ヒロインの自然な引きこもりニート生活の始まり
私には時間がなかった。
今日の夜には私の誕生日パーティーが開催される予定になっていた。
私の16歳の誕生日パーティーは私が結婚できる年になったことを皆に知らせる報告会としての意味合いが強く、もちろん婚約者候補の男性も沢山招待されている。
私の国、ウルクールは綺麗な水と心地よい風、豊かな自然を生かした農業で栄えていた。
しかし、数年前に突如ドラゴンが現れると、ウルクール最大の山ウアラグに住み着き、それ以来山からの恵みが断たれ、一気にウルクールの経済は傾いた。
だから、私が他の国の力を持っている人と婚約を結び、国の皆を守らなければならない。
その為には、下に出過ぎても舐められるし、上からの姿勢を貫けば、生意気と思われる可能性もある。
あくまで友好的な関係を築くとても重要やパーティーなのだ。
「早く、戻らないと…あのおっぱいバカに任せてたら、どんなことになるか」
少し考えただけでも悲惨な状況が頭に浮かぶ。
「ルーシィ、1つ聞きたいんだけど?」
「なんじゃ、また質問か?」
「また?」
「悪い、あっちの世界の話じゃ。それで質問は?」
「今すぐ私を元の世界に戻して欲しいの!ルーシィならできるでしょ?」
「それは無理じゃな。わしもそうしたいんじゃが…」
「なんで無理なの?」
「何かの間違いで其方らが入れ替わったのなら、今度同じことをすれば何が起こるかわからん。
粗末に其方らの命を危険な目に合わせられん。」
「じゃあ元には戻れないってこと?」
私は絶望に顔を歪め、その場に崩れ落ちていた。
自然と涙が出て着て、お城の様々な人の顔が浮かんできた。
「そうじゃな。其方が佐藤勇人の問題を解決するのはどうじゃ?入れ替わった意味があるのなら、その意味を果たせばきっと戻れるはずじゃぞ!」
「なんで、私があの変態なんかのっ!」
「それでは、戻れなくても良いのじゃな?」
ルーシィの煽りに乗るのはすごい気に触るけど、この際仕方ない。女神の煽りに乗っかることにする。
「わかったわ。それであの変態の問題って?」
それから、ルーシィは話してくれたあのバカの現実を長々と。
「なるほど、簡単にまとめると彼がきちんとその学校とやらに行けるようになればいいのね。簡単じゃない!」
「簡単にまとめすぎな気もするがの。
まあ、何かわからんことがあったら、そのスマホとやらに聞くが良い。そいつはいい先生じゃ」
「スマホ?」
私はルーシィが指差した方を見た。そこには変哲のない薄い板が置いてあった。
「あんなもので何ができる?」
「まあ、拾ってみるが良い」
ルーシィのしたり顔が気に食わないが、言われた通りに拾いあげる。
何に反応したのかいきなり光が漏れる。
「な、なんだこれは?」
「だから、スマホと言ったであろう。真ん中のボタンを押して何か話しかけてみよ」
「お前は誰だ?」
すると画面にクルクル円が描かれ、妙な声が聞こえた。
「私はケツです」
「鉄の塊が喋った…」
「それがスマホじゃ。ある程度のものはそいつが答えてくれる。ではまたの」
役目を終えたかのように満足げに手を振り、消えるようにいなくなるルーシィ。
「あっ、ちょっとまだ聞きたいことが…」
ルーシィを呼び止めるが、勝手な彼女が止まるはずもなく、暗い部屋で1人になってしまう。
「仕方ない。ルーシィの言ってたことをやってみるか」
私は1つ大きな深呼吸をすると、光を遮断しているカーテンを一気に前回まで開けて見た。
「うわっ、眩しい…」
目に飛び込んでくる容赦のない光に私は目を細めた。目が慣れるのにはしばらく時間がかかったが、その先には大きな建物が立ち並んでいた。
「これが異世界、日本かぁ…素晴らしい技術力だ」
感嘆の声を出さずにはいられない圧倒的なまでの機械の数々。
私は一瞬で心を奪われ、外に駆け出した。
「すごい、こんな高くて、丈夫な建物があるなんて。それにあれは馬車?でも、馬もいないし、どうやって走っているのだ?」
みるもの全てが新鮮でもっともっと色んなものを見て見たくなる。
「うぅ…しかし、日差しが強すぎるな」
日差しがこんなにも不快なものに感じたのは初めてで、すぐに足が家の方に向いた。
「今度はもう少し遅くなってから、出てみようかな?」
不思議なことにその後、部屋を出ることなく夜を明かしていた。
外に出て見たい、出なければならないとは思って見ても身体が動かない。自然と言い訳を探している。
「明日は必ず外に出てみようかなー?」
と自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。