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聖域の冒険者2

 冒険者に憧れて本気で目指していた時があったが、冒険者の戦いを目の当たりして身の程を思い知らされた。

戦いが終わるころには夜が明けて、河原の現状をハッキリと知ることができた。

目の前には河原が魔獣の死骸で埋め尽くされ、川までもその血で赤く染まっている。

犬のような姿で牛より一回り大きく、毛並みは黒から茶の斑模様で足は先に行くほど毛がなく爬虫類のような皮膚に変わっていき、爪がミルカの指の長さほどが剥き出しになっている。

尻尾も毛はなく爬虫類の皮膚のようになり魔獣自身の体高より長い。

 その魔獣の死骸の中には、腹がえぐれ内臓が飛び出していたり、頭を真っ二つに割られその片方がどこかへ吹き飛ばされていたり、体の半分がどこかへいって無くなっていたりと戦いの凄惨さがそこにあった。

 3人も血を浴びて真っ赤に染まっている。

彼らを気遣う余裕もなく、顔を青くさせてその惨状を前に立ち尽くしていた。



「おい、大丈夫か? まだ馬車の中にいろ」



赤髪ヴェルデさんに話しかけられ我に返ったミルカは両頬をバシバシたたき気合をいれた。



「大丈夫、やれるわ」



「「「やれる?」」」



ミルカの言葉に3人が首を傾げる。



「よくみれば結構いい毛皮してるもの」



そう言いながらずっと手に持っていらナイフを持ち直し手近で損傷の少ない魔獣に近寄る。

真っ青な顔をしながら毛皮を剥ごうとナイフを突き立てるが刃が入っていかない。

肉が固くしかも弾力がありうまく裂けない。

何か自分も役に立ちたかったのに・・・



「俺たちがするから無理すんな」



「おまえは馬車の向こう側で朝食の準備をしてくれ。腹がへった」



藍髪トーゴさんがナイフを取り上げ、ミルカの腰にある鞘にもどした。毛皮を剥ぐ事が出来なかったので素直に馬車の向こう側へ行って朝食の準備を始める。といっても、竈が壊されていたのでそれを作るところから始めなければならない。

ここで作れというのは、馬車で目隠しされて惨状が見えないようにとの優しさだった。


初めて作る竈に苦戦して、銀髪アソラルさんが作った竈を見よう見まねで完成させたが崩壊寸前のような危うい竈ができた。

試しに鍋を置いて揺らしてみたが、わりと安定していたから手直し無しで使うことにした。






 竈作成だけでかなり時間がかかってしまった。

3人はまだ毛皮を剥いでいるのだろうかと覗いてみたら、損傷の少ない魔獣の毛皮は全て剝ぎ取られ、ひとまとめにされ山と積まれていた。そして今は銀髪アソラルさんが、魔法で血に染まっていない川の水を大量に汲み上げ河原の血を洗い流していた。


