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いばらの冠  作者: うず
1/1

序 王都シャーン

その大陸は2つの強国と、それよりは幾分小さな3つの国、さらにはいくつかの小国と自治領で構成されていた。

東の強国をセロ、西の強国をローデブルグといい、幾分小さな3つの国の名をシャーン、エムズ、セルドアといった。

2つの強国以外の国々はいずれも、何かの強国の属国、または同盟国だった。自治領の中には中立を守る地もあったが、それは立地と厳しい自然環境がもたらした強運からに過ぎなかった。

さて、シャーンという国は西の強国、ローデブルグ側に属してした。大陸史上、ローデブルグよりも長い年表を持つ、彼の国の南西側にあるこの国は、国境の一部をセロとも面しているため、2つの強国の緩衝地帯或いは戦場として機能してきた。当然ながら歴史上、セロ側についたことも幾度かある。

風見鶏とも揶揄されつつも、必死に独立を守ってきたこの国は、故に外交と学術に秀でることとなった。

時のシャーン王をイズ=イリアと言った。

王家の系図においては非常に凡庸な王であった彼には、王妃との間に2人、側妃との間に1人の、合わせて3人の子がいた。

第二王子と第一王女を生んだユーイエ王妃は元はセルドア王女だったが、王女を生んだ際の産後の肥立ちが悪く21という若さで儚くなった。

第一王子を生んだアンネリーゼという側妃は元は王の幼馴染みで、ユーイエ王女が嫁いで来なければ王妃として立つはずの人物だった。

実際、王妃の死後アンネリーゼを継妃としようとする動きが、彼女の実家である侯爵家を中心に起こった。しかしながら凡庸な王は、セルドアとの同盟関係を重んじたためそれを退け、王妃不在のまま第二王子を王太子として立てた。シャーンの北側というセルドアの立地故に、強固な同盟関係を求めたからでもある。

この時代、シャーンとセルドアがローデブルグ側、エムズがセロ側につき、取り巻く小国もまた両陣営に分かれ、均衡を保っていた。

比較的穏やかな時代で、戦争といっても小国間の小競り合い程度で、2強国が表立つこともなく処理されていた。

当時、シャーンはローデブルグ側といっても、セロと国交を断絶しているわけではなかった。

寧ろ、この国が発展した所以、ローデブルグとセロに間のバランサーとして立ち回り、両国から多くの留学生を学院に受け入れていた。



が、穏やかな時代はやがて終わりを告げる。

きっかけは先代のローデブルグ皇帝の死だった。

50を過ぎたばかりの皇帝の死は、代替わりにより新皇帝として立ったウィルヘルム=ローデブルグの存在故に、或いは暗殺かという噂が大陸を駆け巡った。

好戦的な新皇帝は、自らの領土を拡大することを望んだ。

そして。

自らの「属国」への関与を望んだ。

結果、最初に目をつけられたのがシャーンだった。

凡庸で義理堅かったシャーン国王は変わらず、王妃の座を空位としていた。

ウィルヘルムはそこを狙ったのである。



春、シャーンの都にローデブルグより早馬が到着した。

使者が携えてきた親書により「命」は下された。

イズ=イリア王の継妃として我が妹アデリナをあてがうものとする。

何故アンネリーゼを継妃として立てておかなかったのかと慌てたが既に遅く、シャーンは下された命に応じるしかなかった。

帝都に兵士が集結していることが知らされたからである。



シャーンにローデブルグ皇女が嫁ぐということは、大陸内のバランスに歪みを起こすことを意味していた。

建国以来、2強国と同盟し従うことはあっても、両国の貴族の令嬢を幾人受け入れることがあっても、シャーン王妃の座は常に2強国以外の国或いは自国内より選ばれていた。

しかしながらこの時、目の前の脅威を前に、後宮の青の間にシャーン史上初めてローデブルグ皇女を迎え入れることになる。

平時ではない時に王が凡庸であったことはシャーンにとって不幸だった。

怯えた王は20以上も年下のこの皇女を王妃として遇しようとした。

が、ローデブルグ皇女の腹から王子が生まれることを恐れたシャーンの重臣は、やはりユーイエの忘れ形見を王位にと望むセルドア派と手を組み、これを妨害しようとした。

5年前のことである。

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