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土地の激しい変化は豊作の兆しでもある。

凍え死ぬかと思った。カンキツが羽を広げミルカをすっぽりと包み込んでくれたから良かったけど、真冬のしかも豪雪仕様な服など持っていない。

だけどすべての季節の服を準備するなど荷物が嵩張りすぎて無理がある。彼らのように収納カバンが欲しい。

今はカンキツのお腹を借りるとしても、いつか自分の収納カバンを持ちたいわ。

高価でただの一般の、普通の、どこにでもいる平民が、一生働いても買えるかどうか。

しかし、ここでのお給料はいい。

どこかのお屋敷で雑用係とかメイドとか料理人とか執事とか給料のいい貴族んちで──(やってみたい職)──をしても、きっと倍以上の差があるだろう。

長距離の荷運び兼雑用係りはさらにお給料がいいのだ。

まだ長距離になってから数日しか経ってないから初給料日をとても楽しみにしていて、金額が多ければ、これからも移動中に手に入れた素材を売っていけば、容量の少ない収納カバンなら買うのも夢じゃないかもしれない。


夢見心地にほわんとなっていたらひと際強い風が入り込み、現実に引き戻される。

冷気に頬が裂かれるような痛みを感じて、両手で頬を温める。

カンキツの羽の中は温かいが少しでも外気に触れるとすぐに冷えてしまう。頬を温める両手の指先が冷たくなっていくのが分かる。


収納カバンは必須だわ。

でなければ聖域の長距離荷運び兼雑用係はやっていけないと身に染みて思う・・・・現在進行形で。












吹雪の中に入って4時間後の今、シャツに沁み込んだ汗が絞れそうなほどになっている。

・・・・・・・・暑い。いえ、熱い。

じりじりとキツイ日差しに温い風。

涼しさの欠片もない風が吹いてもちっとも嬉しくない。


吹雪が終わると知った時のあの気持ちを思い出してしまう。

なぜ、楽になれると思ったのか、凍てつく寒さに比べればどれもマシだと・・・・・・







 吹雪の中を進み、前方からサラサラの雪に混じって湿気の多く重たい雪が混じりはじめた。

この豪雪が終わるのかもしれない。最悪は町の近くまで豪雪かもしれないと覚悟を決めていたが、小さな土地の範囲だけで、別の気候の土地にかわりそうだ。

さらに進んでいくと吹雪の中でもひと際目立つ真っ白な場所が現れた。

進行方向を少し脇にそれるがこの吹雪の中で見えるのだから距離は離れていないハズ。



「なんだあれ。湯気・・・温泉かな。なんかあるよー。ちょっと見てこようか?」



交代で御者と荷馬車押しをしていてマドドが御者台から後ろへ声を掛ける。

温泉!?

浸かりたい!無理なら桶に汲んで手足を温めたい。

ぱっと反応したミルカはカンキツの羽から顔だけだして期待に目を輝かせた。

でも寒いから幌の中からでる気は無い。

温泉があるならでるけど。




「そうだな、すまんが見に行ってくれるか?」



「おー、任せて、行ってくる。ミルカ、あれが温泉だったら一緒に入ろうなー」



「うっ・・・、別々で入るわよ」



寒さに思わずウンって言いそうになって焦る。

あっぶなっ。

で、ウキウキしながら行って、戻ってきたマドドはしょんぼりしていたわけだが。

温泉ではなかったのはその様子から伝わってくる.

でも口を開いたマドドから出た言葉は予想外だった。



「土地のつなぎ目だった。雪がなくなってて入れる温泉じゃなかった」



嬉しい方向に予想外だった。

吹雪が終わる!早く雪の外へ出たい。



「喜ぶところだろ・・・・・・そんなにミルカと一緒に温泉に入りたかったのかよ」



ぽんと肩に手をあてて慰めるトーゴにマドドはちょっと涙目でこくりと頷いた。


一緒に入るわけないじゃない。

落胆加減がカンキツにそっくり。

似た者同士なのかしら、こんなトコが似るなんてやだわ。






雪が終わると喜んだのは一瞬だった。

まさかこんなに暑いとは・・・・・解けた雪が灼熱の太陽で解け、さらに境目に高温の温泉が噴き出していたわけで。

さすがに豪雪と灼熱の境目は両方の気候が交じり合って楽だった。束の間だったけどね。

吹く風の向きが変わると、熱風から肌が切れそうな冷気が体を叩き付け、熱風で温かくなった濡れた服が一気に冷えて体温、体力を奪っていく。

均等に混ざってくれればいいものを、極暖と極冷の風が乱舞する。


足元はぬかるんでいるが、雪で馬車が立往生する心配はない。

馬も体力を奪われ辛そうだが、無理矢理走らせて、とにかく境目から遠ざかる事にした。



これ、帰りはどうするのかしら・・・・灼熱で体が汗で濡れたところに豪雪の地へ入る?

