言いたいことはわかったよ」


 ギルはそう言いながら目を開けた。騙された怒りの眼か、奇怪を見るような眼か、その表情は鋭く険しいものだった。どちらにしても、失望されたと思ったリナは覚悟を決めていた。


 私が一緒に居るメリットなんてない、このまま見放されると思ったリナは眼をを閉じながらギルの決断を待った。ギルが出した答えは・・・


「今まで辛かっただろう・・本当の事を言ってくれてありがとう」


 リナは口を開けながらポカンとしていた。今まで険しかったギルが優しい笑みを浮かべながら礼を言ったからだ。今の状況が信じられなかった。


「えっと・・私を疑ったりしないのですか?」

「んー、にわかに信じがたいけど・・リナさんが嘘を言ってるように見えないからね」


 リナの問いかけにギルは微笑みながら返した。元々ギルはリナの事を疑っていなかった、話してる時のリナの眼は真っすぐで揺らいでいなかった。一つ一つの言葉にも嘘偽りのない真実性を感じていた。


「出会った時から、何か不思議なものを感じていたんだ。君は此処とは異なる場所から来た、疑問に思ってたけどこれで納得したよ」


 ギルと初めて会ったのは最初の焚火だった。当時何も身に着けていなかったリナが、この森に居た事が不思議だった。転移魔法を受けたとしても、装備品を剝ぎ取られるのはありえない。


 彼女が何処から来たのか、あそこで何をしていたのか、リナの話を聞いてすべてを理解したのだった。


「すぐに本当の事言えなくてすいません・・早く言っていればあんなことにならなかったのに・・・」


 魔法が使えないリナを庇って、狼に脇腹を噛まれた事に悲痛な気持ちで謝罪した。


「まぁ、回復薬はまだあるし・・事情も事情だから仕方ないよ」


 暗い顔をしてるリナを元気づけようとバックから何本かの回復薬を取り出し、自分は気にしてないとアピールをするギル。リナにとってはいたたまれなかった。


「逆に黙ってる方が申し訳ないと思うだ。だけどリナは勇気を出して真実を話してくれた、それだけでも僕はすごいと思ってる」


 ギルの言う通り、リナの話す内容は現実とは思えない奇天烈な内容だった。誰もがリナの事を怪しい人間と思うだろう、それでもギルにとってすべてを話してくれたリナは尊敬に値した。


「そこまで言ってくれるとは思いませんでした・・・ありがとうございます」


 信じてくれたことに安堵と安らぎの表情を浮かべるリナ、先程まで暗かった雰囲気が暖かな物になってきた。


「さて、魔法が使えないとなると何かしらの打開策を講じないといけないね」

「私は戦闘自体経験ないので・・現状どうしたらいいかわからないですね・・・」


 リナの住む世界は此処とは異なる場所なので、戦いと言うものを知らない。そうなれば、戦闘に参加させるのは好ましくなかった。


「んー・・今すぐにやり方を教えるのは難しいし、だったら戦闘は僕が受け持った方がいいかもね」


 戦闘経験がない人を戦いまでもっていくには状況が悪すぎた。時間がかかる上に準備も足りない。


 下手気に戦闘させるよりは、後方に置いて防御に徹してた方がギルも戦闘がしやすい。リナも今の自分では足手まといと自覚してるのでギルの案には賛成である。


「敵がこちらに気づいたときはどうしたらいいでしょうか?」

「僕が敵を通さないようにする。木の陰に隠れながら、敵が迫った時は僕の許に来るんだ」


 この森のことはギルも知り尽くしているので、どんな魔物が来ても負ける気がなかった。一人くらいなら守れる自信があった。


 話し合いの中で二人が出した作戦が決まった。優先することは森からの脱出、戦闘になった際はギルが善戦し、リナは木の陰に隠れて様子を伺う。敵に見つかった時は、ギルの許に駆け付ける作戦だ。


