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魔女の冒険譚  作者: 宮永・ゆかり
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第一話 幻想世界に招かれた者

人生と言うものは一つの物語だと思う・・それは人ぞれぞれが同じこと

自分が歩む人生は、・・自分が主人公であり、その他は脇役となる。


好きな人が居れば・・親しい友人が居れば、その人をヒロインとして置き換えるのも良いかも

僕はそんな風に思う。

だけど、人生はそんなに甘い物じゃない・・自分が思った通りにはいかない。


だから、僕は幻想世界を創る。自分が主役としての自分だけの世界・・・

 現代は日本、とある地域で広大な土地を有し幾つもの工場が立ち並んでいる。工場内ではトラックの他、ナンバープレートが付いてない車が行き交う、此処は高級車を生産し各地の販売店に届けてる車の工場である。


 工場を保有するのは、車関連の某大手企業で工場はそこ以外にも少し離れた所に幾つかあり、世界各地にも幅広く展開している。各工場では車以外にも車に必要な部品も作られていて、それぞれが大事な役割を持っている。


 そして、数多くある工場の中でとある工場に一人の派遣社員が作業をしていた。彼はピット内で真剣な眼差しをしながら車の足回りを調整している。


 彼の名は水島聡(みずしまさとる)・・何処にでも居るような平凡な青年だ。目立つところがなく、黙々とラインから流れてくる車をピットに移動させてはハンドルから車の足回りまで、一連の流れのように作業をしていく。


 同じことを終業時間まで繰り返していても、彼は飽きることなく・・それどころか活き活きとした感じで数をこなしていく。水島にとっては今の作業にやり甲斐を感じながら楽しんでるようだ。


「ふぅ、次の展開はどうしようかな」


 作業をする中で水島は何かを呟いた。


「やはりに今の状態でドラゴン退治は無理かな?」


 明らかに仕事とは関係ない言葉を水島は呟いた。そう、水島は仕事中にもかかわらず何かを妄想していた。


「水島、何か言ったか?」

「あ・・いえ、何でもありません」


 調整した車を取りに来た従業員が水島の呟きに気が付いて訊ねた。水島は一瞬ドキッとしながら、何もないことを伝えると慌てて次の車を取りに行った。


 危ない所だった、水島は他の人には知られたくない特殊な性癖を持っていた。それは、彼自身が幻想中毒者であることだった。妄想することが好きで、自分だけの物語を幻想の中で描いていた。


 仕事中であってもそれをやめることが出来ず、自分でも病気なんじゃないかと思っている。しかし、すごいのは仕事と両立してる事だ。


 普通は仕事に集中してないと失敗に繋がるけど、水島は妄想と両立してても仕事はしっかりこなしていた。これは才能なのか?彼自身は何とも思ってなく、当たり前のように作業を黙々としていった。


 作業をやっていく内に終業時間になったらしく、現場メンバーが集まって終礼が始まった。現場組長の話と一斉呼称を終えると''お疲れ様''と言う言葉と同時に仕事が終わった。


「お疲れ様でした」

「おう、お疲れ水島」


 水島は組長に挨拶を交わして帰路についた。特にやる事が無ければ家に着きご飯を食べてお風呂に入って、寝るまでの空いた時間はネットをして過ごす日々だ。休日なら何処か行くかもしれない。


「はぁ、今日も仕事中に妄想してたな・・小学生の頃からだけど、飽きずによく出来るもんだな」


 彼が言う小学生の頃から・・そう、今の幻想中毒は小学校の時から始まった。アニメから影響されて、それに憧れて自分もあんな風に冒険したいのが始まりだった。


 登下校から昼休みや休み時間に至るまで常に妄想ばかりしてた毎日、それ以外にもやっていたけど、彼にとっての幻想物語はそれら以上に上回っていた。


「もし、本当に自分の作った世界を冒険出来たらどれだけいいんだろうな」


 常に思い続けていた事、自分が生まれた世界に恨みも不満もないけど、今の人生はあまりにも物足りない。


 今はVR機器やファンタジー世界をモチーフにしたテーマパークがあるけど、子供騙しに過ぎなかった。確かに再現力は高いけど、空も飛べなければ魔法が使えることもない。


 それだったら、某アニメみたいにネットゲーム内の世界で冒険出来たらどれだけすごいかと思ったこともある。


「そろそろ時間か・・明日も仕事があるからそろそろ寝ようかな」


 そうこう考えながら時計を見れば20時を回っていた。今週は昼勤だから、今寝ないと朝4時に起きるのは難しい。仕事も体力業だから、なるべく体力を回復させないと辛かった。


