第3話 魔法少女 初戦(仮)
(本人曰く)右目の疼きが命じるままに走り出した妖精さんを追って敵とやらのもとへ向かう
よく漫画とかでは人に悪さをするとか色々あるけど、この街でそんな怪奇現象に出くわした覚えもない
もしかして、私は騙されている?
そう考えつつ走っていった先にたどり着いたのは郊外にある空き地
そこに立っていたのは…女の子
比較的私と歳が近そうだ。鮮やかな青い眼鏡をかけて長い髪を二つにくくった子が腕を組んで立っていた。
「ふうん、その子が新しい子なのね」
不敵に笑って彼女が話しかけてきた
かなり美人さんだなあ まさかこの子が敵なのか?
すると妖精さんもニヤリと笑って答える
「そうだよ、僕の今のイチオシさ」
なるほど、妖精さんは既に敵を知っているのか それは心強い
「ところで君も新入りさんだね」
なんだよ、妖精さんも、知らなかったのかよ!
何だったんだ、あのちょっと慣れた風のやり取りは。
これからあの人の言うことは半分くらいに聞いておくべきなのかもしれない
「無駄話はこのくらいにしましょう、さあ構えなさい!」
あの2人のやり取りに半ば呆れつつ見守っていたら急に私に矛先が飛んできた。 考えごとをしていたせいで前後の文脈があまり理解できていない
とりあえずそういう流れなのか
仕方がないので妖精さんを見る
「さあ、久遠ちゃん!ステッキを構えて!」
ステッキっていってもお箸なんですが
とりあえずポケットに突っ込んでおいたお箸を出す。 おかしいなあ、私が今まで見てきた魔法少女はお箸をポケットに突っ込んではいなかったはずだ
とりあえずそれっぽく前にステッキを構えてみた
だが女の子はまだどこか不満そうだ
「ちょっと待ちなさい!変身もせずに私と戦う気? いい度胸ね」
あ、変身なんてできるのか。 へーそれは初耳だ。
まあそれもそうか曲がりなりにも魔法少女なのだから
ようやく私が知る魔法少女っぽくなってきたな、と思い妖精さんを見る
…と何故かすごくドン引きしている
え、今までのどこにそんな要素があったのか
そんなに変なステッキの構え方をした覚えもないのだが
「え…何?もしかして僕に変身の仕方教えろって言ってるの? 君今さら女児向けアニメみたくキラキラと長い変身シーンができると思ってたの?
ええー ちょっとないわー」
え? おいおい 自分が妖精さんなんてファンシーな存在であることを棚に上げ過ぎだろう。 そもそも敵さんよ、適当なことを言わないでくれ。 非難の意味も込めて敵に向き直ると… あれ? え、何でそんなにショックを受けているのですか? ガーンという効果音が聞こえてきそうな程じゃないか
「そ、そんな… フワフワでキラキラで可愛い魔法少女に倒されるために、私は今まで…」
それは一旦人生見直してみた方がいいと思う
そもそも敵も何も分かってないのか
大丈夫なのか、こんなことで
がっくりとうなだれていた敵は急に立ち上がり、
ビシッと私を指差した。
「こんな可愛くない普段着を着た人に倒されるなんて嫌よ!
魔法少女がフワフワでキラキラでないだなんて…
私は認めない!!」
そう捨て台詞を吐いて敵は走りさってしまった
えーっと、何気に私の洋服もけなされましたね。 確かに寿司柄がプリントされたTシャツは魔法少女らしくなかったとは思うけれど
「変な敵だったねー せっかく久遠ちゃんの初戦になるかと思ったのに」
ダメだ、 適当すぎる。 こんな茶番にこれから付き合っていける気がしない
「あのー やっぱり私魔法少女できないです
嫌です もう辞めた…「イタタタ!右目がすごく痛い!どうしようかなあ やっぱり病院行った方がいいよね… でも事情聞かれたらなんて説明しようかな… 本当にどうしようかなー」(チラッ
こちらをチラチラ見るな!
き、汚ない! 完全に弱味を握られてしまった
でも、私はまだ諦める訳にはいかない
こうなったら仕方がない、奥の手だ
「じゃあ、私が自分の代わりを探してきます!それでいいでしょう?」
「身代わり?! 君って結構クズだよね…」
なんとでも言うがいい、己の保身が一番大切なのだ
「でもダメだよ。僕の右目を抉ったのは君 だから魔法少女になり得るのも君だけなんだ」
やはりダメか…
するとふと妖精さんの雰囲気がかわった
「ねえ、久遠ちゃん 何か勘違いしてないかな?
ぶつかったあの時から君に選択肢なんてない
生かすも殺すも僕次第なんだよ 」
その時初めて私は、妖精さんが人外であることを認識した。そう言うほかない雰囲気だった。
いくら不慮の事故とはいえ、彼(?)を失明させてしまったのは事実だ。 さらに彼は人間になり自分の姿を他人に認識させることもできる
裁判になどなったらこちらに勝算はない
諦めて妖精さんを見ると、彼はとても綺麗な笑みを浮かべていた
「じゃあ、久遠ちゃん これからもよろしくね☆」
あの時もっと深く箸を突き刺すべきだったかもしれないと今さらになって後悔する。 魔法とやらでこの妖精を排除することは可能だろうか。
それにしても、これからこんなグダグダした魔法少女をやらなければならないのかと思うと頭が痛い
「もう日が暮れちゃったねー 帰ろっか」
呑気すぎるのではないか?全くいちいち腹の立つ妖精だ。 そんなこんなでため息をつきつつ家に帰る途中、コンビニの前で急に妖精さんが立ち止まった
コンビニの前には座りこんで何かを飲んでいる2人の男子。 そのうちの1人を私は知っている。 でも初見の人にとって見るからに関わるべきでない不良なのに妖精さんは彼らをじっと見つめている。
「あ、あ?何みてんだよ」
案の定不良が突っかかってきた。言わんこっちゃない
「いやー、別に ごめんねー」
そしてまた妖精さんは歩きだした
「彼らがどうかしたんですか?」
「うん、ちょっと気になって。不良かと思えば飲んでるのジュースだったねー。しかも最初吃ってたし、可愛いー」
「突っかかってきた方は根がお坊っちゃまですからね 不良になりきれないんでしょう」
「あれ?知りあい?」
「黒い焼き海苔色のメガネの方は幼馴染です。もう1人の味付け海苔色の眼鏡方は知りません」
「そんな細かいの分からないよ! そもそも不良に眼鏡ってまたちょっとミスマッチな気がするよね」
そう言ってケラケラと妖精さんは笑う
中学に上がってから疎遠になったものの、関優弥は私の幼馴染である
いつの間に不良を目指し始めたのかは知らないが。
そうだ、そんな事よりも今は話すべきことがある
「そういえば、あのアオウミウシ眼鏡の敵は何だったんですか?」
「久遠ちゃんは眼鏡でしか人を識別してないの?
そもそもアオウミウシ眼鏡って…」
敵の正体、それすらも分からずに戦うのは非効率的だ
「あれ?スルー? まあいっか うーん、じゃあ敵についてはまた、追い追いね」
この時から私のめちゃくちゃな魔法少女人生が始まったのだった