「僕が出来る限り敵を殲滅する。リナさんは、なるべく敵に見つからないよに隠れててくれ」


 ギルの言葉にリナは頷いた。魔法が使えれば少しでも役に立てるのにと歯がゆい気持ちになりつつ、今は少しでも足を引っ張らないようにしようと拳を握っている。


 話し込む中、結構な時間が経過してると感じたギルはリナに休むように促した。リナは自分が先に寝るのは悪いと言いつつ、寝ることを拒んだ。


「僕は慣れてるから仮眠程度でも大丈夫だけど、リサさんは相当疲れてるでしょ?」


 あっちの世界では仕事関係で深夜過ぎでも起きていられたけど、こっちでは慣れない戦闘やら色々とあって疲労困憊でもあった。ギルはリナの表情から察していた。


「確かに・・疲れてないと言えば噓になるけど・・・」


 それでも申し訳ないという気持ちでいっぱいだったリナは、シャツの裾を握りしめながら悩んでいた。


「逆に言えば、しっかりと疲れを取ってくれた方が次の日の行動もしやすいと思うんだ」


 慣れない環境に寝不足の状態で共に行動するのは危険すぎる。確実に守って行くなら、リナの体力回復が鍵となっていく。


「・・・わかりました。では、すいませんがお休みさせてもらいますね」


 リナはそう言って樹に背を預けながら眠りについた。相当疲れていたのか、瞬く間に深い眠りに落ちたリナはどことなくあどけなさを見せる。


 そんなリナを眺めてるギルは、ふと自分の娘のことを思い出す。2才という幼さで離れてしまったことにちょっとした後悔が残っていた。妻は笑顔で見送ってくれたけど、仕事と娘の世話で大変なはずだ。


 旅の中で訪れた国、そこで愛しの君と出会って一緒に居る内に互いの愛が芽生えた。妻は僕がどれだけ旅が好きかを知っている。娘を蔑ろにする行為を妻は一切責めなかった。


「正直、どうして娘より旅を大事にするのかと責めてほしかったな・・」


 そう呟きながら苦笑いをするギル。家族のことは何より大事だから、あの時に叱ってくれたら旅は諦めていた。未練はあるけど、妻と娘のためなら頑張れる自信があった。


 どうしてなのだろうか、どうして妻はあんなに笑顔だったのか。旅というのは何が起きるかわからない、危険と隣り合わせに妻は分かってるはずだ。


 まだ妻と付き合い始めてた頃、僕は旅の話をたくさん聞かせて妻は楽しそうに聞いていた。思えば、妻との会話は旅の話ばかりでたくさんの時間を費やして語った。僕が旅好きなのを妻は一番に理解していた。


「妻はあの時、見送りの際に何を言ってたかな・・・」


 ギルは静かに目を閉じた。あの時、妻が僕に言った見送りの言葉……


「いってらっしゃい・・・私待ってるから、あなたが帰ってくるのを」


 そう、妻は笑顔で言ってくれた。どんな時でも妻は僕を信じてくれた、僕も妻のことを心の底から信じている。だから、力強く頷くことができたんだ。


 ギルは静かに目を開け、目の前の焚火を眺めながら誓った。必ず妻の許に元気な姿で帰ってくることを静かに誓ったのだった。


 安心するように眠るリナと仮眠を取りつつ辺りを警戒するギル、魔物の奇襲がないことを祈りながら夜が明け始めた。闇に覆われてた辺り一帯が日差しによって照らされ始めた。


 いつの間にか眠りについていたギルは冷や汗をかいていた。戦闘の疲れが残っていたのか、その隙に襲われなくてよかったと胸を撫で下ろした。リナも数時間後には目を開け始めた。