 明日の準備を簡単に済ませ、電気を消して布団に潜る。そのまま眠りにつくと思いきや・・彼はまた妄想を始めた、もはや病気レベルだ。


 数十分が経ち、ようやっと眠りについた水島はそのまま次の日になるまで暗闇の底に落ちて行った。なん時間が経ったのだろう、彼は目を開けた。


 そこは自分が寝てる部屋とは違う、辺りが真っ白な世界で何もない。人と言うのは夢を見る生き物だけど、大抵はそれが夢だと自覚することがない。夢だと気づくのは本当に目覚めた時で、それまでは現実と思い物事に動くだけである。


「ここは一体何処だ?何もないし、夢の中なのか?」


 白一色で何もない世界、現実とは明らかにかけ離れてた世界は容易に夢だと気づけた。これが夢だとしたら、自分は何をしたらいいのかと水島は考えた。


「お待ちしておりました・・貴方を待っていました」


 どこからともなく声がした、辺りを見回しても誰もない。


「誰だ?何処に居るんだ?」

「私は上に居ます・・上を見上げてください」


 そう言われて上を見れば目を見開いた。そこには白一色の手首まで繋がったロングスカートで前だけは膝くらいまで露出していて、金の紐?のようなベルトで縛られていいる。腕の部分はゆったりとヒラヒラした感じで両手を前で繋いでいる。


 首元には煌びやかに輝いた金の首飾りを身に着けていて、染み一つない白く透き通った肌がそれを強調していた。髪は淡い金髪の腰まで伸びだロングヘアーに青い瞳で顔立ちも整っていて、まるで女神のよううな美しい女性だ。


「貴方は一体誰なんですか?」


 優しい眼差しでこちらを見つめてる女性に見惚れながら、思わず問いかけた。女性は目を閉じ、少しの間を経てゆっくりと目を開けた。


「私はロアナ・・夢の守護者にして、全人類の夢を見守る者です」


 ロアナはそう名乗った。


「夢の守護者?えっと、貴方は神様か何かですか?」


 水島は少し戸惑っていた。


「神ではありません、私はただの夢の住人で貴方達の夢を見守るだけの存在です」


 どうにも理解が出来なかった。此処が夢なのは確かだけど、どうにも目の前の存在が本物に見えてしまい、不思議な感覚だった。


 彼女は全人類の夢を見守っていて、そんな彼女がどうして自分の夢の中にだけに現れたのか、彼女の目的は一体何なのか?聞きたいことがたくさんあるけど、何を話したらいいかわからなかった。


「私が突然現れたことに驚きでしょう・・ですが、私は貴方の強い思いを感じて現れたのです」


 自分の強い思い?自分が何を強く思ったのかは知らない。見当つかない言葉に頭を抱えながら考えた。


「悩んでいますね・・では、ヒントをお伝えしましょう」

「ヒント?」

「貴方は豊かな思考を持っていますね」


 ロアナは微笑みながら言った。その言葉を聞いてすべての疑問が解けた、彼女が言ったのは自分の幻想世界だ。長年描き続けた幻想の物語、確かに強く思っていた事だ。


 しかし、それと今回の件に何の関係があるのか?今の現状は確かに神秘的でファンタジー感があるけど、どことなく違う感じがした。


「ロアナさんは、何がしたいのでしょうか?どうして僕の夢の中に出て来たのですか?」


 彼女の真意が知りたかった。彼の夢に現れた彼女は彼に何をしてくれるのか、その言葉を聞いてロアナは目を閉じて考えた。そして、目を開けると微笑みながら言った。


「あなたの願いを叶えてあげます」


 その言葉を聞いて水島は硬直する。一体何がどうなっているのか、突然の出来事に頭がついていけなかった。


「貴方が望むなら、貴方が描いた幻想の世界を旅してみませんか?」

「・・・・本当にそんなことが出来るんですか?

