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何を知らないのかも知らない

 なんか、痛い。体が重い、のど乾いた。水飲みたい。

寝返りをうったら、全身に酷い痛みがはしり、バッチリ目が覚めた。



「いっだぁ!」



変な叫び声でた。

寝返りを中途半端に止めてしまい、体勢がきつい。

でも、動くとすごい痛い。

動けずにいると、寮のお隣さんの・・・(名前は)・・・同僚の人が部屋に入ってきた。



「ミルカ!目が覚めたのね。心配したのよ・・・・って変な体勢して何してるの?」



「寝返りをしたいんだけど全身いたくて動けない」



私の変な叫び声が聞こえたから急いで来てくれたのだけど、私の変ポーズに呆れられた。



「仰向け、うつ伏せ、どっちになりたいの?」



本当はうつ伏せになりたいけど、きっとそのまま動けなくなるだろうから、



「仰向けになりたい」



そう言ったと同時に容赦なく仰向けにされた。

ゴロン



「ひっぎゃ!」



「ゆっくりやっても、痛いのが長くなるだけだから一瞬でね」



動かすのは一瞬でも痛いのは一瞬じゃない。

うーうー唸りながら、なんでこんな痛くなってるんだろう?と疑問に思ったとたんに、昨日のことを思い出した。








白の廃墟を抜けてホッとしたのもつかの間、現在地が全く分からなかった。

赤馬から降りて並んで歩き始める。

月明りだけを頼りに、白の廃墟を背にして進んでいたら、目の前に白の廃墟が現れた。

どうやら入り江のような場所だったらしく、迂回しなければならないが・・・・


どっちへ向かえばいいのかしら。

前と後ろは白の廃墟だから右か左よね。

とりあえず左へ行ってみようか?

はっこういう時は星をみて方角を確かめるといいんだった。


・・・・・・・・・・?


星を見つめしばらく考えていたら赤馬が歩き出した。前方右斜めに。



「赤馬さん、町までの道がわかるの?」



もちろん返事なんてないのだが。

自力でたどり着く(無駄な)努力をするより、赤馬(帰省本能)に任せたほうが確実かもしれない。

そのまま赤馬の行きたい方向へついて行くことにした。



 どれくらい歩いただろうか、短い時間か、長い時間か。

体が重い。足を引きずるようにして歩く。

でも休もうとは思わない。立ち止まっているほうが怖いから。

わずかな月明りだけではほんの先しかまで見えない。

まばらに生えている木が濃い影を作り、魔物が現れそうな気がして体が震える。

赤馬がいるからまだ耐えていられるのだ。


月が西へ傾いたころに灯りが見えてきた。

近づくにつれて家のような影が浮かび上がる。



帰ってこれた!



早く村に入りたいのに足が重くて思うように進まない。

近づくにつれて、村のはずれに数人の人がいるのが見える。

誰かがこちらに駆け寄ってきて私を強く抱きしめる。

抱きしめたその温もりに、全身から力が抜けいく。

もう大丈夫なんだと安心したら意識を手放してしまった。





そうか、私は気絶しちゃったか。

あの時はわからなかったけど、けっこう怪我をしていたのね。

筋肉痛も、きっと火事場の馬鹿力出しまくってたのね。


痛みを我慢して、腕を目の前に出してみると包帯が巻かれていた。

誰かが手当してくれたんだ。



「一体何があったの?帰ってこないから心配してたのよ。しかも戻ってきたらすぐに気絶して、上着は裂けてボロボロで、腕や背中が傷だらけで」



「心配かけてごめんなさい。白の廃墟で日が暮れてしまって・・・・・・」



言葉が途切れた。

ここの人たちって聖域に魔物がいることを知らないのでは?

夜は町の外に出てはいけないことになっている。村もそうだった。

聖域で働く人で決まりを破ろうなんて人はいないだろう。

私だって破るつもりは無かった。


コンコンコン。


「入ってもいいですか?」


カラさんが開けっ放しのドアにノックしていた。

お隣さんがどうぞと招き入れ、椅子をすすめる。

それは私が言うセリフですよお隣さん。



「具合はどうですか?」



私を気遣いながら、持っていた花束をサイドテーブルに置く。

綺麗な花に釘付けになった。

なんて綺麗な花なの。

どれも見たことがない花でしかもいい香りがする。

聖域固有の花なのかしら?