赤髪ヴェルデさんと藍髪トーゴさんは少し上流で血で汚れた服を洗っていた。

全裸で。

慌てて竃へ向き直り薪に火をつけ朝食作りにとりかかる。

家庭魔法で火力をあげ、薪をどんどん竈に放り込む。

程なくして湯が沸き昨日と同じ鍋を作り、馬車の陰から出て声をかける。



「もうすぐ出来るわよー」



そこに着替え中の3人がいた。

馬車から荷物をだしてタオルで体を拭いていた。

下着姿な赤髪ヴェルデさんと、藍髪トーゴさんと、作業をして洗うのが遅かっただろう銀髪アソラルさんはまだ裸で体を拭いていた。

フリーズ。

まだ着替えていないとは思わなかった。



「きゃー」棒読み



慌ててまた馬車の陰に引っ込む。

顔が真っ赤になる。



「ノゾくなんてサイテー」棒読み



藍髪トーゴさんがワザとらしく恥ずかしがっている。

違う、覗くつもりはっ

今のは不可抗力だけど・・・バカだ私・・・・血まみれだったの知ってたのに。

きっと洗うのも大変だったんだわ。

気をつけるべきだった。見てしまった私が悪かったわ。



「・・・見るつもりは無かったんだけど、私が悪かったわ。ごめんなさい」



・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・



「ミルカって意外と男前なのか?」



「は!? なによそれ失礼ね! 女性に向かっていう言葉じゃないでしょ!」



「だってさ、こういう場合だって男が悪いみたいな理不尽な空気になったり、引っ叩かれたり、怒られたりとかするし・・・」



「・・・・・なんで???」



「なんでと言われてもなぁ。まあ、いいや飯にしようぜ」



なにがいいのか。

体が冷えているだろう3人のために、おモルテさん特製の生姜酒を出す。

出発前に、これから寒くなるからと生姜酒を分けてくれたのだ。

他の生姜酒などよりずっと美味しい。

売れると思うくらいだ。




「へえ、これは美味いな。そのお隣さんと仲良くなりたいくらいだ」



「そうでしょ、他の生姜酒が飲めなくなっちゃうのよね」



赤髪ヴェルデさんは特に気に入ったようでお代わりしている。



「お隣さんと親しいようですが名前は憶えてないんですか?」



・・・・・目が泳ぐ。

マジかよ。な顔をする3人。



「えーと、私たちって仕事着が支給されるのよね。上着とエプロン。そしたら皆一緒じゃない、似てしまうと難易度が上がってしまうから」



「ちょっと待て、お前はどうやって人を覚えるんだ?」



「どうと言われても見ためで」



見た目ってどこを見て?

3人に沸き起こる疑問とこの話題は藍髪トーゴさんの一言で打ち切りになった。



「そうか、でもお揃いの上着とエプロンで見分けるのはやめたほうがいいぞ」



へ?

なに当り前なことを。

お揃いの上着とエプロンで見分ける人なんていないでしょ?

藍髪トーゴさんは何をボケてんの?



魔物が襲ってきたせいで燻製が途中でとまっていたので、残りを完成させ、剥いだ毛皮をなめして売れる状態にすることにした。ただ、死体だらけのこの場所にはあまり長く留まっていたく無かったから皮をもって、この場を離れることにした。

