アリシアはイケメンにイケメンになりたい!!
私の言葉を聞いた女性は笑っていた。
急に笑い出した女性に驚いて、後ろを振り返る。
「この仕事、そこそこやってきたけど、こんなにストレートな注文ははじめて笑」
「そんなに珍しいのか?」
「まあ、珍しいわね。でも、任せて」
私は何故、女性が笑っているのか理解出来なかったが少し笑った後、真剣な眼差しになる女性を見て、安心して鏡に向き直った。
すぐに心地よいハサミの音が聞こえてきて、私は目を瞑っていた。
「お客様、終わりましたよ!」
「ん?…申し訳ない、寝てしまっていた」
「それは全然大丈夫、むしろ切りやすいくらいだし笑
それより髪の長さはこのくらいでいいかな?」
ゆっくりと目を開けて、鏡を見ると、今までとは違い、爽やかな青年が写っていた。
顔を半分くらい隠すような前髪は眉にかかるくらいまで切られており、バランスを取るように襟足やもみあげも短く切られており、首元が涼しい。
「どう?少し前髪重めにしながらも、結構バッサリいって見たんだけど?」
「いい!これがイケメンというやつだな!」
彼女はまた嬉しそうに笑い、私もつられて笑顔になっていく。
年は40くらいであろうか落ち着いてはいるが、かわいい笑顔をする女性で、彼女と話していると自然と笑顔になってしまうような不思議な雰囲気を持っていた。
「じゃあシャンプーして、そのままセットもしちゃいますよー」
「おぉ…この椅子クルクルまわるのか!」
感嘆の声を上げる私に彼女は笑顔でシャンプー台まで誘導してくれる。
何やら椅子に座らせられるといきなり椅子が傾き、顔には白い布が被せられる。
「な、なんだ?」
「今からシャンプーしますので、ちょっとこのままでお願いします!」
何日か頭を洗ってなかったせいかシャンプーはとても気持ちよく、頭が軽くなった気がする。
「これで終わりですよー」
彼女の声で椅子が元に戻ると、また同じ席に案内される。
「じゃあブローしてから、軽くセットするね」
ブロー?セット?よくわからないが、彼女に任せておけば問題ないだろう。
鏡の中の勇人は短時間で、劇的な変化が見えて、ヴィシュルとまではいかないが、そこそこのイケメンになっていた。
「はい、おしまい。どう、いいでしょ?」
「そうだな。貴方は魔法使いだな」
「ありがとう笑」
彼女は笑うと、私も笑顔で髪を切ってくれた対価を支払う。
「なんで、ここにいるの…?」
「え…?」
突然聞こえた声は弱々しくも鋭く私?…いや、勇人に対して、突き刺さり、勇人の感情はひどく揺れていた。
入れ替わっていても身体に染み付いた習慣や反応的な部分は残っているらしく彼女の声に勇人の身体は動揺している。
「なんで、勇人がここにいるのよ!しかも、制服まで着て、一体どういうつもりなの!」
彼女は日が沈み、暗くなった道へ駆け出していった。
「ちょっと待ってくれ」
勇人の反応からしても彼女は勇人が引きこもった原因を何か知っているに違いない。
それに彼女をここで1人にしてはいけない気がして、私は彼女を追いかけた。