「出来ますよ?貴方の望むままの世界を叶えてあげます」


 それを聞いた水島は心が躍る気持ちだった。長年望み続けた夢が叶う、水島の瞳は大きく見開き輝いていた。


「えっと・・もう一つ要望があるのですがいいでしょうか?」


 その言葉を聞いたロアナの頭に?が浮かんだ。


「僕を魔法少女にしてほしいんです!」


 自分は何を言ってるんだろう、ファンタジー世界を体験できるだけでもすごいことなのに、図々しいにも程があると思った。


「安心してください・・すべては貴方の描いた世界通りに事が進みますので」


 ロアナは微笑みながら言った。どうやら既にどのような世界か決まっていた、確かに僕が描いた世界の主人公は魔法少女だ。


 しかし、小学生の頃から考えた物語だから全部までは覚えていない。正直、物語は時によっては変わっているので、どこの物語が舞台になってるのか想像がつかなかった。


「えっと、物語はどこの話になるんでしょうか?」

「それを教えることはできません・・お楽しみという事です」


 うん、これは博打になるかもしれないと彼は思った。しかし、物語に悪い所はないから何処に繋がったとしても受け入れることは出来るだろう。


 ロアナは何も言わない、ただ微笑み続けるだけで静かに決断を待っていた。これは千載一遇のチャンス、この場でお願いすれば憧れの舞台に立てる。だけど、いざとなると不安な部分も出てくる。


 自分の創った物語は、楽しく幸せな展開もある。しかし、それと同時に過酷で残酷な結末も待っている。お話という事で簡単に流せているけど、自分が体験したら耐えることが出来るのだろうか。


 途中で朽ち果てるという事もある、乗り越える自信が無ければ願いを叶えることはしない方がいいだろう。今の人生でも十分に幸せを感じているのだから。


「迷っているのですね・・すぐに決断することは難しいでしょう」


 僕の心を見透かすようにロアナは応えた。その表情からは先ほどの微笑みを感じず、真剣な眼差しでこちらを見つめていた。


「もし、僕が願いを叶えなければ・・この機会は二度と来ないのですか?」

「一度離れれば、私は二度と貴方の夢に出てくることはありません」


 すなわち、これが最初で最後のチャンスでもあった。今の人生が楽しかったとしても、この先がどうなるかはわからない。派遣社員と言っても、今の仕事を続けられるかわからない。


 だったら迷うことはないんじゃないだろうか?先が見えない人生より、目の前にある憧れの世界に身を投じても希望はある。


 次第に動悸が激しくなる、握る拳に汗が滲んでいる。行きたい、行きたい!先程までの不安が嘘のように消え去っていて、子供のようにはしゃぐ気持ちだけが強く感じていた。


「あの、僕を・・僕が望む世界に導いてください!」


 いつの間にか、僕はロアナが言う願いを懇願していた。迷いなど一切なく、真剣な眼差してロアナを見つめる。


「ふふ、貴方の願いを叶えて差し上げましょう」


 ロアナは微笑みながら両手を掲げた。その瞬間、水島の足元が突然光だし魔法陣が描かれた。次第に光が強まる魔法陣から、視線をロアナに向ける。


「貴方の願う未来は貴方の思い通りに行くものではありません。創られた物語に沿っていても、貴方の選択次第で物語は変化していきます。」

「その世界は、こちらでいう現実と同じような物なのか?」

「その通りです。貴方は貴方が創り上げた異世界で新たな人生として生きていくのです」


 新たな世界が創られる。それは、僕が今まで妄想の中で創った幻想物語。すべては僕自身の思いで展開が進められてきた。


 しかし、今回の物語は簡単に進められるものではない。もう一つの現実世界、僕は新たな生命として生まれ変わり、第二の人生を歩んでいくのだ。


「僕は、再び貴方と出会うことは出来るのでしょうか?」


 身体が軽くなっていく、意識も段々と遠のいていく。とても心地よい気持ちで僕はロアナに問いかけた。


「貴方が望むのなら・・再び出会える時が来ることでしょう。今は無理だとしても、貴方が成長した姿を再び見ることを楽しみにしてます」


 ロアナはそう言い残し、両手で祈るようにしてゆっくりと目を閉じた。次第に泡のように消えていき、光に包まれるように水島の意識も闇の底に落ちて行った。















 此処は何処だろう?地面が冷たく柔らかい、外に居るのだろうか?風が頬を撫でて、心地よい感じがした。日差しがチラチラと煽っていて、閉じた目蓋が段々と開かれる。


「・・・森の中?自分はいつの間に森林浴をしてたんだ?」


 目の前に映ったのは大きな大木だった。身体をゆっくりと起こし、辺りを見渡す。辺り一帯は木が生い茂っていて、何処かの森のようだった。


 今まで自分はベッドの上で眠っていた。近くにこんな森はなく、公園や広場なんて何処にも見当たらない。これまでに起きた経緯を考えながら目を閉じた。


「僕はベッドで眠り、夢の中でロアナと言う女性に出会った。そして、ロアナは夢を叶えてくれると言って、僕はそれを願った・・・まさか?」


 あの時の出来事を鮮明に覚えていた水島は、此処が僕自身で創った幻想世界のとある場所だと理解した。今までの記憶は引き継いでいる、本当に異世界転生したんだと改めて実感した。


