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伏せっているのに、落ち着かない

「いっつ・・・うぅ・・・・・ぐっ・・・うー・・」



「ミルカさん無理しないで、やっぱり私がします。そんなんじゃ余計に痛いだけですよ」



おろおろと声をかけるカラに対して、痛みに顔を歪めながら耐え、平気だと返事をしようとするが口を開くと叫びそうになる。

痛みに息が止まり、そして息を吐く。



「・・うぅ・・・へ、へい・・・・っ気ぃ~~・・・」



強がってみせようとするが難しい。

心配して顔をのぞかせるカラを視界の端に捉えると、一瞬、痛みを忘れて、しがみ付いていた枕を投げつける。が、ビキビキと全身が痛みに悲鳴をあげ、うまく投げられず彼の顔に届かず受け止められてしまう。



「・・・~っい・・・つ・・・・・うー・・・」



ズキンズキンとさらに痛みが増し、ベッドに顔を埋めシーツをぐしゃぐしゃに握りしめ痛みに耐える。

──束の間の沈黙。

そこへドアをノックして返事も待たずに、お隣さんが勢いよくドアを開けて入ってきた。

両手に大きな袋を抱えて。



「ミルカー、具合はどうだい?沢山の包帯を買ってきたから取り換え・・・・え?」



ベッドで上半身裸でうつ伏せになっているミルカをみて固まってしまったお隣さん。

その視線は背中。に、動く小さなモノにいっていた。



! うわ見られた。



あわててごまかそうと、性能が良いとは言えない頭をフル回転させ、何とか言い訳をひねり出そうと頑張る。



「ああ、ビックリした。昨日みた妖精ね。カラさんの言ってた通り、その妖精はミルカに懐いているのね」



「へ?」



何のことか分からずカラの方を見ると、枕を持ったまま、体を半分キッチンからだしてこちらを伺っている。



「こらぁっ、そこから出るなー。見るなー!」



うぐ!

今度はコップを投げようとしたが、さっき枕投げの反動で痛みが酷くなりすぎて動けない。

目に涙を溜めてうーうー唸りブルブル震える。



カラさんはサッとキッチンに身を隠して、おモルテさんに話しかける。



「ちょうどよかった、モルテさん、薬を塗ってあげてくれませんか? 私が塗ろうとすると怒るんです。ミルカさんが妖精に薬を塗らせているんですが、それじゃ痛くて大変ですし」



「まあ、いくら子供体形のミルカでも裸を見られたら恥ずかしいか」



そういいながら背中の傷に薬を塗っている妖精まものを見つめる。

手乗りサイズの妖精まものがその小さな手で頑張っている。

ミルカの腰に薬の入った容器を置き、肩に薬を塗っている。そして背中の傷の上を歩いて腰に置いてある容器の所まで行き、小さな両手に薬を掬いとりまた肩までもどり塗りつける。

これを何度も繰り返している。



「これは痛いわ。私だったら傷を踏みまくられるよりカラさんに塗ってもらうほうを選ぶね」



見てるだけで痛いと言わんばかりに顔をしかめる。

私が手当をするから、妖精まものさんはミルカの涙を拭いてあげて。そういって背中に乗っている妖精まものをミルカの顔の近くに座らせて、モルテさんが出来るだけ優しく薬を塗って、買ってきた包帯を巻いていく。

妖精まものは自分の袖でミルカの涙を拭うが、とにかく小さい妖精まもの。すぐに両袖がびちゃびちゃで、今は裾を両手で持ち上げて拭おうとしている。ほとんど脱ぎ掛け状態でツヤツヤの毛並みが見えている。



「妖精なんて初めてみたわ。どうしたら妖精に懐かれるのか。ミルカ、どこで見つけたの?」



「え? え?」



話が見えない。

さっきから妖精妖精いってるけど魔物のことよね??

