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僕は最後の記憶  作者: Shiro
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第1章 最後の人間

ー貴方は最後の記憶ー


おかしな夢


なんだ?夢?


そんな独り言を呟きながら、目を覚ました。ベッドから起き上がろうとした。違和感。妙に辺りが暗い。


あれ?変な時間に起きたのか?


しかし、目を開けているか分からない位に辺りが暗い。


まだ夢?僕は寝てる?

天気予報、朝は雨ではなかったし、センター

のエラーか…?なら、珍しいな…


ぶつぶつ独り言。

ふと、僕は自分の手を見ようと思った。さっきの違和感。手をかざした。そこにある手がある感覚がない。ベッドを触ってみた。ベッドに触れた感覚がない。そもそも自分身体に感覚がない、違う、身体がない?何かが変。


僕の脳はエラー?


冷静な、もう1人の僕が言う


センターで毎年身体と脳のメンテナンスし

てるじゃないか


そうだ、僕たちは、必ず1年に1度、メンテナンスをするじゃないか‼️

何かが違って怖さを覚えつつ、気持ちを奮い起こす。


天気のシステムエラーだ


なるべく気楽にしてみた。しかし、気になる。吸い込まれそうな、自分が溶け込みそうな暗さで、気が滅入る。

暫くすると目が慣れたのか闇の中にぼんやりと人の気配を感じた。目を凝らす。が、見えない。

すると暗闇から女性の声がした。


ー驚かせてしまい、申し訳ありません。

脳が覚醒致しましたので、先ほどの続きを

話しに参りました。


リラックスして、貴方が生活していた時を

イメージしてください。身体の不安定が落

ち着きます。光も見えます。


知らない人が家にいる?


僕は動揺して、相手の言葉が脳に届かない。諦めてそのまま気配のする方を見ながら、


ーすいません。あの、どちら様ですか?

目が見えないというか、感覚がないという

か…僕は自宅のベッドに寝ていたはずなの

ですが…

もしかしたら寝ている間に脳か身体にエ

ラーが出たのですか?

センターに運ばれたとか?

ならば、ご迷惑おかけしまして、

すいません…


ーいいえ。

大丈夫ですよ、センターではありません

し、迷惑もかかってませんよ。

貴方は些か落ち着かないかもしれません

が、どうぞ、そのまま、お話聞いてくださ

いね…


僕の家族の気配がない。それは大事な事実なはずなのに、フワフワと忘れていく。僕は、とてもあやふやなんだなと思った。そして、口に出た言葉は


ーマザー?ですか、もしかして…


ーはい、そう、そうです

驚かせてばかりで、ごめんなさいね


僕は状況も把握できず、しかし、声の主が本物のマザーなら、僕に何かが起きたはず。


マザーは特別な人。全ての人間から尊敬されている。でも僕たちみたいな一般人と接することは滅多にない。一般人の僕の家を訪ねるとは考えられない。僕の家に来たからには何かあるんだろう。


そして、マザーは話を始めた。


…マザーの話はびっくりなもので、僕の置かれた立場に驚いた。同時に妙に納得もした。マザーの言葉は、僕の脳の中で弾かれ、迷走し、少しずつ浸透して、徐々に馴染んでいった。

いつの間にかマザーの気配が消えていた。僕はまた1人になった。さっきより暗さがいっそう濃くなるのを感じながら、でも、暗闇の意味は分かった。そして、少し考えた。

僕は僕の記憶を暗闇に向かって話すことにした。自分を納得させるために。


そうか、僕は僕の記憶を次に残す必要がないんだ。



僕の古い記憶たち


リミットの外れた脳は鮮明に溢れる記憶をまるで今日の出来事のように流れでてきた。まるで僕がいないように、僕を通り越してく。後ろの方から一瞬でいて、しっかりと、しかし一気に僕を突き抜けて、先の暗闇に消えていく。


走馬灯だよ


と誰かが耳打ちしていく。走馬灯?確認する時間もなく、記憶たちは次々と溢れ、次々と流れていく。そして一寸先の闇に消えていく。


脳の解放とは凄いものだ。


僕の脳の中には一体、どれだけの記憶がいたんだろう。

暫く、この鮮やかな夢のような記憶を楽しむことにした。

実にカラフル。実に艶やか。香りや感触。見たこともない食べ物。何より素晴らしい地球を見た。地球は、あんなに青くて綺麗だったのか。緑豊かで、海は青くて、空も青く、生き物も自然もたくさんあるじゃないか。皆自由に生きている。子供をたくさん産んだんだな。車?船?飛行機‼️

僕の知ってる地球とは大違いだ。なんて、素晴らしいんだ。心がワクワクとした。

家族や友人に話したら、さぞ盛り上がっただろう。


僕の家族?友人?


より記憶がフワフワゆらゆらと、僕のそれの輪郭を曖昧にしていく。


そして、ゆっくりと重たい記憶が甦る。

戦いや裏切りの辛い悲しい感覚。しかし、強い怒りはない。

大事な人を屋敷ごと焼かれた頂点の人の記憶。胸が張り裂けそうに、いつまでも、いつまでも、心に澱となり、今際の際の際まで思い、次の魂までずっと持ち続けたようだ。

孤高の頂点の姉の死を隠すために、身代わりに女のフリをして、国を維持した青年。彼は自分の存在を抹消されたんだ。

強烈な血の香り、血の味、焼けるような痛み、血の温度と感触。夫と心中?貴女は夫に撃たれたのか?何故だ?


