仕組まれたパーティーの結末
「おいおい、いきなりヒロインの婚約者探しのパーティーなんてわけわかんな過ぎるだろ!」
そう呟いた俺の目の前には信じられないほどの煌びやかな光景が広がっていた。
高い天井にぶら下がったシャンデリアに照らされた会場は1面に高そうな絨毯が敷かれており、数か所設置されたテーブルには豪華な料理と綺麗な色をしたお酒のようなものがずらりと綺麗に並べられている。
そして、大勢の男性達。見た感じ20〜40代くらいだろうかきちんと身なりを整えた男性が軽く50人は見て取れる。
きっとアリシアの婚約者候補として集められたのであろう、会場のあちこちで談笑をしている。
隅に追いやられているウルクールの国の従者と見受けられる人々は粗相のないように目を光らせながらもぎこちないほどの笑みを浮かべている。
会場のアナウンスがアリシア(俺)の紹介を終えると一斉に会場の視線がアリシアに注がれる。その視線はこれまでヴィシュルやシエナがアリシアに向けられていたた温かく優しい視線とはまったく違っていた。
男の俺でも逃げ出してしまいたくなるような下卑た視線は明らかにアリシアを人ではなく、一つの商売道具や自分の名声のための存在としか見ていないような酷く冷たい視線だった。
「おい、ルーシィなんだよこれ?いくら婚約者候補にしても雰囲気おかしいし、もっと他のやつとかいるだろ?」
「だから、言ったであろう。今ウルクールは危機的状況にあるのじゃ。そのタイミングで第一王女が婚姻を結べる年齢になるのじゃ、政治的な要素が絡んでてもおかしくはなかろう」
他の人には聞こえないくらいの声で呟いた俺にルーシィは静かに答えて、姿を消した。
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それからはただ必死だったヴィシュルやシエナの表情を窺いながら、第一王女の名に相応しい振る舞いを続けた。
婚約者候補に気に入られながらも自分を安売りしないように慎重に会話のトーンから表情、仕草の細部にまで細心を注意を払った。
最後の方はあまり記憶に残っていないのだが、パーティーが終わり部屋に戻る途中のヴィシュルの横顔を見れば、なんとか役割はこなせたみたいだ。
そして、パーティーの中で少しは状況が掴めてきた。この世界は4つの国に分かれていて、今までそれぞれの地の利を生かして均衡を保っていたこと、そしてウルクールは豊かな自然を生かしての農業が盛んだったが、最近ドラゴンの襲来でそれが脅かされていること。
疲れ果てた俺は部屋に戻るなり、ベッドに倒れ込み今にも消えそうな声でルーシィを呼んだ。
「なぁ、ルーシィ。そのドラゴンってやつを倒せばアリシアは結婚なんてしなくていいんだよな?
「まあ、一概にそうとは言えんのじゃが、婚約を急ぐ理由はなくなるのぉ」
「やっぱ、そうだよな。さんきゅ」
珍しくルーシィにお礼を言ってみると、うざいくらいの笑顔で顔に近づいてくる。
「どうした?結婚を阻止するためにドラゴンとでも戦うつもりか?」
「そうだよ。ヴィシュルやシエナの困った顔なんて見たくないしね。それにアリシアは俺のヒロインなの!その辺の変態やろうに触らせるかって」