凍るわ、自殺行為だわ。



アソラルさんに再び魔法を掛けてくれて体感温度が和らいだけど暑い。

さらに氷を作ってもらったけど、解けるのが早い。口に入れて、残りは桶に詰め込んで大判の布を濡らして頭から被る。だけど解けて水になるとお湯になるまであっという間。

もう一度、氷を作ってほしいのだけどアレを見てしまうと頼みにくい。

運べる以上の大量の氷ができてしまう上に、攻撃魔法の氷柱は地面に深い穴をあけてしまうから、通るであろう見知らぬ荷運び兼雑用係に迷惑をかけてしまうのは容易に想像がつく。


こんなところで脱輪したらシャレにならない、きっと誰も通らないでしょうから。


ちなみに、ミルカは知らないことだが、ナナシ村で氷柱で開けまくった穴は、氷が解けきってからアソラルが元通りになおしている。





周囲を見渡せばまばらに生えている木はどれも枝を横に広げて、葉は申し訳程度しかなく木陰が少ない。

休憩したいがいい場所が見つからない。

馬と人を太陽から隠してくれそうな木がなければ涼がとれそうな川や池もない。



「もうだめだ暑い。休憩しよーよ、馬も休ませてやりたいんだ。なあ、いいだろ?ミルカも休憩したいよな。な?」



だるさ全開で自分の馬車からミルカのいる幌に向かって休憩を連呼する。

マドド、私も休憩したいわ。できれば涼しい場所でね。

暑くて口を開けば体内の水分が失われそうな気がして喋る気になれず、ただ頷く。

ミルカの足元で両手足を投げ出してぐったりしているカンキツは死んだように動かない。




比較的葉の多い木を選び、それでも木陰は小さくてヨルロの羽を枝に広げ影を作って、やっと一息つくことができた。

何もする気が起きなくて、地面から照り返す太陽の熱から布で身を守る。顔も隠す。

私はアソラルさんに凭れかかり、私の袖を肩までまくり上げた左腕にはカンキツが引っ付いる。そしてズボンを膝上までまくり上げているのだが、私の右足を枕にしてマドドが自分の服を腹まで捲りあげて腕を絡ませている。




・・・・・・・・・・・・・・なにこの状況。



「気温が高すぎると、人とくっついていた方が涼しいなんて初めて知ったわ」



「体温以上に気温が高い時はね、見た目は暑苦しいですけど。でも酷く乾燥している気候でやってはいけませんよ」



アソラルさんも袖をまくり上げていて、上着のボタンを外して楽にしている。

後ろからミルカの前に腕を回して。

その腕と自分の腕をぴったりつけているミルカ。

肌に直接触れるとひんやりして心地よい。

顔を隠している布を持ち上げてヴェルデさんとトーゴさんを見ると、上半身裸で互いに後ろを向き、背中をつけてもたれ合っている。

二人とも溶けてしまいそうな顔をしている。

きっと私もあんな顔しているんでしょうね・・・・・暑すぎて息苦しい。

左腕に張り付いてるカンキツは涼し気に目を細めているが、こちらからすれば毛皮が暑い。カンキツのお腹が触れている部分はもはや熱源。

大人げない事はしないけど辛い。




実は、休憩の準備をしている時にヴェルデ、アソラル、トーゴが馬車に隠れてジャンケンしていたのを見てしまっている。私は、何をしているのか分からなかったけど、背中合わせに涼んでいる二人をみて理解した。

そして負けたアソラルが私とカンキツとマドドと涼んでいるわけね。

ヴェルデさんはジャンケンに勝てない人だと思ってたけど、勝つこともあるのね。アソラルさんが静かにショック受けてたなー。負けると思わなかったのね。


見れば見る程に、あれが一番涼しそうなんだけど、私があれをする訳には・・・・・・

自分が男だったら良かったのにと二人を羨ましく見つめる。





目的のアリエナ村は今日中にたどり着く距離だった。

地図で確認したら、ヴェルデさんが地形は変わっているが難所はなく行けそうだと言っていた。

気候が穏やかだといいなってボソリと呟くトーゴの声に全員がため息をもらしたが、タイミグが合って大きなため息に聞こえて、顔を見合わせた一瞬後笑い声に変わった。











───────────────




アリエナ村にたどり着いた時にはすでに辺りは暗く、西の方がうっすらと色を残すばかりになっている。村長への挨拶もそこそこに荷運び兼雑用係のために用意されている空き家に入り、倒れ込むようにして床に寝ころび翌日まで誰も目覚めなかった。