ふふ…愛よ


え?夫から撃たれて、死ぬのがか?


記憶の婦人は僕の横を血の香りをまといながら、にこやかに、軽やかに、ほんのりお白粉の匂いを漂わせながら、闇に消えていった。あの香り、お白粉っていうんだ。


そうか、豊かさは争いなんだな。


そうだよ、戦いだよ


また誰かが耳打ちして流れていく。

洪水のような記憶を見ながら、気が付いた。

色々な時代の、頂点に立った者、頂点の妻であった者、頂点の側室で男子を産んだ者、頂点最期の娘もいた。その時代ならかなり強運幸運?な者たち。そんな者たちが僕の記憶には居た。着ている衣装は、時代が違えど、どの服も特別な素晴らしいものと分かる。着心地は良さそうだが重たそうだ。キラキラした飾りものも。それらの者には必ず血の匂いがした。僕の横をすり抜けて行くたび、強く強く香る。


あぁ、マザーが言っていたことだ。


僕の記憶たちは頂点や頂点に近い者がたくさんいると。


ー平和な時代が珍しくて、何回も何回も再生するの。

大切な人を探していたりね。


なるほど、そうみたいだな。


軽やかに過ぎていく何人もの人たちは、僕と変わらない人生のようだ。僕の知る記憶だ。仕事したり、勉強したり、ケンカしたり、結婚したり、出産をしたり、恋愛したり、農作業もあるな。楽しそうで、苦しそうで、のびのびで、ルールがあった。

何より、他人と一緒に住めたんだ。他人と一緒に仕事していたんだ。

今と違って、人に触れるんだよ。羨ましいな。

今は子供作るのもバーチャルだ。そうか。実際に相手に触れて、…できたのか。そうか。


これは、本当に古い古い記憶たち。


たくさんの記憶たちを闇に送った。


さて、僕はまだ存在した。

マザーの話を思い出す。


ー地球は太陽に飲み込まれて消えました。

実体は、先に『無』になりました。

貴方たち、人間はシステムに守られ、『無』になったこと

に気が付かなかったのです。

そして、貴方たち、記憶の時代になりました。


長くかかりましたが、記憶もまた有限です。


人は、地球である私の対を、ずいぶんと雑に扱いました。

それでも、私達は人をかわいいと思います。


私も、準備しなくてはね


マザーは1人になるんだろうか。マザーもまた消えるのだろうか。ぼんやりとしてくる頭で、もう一度暗闇を見てみた。そこにはマザーの気配は、やっぱりなかった。暗闇に送った記憶分、脳が軽くなっていた。




彼の時代の話。


人類滅亡の危機に、1人の天才(複数人いたとも聞く)が人類の脳を100%解析解明した。彼は劣悪になっていく地球でも人間が生活出来るように完璧なシステムを作りあげた。人間はだいぶ減ったが生き延びた。自然は半分ほど消滅。気候が荒れっぱしになった。



彼の次の世代


脳の管理は完成していたが、人間はまだ不安定だった。システムは完璧だが少ない地上の有益なものを求め、相変わらず、争い、汚れたもの、病気、たくさんの負を積み重ねた。更に人間は減った。自然は更に消滅、高い山々が崩れ落ち、あちこち、マグマが吹き出してくる。逆に氷の世界になった地域も。地上は混沌とした。


そこに太陽の寿命が近づき、その影響で地球の弱体化、宇宙ゴミの雨が容赦なく地上に降り、磁場狂い、ますます地球は荒れた。地上は極寒と灼熱の二分化し、海水は蒸発、海水が残った地域は荒れ狂った。


一番酷い時代かもしれない。

そして、この時代のどこかで地球は消えたんだ。


それでも、人間は気がつかなかった。エリアを完璧なシステムが守った。守ってしまった。脳をコントロールしているので、不安や恐怖を持たなかった。例え、エリアがマグマだまりの横にあっても。


僕は、彼や彼の次の時代の記憶がない。



やっと僕の時代


僕は小さな島のエリアに住んでいた。海がある地域だ。

仕事は第一分野は農家で第二分野は銀行員。

午前中は農業をして、午後は銀行員。第二分野はバーチャルで仕事をする。自宅から移動しない。農業はちゃんと体を使う。(今考えてたら、それもバーチャルだったんだな)僕の作る米と麦は中々の評判だったんだ。

必要な買い物はシステムで全て完了する。

病気は脳とDNA管理で基本的にない、怪我だけは管理出来ないから、簡単なものはシステムでバーチャル治療、重たい怪我はセンター管理なので赴く。お産もセンター。

イレギュラーは基本ない。本当にほぼエラーのない生活、完璧な日常。バーチャルでの生活は単調だ。

だから、あえて怪我はコントロールに追加されなかった。痛みは生きてく上で必要な感覚らしく、出産も選択肢があった。


結婚はもちろんしたい人はする。嗜好も把握されているから、性別は気にする必要がなく、恋愛も結婚も自由。自由だが、僕たちは寿命が長くない、必然的に結婚や妊娠出産は早くなった。もちろん独りでいることも問題ない。同性同士も大丈夫だ。