花束を貰うなんて初めてだわ。

素直に嬉しい。

ホワホワした気分になっていたら、カラさんの一言で一気に冷めた。



「全部薬草なんですよ、傷によく効くんです。すぐに作りますね」



「・・・・・ありがとうございます。そしてがっかりです」



初めてもらった花束が実用品。

いや、薬なんて高価だからすごいお見舞い品なんだけど、なんだけどっ

せめて、もう少しだけホワホワ気分に浸りたかった。


察したカラさんが、たぶん、カラさんにとっては気を使ったのだと思う。

あわあわしながら言葉を付け足した。



「あ~明日、今日のは薬ですけど、明日は花束を持ってきます。普通の花束。何でもないただの花をたくさん摘んできます」



「・・・・・」



「・・・もうちょっと言い方ってもんがあるでしょう。そんなんじゃモテないですよ?」



お隣さんが私の心を代弁してくれたわ。ありがとうお隣りさん、お礼にできるだけ早く名前を覚えるわ。

ついでに言えば、後半はどうでもいいです。



「モテたことはないんですが・・・気の利いたことが言えなくてすみません。」



花を薬として使える部分とそうでない部分に千切りながら、困ったように私とお隣さんを交互にみる。

本っ当に気が利かないわね。

目の前で花束を無残な姿に変えないでほしいわ。

お隣さんの目を見れば、私と同じことを考えているのが分かる。

同時にため息ついたわ。



「私は、仕事に行くんだど、簡単に食べれる物を作っていくわ。食べれるなら食べてね。」



これだけでお腹が一杯になるようにと、小麦粉で作った団子と肉と野菜をたっぷり入れた具だくさんスープを作ってくれた。

カラさんは複数の薬草を一緒に潰して、絞って集めた汁を火にかけて煮つめたものを冷やしている。

ものすごく傷に沁みそうな液体だ。






作っているのをぼんやりと眺めていて、のどが渇いていたことを思い出した。

無理矢理転がされた痛みで忘れてたわ。

ゆっくりと体を起こしてサイドテーブルに置いている水差しに手を伸ばす。

体がギシギシ、筋肉痛もあって動きがぎこちない。生まれたての子鹿のように震えている。

手が届くまえに、カラさんがコップに水をいれてくれた。



「無理しないで、言ってくれればやりますから」



「ありがとう、──ねえ、どうして魔物がいるの?」



カラさんなら何でも知っていそうな気がした。

ふと何かに気付いたような表情をみせ、椅子に座り、飲み干したカップを受け取ってサイドテーブルに置くと質問に答えてくれた。



「よく無事で戻ってこれましたね。怖かったでしょう」



「すごく怖かったわ。居るはずの無いモノがいるんだもの。必死で逃げて、帰ってこれたのは赤馬さんのおかげよ。魔物がいるなんて皆は知っているの?」



「それなんですが、人は勘違いしているんです。聖域とは‘人にとっての聖域’ではありません。始まりの方が住まう場所なのです。自然のままにあらゆる生物が生きています。ただ、人と魔物はいません。いるのは雇った者だけです。ミルカさんも気づいていると思いますが、町にも村にも子供がいなかったでしょう?」



「・・・・・うん」



そこは気づいていた。町でも村でも子供を見たことがない。



「昼間は人を中心として働いてもらっていますが、夜は魔物が中心になって働いてもらっています。ミルカさんがみた魔物は白の廃墟の維持を任せています。雑草の一つもなく、汚れもなくキレイだったでしょう。よく働いてくれています。」



「私を襲ってきたのよ?同じ聖域で働いているのに!」



「それは捉え方、考え方の違いというか・・・魔物と人では同じ言葉を使ってもその答えが全く違っていたりします。あの子たちにとってミルカさんは掃除の対象だったのです。ミルカさんだけでなく、馬も荷も全部」



