真夏の夜の夢
登場人物
A
B
C
A、庭で電話している。
音=蝉の声
A「もしもし、あれ、お姉ちゃん?久しぶり。珍しいね、お姉ちゃんが電話かけてくるなんて。ばーちゃんとか元気?あーよかった。ばーちゃんと最後に会ったのってたぶん去年だよね。あれ、もっと前だっけ?たしかさ、私の使いかけのノートを捨てようとしたら怒られて、まだ使えるんだから古いものでも大事にしないとだめってさんざん言われて、いらっとしたから思わずばーちゃんのことは大事にしてるじゃんって言ったら大喧嘩になっちゃったんだよね。なんであんなこと言っちゃったんだろー。ちょっと何笑ってんのさー。ばーちゃんまだ怒ってる?ならよかった。で、何の用?え、今日?何で今日帰らなきゃいけないの?いきなりすぎるじゃん。今日とか。一週間前とかに今日帰ってくるのとか聞くならまだしも今日って、あれわけわかんなくなっちゃったな。まぁ、とにかく今日は帰るつもりないけど、なんか予定あるの?」
蝉の声、フェードで消えてゆく。
雨の音がしてくる。どしゃぶりになってゆく。
A「あ、ごめん、雨降ってきちゃった。後でかけ直すから。」
一度電話を切るA。
Aが室内に入ってくる。
C「電話終わった?」
A「ん、雨降ってきたから一回切っちゃった。って、何二人とももう飲んでるの?ずるくない?」
B「いやぁ、夏はビール、これに限るね」
A「私の分は?」
B「あるよ、これでいい?」
A「ありがとう」
B「じゃ揃いましたところで改めまして」
全員「かんぱーい」
A「あーおいしい、(外を見ながら)これだけ降るなんて、沖縄のスコールみたいじゃない?」
B「雨だけ南国でも仕方ないのにな」
A「こないだマンホールに人流されちゃったの知ってる?」
C「あったねぇ」
A「あんな事故にあった人もかわいそうだけどさ、家族とか辛いだろうね。ほんと」
B「辛い…」
軽く会話
B「辛い…か。…今だから話すけどさ」
A「何?」
B「俺、会社リストラされちゃったんだよね。昔」
C「いや、唐突だねぇ」
音=フェードで雨の音を消す
照明=キャパから見て左がわオンのまま
右がわオフ(Cのセリフの直後)
B「役に立たない木偶のぼう棒とか罵られて。そのあとは本採用がなくてさ。40過ぎの中年オヤジにはなかなかね。アルバイトも雇ってもらえなくて、しばらく派遣のバイトをしていたんだけど…」
照明=右側オン
場転
音=工事現場
C「こちらが作業現場になります。仕事内容は聞いていらっしゃると思いますが、まあ作業スタッフです。危険な仕事は決してやらないでくださいね。法律で禁止されていますから。(現場監督にあう)あ、本日はよろしくお願いします。こちらの方が現場監督です。(Bをさして)こちら本日の作業スタッフです」
B「あ、えっと、よろしくお願いします」
C「それでは私は打ち合わせがありますのでこのあたりで失礼します。頑張ってくださいね」
B「あぁはい。どうも」
Cは監督と一緒にはける。
もしくはサイレント
音=工事現場を消す
A「あ、スタッフさん?どうも、今日は私が教えるんで。」
B「はいっ、よろしくお願いします」
A「工事現場ってきたことあります?」
B「は、初めてです」
A「ふーん、力はあるほうなの?」
B「あるんじゃないですかね。男ですし。それにしても、珍しいですよね。女性の方が工事現場で働かれてるんなんて」
A「(少し不機嫌)いまどき女だからとかはやりませんよ。それに私はもう10年近くやってますんでプロですよ。」
B「あ、すいません」
A「とりあえず、その辺りにある袋そっちに運んでってください。」
Bが持とうとすると、1袋で手一杯。
A「…こうやって持つんですよ」
A軽々4袋持つ。
A「大丈夫ですか?」
B「(びっくり)はい!大丈夫です!やります!」
A「あっそ」
B始める。
Aは自分の作業を始める。
Bは最初好調なのかと思いきや、重くてダウン。
土嚢を引きずり始める。
A「あんた何やってんの、袋破けちゃうでしょ!馬鹿じゃないの?」
A「じゃあこれ押してって!そこまで重くないはずだから!」
Aパントマイムで手押し車?を押す。中には土などが入っている。
Bパントマイムで押そうとするが無理。
A「そんなんも押せないの?なんでこのバイトやろうとしたのよ!」