お隣さんとカラさんと魔物を順番に見て、なんと答えていいのか困っていると、カラさんから助け船が。



「それがですね、ミルカさんは妖精が背中に張り付いているのに気づいていなかったようで、先ほどその妖精を見たばかりなんです。どうやら、妖精のほうが一方的にミルカさんを気に入ってついてきたようです」



何その設定。

誤魔化すためとは言え、魔物を妖精って無理があるでしょう。

フードで見ずらいかもだけど、手乗りサイズの三頭身の口は大きく裂けて歯がギザギザ。指も小さいけどネコ科ようなの鋭い爪を持ってる。



腕に包帯を巻き終わり、背中の傷に包帯を巻くために、ベッドから体を起こすのだが痛くてふらついてしまう。

痛みのせいか頭がぼんやりする。

辛そうにしていると魔物がベッドから飛び降り、短すぎる足でキッチンへ走っていく。

戻ってきた時には濡らしたハンカチを背負って持ってきた。

そして、やはり魔物。

塗れたハンカチは魔物からすれば持ちにくくて重いはずなのに、一度のジャンプでミルカの顔へ飛びしがみ付く。



「ぶっ」



以外な衝撃に後ろへ倒れそうになるのを何とか耐えた。

同時に体の痛みが3割増し。

いい度胸だ魔物。

顔から剝がしたいが右手に邪魔にならないように自分の髪を持ち、包帯を巻くために左腕を上にあげているので動けない。


前髪の束をつかみもぞもぞと顔にしがみ付き動く魔物。



「ちょっと、痛い、前髪を引っ張らないで。離れなさいよ。魔・・・妖精!」



「もしかして妖精も手当してるつもりじゃないかしら。そのハンカチを額に当てようとしてるみたいだし」



「なんでハンカチなんかを・・・・」



「熱があるでしょ。きっと冷やそうとしてるのよ」



言われていれば顔が熱い気がする。

傷と筋肉痛ばかりに気がいってて分からなかった。



「熱?そっか私熱があるのか」



「気づいてなかったの?こんなに傷だらけなら、熱もでるわよ」



呆れたおモルテさん。

痛みのほうが勝ってて熱あがるなんて思いもしなかったわ。

どうりでフラつくわけだ。


手当も終わり、傷が痛むだろうけど寝ていなさいとベッドに押し込まれ、額には魔物が持ってきたハンカチを乗せられた。

休憩中だから様子を見に来ただけだと、お隣さんは仕事へ戻っていってしまった。

忙しかったんだろうな。帰ってきたら改めてお礼を言おう。


・・・ところでこのハンカチはどこから出てきたんだろう?

顔に出ていたらしく、聞いてもいないのにカラさんが答えをくれた。



「それは私のハンカチですよ。魔物がミルカさんの熱を冷ます為の何かを探していたのであげました」



「やっぱり、魔物で間違いないのよね。誤魔化すために妖精って言ったにしても、なんで私が懐かれる設定なのよ」



「半分は正解ですし構わないでしょう。実際のところ、その魔物は妖精と言われることもあるんです。住む土地によって分類が変わっているんです。なので、嘘は言ってません」



「そうなんだ。魔物のことは全然知らないけど、そういうのって聞いたことあるわ。分類が難しい、魔物なのか魔獣なのかとか、妖精なのか魔物なのかって」



カラさんを見上げるのが億劫で目を伏せがちにしている。

じっとしていれば、痛みもマシになってきているように思う。

聞きたいことが山ほどあるから、言葉を続けようとしたら遮られた。



「傷薬には痛みを和らげる効果のある薬草も混ぜてあります。暫くすれば楽になりますよ。話したいことがあるでしょうけど、今日はもう休んでください。また明日きます。しっかり看病してね、任せましたよ」



最後の言葉は魔物にむけたもので、言葉を理解しているようで、キューキュー鳴いて胸に拳とドンっとあて、任せろ!と言っているみたいに見える。

布団の上で自信満々にしている。

重たくはないけど怪我人に乗るんじゃない。

降りろ。

いつの間にか、この魔物に対して危険という意識がなくなっている自分に気付いた。



明日、熱が下がっているようなら話をしましょう。

それだけ言って部屋から出て行ってしまった。


少々困った。

魔物と二人きりになってしまった。一人と一匹か?

勝手に勝負して、勝手に負けたと思っている魔物、百歩譲って私がこいつのボスだと認めよう。

で、私にどうしろと?

カラさんはこいつに看病を任せてたけど、手乗りサイズでどうやって看病?

むしろ私がこいつの面倒を見る羽目になるんじゃない?


