初日の朝食
「ソルト様、朝食の用意が整いました。」
ノックに対して入ってくるよう促すと、執事のトリックさんが入ってきた。この家はなかなか大きな貴族で、執事やメイドが結構いる。トリックは主に僕専属の執事だ。見た目は、坊っちゃまから爺とか呼ばれる感じを想像してほしい。
「うん。ありがとう。」
すでに朝の身支度を整えている僕にトリックは驚きの表情を見せた。
なんでかわかんないから、笑顔でごまかした。
「お元気そうで何よりです。もし、体調が優れないようでしたら、遠慮せず私どもにお知らせください。」
「うん。」
昨日まで寝込んでたから、元気そうで驚いたのかな。
ちょっと、気にかけてくれてるみたいで嬉しいな。まぁ、執事だから仕事なんだけど。
僕は朝食へ向かった。
*
僕は3日前、突然倒れた。そして、目覚めると、もう一人の記憶を持っていた。日本人の高校生の記憶だ。でも、名前はよく分からない。っていうか、僕はどっちなんだろ。高校生の方なのかな、ソルトの方なのかな。
と、まぁ、昨日一日考えた結果、僕は高校生までの記憶が前世の記憶なのではないかと思った。そういうわけで、どちらの記憶も僕なのだ、という結論に至った。
それが合ってるかは分からないけど、これからは、高校生の記憶を前世の記憶とする。前世の僕は、旅人になりたかったらしい。僕はその事と別世界への転生が関係してるんじゃないかと思う。
僕は、旅人になりたいのかな。
うーん、わかんない。
記憶はあっても、今、願望はない。
だから、当分の間は、僕は今の僕として生きていこうと思う。
*
朝食の席に着くと、家族がもう揃っていた。
待たせちゃったかな。
トリックもうちょっと早く呼んでくれたら良かったのに。
何故か、皆んなが目を丸くしている。
何か驚くべきことがあるのかと周りを見るけど、、、。
?あ、皆んな僕を見てるのか!納得。
道理で驚くべきことが周りに何もないはずだ。
「もう、皆んなと一緒に朝食をとって大丈夫か?」
父さんが僕に向かって言った。父さんは金髪で凄く整った凛々しい顔立ちをしている。藍色の瞳はとても綺麗だ。その横で心配そうに見つめる母さんも凄く美人だ。銀髪でクリッとした目には青色の瞳がのぞく。丸顔だけど、そこも含めて可愛い。天使みたいだ。
「うん、大丈夫だよ。」
皆んな心配してくれてるんだなあ。
「いや、まぁ、それはよかった。全員揃った方が食事も楽しいからな。具合が悪くなったら、すぐ言うんだぞ。」
「うん。」
父さん優しい。
「ソルト、どーして今日はそんなに落ち着いてるの?」
笑いながら、こう聞いてきたのは5歳のミルク姉さん。父さん譲りの金髪に、母さんのクリッとした目が印象的だ。
あと、その横からケーキ兄さんが覗いている。実はこの二人、双子なんだ。
「そう?いつも通りだよ。」
「確かに3歳児の落ち着きじゃないね。倒れてから何かあったの?」
次に口を開いたのはキッシュ兄さん。7歳母さん譲りの銀髪に、父さんの顔を柔らかくした感じの顔。丸顔だからかな。
「キッシュだって、いつも無駄に落ち着いてるじゃない。私だってキッシュくらい魔力があったらもっと、高度な技術を、習得できるのに。何でやる気のないキッシュばかりに才能があるのよ!」
そう言ったのは9歳のシュガー姉さん。髪も顔も父さんそっくり。魔法が好きらしい。その向かい側でうなづいているのが10歳で長男のタルト兄さん。剣技が好きなんだって。ちなみに、こちらも父さんそっくりだ。シュガー姉さんの方が少しだけ母さんに似てるかな。
そう言われたキッシュ兄さんは肩をすくめている。キッシュ兄さんは魔法も剣技も才能があるらしいけど、興味はないらしい。
「まあまあ、みんな揃ったんだから、朝食をとりましょう。」
空気を変えたのは母さんだった。
朝食は白パンとスープ。白パンにはバターが塗ってある。あー、凄く美味しそう。華やかではないけど、朝にしては贅沢な気がする。
まずはスープを口に運ぶ。
?!
美味しすぎる!なんだこれ?!素晴らしいじゃないか!
思わず表情が崩れる。
「ソルトはとても美味しそうに食べるわね。」
母さんが嬉しそうに言った。
「うん!美味しい!」
「可愛い!可愛い過ぎる。」
突然、ケーキ兄さんが僕に抱きついてきた。
「こら!食事中だぞ。」
父さんにそう言われて、ケーキ兄さんは僕から離れた。
「まあ、気持ちはわかるが。」
父さんが何か呟いたけど、気にしないことにした。