「本当に夢じゃないんだな・・こんなことが本当に起きるなんてな」


 信じ難くもこれが夢じゃないと納得した水島は、片手で顔を覆いながら笑みを浮かべた。それと同時にもう一つの違和感にすぐ気づいた。


「ん?やけに手が柔らかいな・・って!?」


 肌に感じる手の感触が妙に柔らかいことに違和感を覚えながら、自分の体を見渡すと驚愕した。


「女になってる!?てか、髪も銀髪!?そんなことより、素っ裸じゃないか!?」


 両手両足・・髪色に身体の隅々まで調べた水島は、自分が女性になってる事に驚いた。何より、服を一枚も着てない事が一番の驚愕だった。


 年齢も10代後半くらいの感じで、背丈も低めで胸に僅かな膨らみがある。髪は首丈くらいの銀髪で後ろ半分をシニヨンのようにサイドで結んだ感じになっていた。


「瞳の色まではわからないけど・・本当に魔法少女になったのか?」


 顔や身体のあっちこっちを手で触りながら、自分の現状に少し考え込んだ。魔法少女なら魔法が使えるはず、此処がファンタジー世界なら魔物だって何処かに潜んでるはずだ。じっとしていても危険を伴うから、早々に立ち上がり移動を始めた。


 元々男であったために胸などを隠すこともなく、堂々と歩きながら辺りを探索する。森は何処までも続いていて、方向感覚も段々とわからなくなっていく。


「何も手掛かりがないな・・魔物と遭遇する前に人里に出られればいいけど」


 周りを警戒しながら、人里を探す水島。何処までも続く森に段々と気持ちに焦りも出始めてきている。


 今までの幻想だったら人里を見つけてそこから冒険が始まるけど、ロアナが言ってたように思い通りに展開が進むことはない、そもそも装備も何もない状態で放り出されるのも予想外だった。


「これなら、元の世界に居た方がましだったか?今更言っても仕方ないけど・・」


 そう、愚痴をこぼしながら辺りを探索し続けた。歩いてから数時間が経っただろうか、何かを燃やすような匂いを感じた。


「近くで焚火でもしてるのか?とりあえず、行ってみるか」


 水島は煙がする方向にゆっくりと歩み始めた。此処が異世界であることから、何があるかわからないために慎重さが増している。


 目的地に辿り着くとすぐに木の陰に隠れて辺りを見渡した。目の前には焚火が設置されていて、積まれた枝が燃え盛っていた。周りには誰も居ない、主は何処かに行ってるのだろうか。


「見た目は新しい感じだな・・焚火の主が冒険者だったらいいんだけどな」


 誰も居ない焚火を不審に思いながら、遭遇する相手が冒険者や人だったら情報収集や人助けをしてもらえるかもと少し期待も込められていた。


 とりあえず、此処に居ても仕方ないと焚火に近付く水島はしゃがみ込んで両手を火に当てた。焚火の火は暖かく、心が落ち着く感じがした。


「焚火なんて何年もしてないな・・学生時代のキャンプファイヤー以来か?」


 少し昔の記憶を思い出していた水島は、静かに呟いた。目の前の焚火をジッと眺めながら物思いに耽っていた時、後方から微かに声を感じた。


「そこに居るのは誰だ?」


 咄嗟に我に返った水島は後ろを振り向いた。そこに立っていたのは、革製の軽装に身を包んだ一人の男性だった。年齢は20代前半くらいの茶髪で中間背丈の若者だ。


「いえ、私は森の中を彷徨っていて・・焚火の煙に誘われて来ました」

「冒険者か?その割には装備を一切してないとか無防備だな」


 男は目の前の少女を見ると、何も身に着けていない事に苦笑いをしながら言った。まぁ、誰もが思う当然の言葉だろう。


「はは・・まぁ、色々と諸事情がございましてね」


 水島も自分の状態に顔を引き攣らせながら苦笑いをした。


「まぁ、深く突っ込まないようにするが・・その状態だと不便だと思うからこれをあげよう」


 男はそう言うと、バックから半袖の布切れと革製の大きめの腰巻を手渡した。水島はお礼を言うとそれを受け取り、その場で着込んだ。腰巻が大きめなこともあって、スカートのような感じになっていた。