というのも、トーゴのつぶやきが嫌な方に的中したから。


新芽が芽吹き、風が吹けば肌寒さはあるが柔らかな日差しに、地面も太陽の日差しを照り返すような事もなく小さな花を咲かせ。

吹雪と灼熱という体に厳しい土地が穏やかなものに変わりホッと息をつく。しかし、それは長くは続かなかった。

ふわりと何処からか匂いがした。と思ったら、小さな花も雑草も無くなり黒い地面が剥き出しになり、その地面がぐらりと揺れた。

土が黒と思っていたら羽虫が地面いっぱいにいたのだ。馬車が通るのをきっかけに一斉に飛びだしたのだ。毒はないし噛みつくこともないが気持ち悪さは一級だった。匂いも羽虫が飛ぶと同時にきつくなってはっきりと異臭とわかる。

馬も嫌がり歩みが止まる。

払ってもその手に羽虫が止まり瞬く間に手が黒くなる。なんとか馬車を走らせるが地面はどこまでも黒く、通った道にいた羽虫は漏れず全部飛び出していく。

アソラルに結界を張るようにヴェルデさんが叫んでいたが、すでに荷馬車に、体に、まとわりついている状態で結界を張っても虫まで結界内に入ってしまうため使えなかった。

たいして走らないうちに、我慢の限界がきたカンキツが雷属性のナニかをぶっ放すことで解消された。

黒いカーテンが落ちるように羽虫が落ちていく。

馬車の周囲の羽虫がすべて落ち、黒以外の空間が生まれた。

すぐさま二台の馬車が入る程の結界を張る。

ちょっと体が痺れたが周囲の虫が全部落ちたから誰も何も言わなかった。


私はそっとカンキツの頭を撫でていた。


結界のおかげで羽虫から守られているが、今度は結界の形がハッキリわかるほど虫がたかり黒い壁ができて前が見えない。



「結界の内側からの攻撃ってできるの?」



「もちろんです。全力でやっても壊れませんよ」



「カンキツ、やっておしまい」



「キュ!」












──────────────




眩しくて目が覚めたミルカは、窓からのぞく青空をみて欠伸をする。

まだ寝ていたい気もするが仕事がある。起きなければ・・・・体を起こして首を巡らすと家に着いた途端に寝そべった姿のままのヴェルデ、アソラル、トーゴがいた。

微動だにせず、まだ起きそうにない。


エプロンのポケットを触ると何もなかった。

村に入る前からポケットに隠れていたカンキツと、外見は人にしか見えないマドドがいない。マドドは人に見えるからいいとして、カンキツは何処へ行ったのか。



食べ物でも探しに行ったのかしら。人の村では大人しくいててほしいわ。



のそりと体を起こし3人を起こさないように静かに外にでる。

もうじき太陽が真上にくる。両手をあげて思い切り伸びをする



「んーーーー・・・・・・、ん!?いたたっ」



腕を動かすと痛みを感じて、袖をあげてみると赤くなっていた。

やけど?

灼熱の太陽が照りつけていた時だろう、日焼けがすぎて軽く火傷になっていた。

太陽の日差しで火傷するから気をつけろと注意されていたが、ミルカが育った国で日焼けはしても、太陽で火傷するなど聞いたことがない。その為イマイチ分かっていなかった。



「これが日焼けでなる火傷。痛いわ」



幌の中にいたが暑くて風がはいる入口にずっと座っていたから、袖まくりしていた腕が赤く日焼けしていた。他に赤くなっている部分がないか気になって動いてみたが、肌を出していた両腕だけだった。

視線を前方へ戻すと緩やかに吹く風が雑草を揺らしている。とても心が落ち着く。



───ふ。なんだろう、とても年を取った気分だわ。




昨日は1年分の季節と未知の土地と気候を1日で──正確には数時間で──体験した日だった。

あまりに激しい変化にキレそうになっていた私を落ち着かせるかのようにマドドが誰も知らない情報を話してくれた。



「土地の変化が激しいほど豊作になるからさ、今は我慢だよミルカ。味も格段に上手くなるし珍しい食材が採れたりとか。いい事が起こる前兆なんだよ!変化が落ち着いたら、俺、美味しい料理をミルカの為に作るから楽しみにしてて」



聖域に大きな変化が起こっている。すでに聞いたことだがマドドの新情報で悪い事ばかりではない事を知る。それでも荷運び兼雑用係からすればこの期間の危険度が高くなるのに変わりはないが。

