つまんない? いいえ詰まってます!
何か聞こえてきたわ……。若い男と女の声だ。
「排水管が流れないだと?」
「ええ」
「何か詰まるような物を流してないか?」
「流すわけないでしょ」
いやいや、この女は排水口に溜まった小さなカスをザーッと流していたわ。見ていた……じゃなくて、飲み込んだ時に分かった。ご飯粒やギトギトのグリルの油。パスタの茹で汁。鯖缶の汁。
普段から気兼ねなく流しているんだわ――。
男が試しに蛇口を開けて水をザーッと流すと、チョロチョロとしか水は流れず、台所のシンクには水が底から溜まっていく。
「ああ……、駄目だなあ」
「でしょ。なんとかしてよ」
困惑気味に言う女は手をタオルで拭いて離れていく。足音と声でそれが分かる。
「明日、帰りにホームセンターでなにかいい物がないか見てくるよ」
男も離れていった。
チョロチョロとゆっくり時間をかけ、シンクに溜まった水は私を通って排水された。
翌日、男が買ってきた物は、泡で排水管の掃除ができる錠剤だった。十円玉くらいの大きさの白いラムネのような錠剤が箱に数個入っている。
「これで詰まりが取れるぞ」
箱や中に入った説明書を読みもせずに錠剤を取り出すと、排水口にポンと放り込み、少しだけ水を流す。
シュワワワワ~。
「これでよしと」
……口の中にラムネとサイダーを同時に放り込まれた気分……。
口の部分は泡で一杯になるが、肝心の奥の方へぜんぜん入ってこないんですけど……。
それでも少しだけチョロチョロと泡が喉を通っていく。ゴクゴクと喉越しスッキリの生ビールを飲むのとは程遠い。細いストローでスムージーを飲むようなじれったさ! 詰まるわ!
ちょっとずつお腹に入ってきて、……次はゲップが出ない時の心地悪さって……分かるかしら。
「ケプ」
ミルクを飲んだ後の赤ちゃんのゲップのようなのが出た。ムズ可愛いくて恥ずかしい~。キャッ!
大量に水を流して確認する夫婦。錠剤の効果は、ほぼほぼ皆無で、シンクの中に水が流れずに溜まるのを呆れ果てて見ている。
「なによコレ、ぜんぜん変わらないじゃん!」
「おかしいなあ。不良品だったのか?」
……こんなにギトギトに詰まった後では、いくら錠剤を放り込んでも駄目よ! と教えてやりたい――。
早くこの息苦しさをなんとか……、
「ケプ」
あら失礼。……なんとかして欲しい――!
「ケプ」