B「時給がよくて…」
A「できないのにやんじゃないわよ!」
A「まったく、派遣会社の人もなんでこんなの役にたたないやつ送ってきたのよ。」
B「役に…たたない」
A「そんなでかい図体してるのに、そんなんじゃただの木偶のぼうじゃんか!こっちはプライドもってちゃんと仕事してるだよ!生半可な気持ちで仕事しようとしてるんだったらとっとと帰って!」
B「木偶の…ぼう」
B「うぉおおおおおおおお」
B暴れだす。その力はどこからだしたのか土嚢とかも軽々。
そして何を思い余ったかBはAを素手で殴ろうとする。
そこへCと現場監督が入ってくる。止めに入ろうとするCだが。
AはBのこぶしをうけながしC倒れる。
B「…(あっけ)」
C「…あんたクビね」
B「ノー!」
場転
B体育座り
C「そっか…」
A「意外だったな、まさかそんな経験があったとは」
C「一見何もないようでも、みんな辛い事とかかなしい事とか秘めているものだからね」
A「辛いことか。辛い思い出と言えば思い出すものあるなぁ」
B「どんな?」
A「え、ききたいの?」
C「話してよ、せっかくだから」
A「別にいいけど…はたから聞けば大したことじゃないかもよ。」
C「いいからいいから」
A「うーんとね、去年に付き合ってた人との話なんだけどさ」
照明=キャパから見て左側オンのまま
右側オフ
A「最初は、海とか有名なデートスポットとか連れてってくれてたりしたんだけどさ。」
照明=右側オン
場転
ぬいぐるみ、ある。
音=海の波
A、ぬいぐるみと並んで座っている。
沈んでゆく夕陽を見ている。
A「夕日が沈んでいくね。」
A「ずっとこの時が続けばいいのに。」
A「そう思わない?」
A「ふふ、嬉しいな。おんなじこと考えてるのね。私たち」
A「ね、手つなごうよ」
恋人つなぎを敢行する。
A「へへっ」
鼻歌を歌いながらはける(ちょっと面白い歌)
場転
電話を片手にイン
A「あの人と連絡がとれない。なんでかな。何かあったのかな」
鍵をガチャガチャって開ける。
あけたそばからドアをあけ、知らない人が出てくる。大家さん
C「どちらさん?」
A「え、えっとあなたは…」
C「大家ですけど?」
A「じゃあここの人は?」
C「この部屋の人なら今朝早く出て行きましたよ?」
A「は?」
C「ですから、ここの部屋にいた方は、今朝早くに出ていかれましたから。全く、合鍵も全部返却してくださいっていってあったのに…」
A「ま、まさか。あの人に限って…だって私に何も言わなかったんですよ?それでどっか言っちゃうなんてそんなわけないじゃないですか」
C「そんなことは知りません。次に入る人の契約もすでに結んじゃってるから、入らないでもらえます?」
A「だって、私の買ってきたものとか全部ここに…」
C「全部持っていちゃいましたよ。どちらに行かれたかは私も知りませんけどね。」
A「そんな…液晶テレビも、冷蔵庫も、カーナビも…全部?」
Aうちひしがれる。
CはそんなAの肩をたたく。
C「ていよく使われて捨てられちゃったのね。かわいそうに。ま、人生長いんですし、あなた若いんだからこれからを信じて生きて頂戴ね。じゃ…おっと、(鍵を奪い取る)鍵返してね。じゃ」
A「そんな…そんな!」
場転
B「捨てられちゃったか―。」
A「本当に辛い時ってその場から動けなくなるもんなんだよね…結局朝まで部屋の前で待ってたんだけど、やっぱり帰ってこなかった」
B「そっか、世の中にはひでぇ男もいるもんだな」
A「ほんと、後でうわさに聞いたんですけど、すでに結婚してたらしいんですよ…ふふ。」
B「あちゃー」
A「愛してる人に裏切られるなんて、思ってもみなかったですよ。あの頃、生きる気力がなくなっちゃって…思わず思い出の海に行っちゃってたりしてなんかしちゃって」
B「海?」
A「そう…何もかも忘れようとして、海に入って…それで…それで?」
音=携帯電話
A「あ、電話…おねえちゃんから?」
C「出るの?」
A「え」
C「電話」
A「あーいや、後でかけなおせばいいかな。」
電話を切って、携帯を閉じる。
音=携帯(あーいや、ぐらいでオフ)
A「で、何の話だっけ?」
B「(かぶさるように)お前は無いの?そういう話」
C「あるよー、聞きたい?」