魔獣も多く出没するがマドドはそれもオイシイという。


しかし、マドドは私が食べ物で釣られると思っているのかしら。

子供じゃないんだから。













さて、依頼だが。

まずは、虫の死骸だらけの馬車を掃除するというところから始めて、すぐに片付いたのだが板目にハマった虫は潰れて塗りこめたように詰まってしまっている。恐ろしく柔らかいというか弱弱しい虫で摘まもうとしたら潰れてしまう。布でサッと払ったら触れた虫が全部潰れて控えめに悪臭を放っている。


カンキツの掃除技術を駆使しても目詰まりした虫の身が残ってしまい、板目の虫を掻き出すのに使っていたナイフ───カンキツサイズ───で板に モ ヤ ス ? と刻み込んだ。カンキツが虫に負けた瞬間だった。




改めて村長に依頼内容を聞いた後、村長が用意してくれた弁当をもって出発する。

ヴェルデさんが村長と会話している間に、マドドが収納カバンから出した布を村人と物々交換していたのだが、村人の身長の低さ(平均的な身長)にほっとする。

ナナシ村の人たちを見慣れてしまっていたから、楽し気に布と交換している彼らをみて安心する。


身長が近いっていいわー。











──────────



村からそれほど離れていない場所にある湖で魔素を含んだ石を集めることが今回の仕事だ。魔素といっても含有量が少なく魔石と呼ぶこともできないようなモノだが、石自体が様々な色をしたものが多く、装飾品に使われるのだという。

おまけに、ちょっとだけ魔素があるからちょっとだけ只の装飾品より価値があるらしい。いい事があったりお守りになったりと・・・・・効果は微妙だけど。


その湖は大きく、深く、水生の魔獣がいるから村人では石を集めるには危険で、こうして冒険者の荷運び兼雑用係りに依頼している。

実際にヴェルデ達も何度か依頼を受けている。

今回も、この村だからそうだろうと予想していたらしい。




村に近いため、気候は安定して空は高く、この辺りの気温は秋の初めといったところか。

暑すぎず、けれど寒くもない。


湖に近づくにつれて固い地面が、小粒の石まじりに変わっていく。

たまに赤や青といった小石が落ちているから、集める石の色なのだろう。



「ねえ、色付きの石が落ちているけど拾わないの?」



「湖に浸かっている石にしか魔素が含まれていないんだ。この辺の石では使えない」



「湖にいる魔獣の影響で石に魔素が溜まるんだ。だから村人じゃ危険で石を取りに行けない訳だ」




湖が見えてくるとすぐに荷馬車を止めた。50mは離れているだろうか。

もうちょっと近くで止めてもいいの思うのだけど・・・・・



それはとても大きかった。対岸が見えない。海は対岸が見えないほど大きいと聞いたことがあるから、そうではないのかと傍にいたアソラルに尋ねたが湖だと答えが返ってきた。

いまいち納得できないでいると、



「簡単な見分け方は、水を飲んでみて塩辛いなら海、ただの水なら湖、池、川などですね。例外があるかもしれませんが、基本、塩辛いのは海だけです」



飲めばわかるのか。

3人は素早く準備を始める。

私、カンキツ、マドドは湖の際で石を集めることになった。

湖の底に棲む魔獣が現れた時にすぐに避難できるようにだ。



「まあ、カンキツとマドドがいるなら波打ち際近くなら潜っても大丈夫かもしれんがな」



ちらりとカンキツとマドドを見やり呟くヴェルデは意味ありげというか、ミルカと目を合わせて困ったような顔をする。

寵愛に誘われて魔獣が襲ってくるかもしれない。水の中では守り切れないのを心配しての事なのだがミルカには自覚が足りていない。むしろ、知ったばかりで忘れがちなのかもしれないが。


なにを困った顔をしているのか。首を傾げていると頭を撫でられ、石を入れる袋を渡されこれ一杯に入れろというと、3人共が袖なしのシャツと丈のないズボン姿になってさっさと湖に潜ってしまった。

気をつけての一言をかける間もなかった。

正確には初めて見るズボンにあっけにとられてしまった。

泳ぐのだから布面積が少ないのがいいけど、それにしても。


筋肉がしっかりついた足を全開で晒して・・・・3人共似合わないよ。












「水が大きく動いてる。川の水が流れ動くけど湖ってこんな動き方をするのね」



寄せては返す波の動きをじっと見つめながら呟く。誰かに言いたいわけでは無いようだが、初めて見る不思議な動きはいつまでも見続けていられる。



「実家近くの池じゃ風が吹いた時しか水面は波立たないわ。それも小さくて、風がやめばすぐに静かになってしまう。湖は風がなくても水面は揺れるのね。海もそうだと兄ちゃんに聞いた事があるけど」