ぼんやりと考えていたら額に乗せていたハンカチを取り、キッチンへ走っていた。



「うぷっ」



以外にも素早くて突然のことに反応が遅れた。

言うの遅れたけど怒鳴っておく。



「顔を横断するんじゃない!」



ん?そういえばカラさんは、どうして魔物が熱を冷やそうとしてるのが分かったのかしら。












翌日、カラさんは前が見えないくらい大量の花束を持って現れた。

正確にはまだ現れていない。

部屋の外ですれ違う寮の人たちを挨拶をかわしているのが幽かに聞こえてくる。

正直、この壁の薄さはどうにかしてほしい。プライベートがダダ漏れ。

そんな訳で、今、カラさんがドアを開けようと悪戦苦闘しているのが手に取るように分かってしまのよね。

ノックをして、どうぞと私が答える。

ワサワサガサガサと音を立てて、開けようとしてるが上手くいかないらしい。

ドアノブに手が爪が掠っているわね。

しかし手が回らないほどの花束ってどうなの。

・・・・・

・・・・・・・・

あら、静かになったわ。どうやって開けるか考え中かしら。それとも誰かに開けて貰おうと?


 ドシッ! ガチャ


あ、開いた。ドシ?


 ドサ、バサバサバサバ・・・・・・


ドアの隙間から花が見える。床に散らばっているわね。

察するに、自分の体と壁で花束を支えてドアを開けようとしたってトコね。

あー。拾ってる拾ってる。


部屋が狭いから、ベッドの位置からドアの隙間がしっかり見えてるんだけど、カラさんって意外とどんくさいのかしらね。










回収した花は複数の花瓶に入れて、ベッド周りを占領している。

じゃなくて、狭い部屋の半分くらいが花で埋まったわ。






大きく息を吸い、


「一つ、沢山の花といっても限度があるでしょ。この部屋の広さを考えてほしいわ」


「二つ、うちには花瓶なんて無いし、カラさんも持ってなかったわよね。どこからこれだけの花瓶が出てきたっていうの?」


「三つ、今は夏の終わりよ、なぜ花束に春夏秋冬すべての花があるの? どこで摘んできたわけ?」


「四つ、お見舞いは嬉しいわ、薬も良く効いてて動かなければ痛みもあまり感じないわ、ありがとう」


「五つ、聞きたいことがあるんだけど、聞けばまた聞きたいことが出てくると思うの。全部話してくれるのよね?」


「六つ、ベッドが花の壁に囲まれて降りれないじゃない。トイレにも行けないわ」


「七つ、この魔物、どう扱えばいいのか分からなくて困るわ。カラさんが引き取って!」




一息では言えなかったけど一気に言えたわ。

・・・ええーっと、他に言いたいことは・・・・あったっけ?

あったような気がするけど思い出せないわ。



言いたいことを思いつく限り言い尽くして、ふ~っと一息ついてカラさんが淹れてくれたお茶を飲む。


思いつく全部は言ってやったわ。

あら、このお茶美味しい。






怒涛の如く言いたい事を一気に言われた。

カラは少し考え悩む、まずはミルカさんが問う全てに満足する答えだけを先に言うか、こちらから話したいことを混ぜて言うべきか。

どちらにしても、私が言葉たらずだと怒ってしまいそうなのが嫌です。

私は怒られ慣れていないのでちょっと悲しい。

七つの質問は慎重に丁寧に・・・



「・・・カラさん、心の声が漏れてるわよ」



「えっ漏れてました!?」



「先に私の質問に答えてくれればいいわ。慎重に丁寧にね」



ニヤーとちょっと悪い顔して言うと、赤面して片手で顔を隠して俯いてしまった。

面白い。

いつも顔と名前を憶えないバカっぷりをからかわれているから、逆の立場になってすごく楽しい。

もっと絡みたくるわ。



「ちゃんと答えてくれれば怒らないけど、後で答えと事実が違ってるのが分かったら怒るからね。できれば悲しませたくないしーにやにや」



意地悪な笑顔が止まらない。



「これからは心の声が漏れないように気を付けます」



気を取り直して、ベッドのそばに、といっても花のせいでちょっと遠いところに椅子を持ってきて座る。

話が長くなりそうだ。



「一つ、部屋の広さの事は考えていませんでした。私が持てるだけ持ってきてしまいました。それと、花の半分は薬草で、これは乾燥させてから保存用にします」


「二つ、花瓶は私が出しました。かなりの量が入るカバンを持っていまして、その中に仕舞って持ってきました」


「三つ、この世界のすべての植物が存在する場所がありまして、そこでは常に芽吹いては枯れ、またすぐに芽吹く。常に花も咲いていますからそこで摘んできました」


「四つ、薬がちゃんと効いて良かった。その様子では化膿もないようですね。安心しました」


「五つ、もちろん話しますよ。時間があればいつでもお答えします」


「六つ、すみません、すぐに降りられるよう道を作ります。花の道っていいですね。今度どこかに造りましょう、きっと観光地になりますね、できあがったらミルカさん一緒に行きませんか?」