B「聞きたい」
C「あなたも?」
A「え、あ、うん。気になるな」
C「じゃあ話すね。」
照明=キャパから見て左側オフ
右側オン
C「私には兄さんがいるんだけどね…」
照明=左側オン
場転
C兄 (ぬいぐるみ)が布団に入って眠っている。仰向け
そこへCが入ってくる
C「兄さん、大丈夫?今日はおいしい晩御飯つくるからね。ほら、久々にお肉買ってきたの!じゃじゃーん!ささみ。100g30円!兄さんお肉食べたがってたでしょ?今日はがんばって奮発したんだー。今は病気で色白になっちゃったけど、これを食べればきっと昔の小麦色の健康的な兄さんに戻れるよ。」
C兄は「すまないねぇ」という眼でCを見ている。
C「そんな、悪いなんて言わないでよ。そりゃ兄さんの治療費とかほとんど私が出してるし、家賃も私が出してるし、光熱費も私もちだし…でも、でもね。兄さんが生きててくれるだけで私は嬉しいんだ。そのためならどんなに仕事がつらい時だって耐えられるもん。たとえ仕事場の上司のもじゃもじゃが最近ストパーかけてかっこいいとか言われて粋がっちゃってて見るに堪えなくても…。(ぼそっと)いつか必ず下剋上してやる。(向き直って)兄さんが笑ってくれると思えば、頑張れるんだ。私は兄さんの笑顔が大好きなんだから。なんて、恥ずかしいな!すぐご飯にするからね」
場転
死にそうな兄。
白衣を着たBが重々しい顔つきで話す。
B「残念ですが、これ以上は」
C「そんな!…兄さん、やだよ。兄さん。しんじゃやだよ。兄さん!私を一人にしないでぇ、兄さん!」
B「こんなに白くなっちゃって…」
C「これから私一人でどうすればいいの!?兄さんいなくなっちゃったら、何を生きがいにしていけばいいの?!最近じゃ下の期も調子づいてきて生意気になっちゃって大変なんだよ?!って聞いてるにいさーん!にいさっ…」
B「御臨終です…」
C「兄さん!にいさーん!!!」
場転
音=雨(フェード入り)
C「(さめざめと、大げさに)おいおいおいおい、にいさーん!!!」
A「そっか、それは辛かったね。」
C「心の支えが兄さんだったから。辛かったなぁ。もっと私が頑張ってれば兄さんももっと長生きできたかもしれないって思ったら、もっと大切にしてあげればよかったって…(さめざめと)おいおいおいおい…」
A「そっかそっか…」
B「後悔しないと気付かないこともあるってこったなぁ」
A「あ…そうだ。」
C「どうかしたの?」
A「ごめんね、そういえばさ、うちのお姉ちゃんから電話がきてたんだ。気になるからちょっとかけてくるね」
C「今、かけるの電話」
A「え、うん」
B「後にしたらいいんじゃないかな?」
A「でも気になるからさ。珍しくかけてきたし。ちょこっとだけかけさせて、ごめんね。」
B「…」
C「…………後悔しない?」
A「(不思議そうにふたりを見る)え?しない…よ」
C「うんわかった」
B「いってらっしゃい」
A「あ、うん。玄関借りるね」
A「あ、お姉ちゃん?私。さっきごめんね、途中で切っちゃって。雨がざーざーぶりでさ、今友達の家に遊びに来てるんだ。うん、友達。私にだっているよそりゃ。どこで出会ったかって?どこだっけなぁ…まあいいじゃんそんなこと。で、何だっけ話。ああ、今日帰るかって話だっけ?帰るわけないじゃん。片道何時間かかると思ってるのよ。今から荷造りとか面倒だし。え、荷造り必要ない…ってどういうこと?身一つで帰って来いってこと?もしかして誰か病気なの?やばいの?まさかばーちゃんとか?やだ冗談でしょ?え、違う?なーんだ、おどかさないでよ。びっくりした。じゃあ何?何で帰らなきゃいけないの?今日何の日よ。」
音=姉の声イン(「今日は何の日なの?」きっかけ)
姉の声「今日は…あんたの命日でしょ」
音が一切きえる
A「え」
ゆっくりと振り向くBとC
暗転
A「え?」
BGM (エンディング)
大学時代、新入部員が合宿でお披露目する会があったんだけど、そのときに書いたもの。
一人でホラー見れない人種なので、後々読み返すと自分がつらいから、最近ではあんまり書いてない。
ただ、私は根っからのホラーな人のようで、暗い夜道とか歩いてると、怖い想像ばかり思いつきます。
ほら、あなたの肩に、腕が映えてますよ・・・(ノ°ロ°)キィァァァァア