その後は川に沿って林を抜け、なめしたら買い取ってくれる村、ニオブフィラ村へ寄るることになった。


林を抜けたところで荷馬車を止め作業に取り掛かる。

ここでも大活躍なのが銀髪アソラルさんの家庭魔法。

もう専門職魔法と言ってもいいと思う。

全ての毛皮をなめし終わるまでに、武器の手入れと食料調達。

林の入口付近ではキノコと木の実を、林の外は野原で野草を採る。

見晴らしがいい場所なので迷子になる心配がない。


 食べれる野草が多く生えていて、採っていくうちに馬車からどんどん離れて行ってしまう。

馬車は見えるけど、程よく距離ができたところでカンキツを外へ出してやる。

結局、昨夜は何も食べさせてあげれなかったから。



「カンキツが食べれるものってここに生えてる?」



辺りを見回してキュっと短く鳴き片手をあげる。

肯定の仕草だ。



「じゃ、私から離れないようにして食べてて。」



ポケットには長期保存が出来るビスケットが入っているが、それは食べ物が調達できないときに使いたい。

他に食べ物があるのならそっちを食べてもらう。

もちろん、冒険者の3人にバレないように。



 早速、傍で咲いていた花を食べ始める。

ミルカもそれを見てまた野草を摘み袋へ入れていく。

チラチラと食べているのを見ていると、カンキツは人と同じものは食べれるようで、ミルカが取っている野草と同じ物も食べている。

食べながら、カンキツは自分のポケットにも摘んだ野草を入れている。

自分で非常食を作っているようだ。









「どうだ、たくさん採れているか?」



ドキーーーーーーーーッ

いきなり後ろから声をかけられた。

振り向けば藍髪トーゴさんが真後ろにいた。



「びっくりしたぁ。いきなり後ろから声をかけないで」



全然気づかなかった。



「はは、悪りぃ。武器の手入れが終わったから俺も野草を採りにきた」



爽やかな笑みをみせて隣に屈む。



「結構生えてんな。採れるだけ採っておこう」



・・・・・カンキツは? そっとカンキツが居たあたりを見るが姿が見えない。

うまく隠れてくれたようだ。

藍髪トーゴさんはというと、丁寧さの欠片もない摘み方をしてそこら一帯の野草をどんどん袋へ入れていく。



途中キクイモを見つけ、他の野草は後回しにしてキクイモを優先するぞ。と土を掘り返していった。

ミルカも、藍髪トーゴさんが掘り返している間に、別の場所に生えてるキクイモを見つけて掘る。



「葉っぱばっかりより、こういうのがあった方が飯も美味いよな」



「葉っぱって・・・・マズそうに聞こえるわ」



少し離れてはカンキツがどこにいるか探すが見当たらない。

でも名を呼ぶのはできない、魔物を連れているのがバレてしまう。



 少し遅い昼食をしようとなった時、馬車に向かって歩いていて違和感を覚えた。

歩くたびに、膝上くらいに暖かいものがあたる。

それにスカートが引っ張られているような?

汚れを払う振りをして触ってみると、その大きさはカンキツサイズだった。


  カンキツいたーーーーーーーーーーー!


キクイモ探しで歩いていた時に違和感は無かった。

馬車へ戻る直前にスカートの中に入ったらしい。


もともと見た目よりさらに軽いカンキツなので、しがみ付いてスカートが引っ張られるといっても外見からは分かりにくい。しかもエプロンで隠れている。










カンキツは賢い。

昨夜の戦闘の時でも、ずっと掌に包み込んでいたのに、戦いが終わりそうな気配を察して自分からポケットに入り身を隠した。


今も、スカート内側に隠れて上手くついてきている。

だが、場所が悪い。

スカートの膝上あたりにしがみ付いているものだから、歩くたびにカンキツに膝蹴りを入れている状態だ。

賢いのにバカだった。


────大丈夫かしら?


顔には出せず歩む速度も落とせない。

可哀そうだがここは割り切るしかない。


ゴメンね、カンキツ。





食事は赤髪ヴェルデさんが作ってくれていた。

摘んできた野草も鍋に入れる。


赤髪ヴェルデさんが捕ったというナニかも串刺しにして焼いている。

魔獣ではない事だけは確かだと言っていたが、本人も名前を知らない動物で、蛇に似た生き物で尻尾が二股に分かれていたと言っていた。


焼いているソレは美味しそうないい匂いがして、何か分からない動物なのも気にならないくらいに食欲をそそる。

一口噛んだ途端に肉汁がでてきて、それだけで美味しかったがグニグニして嚙み切れなかった。

齧った部分をナイフで切って口に入れたが、噛んでも嚙んでも千切れず飲み込むことも出来ず、申し訳ないけど吐き出した。

3人は美味いを連呼して普通に食べていた。

肉汁が美味しかっただけに見ているだけなのは辛い。








食事も終わり、後片付けをしながら、赤髪ヴェルデさんが指示をだす。



「毛皮のなめしが終わったからニオブフィラ村へ向かう。アソラルは休んどけ、トーゴは地図を確認してくれ」



頷き、さっさと寝てしまう銀髪アソラルさん。

昨日から魔法使いっぱなしで疲れているんだろう。

生活に必要な分の家庭魔法しか使わない私には、魔力切れで疲れるって感覚が分からない。

師匠について鍛えていた時も魔力切れになるほどの訓練はしたことが無かった。


地図で現在地を目的地を確認し、藍髪トーゴさんがナビをしている。


「毛皮を売りに行く村ってどんなトコ?」



「革製品の色々を作ってる村だな。狩りをして取れた毛皮はいつもそこへ売りにいく。上質なのはもちろんだが、変わった毛皮なんかも高額で買い取ってくれるんだ。」



「へえ、あの犬見たいな魔獣の名前はなんていうの? 毛皮は高値になりそう?」



「そうだなぁ、初めて見る魔獣で名前も分からないヤツだったし、珍しいかもな。高値で買い取ってくれたらいいな」



「初めて見る魔獣? 名前も分からないの?」



魔獣や魔物のことは冒険者なら豊富な知識を持っているのが当然で、それが知らないという。

私も冒険者になりたかった頃は図書館へ行って魔物と魔獣のことを調べたりしていた。

諦めた時点でそれも辞めてしまったが。


ベテラン冒険者が知らない、そんなことがあるんだろうか? 



