二番目の兄
行商人から報酬をもらって、実家へつづく大通りを歩いて戻ってきたんだと実感する。
2年ぶりの街はあいわからず活気があり、行き交う馬車も多い。とくに聖域へ訪れる人が乗る馬車が目立つ。今も目の前を聖域へ来る人を乗せた馬車が3台と、それに続く献上品を乗せた荷馬車が5台大通りを北へ向かっていく。
聖域へ行く馬車はすべての国々からここフィン王国へやってくる。
馬車と荷馬車はそれぞれの国で用意されるが、その外観は統一されていて聖域へ行く馬車であることが一目で分かるようになっている。
盗賊であろうとそれを襲ったりはしない。
不思議と魔物なども襲ってはこないと言われている。だからといって、魔物の縄張りを通り抜けようとするバカはいないのだが。
世界のすべてが始まった場所「聖域」は絶対だ。
その中の仕組みなんて誰も知らない。聖域で働く人たちがいるはいるし、その人たちから話を聞くことはあるが、下働きといった内容ばかりで本当に知りたい情報はない。
誰もが知りたいと思う、その聖域で存在するはずの「始まりの方」を知らない。
最奥まで入ることを許可される人がいないのだろうか・・そばで仕えるモノは人ではないのかも知れない。
その聖域で妹が働いている。
数ヶ月前に、手紙を足に括り付けた白い小鳥が俺の肩に乗ってきた。
その白い翼の先に向かうほど青くなり、目も同じ空の色をしていて美しかった。
手紙を取ってみると俺宛だった。
冒険者の俺の所在なんて知るはずもない妹から手紙が届いたのだ。驚いたなんてもんじゃない。
その時の俺は行商人の護衛として、フィン王国をでて都市国家ドレアナへ向かっている途中だったのだから。
手紙には、聖域で働いていると書かれてあった。
誰の悪戯かと思ったが、文字はミルカのものだった。
手紙を読み、内容が理解できなかった。
もう一度読み返し血の気が引いてきた。
読み直し3回目でミルカのことで頭がいっぱいになった。
妹の可哀そうな部分を知っていたから。
不安がじわじわと心に広がっていく。
本気で心配した。
今すぐ戻ってやりたい気持ちになった。
いや、この手紙がここへ届くまでに絶対やらかしている。
聖域のことなんて知らないが最悪、不敬罪でどうにかなっている可能性も。
焦りまくる俺に周りが宥め、雇い主が、とにかく返事を書けと紙とペンを目の前に出され、なんとか返事を
書くことができたが、内容はほとんど覚えていない。
ミルカへの返事というより、陳情だったような気がする。
手紙を出して二日後、またその鳥がやってきた。
ありえない速さだった。
聖域はフィン王国の北ある。俺がいたのはフィン王国を南下して、一ヶ月かけてさらに南へいったところにある山だ。
その距離を二日で往復などありえない。誰もが驚いていたがそこは「聖域の奇跡」の一言で片付いた。
そして手紙の内容はというと、
―――兄ちゃんこそ私に対して不敬でしょ!
以下延々と俺に対しての罵詈雑言が散りばめられていた。
手紙の最後に、上司だと思われる人の一筆があった。
―――ミルカさんは良く働いてくれています。
あなたが心配している、可哀そうな部分は皆の娯楽となっています。―――
最後の一文は意味が分からなかったが、ちゃんと仕事ができているようで安心した。
できれば俺がこの街にいる間にミルカに会ってみたいと思っているのだが、まずは親にミルカの近況を第三者目線で聞いてみよう。
土産に、フィン王国ではなかなか手に入らない珍しい香辛料を手にれることができた。
きっと親父は喜んでくれてるだろう。
家族に会うのが楽しみだ。
妹にあまい2番目の兄ちゃん。
世話を焼きすぎたり、心配して口を出すとミルカに怒られるので
普段は気付かれないようにコッソリと世話を焼いて心配もしていたのに、今回ばかりは冷静さを失いミルカにまともな返事を書いてやれなかったのだった。