「全部って私ばっかり狙ってきたわ!?」



「それはミルカさんが馬の主人と認識したからだと思います。きっと先に片付けようとしたのですね」



「ですね。じゃないわ!なにさらっと言っちゃってるかな」



カラさんの話す内容は衝撃過ぎてかえって冷静になるわ。

事実が、外の世界で聞かれる聖域とかけ離れ過ぎてる。

こんな秘密があったなんて。



「昼間なら魔物が襲ってくる事はありませんし、人が近づいたら隠れるよう言ってありますので姿を見ることも無いでしょう」



言ってあるって、カラさんは魔物とも接しているんだ。

そんなことができるのってもしかして、



「じゃあ、カラさんは人なの?魔物なの?それとも偉くなったら関係ないのかしら?」



「人ですよ。偉くはないですね、雑用をしていますから。」



「うっそ、いい服きて雑用はないでしょう」



「雑用ですよ。日勤と夜勤とね、だから夜なのに騒いでいる町を見つることが出来たのですよ。聖域での人の一日は終わるのが早い、陽が沈む前にみんな家に入って町は静かになりますから。町の人達はあなたが戻ってこないと言って、探しに行くかどうか迷っていました。そこへ私が来て」



「・・・・・町の外れに人が何人かいたのを覚えているわ」



「各自家に戻るように言ったのですが。ライナーさんマッドさんは特に心配して、じっとして居られなかったようで、ミルカさんが戻ってくるのを町はずれで待っていたのですよ」



「・・・・・」



「私が探しに行ったのですが、見つける前に自力で戻ってましたね」



カラさんて不思議さんだわ。

聖域もなんだか不思議で不気味な場所に思えてきてしまう。



「魔物がいるってみんなに言いふらしてしまうかも」



「魔物がいることを世間から隠しているわけでは無いので、話しても構いませんよ?ただ、人は魔物に出会うだけで怖がるでしょう。だから昼間に姿を見せないように言っているだけでなんです」



「・・・・・・それなら言わないわ。怖がらす必要ないもの。それに日暮れまでに戻れなかった私が悪いんだし」



「これからは気を付けてくださいね。しばらくは仕事を休んでいいのでゆっくり治してください。それじゃ薬ができましたから、塗りましょう」



「え?」



「あ、動きづらいんでしたね、」



そう言って首に巻かれた包帯を取ってくれる。だけでなく、



「服を脱がすんじゃないっ何考えてんの!」



慌てて服をつかんだ手を振り払う。



「~~~っ」



動いたら筋肉痛が怪我がっ

痛いのをこらえてカラさんを睨み付ける。



「何って薬を塗るんですが、ミルカさん?」



何、分かんない。みたいな反応してんのよ

当たり前みたいに服を脱がそうとするなっ



「どうしてカラさんの前で裸にならなきゃいけないのよ」



「っは、ミルカさん恥ずかしがってるんですか。そんな場合じゃないでしょ、化膿したらどうするんです。魔物から受けた傷を侮ってはいけません。それに背中は一人では無理でしょう」



いやいや、そうだけど、いやいやいや。



「自分でするから」



ガクガクしながら自分で腕の包帯をとり・・・・・ちょっとタンマ。

痛い、ものすごくいたい。これは痛い。見たら余計に痛い。

まるで皮膚をすりおろされたかのように、細い細い傷が血を滲ませながら、肘から手首までびっしりとあった。

すり傷だけど、これは酷い。

逃げている間は分からなかったけど、こんなになってたんだ。

上半身は包帯だらけだから、全部がそうなのだろう。

痛いはずだ。



「そうだ!この子に薬を塗ってもらえばいいんですよ。」



傷をじっと見つめる私にそう言って、ポケットからオレンジ色のフードを被ったアイツを取り出した。



「! なんで持ってきてるのよっ魔物は隠すんじゃなかったの!?」



「昨日、戻ってきたミルカさんのスカートの後ろ側に張り付いていましたよ。その様子じゃ連れてきたわけじゃ無いんですね。それも聞こうと思っていたんですよ。」



「魔物を町に入れるわけないじゃない。それどうすんのよ」



「だから、背中に薬を」



「やめて、これ以上すりおろされたくないわ」



「大丈夫です。この子は自分のボスにそんなことしませんよ。背中の傷に薬を塗るように言ってみてください。ちゃんと言うことを聞きますから」



「言うわけ無いでしょ!これ以上怪我したくないわ。てか、ボスってなによ?」



「この子と勝負して勝ったんですよね?だからミルカさんを格上と認めてスカートに張り付いてきたわけですし。それにほら、ちゃんと勝負した痕が残っています。」



フードを外してみせた頭は柔らかそうな短い毛が生えていて、頭頂部に歯形らしき跡が残っていた。



噛んだわ。これか。



「キュー・・・・」



こちらを見上げてか細く鳴いた。

何その弱弱しさ。

まるで迷子の子猫みたいじゃない。

やめてほしいわ、キュンってしちゃったじゃないっ


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