「俺は知らないな。ヴェルデは知ってるか?」



「いや、俺も初めて見た。ミルカ、聖域では見たことも聞いたこともない魔獣がいる。もちろん、良く知る魔獣もいるんだが、ここは未知の宝庫で冒険者としては最高の場所だ」



「宝庫。そんなに魔獣が多いんだ」



「ここは普通の冒険者の旅と違って、支給される荷馬車で移動だから必需品も多く持って来れるから楽だしな」



楽し気に話す赤髪ヴェルデさんと藍髪トーゴさんとは対照的にミルカは暗くなる。

そういえば、白の廃墟にいた魔物の黒フードの姿かたちは知らないものだった。

もちろん、オレンジ色の魔物のカンキツも。














─────────────



ガタンッ

石を引いたらしく馬車が大きく揺れた。



「んー・・・・?」



昨夜、一睡も出来なかったからいつの間にか眠ってしまっていた。

横では銀髪アソラルさんも眠っている。



「すまん、起こしたか」



「平気、村はまだ?」



「村はもうすぐだ、今日はそこで泊まる」



まだ陽は高いが、それまでミルカが行っていた近所の村々と違い、村と村の距離がかなり離れている。

野宿を避けるならここで一泊するしかない。

今回の仕事は急ぎではないから、少しくらいの寄り道もかまわないそうだ。


 丘を越えると村が見えた。

革製品全般を作っていると聞いていたが、最初に目に入ったのは放牧されている牛や馬や山羊に羊。

畜産も兼ねていた。

通常は畜産の副産物として皮をとり革製品に使われるのだが、ここでは逆らしい。

村で賄う皮以外にも、他の村から集めているそうだ。

村の家々とは別に、放牧している近辺に数件集まったものが点在している。

あまり広くはないが畑も見える。



「そろそろアソラルを起こしてくれ」



「おう、起きろ。村に着くぞ」



藍髪トーゴさんが銀髪アソラルさんを起こすが、唸って寝返りを打つばかりでなかなか起きない。

よほど疲れが溜まっていたのか。



「アソラルー、おーきーろー。ミルカを上に落とすぞ」



「ちょっと、なに言ってんの!?」



「いつもはすぐに起きるのに珍しくてな。どうせなら珍しいついでに起こし方も珍しくしても良いと思ってな。面白そうだろ?」



ないわ。

今にもやりそうな笑顔で言わないで。

面白くないから!






 村に着くと最初に村長に挨拶に行く。

どの村でも着いたらまず村長に挨拶に行くのが決まりだ。そして、決まってどこの村でも村の中心に一番大きい村長の家がある。



「おーい、村長生きてるかー?」



村長さんの家に着くなり、藍髪トーゴさんがいきなり失礼なことを言った!

奥から背が高く逞しい男がでてきた。

今まで見てた人の中で一番背が高い。



村長? 生きてるか確認が必要な人ではないわよ?



「やっぱりあんたらか。村長の生死を聞く荷運び兼雑用係はトーゴくらいだ。」



「久しぶりだな、村長は留守か?」



「いるよ、上がってくれ。村長は風邪で寝込んでから足腰が弱ってな、歩くのが赤子のハイハイより遅いんだ」


村長じゃなかった。


奥にある、庭に面した日当たりのいい部屋で、村長は椅子に座って日向ぼっこしていた。

気持ちよさそう。



「まだ生きておるよ。お前の声がここまで聞こえたわ」



「なんだ元気そうじゃないか」



確かに、声に力があり弱っている感じがしない。生命力に溢れたおじいちゃんだ。

村長がミルカをみて、信じられないといった顔をした。



  わたし?



