二番目の兄2
久しぶりに帰ったら、夕食もそこそこに親父と飲みに出かけた。
宿屋マーサに・・・・
ほかにも飲める店があるのだが、この店で働いていた時のミルカの様子を聞きたかったのだ。
店主と女将さんから聞けたらと思っていたのに、予想外に店の客たちがミルカの様子を教えてくれた、の、だ、け、ど、
暴露
この一言に尽きる。
腕に覚えのある、血の気の多い、厳つい、そういった言葉がよく似合う客たちが満面の笑みで楽し気に話す。
「毎日飲みに来てんのに、ミルカのやつ全然俺のこと覚えなくさ。いつまでたっても初めての客扱いさ」
「そうそう、2・3ヶ月くらいしてミルカが名前覚えられないやつだって気づいたんだよな。」
「兄ちゃん、俺はダーエイってんだけどさ、ミルカに他人のフリして聞いてみたんだ『常連客のダーエイがどんな奴かわかるか?』ってさ」
どっと店内が沸きあがる。
客たち全員が知っているぽい。
この反応は、このまま話を聞くとなんか凹みそうな気がする。
─────
ミルカってああいうヤツだからさ、覚えたっつっても偶然かもしれないだろ?
だからさ、
ダーエイの注文を間違えずにダーエイに持っていき、客たちに拍手付きで褒められたのは二日前。
軽い気持ちで、からかってやろうとダーエイが聞いたのだ。
失礼ね、ちゃんと名前を覚えたわ。誰にも聞かなくてもちゃんと本人のテーブルに料理を持って行ったんだから。
威張って言うような事ではないのだけど、ミルカにしてみれば早くに覚えれたようでドヤァな態度になっている。
どんな顔してた。言ってみ?
ニヤニヤしながら聞いてみたが予想外な回答がきた。
えーっと、背が高い
お前からしたら皆背が高いだろ
髪が茶色だっけ。
顔はよ?どんな人相かってっ聞いてんだよ。
・・・・・・・・・・・?
マジかよ!?
みっ、見ればダーエイさんだって分かるわっ
分かってねーだろ!
──────
「もう俺、涙目になったよ。魔獣に一撃もらった時よりもダメージくらったわ。」
「・・・・娘がすまないことした」
「・・・・妹が・・・すまん」
凹んだ。
家族として申し訳なく。というか何をやってるんだ、いや、やっていないのか!?
分かっていると思っていた俺が間違っていた。
まさかここまで酷いとは。
「あの子はそれだけじゃないでしょ。それが心配でねぇ」
女将さんが言葉を濁す。
方向音痴の事を言っているのだとわかったのだが、客たちはそのことは知らなかったようで、女将さんに何があったのか話すよう催促する。
女将さん、俺らがいるから遠慮してるのかな。
もういいよ、黙っててもミルカの株はあがらない。
そもそも底辺だから下がりようがないよ。
俺も親父もウンウンと頷き、女将さんに意を伝える。
「一度だけ、ミルカと一緒に買い出しに、西の市場に行った時のことなんだけどね。買い物が終わって、西の市場の中央にある噴水のところで休憩をしながら喋っていたの。その時にミルカが、自分は方向音痴だっていうのよ。だから私、じゃあ、ここから店の方角を指さしてみてって言ったの。会話の流れでね、軽く言っただけなの。」
「真逆でも指さしたか?」
店主が言う。西の市場からこの店を一直線につなげると指は東北東を指す。
女将さんは言いにくそうに、はぁっとため息とともに、
「・・・北北東を指さしたの。」
店内に微妙な空気が流れる。
だろうね。言葉が出てこないよね。間違い方に豪快さを求めはしないけど、これじゃ帰ってこれないよね。
「でもね、あの子にこの店まで道案内させたら迷わずに帰ってこれたのよ。」
フォローする女将さん。
生まれた時から住んでる街だからね、さすがに何度も何度も通ってきた道を間違えたりしない。
妹は道を覚えたとしても方向が全く分かっていない。
「あいつは、方向感覚がおかしいならなぁ」
しみじみと親父がいう。そして続いた言葉に店内が騒然となる。
「今は、荷馬車を使って荷物運びの仕事をやっているんだが、問題も起こさずよく頑張ってるよ。」
俺も、手紙で知った時は冷静じゃいられなかったから皆の気持ちはよくわかるよ。
ああ、やっぱり兄ちゃんは心配だよ。
妹に過保護すぎると友人から言われたことがあるが、実態を知れば決して過保護ではないと思う。
ミルカの仕事ぶりを知りたかったのだが、聞いてしまった今では知るんじゃなかったという後悔が半分、店の人や客たちに可愛がって貰えていたと知れたことが嬉しいのが半分。
そしてこれから先、ミルカがどうか珍騒動を起こしませんようにと願う。