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最悪なヒロインからの最初の手紙

「な、なんて事を…この無礼者っ!」


手紙を読んだアリシアはゴキブリを倒すために準備した雑誌ソードをゴキブリから存在しない俺に向けるように宙に向けた。


「いや、アリシアめっちゃ怒ってるよ。こういう時ってヒロインの怒った顔も可愛いなってなるシーンじゃないの? ただ、俺が怒ってるだけだし、全然可愛くないんだけど!」


「よかろう?お前の狙いはゴキブリを殺さない事じゃろ?」


「ん?確かにそうなのか?」


「まあ、本物のゴキブリからお前というゴキブリに標的が変わっただけじゃがな笑」


「おーい!全然よくねーだろ!」


楽しそうに笑うルーシィに噛みつかんばかりの俺。横の鏡に映る姿を見ると


「怒った顔も可愛いなぁ」


と、自分でフラグを回収して見る。


「まったくうるさいですよ。その年になっても部屋の中でバカ騒ぎとは褒められたものではないですね」


その声に自然と姿勢を正し、固まったようにドアを見つめる。


特別大きくはないが、澄んでいて芯があるその声に身体は硬直して思うように動かせない。きっと身体が覚えてしまっているんだろう。


声とともにドアから現れたのは、綺麗に髪を結った厳しそうな女性であった。デザインは少し古そうだが、手入れが行き届いたメイド服に身を包み、姿勢の良さにより身長以上になんとも言えぬ迫力がある。


「す、すみません!」


「ん?すみません?」


メイドの女性がこちらを伺うように眉をひそめる。


「ごめんあそばせ?笑」


俺はいかにも貴族が使いそうな言葉を口にすると、スカートの裾をちょんとつまんで見せる。

女性はさらに疑いの目を向ける。


「申し訳ありません?」


雰囲気に耐えられず、俺はとりあえずそれっぽい言葉を言って、女性の顔を覗く。正解の反応だったのか女性は咳払いを1つして


「今日は大事な日なのですから、早く準備に向かいますよ」


平然と指示を出して、向き直り先を急ごうとする女性の背中が何故か寂しそうに感じた。


「おい、あの人は誰なんだ?」


何かの準備のために移動を始めた俺と女性。

数歩前を歩く女性に気付かれないように俺はルーシィに尋ねてみた。


「あやつはシエナ。この城の1番偉い使用人で先祖代々この国の王に仕えておる。今はお主、アリシアの世話係と言ったところじゃ」


「なるほどね。まあ、予想通りの答えだな」


俺はこの質問により、ルーシィがある程度の質問には答えてくれることと、ルーシィの声の大きさから、ルーシィが他の人から認識されないことを把握した。


「どうかなされましたか?」


「いえ、なんでもありませんわ」


突然の独り言に後ろを振り返るシエナ。俺は笑って返すと、再び彼女の数歩後ろをついて移動する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「んっ…頭いたぁい」


突然の急な立ちくらみに襲われて、気を失ってしまったらしい。明かりがまったくと言っていい程入ってこない暗闇の中。私は異臭によって目を覚ました。


「何この部屋は?なんか変な匂いがするぞ」


匂いの元を探るために立ち上がろうとすると、足が何かを踏み、パキッと音がした。

音に続き、足には冷たい少しぬるっと液体がまとわりつき、不快でしかない。


さらに身体もどこかおかしく、胸は軽い、心なしか身体全体が軽くなっていて、それに動く度に股間のあたりに違和感を感じずには居られない。


すぐに違和感の正体を暴いてやろうとも思ったが、何故かダメな気がして、えらく質素な部屋に飛び込んだ。


「なんだ。ここにもトイレあるんじゃん」


飛び込んだ先はトイレらしく、流石にこのちんけな部屋にもトイレくらいあるのかと安心すると、股間の違和感の正体を暴くためにズボンに手を掛けた。


以下省略。


「何故だ?何故、私にあれが生えてるんじゃ!」


「あれとはなんじゃ?」


どこからか声がしたと思ったら、目の前には翼を広げた美しい女性がにやけ顔をしていた。


私は瞬時に近くにあった物を手に取り、その女性に向けた。


「貴方は誰?何の用かしら?脅しなら私も受けて立つわよ」


紙を丸めて細くしただけの物だが、リーチもあるし、ないよりは良いだろう。


「まぁ、待つのじゃ。わしの名は女神、ルーシィ。其方をここに連れてきた張本人じゃ」


「連れてきたって…ここはどこなの?」


「ここは日本じゃ。其方からしたら異世界というやつじゃな?」


「にほん?」


「日本じゃ。それで其方は今、佐藤勇人という男と入れ替わっておる」


淡々と説明する女性の言うことはふざけているが、意識が戻ってからまだそんなに時間は経っていないが、腑に落ちる点が数点ある。


彼女の話を聞いてみる価値はあると、彼女へいくつか質問をしようとした瞬間、足元を何か小さいものが走ったのを目の端で捉えた。


「今度こそ敵かっ!」


私は紙の筒を床に向けた。しかし、姿はない。動きは感じるが姿を現さぬ敵を一撃で仕留めるために精神を集中させる。


「おーい、其方に手紙じゃぞ?」


「手紙?ちょっと邪魔しないでよ」


集中を遮るように女神の声が聞こえると、空から手紙が降ってきた。


「其方と身体が入れ替わっておる佐藤勇人というやつからじゃ」


渋々私は手紙を開き、読んでみることにした。

字が汚すぎて、一つひとつ解読しながら読んでいると自然と声に出していた。


「うひょー、アリシアのおっぱい、まじさいこう?ぱふ、ぱふのまじてんごぐだぜー?」


「なんなの!この手紙、ちょっと!」


「だから、佐藤勇人からの手紙じゃ」


「な、なんてことを…この無礼者っ!」


私は黒い生物のことなんて忘れて、女神がわざとらしくスクリーンのようなものに映し出している自分に紙の筒を向けていた。


「そんなにおっぱい揉むなぁ!それにだらしない顔やめてぇ…私そんな顔じゃないし!やめて、やめて、やめてぇ!」


私は顔を真っ赤にして、間抜けな顔をしている勇人に怒鳴っていた。


「ルーシィ、早くこの男に手紙返して!」


「なんて書くのじゃ?」


「おっぱい揉むな!バカ、死んじゃえ!」


「よかろう。あやつが1人になった時に渡してやろう」


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