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走れメロス RTA カテゴリ:any%

作者: 砂漠の使徒

走れメロスの原本と見比べながら読むと、楽しさ二倍!

 メロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには、政治がわからぬ。メロスは、ただの引きこもりである。パソコンを開き、部屋から出ることなく暮らしてきた。けれども、RTAに対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のシラクスの市に新作ゲームを買いにやって来た。


(中略)     (走れメロスを知らない人向け流れの解説:なんやかんやあって、メロスは王に処刑されることになっちゃったよ☆)


「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。あるゲームの世界記録を出したいのです。三日のうちに、私は世界記録を更新してみます。」


(中略)     (走れメロスを知らない人向け流れの解説:王「まじで?」)


「そうです。世界記録を出すのです。」メロスは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスというゲーマーがいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が記録更新できず、三日目の日暮まで、エンディングを見ることができなかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」


(中略)     (走れメロスを知らない人向け流れの解説:王「どうせ帰ってこないんやろな~。まあ、人殺せるし、いっか。」)


「はは。いのちが大事だったら、おくれて走れ。おまえの心は、わかっているぞ。」


(中略)     (走れメロスを知らない人向け流れの解説:セリヌンティウスが縛られたよ☆)


 王は広間にゲーム機やその他周辺機器を用意し始めた。ここで、王の眼前で走るのだ。

「さあ、走るがいい。」

「はい、スタート画面でAボタンを押したら計測開始です。」

 メロスは記録係の兵士にそう伝えた。

「では、3、2、1、スタート!」

「おおおおおおおおお!!」

 いつのまにか、広間は大ぜいの兵士や市民でいっぱいになっていた。ものすごい歓声が聞こえている。

 王が巨大モニターをセットして、多くの市民に私のプレイを見せているからだ。

 どうやら王は私が友人を自分の命のために殺すところを多くの市民に見せたいようだ。

 しかし、今までの王の残虐な政治により行われた処刑とは違い、今回はひっそりと静まり返っていた町や市民の暗い顔が明るくなっている。

 ゲームってのは、やる側も見る側も楽しいからね。

 そうこうしているとロード画面が終わり、ゲームが始まった。

 季節は初夏、外は満点の星である。


(中略)


 メロスはその夜、一睡もせずゲームの中盤までを急ぎに急いで走った。中盤の中ボスを倒したのは、あくる日の午前、陽は既に高く昇って、観戦していた人たちは仕事に行き始めた。

「メロス、あの裏技は使うのか?」

 セリヌンティウスが尋ねた。

「ああ、あす、最後の中ボス戦で使う。記録は早い方がよかろう。」

 セリヌンティウスは驚愕の表情を浮かべた。

「驚いたか?さあ、これからアイテムショップに行って、準備をしよう。あの技を明日使うからな。」

「あの技とはなんだ?」

 王が尋ねた。王はゲーマーではないのだ。

「それは見てのお楽しみですよ。」

 縛られた解説役ののセリヌンティウスがそう答えた。


(中略)


 メロスがミスを犯したのは、あくる日の薄明の頃である。タイムに余裕があったメロスは油断してしまったのだ。南無三、ミスったか、いや、まだまだ大丈夫、これからあの裏技を使えば、約束の刻限までには十分間に合う。そう考えながら、走り続けた。


(中略)


メロスがゲームの終盤に到達した頃、やっと出てきた、メロスのプレイは、はたと、止まった。見よ、前方の中ボスを。昨日のショップで買った物を使うときが来た。メロスがこのゲームを走るのは今回が初めてではない。今まで何度も走ってきた。しかし、メロスは緊張のあまり、男泣きに泣きながら哀願した。

「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う私の心を!タイムは刻々と過ぎています。このままでは、記録更新できません。我が友人が殺されないために、この技を成功させてください。」

 中ボスはメロスの叫びをせせら笑いながら、聞いているようだ。メロスは準備を整える。そうして、時は、刻一刻と過ぎていく。今はメロスも覚悟した。裏技を成功させるより他はない。メロスは、中ボスに戦闘を挑み、必死の戦闘を開始した。乱数によって引き起こされる現象を、なんのこれしきと処理していき、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに裏技が成功した。これで、多少のショートカットになり、記録更新も夢ではない。ほっとした時、突然、目の前に一体のドラゴンが躍り出た。

「あれは。まさか。」

「なんだ?」

「超低確率でエンカウントするデスドラゴンじゃないか。奴は異常に強い上に、逃げることができない仕様になっている。」

「しかし、覚悟を決めたメロスの敵ではないだろう。」

 ドラゴンは、ものも言わず炎を吹きかけた。メロスはそれを回避し、持ち前の剣でクリティカルを叩き込んだ。

「こんないいタイムのときに限って、でてくるなよ…。」

 メロスはそう呟いて、先を急ぐ。

 

 メロスは徹夜でゲームをしていたので、疲労困憊であった。メロスはつまらないミスをして、ラスボス手前まで行ったにも関わらず、再び初めからラストダンジョンを攻略せねばならなくなった。あとはこのラストダンジョンを抜け、ラスボスを倒すのみだというのに。メロスはぶっちゃけもう無理じゃね?と思った。ああ、もう、どうでもいい。セリヌンティウスよ、ゆるしてくれ。

 そんなメロスの心を察してか、セリヌンティウスが声をかける。

「なに萎えてんねん。こちとら、お前のせいで処刑されるんやぞ、ボケ!」

 メロスはこの一言で気づいた。

 私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ! メロス。


(中略)


ラスボスに挑む準備を整えていると、フィロストラトスというセリヌンティウスの後輩ゲーマーが言った。

「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」

 確かにタイムはかなりギリギリだ。

「いや、まだ更新はできる。」

「ちょうど今、世界記録より若干遅いのでございます。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」

「いや、まだ更新はできる。」

「もう更新の余地はわずかしかございません。あの方は更新の可能性はわずかだとおっしゃっています。」

「それだから、走るのだ。更新の余地があるから走るのだ。更新できる、できないの可能性は問題ではないのだ。モニターを見ろ!フィロストラトス。」

「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」

 言うには及ぶ。もうラスボスだ。最後の死力を尽くして、メロスは走った。

「ここで、クリティカルが出れば!」

 メロスは叫んだ。今こそ日頃の行いの良さを出す時である。

 メロスが攻撃するとラスボスはたおれ、エンディングが流れ始めた。

「タイマーストップだ!」

 メロスは精いっぱい叫んだ。

 兵士がタイマーを止めて、時間を確認する。

「せ、世界記録更新です!」

「わあああああああああ!」

 大きな歓声があがった。みんなこの瞬間を待ちわびていたのだ。

 縄をほどかれたセリヌンティウスはメロスに近寄りこう言った。

「まさか、本当に記録更新するとはね。途中で、君があきらめかけたときはまじで殺意が芽生えたよ。」

「あたりまえだろう、俺を誰だと思っている。」

 メロスのこの発言にセリヌンティウスは怒りを隠せず、メロスをぶん殴った。

 二人の間で喧嘩が始まってしまった。

 そんな二人に王様は

「おまえらは、わしの心に勝ったのだ。RTAとはこんなに奥深いものなのだな。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」

 どっと群衆の間に、歓声が起った。

「万歳、王様万歳。」

 メロスは王様にこう言う。

 ひとりの少女がメロスの近くのパソコンを指さした。メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。

 「メロス、君は世界記録をとったじゃないか。早く更新記録を報告するがいい。」

 勇者は、すぐにタイムを打ち込んだ。

どうか天国の太宰治に怒られませんように。

おもしろかったら、感想、評価よろしくお願いします。

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