01 求入検証
私の目の前には、ちょっと頭が逝ってる部類のがおり、そいつは我が家に帰ってくるなりとあるゲームのパッケージ片手にアホなことを言い出す。
「ちょっと検証班に入って?」
「は?」
「いやね、フレーム単位の計測が面倒だから。それに、クエストの発生条件の調査とかがいるとやりやすいから」
「つまり私をストップウォッチ代わりにしたいと? まあ、良いけど、後衛職しかやら無いからね」
「良いよ良いよ!」
誰がカウンターだっての。1/60秒は練習すれば誰でも読めるだろうにね。
「ゲームのレベルシステムは?」
「ジョブレベル制。ざっくりwiki用分類だと戦闘職魔法職生産職探索職その他。因みに補助だからジョブなしでもリアルチートは大騒ぎだよ。レベルは無制限だけど、条件達成し無い限り突破できない壁があるね。5、10、50、100、500までは分かってるよ」
「スキル周りは?」
「ジョブで習得とクエスト称号条件達成。メインジョブ+サブジョブ×2でそれぞれのジョブスキルを運用できる。それとは別に10個までジョブスキルじゃないスキルをセットできる感じ。ジョブとは別にスキル習熟度が設置されてるね。スキル習熟度でアーツを覚えるよ、氷魔法でアイスボールからブリザードとか」
「メインサブジョブの関係は? あと控えとかある?」
「控えはアリ。メインスキルは全部使用可能。サブジョブのだと、サブジョブレベル依存の上限までしかスキルをセットでき無い。その構成が趣味だね」
「ステは?」
「上昇はジョブと装備。勿論だけど極振りはオススメしないつうかできない、まあ検証班にDEX特化とかいう際物居るけどね、PSで足りない分カバーできない限りは愚か者だし、PSでカバーしても、振る意味ねーってことも良くあるよ。ってかそれくらいwiki見ろwiki。盛大に解説してんじゃボケ」
いきなり口が悪くなる。情緒不安定なのはいまに始まったことじゃねえし気にしないが。
「あと、全くスキルとかジョブとか関係せず、ただひたすらの技術な分野に魔術があるね。誰でも練習すれば術式組んで撃てるから、面白いよ。サーバー問題で魔術用に鯖もう一個立てたしね」
ということで、一頻り魔術に関する講義を受けたあと、wikiのデータを漁ってシステムに関する情報収集を行う。私が理論派脳筋とか和マンチとか言われる要因だが気にしない。
◇
オープニングが流れる。星に見せかけられた術式が怪しく煌めき、天が崩れ落ちると共に『デイブレイク・オンライン』というタイトルロゴが出現、VR端末の個人設定で使った部屋によく似た部屋へ飛ばされる。鬱陶しい音声ガイドはぶっちぎってキャラメイクを行う。
まず名前の設定。キーボードが出て来たので、カーリー・カウント・クロウリーと打ち込む。続いてアバターの容姿の設定。先にVR端末の3Dモデル作成アプリを弄り回して作ってあったデータをそのままインする。同時に種族の設定。
上手いこと狐耳の似合う少女が出来上がったので次へと進む。
ステータス決定。敏捷器用筋力頑強生命精神を決めていく。ステータスは種族ごとに振れ幅が決まっており、ランダムに発生させた3パターンからどれか一つのステータスセットを採用する、TRPGあるあるなシステム。つーことでMP基準である精神がトップ、敏捷器用が第二位に来る奴を選択、決定する。
そしてジョブ選択、メイン1つとサブ2つを選ばされる。こちとら魔法特化型組むのは当たり前だし、事前準備がもの言う【符術士】をメインに、サブに【錬金術師】と【斥候】。成長補正は精神器用敏捷に偏った構成。
そこまで構成し終わり、次へ進めると、切ったはずの音声ガイダンスにこう言われる。
「貴方の行末に幸あらん事を。マナ満ちたる平凡な世界へ」
◇
私を包んでいた光が開けると、噴水のある広場に立っていた。メニューリングを開いてみれば、現在位置:ファレルの街 中央広場とあった。ご丁寧に綴りまで書いてあり、Farrellと書いてあった。
誠にありがたいことに、このゲームには情報を秘匿したがる奴が殆どいない。お陰で、ファレルで習得できるスキルはリストが作成されている。その中から、街の中で取得できるのは片っ端から取っていく。ぶっちゃけ控えに置くぶんにはタダだしね。
初期資金で符を買い込み、教練場へ向かう。魔術に関するレクチャーを受けたあと、初期で覚える魔法を調整する。面白いことに、このゲームは魔法の調整を、街の外に全く出なかった状態でも、手順を踏めば出来るようになっている。
ということで、火力高めのやつは火力全部振り。速度が速い奴は長距離高速型に。
「おー早速」
「どなたですかね」
「ユーリだけども、カウンターで良いので?」
「カーリーと名乗るよ、フレ登録はこれで良いの?」
我らが変人と合流できたのでフレ登録をする。
「現状の構成は符術錬金斥候。MP偏重、ついでに回避用のAGIと投擲用DEXで構成予定」
「相変わらず異常な構成……でもないか。魔法+補助投擲は平凡な構成か。でその手は何?」
「金寄越せという手。私には普通に進行させるつもりないでしょう」
ジト目が飛んでくるが。直球なツッコミとして、まともな頭をした奴は初心者を検証沼に引き摺り込んだりはしない。
取り敢えず、符とMP回復薬を購入する。その間も暴走しないように気をつけながら魔力を弄り続ける。
「準備できたー?」
「まあ、準備できたけど……。魔術もなんとなしに慣れてきたしね」
「じゃ、早速行ってみようか!」
私の手足に鎖が伸びてきて拘束、からの魔法陣展開、どっかにワープさせられる。鎖が発生し始めてから拘束しきるまでが1/15秒、そっから転移が2秒じゃ対応し切れるわけもなく、余裕で吹っ飛ばされた。
◇
目を開けてみると、火山の火口のような環境にいた。振り返り様に録画、ついでに配信を起動しつつ、メニューリングを起動する。
マップを期待してみるが、全くの現在位置不詳。そして私の前には、竜……赤い岩石を思わせる龍鱗を持った三頭竜がいた。名前は『獄炎龍 インフェルノドラゴン』とかいうベタな代物。ぶっちゃけどうしようもないので、やれるとこまでやるつもりで戦闘を開始する。