「七つ、その魔物に名前を付けてあげてください。喜びますよ。それに犬が主人に従うでしょう、それと同じに考えていいと思います。それなりに躾けて何か命令していけば、その子の出来ること出来ないことが分かってきますから」



質問に噛まずに言い切れた。ミルカさんの質問に対して間違った解釈はしていないはず。

満足してニコニコ笑顔になってるカラさん。




あ・・・・今、ちゃんと言えたって満足してるっぽい。

なんだろう、カラさんの考えてることが少し分かってきたような気がする。

きっと素直な部分がでてるのね、年上なのに可愛いなーなんて思ってしまうわ。



・・・・・・・しかし、内容が、次元超えてない? 嘘つくにも下手すぎる。つまり本気。



「ええと、薬草をありがとう。昨日も思ったけど、私が知ってる薬草って地面に張り付くように生えてる葉っぱばかりで全然ちがってて驚いたわ。効果も上だし。それに世界中の植物が存在する場所って貴重なトコというか神聖なトコじゃないの? 摘んじゃって大丈夫? しかもそこに行けるカラさんって何者? 絶対雑用じゃないわよね・・・・それと、カバン提げて来てないのにどこに入れてきたって?」



「カバンならいつもポケットに入れて持ってます」



無造作に上着のポケットからカバンを出す。どう見てもポケットに入らない大きさのカバンが。

それも両方のポケットから。

見た目より沢山のモノが収納できるカバンは魔法具の収納カバンしかない。

一度だけ見たことがあるが、冒険者の魔法使いが持っていて幅20cmほどのショルダーバッグくらいのサイズだった。とても高価で財力のある王族や貴族、豪商、それ以外だと実力のある冒険者が持っているくらいで市場にはあまり出回ることはない。

そのカバンの材料自体が貴重で・・・・作るのに必要な量を手に入れるのが大変で、しかも作成の際には魔力が相当いるらしい(よくわかんないけど)


それが二つも。

ショルダーバッグサイズと、もう一つがボストンバッグサイズ。コレ絶対カラさんだからか、もしくは聖域だからボストンバッグサイズがあるんだわ。

いくら私が無知でも自信を持って言える、外の世界でまず無いわ、ボストンバッグのサイズって。

あと、さらにあり得ないポケットが・・・・ないでしょ。ポケットにしちゃうバカ、じゃなくて貴重な魔法具の収納カバンをこんな勿体ない使い方するなんて。




「そのカバン、魔法具の収納カバンよね? それが入るポケットって・・・・・・・」



   もう聞かなくても分かってるけど。



「このポケットも魔法具の収納カバンと同じなのですが、もともと上着にポケットが付いていなくて自分で作りました。中身がこぼれないようにボタンも付けたのですが、使うたびに外したり付けたりがちょっと面倒でして」



違う、そうじゃなくて、ポケットの形をした魔法具の収納って聞いたことがないわ。

作ったって簡単に言ってるけど、自分で作っちゃったの!?魔法具を? 魔法具の収納をポケット型にして? 魔力がすごい必要なんでしょ、材料も高価で手に入りにくいでしょ、上着にポケットが無かったからって作るか?

あと、その前に言ってた世界中の植物が集まる場所とか!


さらっと受け流そうとしたけど無理だった。

町での暮らしは外とあまり変わらないから勘違いしてたわ。

ここは聖域だった。

中心へ近づくほど常識が通用しないんだわ。

きっとそうに違いない。

聖域の壁付近にいる私たちを違って、カラさんは聖域の中心に近い場所にいる人なんだわ。



・・・・・・頭いたい



あ、 ‘聖域だから’ っいう魔法の言葉が浮かんだわ。

うん、ちょっと考えるのやめよう。

ツッコミはいれちゃうかもだけど。



「こっちは聞きたいことは一応聞いたし、また聞きたいことがあったらその時に聞くことにする。カラさんも私に話があるんでしょ?」



「ええ、そうなんです。本当はもっと仕事に慣れてからと思っていたのですが、こんな事になってしまって、予期しないことではありましたがミルカさんの身体能力がなかなか良いことを知ることができたのは偶然の産物でした。しかも魔物とも仲良くなられたので、仕事を次のレベルへ上げても問題はないと判断しまして。今まで荷運びがメインで雑用の方はあまりしてこなかったミルカさんにも、これからは雑用係をメインにしていただきます。つきましては、先輩の方と一緒に行動をして雑用係の仕事内容を覚えていただきますので、体調が万全になり次第、紹介します。しみ待っていてくださいね。それから─」