「どうして見ず知らずの人にここまでするのですか?」

「まぁ、目の前の少女をそのままにしておけないだろ?善意と言うやつかな」


 水島の疑問に男は笑いながら応えた。最初は警戒してたけど、この人は優しい人なんだと感じた水島は、絶望の状態で奇跡が起きたと安堵していた。


「ちなみに・・君は冒険者なのか?」


 焚火に当たりながら、男は問いかけた。


「えっと、そうですね・・信じられないと思いますが、突然この地に飛ばされたんです」


 水島は真相をはぐらかす感じで応えた。自分が居た世界から、夢の中で出会ったロアナと言う願いを叶える女性に自分が創った、幻想物語の世界へ転生させてもらったなんて信じてもらえるわけがない。


「なるほど・・転移系の魔法を使う相手に飛ばされたという事かな?」

「そうなりますね・・装備もすべて剝がされるのは予想外でした」

「それは災難だったね・・この森も安全ではないから今の状況が不幸中の幸いかな」


 まさに男の言う通りだ。此処に辿り着く前に魔物と遭遇してたら命はなかった、男の発した言葉に理解した水島は小さく身震いした。


「そういえば・・ここは何処になるのでしょうか?」

「ん?此処はエレンの森と言う場所だ」


 エレンの森・・僕は知っている。


「ここはフリーデル公国領ですか?」

「そうだけど・・君は何処から飛ばされてきたのかな?」


 この世界は、僕が居た世界の大陸と同じ構造をしている。こっちの世界で言う、北アメリカ、南アメリカ、ユーラシア、オーストラリア、南極、北極と一つの地球となっている。


 フリーデル公国領はユーラシア大陸の南に位置していて、こちらで言う中国と同じ領土である。フランの森はそこから、南西にある現代で言う雲南省と言う場所の広大な森だ。


「まぁ、この森に潜む魔物はそこまで強敵じゃないから・・人里まで送ろうか?」


 難しい表情で考え込んでいた水島を見てた男は、何か事情でもあるのかと察して森の出口まで送り届けると行ってくれた。


「良いのですか?そうして頂けると助かりますが・・・」


 水島は、その言葉を聞いて明るくなった。服までもらい、人のいる場所まで案内してくれるなんて何処まで親切なんだろうと思った。


「まぁ、僕もあらかたの探索を終えて帰る所だったしね」


 男はにこやかに微笑んだ。この人は此処で何をしてたんだろう?少し疑問に思ったけど、冒険者何だからあまり気にしないことにした。


「そうだ、自己紹介がまだだったね。僕はギル・・剣士をしている」


 ギルはそう言うと、左腰に備え付けてる長剣を手に添えて挨拶した。


「えっと、私は・・・」


 水島は困った、自分が女である事と今の名前とこの体では不似合いという事が、此処は僕の居た世界と違うんだから、名前も変えないといけないことに。


 自分で創った幻想物語、今の少女がどういった名前だったかを思い出す。そして、ギルの方を見て真っすぐな瞳で名乗った。


「私の名前は・・リナです」


 水島は、自分をリナと名乗りお辞儀した。挨拶を交わし合った二人は、互いを見て微笑んだ。


 ギルが焚火の火を消化すると、二人はその場所を後にした。この森は半径20kmある広大な森なので、地形を知らない者が入れば迷ってしまう。ギルを先頭にリナは、その後ろをついていく感じになっていた。

 

「焚火の場所から人里は、どれくらいあるのでしょうか?」

「あそこは森の出口から近場だったからね、2,3キロくらいかな」


 リナの質問にギルは簡潔に答えた。ギルは森を探索してる中、大まかな作業を終えて出口に向かう途中で休憩していたのだった。焚火を離れてたのは、周りに敵影がないか確認していたみたいだ。

 