今度、兄ちゃんに会ったら教えてあげよう。

知っているかもだけど、聖域の湖は知らないのだから、綺麗な石と一緒に土産話にしよう。

いつも兄ちゃんから土産話を聞かせてもらっているから、私が聞かせてあげる立場になるのも悪くない。

聖域内での出来事を外部に話すことは禁じられえていないしね。

自発的に話せないわって思う事はあるけど・・・・魔獣に襲われたとか言えないわ。



「ミルカ、石集めしないのか?綺麗だぞ」



マドドが両手に一杯の綺麗な石を見せてから袋に入れる。

波を見つめていたらいつの間にかぼーっと考えごとをしてしまっていた。

スカートの裾を腰辺りまで上げて帯をするように巻いて結び、ズボンも膝まで折りあげて濡れないようにした。足を水につけなくても綺麗な石はゴロゴロと落ちているが、取りやすい場所にある石は取りつくされた後の魔素がほぼ無いカス石なのだという。


一歩湖に入ると思ったより冷たくない。もっと冷たくて震えるくらいは冷えていると覚悟したのに拍子抜けだ。袋を片手に石を拾うが、魔素含有量は石の大きさに関係が無いから片端から拾っていく。



「ちょっとこれは楽しいかも。腰が痛くなるけど見る間に袋が一杯になるのってやりがいがあるわ」



服が濡れるのなどお構いなしで石を拾いまくるマドドは、袋を水底に沈めて一気に石を掻き込んで、岸にあがって選別するを繰り返している。

綺麗な石でも捨ているから魔素が含まれていないのだろう。



「なるほど、だから取りやすい場所に落ちている石はカス石なのね」



となると、やはり潜ったほうがいいのね。カンキツはサイズ的に潜るしかないけれど、どこに行ったかしら?見回しても水面にカンキツの姿は無く、当然だが岸にもいない。

太陽の光が反射して水の中は見辛く、色とりどりの石が光を反射して輝いているばかりだった。



「カンキツー?」



潜っていたら聞こえないだろうが、一応呼んでみた。


チャポン、ちゃぱちゃぱ・・・・・・・・・・


水面から顔を出してカンキツがこちらに泳いでくる。

やっぱり潜っているのね、袋を持って───なかったけど、お腹についているんだったわね。カンキツって実は優秀な気がするのよね、山盛りの石を取ってきそうだわ。


案の定、カンキツは山盛りの石を取ってきた。

選別するまでもなく、魔素含有量の多い物を選んだに違いないからミルカが持っている袋に入れ替える。

もちろん、先に袋に入っていた石はすべて足元にブチまけてから。

ハッキリ言って魔素がって言われても感知能力は一番低いと自覚しているから、自分が集めた石は選別してもらう必要があった。



「私が集めた石を選別してね。カンキツなら間違いなく分けてくれると信じているわよ」



ニコーっと笑顔を向けると完全にワンコ化したカンキツが大喜びで石の選別を始める。

段々とカンキツの扱いが分かってきた。

別に褒めなくても、しっかりと仕事をこなすし、そのレベルが高い事も今までで理解したのだが褒めると分かりやすく喜ぶ様がミルカの癒しになりつつあった。

尻尾を付けたい。


石の選別の結果は、まあ、ほとんどがカス石だった。

知ってたし!



「あーあ。全然だったわね。私は数で勝負するしかないか」



石の入っていない袋を持って再び湖に足をつけた。

はずのなだが、水が結構引いている。

あれ?っと思うより早くマドドに腕を引っ張られ、波打ち際から離され急いで靴を履かされて。



「靴くらい自分で履けるわよ、何、魔獣なの!?」



慌てて靴を奪い自分で履きながらカンキツを見れば、湖とミルカの間に入り、水で濡れた短い毛を逆立てて水面を睨んでいる。

徐々に波が荒くなっていく。

マドドも同じく水面を睨みながらミルカに危険を伝える。



「湖の底を泳いでいたヤツが、エサを見つけてあがってきてるよ」



エサって、それ私たちの事よね?

湖に入った3人は大丈夫なのかしら。慣れているようだったけど・・・不安げに湖面を見ているとトーゴが以外に近い場所から顔を出した。

と言っても、湖は岸から5mも離れると途端に深くなり足が底に付かなくなってしまう。


次いでヴェルデとアソラルも泳いでこちらへ向かっているのが見えた。










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