ドッペルゲンガー
「はぁ……。僕はなんで何も出来ないんだ。体育ではヘマして皆から変な目で見られるし……。誰か中身を代わってくれる人いないかな……。カッコイイ所を見せれば好きな橘さんもきっと好きになってくれるのに」
僕には橘さんという好きな人がいる。橘さんは皆に人気の女の子だ。だけど僕にはいい所がない。だから僕には絶対振り向いてはいけないだろう。
「どうもこんにちわ。僕が助けてあげようか?」
どこからともなくその声が聞こえてきて、いつの間にか僕の目の前にそれがいた。
「誰?僕にそっくりなんだけど……」
「僕?僕は君さ。ドッペルゲンガーと言うのを知ってるかい?」
「ドッペルゲンガーって、あのドッペルゲンガー?」
ドッペルゲンガー。それは、自分とそっくりの姿をした分身で、見たら死ぬと言われるやつだ。
「そう。そのドッペルゲンガーだよ」
「ドッペルゲンガーって、現れたら死が近いって事だよね?じゃあ僕はもうすぐ死ぬってこと!?」
僕はもうすぐ死ぬのか……。この人生何もいいこと無かったな……。
「まさか。僕は君を助けるって言ったじゃないか」
「助ける?」
「そう。僕が君の代わりに動いて皆から君が本当は凄いって知らしめてやろう。そして、好きな橘さんから好きになってもらおう」
「そんなこと出来るの?」
「もちろん。僕に身体を貸してくれるならね」
こんなことはもう二度とないチャンスだろう。でも、身体を貸すって言うのが正直怖い。
「でも、怖いなぁ……」
「じゃあ、君がこれを代わりにして欲しいって時だけ僕を呼んでくれていいよ」
「その時僕はどうしてればいいの?」
「僕の代わりになって別の世界にいてもらう。声は聞こえるし、別の世界から僕が動いている所を映像にして見れる。好きな時に代わってって言ったら代わってあげる。別の世界は食べ物もゲームも揃ってるから好きにしていいよ」
「本当!?」
「あぁ、勿論さ」
これなら自分がめんどくさい時は頼んで、いい所だけドッペルゲンガーに頑張って貰えばいい。僕は期待で胸がいっぱいになった。
「じゃあ、よろしく。ドッペルゲンガーさん」
次の日。
「ドッペルゲンガーさん」
僕はどこにいるか分からないけど、ドッペルゲンガーを呼んでみた。
「なんだい?なにか御用かな?」
「そうそう。この後授業の体育。代わってくれないかな?運動苦手で……」
「分かった。じゃあ代わるよ」
「おぉ、ここが別の世界……。本当にゲームとお菓子あるじゃん!え!?最新型のゲーム!こんなのもあるんだ!あ、そうだ!ドッペルゲンガーさんが僕の代わりにどんな動きをしてるのか気になるな……。見てみよう!うわぁ!凄い!まるでプロサッカー選手だよ!いけいけ!僕!これで皆からチヤホヤされるんだろうな……。いいねそれ」
目の前のテレビでは、僕がサッカーで活躍して、皆にちやほやされてるシーンが映っていた。
「ドッペルゲンガーさん!サッカー終わったから代わって貰っていい?」
「いいよ。代わる?」
「うん!」
「そうでも無いよ!練習?うん!最近毎日練習やってるよ!上手いって?そんな事ないよ。まだまだだよ!え?今度サッカーして遊ぼうって?分かった!今度の土曜日ね!」
代わった後、皆から凄いとかめちゃくちゃ褒められた。僕はこれで味をしめた。
——放課後。
「いやぁ、ドッペルゲンガーさんのおかげで今日は超気持ち良かったよ!僕をいじめてくる奴等も悔しそうだったし!」
「君の手助けになれて良かったよ。またなにか合ったら僕にお願いしてもいいんだよ?」
「うん!そうする!」
そして、僕はこの時に夢にも思ってませんでした。まさか、あんな事になるなんて……。
「ドッペルゲンガーさん。今日学校行くのだるいから1日ずっと代わってくれない?めんどくさいし」
「もちろん。僕に任せてよ」
僕は、最近ドッペルゲンガーに任せるようにしてる。
——1週間後。
「おはよう!今日は元気?」
「お、お、お、おはよう!橘さん!いい天気だね!」
(なんで橘さんが僕に話しかけてくるんだ!?)
主人公「え?付き合ってるって?そんなはずないない!え?じゃあ昨日の僕は誰だったって?違う
よ!ふざけて告白した訳じゃないよ!え?昨日貸すって言った漫画?何のこと?昨日言ったって?ごめん。そんなこと言ったっけ?え?お前は誰だって?僕は僕だよ!待ってよ!皆……どうして……こんな事になったんだ?」
僕には皆が何言ってるのか全く分からなかった。僕がいつも過ごしてる1週間は誰とも話すことなく、ただ過ごしてただけなのに。
そしていつの間にか僕の中のドッペルゲンガーは人気者になっていたが、今の何も出来ない自分自身が周りから否定された。
「ドッペルゲンガー!どういう事だよ!1週間前まではこんな感じじゃなかっただろ!」
僕はドッペルゲンガーに怒鳴りつけた。
「別にいいだろ。どうせ学校に行く気がお前にある訳じゃ無いんだから。そして、話して分かっただろ?お前の居場所はここにはないって分かってるだろ?」
「お前が……お前が僕の場所を奪ったんだ!返せよ!!」
僕は今まで出したことない大声でドッペルゲンガーに言った。
「ねぇ、何言ってるの?今まで見向きもされなかった橘さんから場所を作ったのは僕のおかげだろ?お前は何もしてない。僕に身体を貸しただけ」
「だから!!身体を貸したからこうなったんだろ?だから返せよ!!」
「は?奪われたんなら奪えばいいだろ?今度はお前の番だから」
そう言われた後、ぼくは意識を失った。
そして僕はドッペルゲンガーに身体を乗っ取られて更に1週間経った。
「僕は……だれ?名前は……なんだっけ?ここはどこだっけ?そっか、僕はドッペルゲンガーに体を乗っ取られて……。記憶がないのもそう言う事か……。1人の身体に魂は1つしか存在出来ないもんな……。あぁ……なんでこうなったんだ……。いつ選択を間違えたんだ……。何もかも失って、身体も失った……。僕は、一体どうすればいいんだ……」
「僕の方がちゃんと君を生きてやるから」
「君も僕みたいに生きるのが辛い人を救わなくちゃ」
「もう分かってんだろ?何をすればいいかさ」
「僕の声で、僕の顔で、喋るなぁぁぁぁぁぁ!!!」
僕は叫んだ。届かない事と知っても、自分の声で自分の顔で言われるのがとてもきつかった。
「じゃ、頑張ってね」
「待って!お願い!身体を返して!僕の記憶を返して……」
僕は、知らない空間で1人になった。
今回のテーマは「孤独」という事で、書かせていただきました!
ドッペルゲンガーに会ったことも無いので完全な妄想ではありますが、楽しんで頂けたのなら嬉しいです!