「おはよう・・何だか、不思議と気分が良いですね」


 リナは背伸びをしながら微笑んだ。焚火の火を消していたギルが笑顔で挨拶を返した。


「まずは方角を知るために切り株を探す、闇雲に歩き回っても時間の無駄だからね」


 自分たちが森のどこら辺に居るかがわからない、方角さえ知ることが出来ればどっちに進めば良いかがわかる。


 陽が射していても空が見えなければ意味がない、磁石があるわけでもないし切り株だけが唯一の希望だった。二人は離れないよう、互いに距離を近づけながら探索を始めた。


 切り株探しに数時間、ようやっと見つけた二人は切り株を挟むようにして年輪を覗いた。しばらく眺めていたギルが何かに閃いた。


「よし、南はあっち側だからこっちの道を歩こうか」


 年輪の広い方が南であり、ギルの言う森の出口は西側にある。方角を知ることが出来たギルは、出口の方向を指差して歩き出した。リナもその後ろをついていく。


 リナはもう一度切り株を眺めた。何を思っているのか、切り株をジッと眺めながら微動だにしなかった。


「リナさんどうかした?日が暮れないうちに早く行こうか」


 立ち止まるリナに気づいたギルが先を促した。リナは慌てながらギルの方に駆け寄っていった。


 歩くこと数時間、太陽が真上を昇ったのか陽の光が強くなってきた感じがした。どれだけ歩いたのか、息が切れ始めて来た二人は足を止めて休憩に入った。


「どれだけ進んだかな・・結構歩いたと思うんだけどね」


 汗を拭いながら呟いたギルは、バックから水筒を取り出して一本をリナに渡した。リナはお礼を言いつつ、手渡された水筒を口に含んだ。


 リナは水筒の水を少しずつ飲みながらギルを眺めていた。ギルは不安なのだろうか、先程から顔色が優れない。そんなギルを眺めながら考えるリナは、あの時の切り株を思い出して何かが引っ掛かった。


 年輪で方角を知るのは常識として知られているけど、それが真実かどうかは怪しい部分もあった。とある情報では、それは間違っているという噂も耳にするのでリナも信じきれないでいた。


「ギルさん・・非常に言いづらいのですが、年輪で方角を知るやり方は正確じゃないと思うのです」


 リナの言葉にギルは首を傾げた。リナは、これまでに知ってきた情報をギルに話しながら、切り株の信憑性を改めて理解してもらうため丁寧に説明した。


 話を聞いていく内にギルも指を口に当てながら考え出した。今の現状と先が見えない道のりにギルの頭の中でも不可解な点が過っていた。


「もしかすると・・わかってたつもりで実は方角がわかってなかったというのか」


 ギルは確信したように顔を上げた、リナもそれを見て頷くとギルは頭を抱える。結局は時間だけを無駄に潰したことになるので、状況から見て最悪だった。


 二回目の野宿は一回目よりも危険性が高い、何としても森を脱出しないといけないギルは徐々に焦りを見せて来た。リナも何か打開策が無いか考えながら辺りを見回す、見渡してくうちにある事に気が付いた。


「私思ったんですが、間から射す陽の柱で方角がわからないでしょうか?」


 リナの考えはこうだった、太陽の位置によって射し込む陽の角度が変わることで方角を割り当てる考えだ。太陽は東から昇って西に沈むので切り株よりも信憑性が増す。


「なるほど、確かにこの森は深い上に空が見えない程に生い茂っている」


 そう言いながら辺りを見回すギルは、薄っすらと消えつつある陽の柱を確認する。時間も正午過ぎを回っているはずなので見逃す所だった。


「明け方の角度と今の角度は思い出せるかな?」

「大丈夫です、しっかり覚えてるので角度からしてこっちが南だと思います」


 そう言いながら指差した方向は、今歩いてる方向とは違う所だった。自分が間違ってたギルは、片手で頭を抑えながら顔を歪めた。リナは気にすることないとギルを励ましながら、二人は再び出口と思う方向に歩き出した。


 希望が湧いてきた二人は、いつもよりも活気が満ちていた。日没までには森を脱出したい、備えていた道具類も残りわずかになった今は二回目の野宿を避けていきたい。


 果たして二人は、無事にエレンの森を脱出することが出来るのだろうか。この先に二人を待ち構えるものは、希望か絶望か……


思った通りに行くことはなかなかないかもですね・・(汗

やはりに現実はそんなに甘くないことを実感した。


始めて出会う、異世界人をどのようにしようか迷ったけど・・

やはりに最初は親切な人がいいかもしれませんね><

呼んでく中で、誤字等がありましたら申し訳ないです;


今後もよろしくお願いします。

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