アリシアはイケメンになりたい!
気がつくと、私はオレンジの光に照らされていた。
どうやらカーテンも閉めずに、眠ってしまったらしい。
外からは電車や車、通勤・通学のサラリーマン、学生が足早に帰宅する音が聞こえてくる。
昨日は一晩かけて、ケツ先生から色々なことを聞き出して、この世界の大体のことは理解できた。
不思議なことに夜になればなるほど、頭は冴えてまったく眠くもならず、朝になると急激に眠くなった。
スマホでも調べたが、引きこもりというのは夜が得意らしい、実際に体験してみてわかったが、夕方だというのに、身体がだるい。
「はぁ…とりあえず外に出てみるかな」
大きなあくびをしながら、両手を上にあげると、玄関にあった靴とパンパンのリュックを持って外に出る。
「改めて見るとすごいものだな。一体どんな技術を持っているのだ日本」
高層ビルを見上げると、まるで天まで続いているように見えて、もしかすると、このビルを登っていけば元の世界に戻れるのではないかと思うほどだ。
それに昨日は気付かなかったがみんなスマホを持ち歩いている。やっぱりこの世界ではスマホはみんなの先生らしい。
そんな私はいきなり声を掛けられて、手紙を渡された。
「なんだまた手紙か!」
どうせロクでもないことを書いてあるのだろうと内容を見ようとすると…
「それ手紙じゃなくて広告ですよ?今日がオープンなんですよ。お兄さん髪長いから、どうですか?」
「お兄さん?…私は君の兄ではないが?」
「えっ?すみません…?じゃあ、何て呼べばいいですか?」
「私の名はアリ…佐藤勇人だ」
自分で言っていて違和感がすごい。その違和感を向こうも感じ取ったのか、2人の間には微妙な空気が流れる。
「えっと…じゃあ勇人さん、髪切って行きませんか?」
「そ、そうだな。お願いします」
微妙な空気の中、断りづらく流された形でお店の中に入って行く。
「いらっしゃいませ!」
出迎えてくれたのは木をベースとした暖かい感じの部屋と満面な笑みを浮かべる綺麗な女性。
「ご来店ありがとうございます。本日はどんな感じにしましょうか?」
鏡の前の椅子に座らされ、私は初めて佐藤勇人の顔をちゃんと見た。
髪は長く顔が半分ほど隠れてしまっていて、ひどいありさまである。
「これが私か?ひどいな顔だな」
「そんなひどい顔なんて…ちゃんとセットすればイケメンになれると思いますよ」
イケメンなら、ケツ先生から教えてもらった。イケメンになれば、全てがうまく行くらしい。
私は女性を鏡ごしに見つめた。
「私をイケメンにしてくれ!」