「女で荷運び兼雑用係など初めて見たわ。あんた何者だ?」



何者と言われても何が聞きたいんだろう?



「ミルカです、初めまして。普通に採用試験に合格して、荷運び兼雑用係として聖域で働いています」



沈黙される。



・・・・・・?



どうしたらいいのか困って赤髪ヴェルデさんを見上げると頭を撫でてきて、



「ミルカは昨日から俺達と一緒に仕事をすることになった新人だ。これから2年間は俺たちについて仕事を覚えていく」



「マジか!冒険者か?」



「いや、至って普通の女の子だぞ」



「子、じゃない!藍髪トーゴさんひどい」



「俺の名前を覚えたら 子 を取ってやろう」



「ぐ」



「ヴェルデ達と仕事をしていたらすぐ死にそうな子に見えるが・・・・・、ミルカちゃんには何か素質でもあるんだろう、この3人はそれぞれが強い。パーティーとしても最高だ。しっかり仕事を覚えなさい」



ちゃんって、村長さんからしたら、私なんか本当に子供に見えるんだろうな。

しかしすぐ死ぬって、そりゃ魔獣や魔物が襲ってきり、厳しい環境の地に行ったら死亡率は一番高いだろうけどさ。



「村長、荷をおろしたいのですが」



「今はダルエスに任せているんだが、良いものでも入ったか?」



「初めて見る魔獣の毛皮を持ってきました。あと蛇に似た動物の皮です」



「へえ、見たことがない魔獣か、分かった。早速、取り掛かろう。今日は泊まっていくんだろ?」



「それは儂も見てみたい。ミルカちゃん、手を貸してくれるか?」



皆さん、さっさと行ってしまい私と村長が残された。

私が腕を支え、杖をつきゆっくりと歩むそれは、赤子のハイハイより遅かった。

大げさに言ってると思ったけど本当だったわ。

亀とデッドヒートを繰り広げられそう。


 

玄関までは他愛もない話で時間を潰す。

聞けば、少し前まではもっと歩けなかったらしい。

衰えた筋肉を取り戻すために少しずつ筋トレをしているのだと。

内緒にしててくれって口止めされたけど、それはバレたら心配するわ。

無理しないでね。



玄関に魔獣の毛皮と蛇に似た動物の皮が一枚ずつ置かれていた。

玄関前にとめていた荷馬車がない。

人もいない。

どこへ行ったのかしら?

キョロキョロしてたら、



「工房へ行ったんだろう、儂が見たいと言ったからこれだけ置いていったんだな」



村長が毛皮を手に取り見定める。

良い毛皮だけどどうかしら?

私には全く分からないけど、いいモノだったら嬉しいな。



「儂も見たことがない毛皮だなぁ。ミルカちゃん、この毛皮は何枚持ってきたかね?」



全部赤髪ヴェルデさん達がやってくれたから何枚か分からない。

魔獣の死骸の山を見たとき、毛皮が剥がれていたのは・・・・・・・・・



「10枚もなかったです。毛皮を剥ぐのは3人がやってて、私は食事の準備をしていたので正確な数はわかりませんが」



「そうかい、10枚ないのか。もうちょっと纏まった数が欲しいところだねぇ」



「その毛皮って良いモノなんですか?」



「今の時点ではいいんだが、加工してみない事には分からん。革といっても作る物によって合う素材は変わってくる。こっちの蛇皮に似ているモノはそれと変わらん扱いでよさそうだが」



