第2話 魔法少女の契約
「お帰り! 今日も一日お疲れ様っ☆」
私はまだ現状を受け入れることができない。
事の始まりは今日の朝。登校中に人とぶつかってなんとその人の右目に箸が突き刺さってしまったのだ。帰ってくると家の前にその人がいて、もう人生が終わったと思ったのだが……
「いやー、今朝は災難だったね。僕も君も」
「は、はあ……あのその後右目は大丈夫ですか?」
「うん、その件なんだけどねー立ち話もなんだし、家に入れてくれないかな?」
こちらにかなり非がある以上無碍にもできない。今は親に報告する前に、少しだけでも話
をつけておきたかった。
家に上がり、お茶を出す。
「それで右目の件なんだけどね……失明しちゃった」
その一言で私は目の前が真っ暗になった。
どうしたらいいのだろう、この責任を私は償いきれる気がしない。
「その代わりというのもアレなんだけど、
魔法少女になってほしいな♪」
「えっ?」
ま、魔法少女ってアニメとか漫画でよく見るあれ? フリフリの服きて魔法使うやつ?
「僕、実は妖精さんなんだ☆
久遠ちゃんは素質があるしちょうどいいんだよね」
「ちょっ、ちょっと待って下さい! いきなり魔法少女だ何だなんて言われても困るんですけど」
「んー、でもこれ君に断る理由なんて無いよね? 僕は妖精さんだから現実で君が責任を取らされる訳でもないし、親にもバレない。
今後の君の人生に傷はつかないんだよ?」
それは私が一番気にしていたところでもある
私は勉強もできる方で、将来を期待されている自覚もある。それをいきなり全て失うどころか、むしろマイナスからのスタートなんて想像したくもなかった。
「僕はその気になれば人間に見えるし触れる存在にもなれる。今朝君とぶつかっちゃったのがその証拠。
魔法少女も結構悪くないよ?どう?」
私に選択肢などあってないようなものだ
こうなったら仕方がない
やってやろうじゃないか、魔法少女とやらを
「私、契約します!」
「やったー!! これからよろしくね、久遠ちゃん♡」
妖精さんは両手を上げて喜んでいる。
安心すると一気に疑問が湧き上がってきた
よく考えてみればこの人(妖精?)の名前、年齢、性別、素性など分からないことだらけなのだ。まずお互いに自己紹介をするべきだろう。あの妖精は家まで特定したぐらいだし、私のことなどある程度調べがついているとは思うけれど。
「じゃあ、これからパートナーになるんだしまず自己紹介だよね。僕は妖精、名前はまだない」
「あの……」
「いやあ、ごめんごめん。 でも名前がないのは本当だよ。僕はただの妖精でそれ以上でもそれ以下でもないよ。ちなみに性別もない
もうほぼ、観念とかに近い存在かな」
「じゃあ何と呼べば?」
「妖精さん♪とかでいいよ、結構気に入ってるんだ、これ」
結構うざい。私は外れクジを引いたのかもしれない。
「冷たいなあ、まあいいや。さっそくだけど、魔法少女について説明するね。でも実は君たち人間が考えてる魔法少女って結構いい線いってるんだよ。だから細かいところはいずれ説明していくから、今の君のイメージのまま考えてくれていいよ」
あのフリフリの服とこっぱずかしい決め台詞を言わなければならないのか? それはそれで地獄な気がしてきた。女児ならいいが、もう高3。成人に近い年齢でそれはキツイというよりも痛い。
「じゃあ、お約束の変身アイテムとか、魔法の杖とかあるの?」
そう質問すると、フフフと得意そうに妖精が笑う。そして、妖精さんが取り出してきたのは……
「お箸?」
「そう! 今朝僕の右目に刺さった箸だよ。
これは妖精の血を浴びたからね、魔力たっぷりになってるよ。 これは変身できるアイテムだし君の魔法の杖でもある、だから君はご飯に使うものは新しい箸を買い直してね」
私が知っている魔法少女は妖精の生き血で魔力を得たり箸が魔法のアイテムになったりしない。
「うっ、右目が」
妖精さんが急に右目を抑えて蹲る。
「どうしたの?! 痛むの?」
「失くした右目が疼く。 久遠ちゃん、さっそく魔法少女としての初仕事、敵を倒しに行こう!」
いつから右目はそんなシステムになってるんだろう