「焚火に戻った時に全裸の君が居た事には驚いたけどね」


 ギルはそう言いながら静かに笑った。リナも自分の状況があまりにもお粗末だったことに少し顔を赤らめた。


「ギルさんは、女性の裸を見ても動じてませんでしたね」


 からかってくるギルに対して、リナはマウント取られまいと相手が男で自分が女だという事から、劣情を誘って言い返した。


「気に障ったなら謝るよ・・ちなみに僕は妻子持ちだからね、君くらいの娘も居るんだよ」


 実年齢では相手の方が年下なのに、気を遣われた事と家庭持ちと言う所で敗北を知った。ギルは振り返ると眉を八の字にして微笑んだ。


 リナも気にしないでくださいと言った感じで、両手を胸元で小さく振りながら苦笑いした。結婚なんて興味なく、独身人生を貫く自分にとってはギルが羨ましく思えた。


「そういえば、リナさんは何の職業なのかな?」


 少し気まずい空気になっていた所で、ギルは雰囲気を変えようと話題を振った。


「私ですか・・?えっと、魔法使いをしてます」


 物語の設定では、リナの職業は魔法使いと設定していた。正確には後の魔法剣士と言う感じになるけど、それも自力で頑張らないといけないなと頭の中で思った。


「へぇ、魔法使いが一人旅なんてすごいんだね」


 魔法使いは後衛職でもあり、一人より誰かと共に旅するのが普通である。一人という事は前衛後衛も両立出来るから、大抵の人からはそれだけの実力があると思われている。


 しかし、当の方人は魔本なんて幻想の中だけで実際に使ったこともないから、本当に使えるのだろうかと冷や汗をかいていた。


「まぁ、お互い冒険者だし。何かあった時は助け合いと思って、後衛を任せてもいいかな?」

「え?ええ!?」


 リナは驚愕した。いや、状況的にもギルの言ってることは当たり前だけど・・今のリナにとっては、使えるかもわからない魔法に頼られても困った。


「え?魔法は使えるんだよね?」


 ギルは少し戸惑った感じで問いかけた。魔法使いと名乗っておいて、魔法が使えないとかありえない感じだった。


「えっと・・此処に飛ばされる時に・・・何か術のようなものにかかってしまって、魔法が・・使えないかも?と・・・」


 リナはおどおどしながら苦し紛れに言った。ここまで来といてやっぱり魔法が使えませんなんて言えなかった。


「それはディスペル・マジックを受けたってことかな?それは厄介な・・」


 ディスペル・マジックとは、簡単に言えば魔法を打ち消す魔術で魔法使いが習得する上で魔法使いにとっては厄介な術である。魔法が使えなくなるだけでなく、一定時間は魔力も戻らない。


「いやぁ・・本当に厄介な魔法でしたね・・・あはは」


 同情と心配の目を向けてくれるギルに対して、リナはまともな言葉が出ずに苦笑いするしかなかった。


「まぁ、一定時間もすれば元通りになると思うし・・それまでは僕が守ってあげるから安心してね」


 ギルは事の事情を何も知らない、そんなギルに対して申し訳ない気持ちでいっぱいなリナは、深々と頭を下げた。ギルもリナの頭に手を置きながら微笑んだ。


 二人は辺りを警戒しつつ、出口までの道のりを歩いているとギルの足が先に止まった。リナもそれに続いて止まるとギルに視線を向けた。


「厄介だな・・リナさん、気をつけて!」


 ギルは苦虫を嚙み潰したような表情をして、リナに注意を促した。リナもそんなギルから視線を前方に向けると息を呑んだ。


 前方に狼が6頭、群れを成してこちらを睨んでいた。今にも跳びつかんとばかりに牙をむき出しにしている。


「こんなのって・・大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫、リナさんは僕が守るから」


 ギルはそう言って剣を抜いた。この森を探索できるギルなら、この程度問題ないと思うけど、何もできない自分を守りながら戦う事が出来るのだろうか。


 私だって魔法使いなんだから魔法が使えるはず、物語中の私は序盤でもある程度の攻撃魔法を持っていた。だけど、此処は物語の世界じゃない・・現実世界と変わらない異世界なんだ。


 いつの間にか両足が震えている、握る手からも汗が滲んでいて目の前の魔物に恐怖してるんだ。互いに硬直状態の中、先にしびれを切らした狼が一斉に跳びかかってきた。今、生死を分けた戦いが始まる。

小説は何年も前に一度書いたけど、何だかこうじゃないと思って投げてしまった・・

自分が長年考えて来た幻想物語、どういった物語を描いたかを小説にしてみようと思った><


面白いかどうかはわからないけど、自分がやりたいと思う気持ちで執筆していきます!

この先どうなるかわkらないけど・・よろしくお願いします。

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