ふーん、難しそうね。全く分からないわ。

いつまでもここにいても仕方がないし、村長さんを部屋に戻して工房って所に行ってみよう。



「すまんが、この毛皮を工房へ届けてくれんか?」



「はい。それじゃ、部屋へ戻りましょうか」



村長は、自分ひとりで戻れるからこのまま工房へお行きなさいと言うが、それはダメ!私が不安になってしまうから部屋まで送ります。と強引に付き添って行った。



毛皮を持って村長さん宅を後にする。

教えてもらった工房はすぐ近くだった。












────────────


村に宿はなく、代わりに2~3件は必ず空き家があり、荷運び兼雑用係が村に泊まるときにそこを使うようになっている。



「今日はもう一組、荷運び兼雑用係が来ていて、いつもの家が空いてないんだ。あんたら情報交換とかするんだろ? 近くの空き家でいいか?」



「ああ、そうしてくれ」



「ふうん、俺たち荷運び兼雑用係が同じ村にいるなんて、珍しい事もあるもんだな」



大抵は、移動中に出会うくらいで、そうした時に互いが今まで行った地の情報を交換していた。

村で一緒になるのは初めてだ。



「なあ、あの嬢ちゃんはマジなのか?」



「俺も話を聞いたときは珍しと思ったが、女の荷運び兼雑用係は少数だがいるしな。それだけの実力をもった人物なのだろうと思っていた」



「会ってみたら平凡な娘だったなぁ。冒険者になりたかったらしいけどな」



「嬢ちゃんが冒険者になってもずーっと初心者レベルな気がするな」



「初心者レベルにもなれないだろう。昨日から一緒にいるが俺達の名前も覚えていない」



「ははっなんだソレ、大げさすぎだろ」



「俺の事、藍髪さんって呼んでただろ。これからも村へ来ることがあると思うけど、マジだから許してやってくれな」



「・・・・・・・本気で?」













空き家はいつでも使えるように掃除がされていて埃っぽくない。

玄関を入ると、キッチン、トイレ、居間と部屋が二つ。それだけの小さな家で、風呂はついていないが、この村は温泉が湧いているので風呂が付いている家のほうが少ない。


荷運び兼雑用係は何日も野宿したり、村で宿泊しても空き家に風呂が無いことも多い。そういう時はタライに湯を張るか近くに川があればそこですますのだ。

温泉があるこの村は荷運び兼雑用係には密かに人気だ。



「ヴェルデ、こちらにミルカは来ていますか?」



ミルカを村長宅まで迎えに行ったアソラルが走ってきて焦りながら聞く。

アソラルが連れて来ていないならミルカがいるはずもなく。



「迎えに言ったら、村長が工房へ毛皮を届けてくれるよう頼んだと。それで工房へ行ったら来ていないと言うんです」

 


「嬢ちゃん、どこかで寄り道してるんじゃないか?」



「一人で行動させないようにって言われていましたが、まさかと思のですが、名前のこともありますし、もしかしたらと・・・・・」



二人も思い出した。そうだ、方向音痴だから気をつけるようにとミルカを連れてきた男は言っていた。

村長宅と工房は近い。迷うことなどあり得ないし、迷うことの方が困難だ。

・・・・・・だが残念な事に、大丈夫だと言い切れない何かがミルカにはある。



「わかった、手分けして探そう。大きな村という訳では無いしすぐに見つかるだろう」



「ダルエスもあいつを探すのを手伝ってくれ」



「構わないが心配し過ぎじゃないか?」



その言葉に3人ともが暗い顔をする。

今日で2日目。たったそれだけしか行動を共にしていないのに、ミルカを連れてきたカラという名の男の言葉が大袈裟ではないと感じている。



「探している間に村長宅に戻ってくるかも知れないから、そこで落ち合おう」











  工房がない。

  教えてもらった道を歩いてきたのに。

  村の家はどれも塀はないがも庭くらいの広さの、小さな家庭菜園と木が何本か植わっている。

  家同士が離れているから一軒一軒が分かりやすく見逃す事もないのに。

  にも拘わらず工房らしき建物が見当たらない。

  倉庫が2~4ほど並んで点在しているが、その近辺を見て回ってもやはり工房がない。  

  作業が外から見えるからすぐ分かると言っていたのに。



  道を間違えたのかしら。

  さっき曲がったところが違ったのかも。

  戻ってみよう。



毛皮を持ってウロウロと歩いて、少し戻っては違う道を進みを繰り返している。



  これはもう無理だわ。一度、村長宅まで戻って初めから工房を目指した方が早い。



来た道を戻り、村長宅へ戻るがその場所には家がなかった。



  あれ?






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