「ちょっと待って!」



一気に話始める内容について行かれず、ストップをかける。

何を言っているのこの人は。

荷運び兼雑用ってメインが雑用だったのね、荷運びがメインで雑用はついでだと思ってたわ。

仕事のレベル?

それにいつ私が魔物と仲良くなったの?

チラッとベッドの端を見ると、魔物がお行儀よく座って花びらを一枚とって食べている。

魔物のことはちょっと置いといて。



なんか嫌な予感がする。



「雑用に身体能力がそれなりに必要ってどんな仕事なの?」



「詳しくは同じ荷運び兼雑用係の先輩の方に聞いていただくとして、簡単にいうと今までより聖域での行動範囲が広がります。救難信号が出せる魔法具も支給されますね。何日もかけての仕事になりますから複数で行くのが基本になります。ベテランだと一人で行くこともありますが」



「救難信号の支給って、それって魔獣とか魔物とかが普通に出てくるってことね。辞めさせていただきます」



短い期間だったけど十分なお給料を頂いたからもういいや。

次の就職先を見つけよう。

宿屋マーサで求人やってないかなー、冒険者から話が一杯きけて楽しかったのよね。



「ええっ簡単にそんなこと言わないで、考え直してください。」



「考え直すとかないでしょ。ただの雑用がなんで魔物や魔獣の中に入って行かなきゃならないの。死ぬわ!」



冗談じゃないわ、聖域って魔物の巣窟なんじゃないの?

中心部へ行けば行くほどヤバそうだわ。

人智を超えまくってて、恐ろしいわ聖域。

こうなるとカラさんが人間ってのも怪しいわ。



「別に難しいことでは無いんです。ミルカさんがついてく先輩達はベテランの冒険者ですので、危険を回避しながら仕事をしてますので、心配は何もないですし。嵐が来たって彼らならミルカさんを守りつつ完璧に仕事をこなしてくれますし」



ピタ



冒険者という単語で悪態をついてたミルカの動きが止まった。

子供のころは本気で冒険者を目指して、そのために知識を蓄えようと勉強して、たまたま知り合った冒険者のおじさんに師匠になってもらって、二番目の兄と一緒に鍛えてもらっていたのだ。

基礎体力をつけて、剣の稽古に投擲、弓、体術。そして魔法。

一通りやってみて、まず、魔法は無理だった。出来なくはないが威力が「虚弱」。弱いとかいうレベルじゃなく酷かった。

体力はついたが、剣も投擲も弓も体術も、基礎は出来てるがそこまでだった。

攻撃の威力があっても対応が下手で自身の強さに繋がらなかった為、「素質なし、諦めろ」と師匠に言われた。

そして「護身用としては使えると思うから」と慰められた。



そう、ミルカは冒険者が大好きだ。



「確認なんだけど、一緒に仕事する荷運び兼雑用て冒険者の人たちなの?」



「ええ、現役の冒険者と引退した元冒険者、それに準ずる実力者の人達です。2~3年くらいは同じパーティーの冒険者と一緒に仕事をして貰うことになりますね」



「やるわ!」



冒険者と一緒になんて、こんなチャンス無いわ。

仲良くなろう!








─────────────





ベストが支給された。

よく見ると皮鎧だった。

服に見立てて目立たなくしたデザイン。

上着を着れば分かりにくい。

ブーツも支給された。

脛の側面が少し膨らんでポケットが付いていた。

小さすぎて使い道があるのか分からないポケットだと思ってたら、中は二つに分かれてナイフが2本と薬草が入っていた。

左右にナイフが1本ずつと右が傷薬と左が毒消し。







すっかり傷が治って、体調も良い。

今日から冒険者達と一緒に仕事が出来る!

ああ、楽しみ。

昨日はワクワクし過ぎてあまり眠れなかったわ。

時間には早いけど、待ち合わせ場所まで行っちゃおう。



「カンキツ、行くわよ」





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