子供を作る行為はバーチャル。妊娠は直接ではなく、センターで卵子と精子をチェックしてから母体に戻して妊娠。先の時代で異常遺伝子が多いから、卵子精子の状態確認は常識。エリアの大きさで人間が生きていける数に限界があるので出産管理はあった。

同じエリア内なら一緒に住める。他のエリア同士だと結婚生活もバーチャルになる。

子育ては、一緒に住んでも、バーチャルでも問題なし。例えば、ミルクを作って、他のエリアに住むパートナーに渡すことや、赤ちゃんを風呂に入れたり、あやしたり、おしめも替えれる。システムがあれば出来た。出産をするのは女性で、母体に赤ちゃんかいるから、負担は女性に重くなるんだが、命と生活は補償されているので安心して妊娠出産ができた。


僕も子供たちのおしめ替えたんだ。子育て、楽しかった。夜泣きの時は、…奥さん大変だったな。


…顔、思い出せないよ…


大切な僕の家族の記憶がふわふわと暗闇に溶け始めた事を理解した。


バーチャルの理屈は全く分からない。しかし、普通に生活できた。特に、僕はたまたま同じエリアだったので一緒に住むことができた。


全エリアに行くこともできた。実際には無理だが、友達の家に遊びに行ったし、お泊まりもした、、本当に理屈は分からないけど。


さっきから、記憶がバラバラになってきている。

僕たちの生活は本当にきちんと管理されていた。


いくつものエリアがあって、センターという管理専門の場所があって、僕たちは生まれたら、そこで脳と身体の全身検査を受ける。脳とDNAを解析分析し、病気や脳に問題のある性格かなど個々の脳を確認する。それから個人に合わせてリミットをカスタマイズし、調整をかける。


問題がない場合、両親と半年ほどセンター内で生活をして自宅に戻る。両親が本物だったのか、もう記憶があやふやで、そういえば、両親はいつの間にか居なかったな。


天気はコントロールされていて、アナウンスされてくるので、スケジュールは安定。


大人は1人で2つの仕事を持った。第一分野と第二分野。第一分野の仕事は世襲した。その方が効率的だから。第二分野は自由。自分にあったものを選んだ。


第一分野は生きていくのに必要なもの。

第二分野は生活を豊かにするもの。


人間が少ないから、午前中は第一分野の仕事をした。作ったものはもちろん自分たちのエリアで消費するが、全エリアに平等に分配した。僕の住むエリアは農作業に向いていて、全世界の主食を作っていたと自慢できる。

午後からは第二分野の仕事。僕は銀行で働いた。



全エリアの人間は大切な友人で家族だ。

小さい時から、各エリアの同じ年の人と、同じバーチャルの学校に通うんだ。言葉は自分の言葉でよくて、脳が勝手に翻訳してくれるから他のエリアの言葉でも困らない。遊びや運動もバーチャルで普通に出来た。午前中は親の仕事を覚えるために子供も一緒に働く。


地域性はあるんだ。民族というのかな。

時差はなく、エリアは全て同じ時間。


学校はバーチャル。古い時代とさほど変わらない。昼御飯を親と食べてから、午後バーチャルの教室で授業をうけた。楽しかった。うん、楽しかった。


僕の前の時代は、問題ある人間を排除していた。

人間は、どうしたって、そういう人は必ず存在するんだ。

僕たちの代は排除ではなく、脳のコントロールで、共存をした。人間の数が限られてきたし、寿命も短くなっていった。


それが、僕たちの時代。


ぼちぼち時間だ。

まだ、何か話したい気もするが、いよいよ、話をしていると、僕の記憶はふわふわしながら、輪郭を失っていくんだ。

僕は普通に生きた。幸せだった。実体がなくて、記憶そのもの

でも、でも、僕は生きてたんだ、存在したんだ。


もう、地球も太陽もない。

次につなぐ記憶は必要ない。


僕みたいな普通の人間が死を知らないまま最後を迎えたなら、人間は最後まで幸せでいれたんじゃないかって思うんだ。


僕の記憶は、ひとつ、ひとつ、闇に吸い込まれていく。


僕が最後だった訳。一瞬だけ地球が消える瞬間の一瞬だけ、皆より僕の中の記憶が多くて、一瞬だけ、周りより覚醒したままだったこと。たまたま、だ。


マザーは、対のところに戻れたかな。


僕はシステムを作った天才の人に感謝してる。

僕たちは怖くなかった。劣悪な地上で、太陽に飲み込まれて、一瞬で死ぬにしても、人間が地球最後の時まで存在出来た。怖い思いをすることもなく、日常のままいれたんだ。記憶だけの存在でも、ちゃんと最後まで生きたよ!ありがとう!


さぁ、さようなら、僕。

僕は『無』になるよ。

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