丈夫すぎる脳筋に(静かに一瞬だけ)キレた
やべえ、3対3の方がぬるいわ。
3対1だと他2人に遠慮する必要がないって事かよ、ちょっとは楽になれると思ったのに甘かった。
砂時計をみればまだ半分残っている。
時間たつの遅ぇ
攻撃を両手で受け止めきれなくなってきて、踏ん張っても体が後方へ飛ばされる。
こっちは疲れて動きが悪くなってきてるのに、向こうは動きにキレがでてきている。
新しいおもちゃを手に入れた子供のように嬉しそうだ。
おいおい、手加減を忘れてるんじゃないだろうな。俺達死ぬよ?
息が上がって体が重い。
「はぁ、はぁ、疲れましたね。ヴェルデ、トーゴ・・・・・少し試したいことがあるので、彼と一人でやらせてもらえませんか?」
心なしか目が据わっているように見えるのだが、心なしかアソラルが纏う雰囲気が冷たく感じるのは気のせいだろうか。
爆弾告白されたばっかだからなぁ。全力を出したいってことか?
ヴェルデを見れば頷いている。これは同じことを考えてるな、よし、任せた!
「おー、いいぞ。俺たちは休ませてもらうわ」
ぺたんとその場に座り手をひらひらとさせ、観戦の体制に入った。
ヴェルデも息があがって話すのが億劫だといった表情でその場に座り込む。
「ふふ、ありがとうございます」
アソラルだって息が上がっているというのに口元に笑みがこぼれ、剣を右手から左手へ持ち変える。
まるで剣を鞘から抜くような仕草をして柄から切っ先へ右手を滑らすと、淡い光が剣に纏わりつき陽炎のように揺らめいている。
魔法を使うことにしたのか。ちょっとやばくね?氷柱で埋め尽くしたのを思い出しちゃったよ。
相手も満面の笑顔だったのが、その瞳の奥に鋭さを宿すし、純粋に盛り上がっていた空気が一変する。
音もなく地面を蹴り懐へ一気に入り込み魔法が帯びた剣を振るう。それは一瞬のことだった、下から振り上げた剣は空気を切り裂き空気が激しく乱れる。流石というべきか、一瞬の出来事に一瞬で反応し回避する相手。まさに言葉の通り空気が裂けたのだ。
正面に剣を振るったら後方で観戦してるやつまで届くんじゃないか!?
互いに距離をとり体勢を整えるが、矢継ぎ早に魔法を行使する。緊張する相手に防御魔法をかけたのだ。しかも裏表を逆にして彼を包み込んでいる。これでは結界の外側へ出ることができない、逃げ場を失った彼と一緒に、もう一つ結界内に閉じ込めたものがある。それは圧縮された空気を閉じ込めた小さな球体───が閉じられた空間で解けて、爆風がおこり彼は結界の内側に叩き付けられる。余波が結界を突き抜け砂煙が巻き起こり視界を遮られ何も見えない。
少し試したい事ってコレか?強力すぎだろ手加減する気が無いのか!?
思い切り結界の壁に叩き付けられた彼は・・・・・・
「ぐっは・・・・なん、だ?」
あ、生きてる良かった。ってか丈夫だな、俺だったら気絶はかるいぞ。
やられた彼は何が起こったか分からないようだ。それも仕方がないだろう、だってアソラルは剣に魔法を帯びさせた以外は特に何もしていない。そう、魔法を使った素振りを見せていないのだ。無詠唱って怖え。
わざと最初に魔法を使ってるって分かるように見せてから、以降の魔法は無詠唱で行う。そりゃ不意を突かれるわな。無詠唱で同時に2つの魔法を使ったように見えたし。うーん、本当に今までは実力を隠していたんだなぁ。強いのは大歓迎だぞ、仲間限定でな!
ドゴォォォ
凄まじい蹴りがアソラルを弾き飛ばすのが視界の端にみえた。うお、ちょっとよそ見してたら展開が!?
相手の名前知らねぇけど、すげーなアイツ。
結界を張っていたのにそれごと飛ばされている。非常識な。結界ごと蹴り飛ばすって、人じゃないだろ・・・・人外だわ。バケモンかよ。結界を張ってても衝撃を抑えられないほどの強さを見せる彼は、アソラルが魔法を使ってきたことで本気になったようだ。手加減がなりを潜めて、気迫が殺気に近いほど恐ろしいものに変わった。目は笑ってるけど爆風の衝撃を受けておきながらすごい余裕だな。体力を削られたはずなのに。
真っ直ぐに突っ込んで行く彼に、まだ距離がある段階で剣を振り下ろし空気の刃が彼を襲う。難なくそれを躱し左からアソラルの腹めがけて拳を繰り出すが、またもや両者の間で爆風を起こし互いに飛ばされ距離をあけた。魔法を使うアソラルに接近戦は不利だから、自分まで吹き飛ばされながらもいい距離を保つ。
結界張ってるからって自分にも容赦ない戦い方をするな。アソラルってそんな奴だったっけ?
しかし、何組も手合わせしてすでに体力が激しく消耗している状態で、息が上がって苦しそうなのに変わりは無く、いつもなら慎重に相手の様子を窺うのだが、今は積極的に魔法を放っていく。
氷柱を幾つも出現させ、その柱から無数の槍が放たれ彼を襲う。
その状態を維持しながら、両の掌を胸の前であわせ、ゆっくりを左右に開くとその腕の間に大量の水が生まれ、空中に浮かんだままでいる。アソラルの指が水をはじく。氷柱の間を氷の槍を避け続けている彼に向って凄まじい速度で水の礫が飛び掛かる。全ての水が無くなるまでに必要な時間はわずか数秒。
周囲の氷柱も槍も地面も全てを破壊していく水の弾幕。
無詠唱で矢継ぎ早に繰り出す魔法は圧倒的で声を出すものは誰もいなかった。
次の瞬間、ちょっとした悲鳴が上がった。
アソラルを中心に外側へ、場を十分の広さをあけて観戦してた人々の所まで氷の柱が地面を割いて迫ってきたからだ。
誰かを狙った氷柱ではないので簡単にかわし、誰も傷一つ追うことなく安全圏まで後退したのだが、アソラルの口が「あ、しっぱいした」と動いたのを見逃さなかった。
何を試してやがるんだ・・・・・
アソラルは終わったとばかりに大きく息を吐き、乱れた髪をかき上げる。
砂時計はすべての砂を落としている。
氷柱が崩れ落ち、氷の槍も折れ砕けちり土が抉れ水と混ざりドロドロになった小山に向かって静かに声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
いつも通りの話し方のアソラルに、呆然としていた自分に気が付き埋まった彼を助けに走る。
大丈夫な訳ないだろ。周囲からも駆け寄る姿が見える。砕けた氷柱を取り除きながらどうか生きていますようにと、無神論者のトーゴが何かに祈りを捧げながら、ちらっと横にいるアソラルをみると普段通りの彼がそこにいる。
「アソラル、使う魔法を選べよ、死ぬだろコレ。誰か回復魔法使える奴いるか?」
「爆風以外は直撃しないようにしたので死ぬことはないはずですが。出来きもまずまずでしたし」
「物理的に直撃してるだろ。あと、まずまずって単語が怖ぇーぞ」しっぱいしたって口が動いたの見てたんだぞ。
ボケツッコミしてる場合じゃない。氷の塊をどけていくと気を失った彼が見えてきた。引っ張り出すと、あちこちから血がでているが大した怪我ではなさそうで一応は安心した。
────────────
俺からすればえげつない魔法の連発で引く思いなのだが、なぜかアソラルはモテている。原因はナナシ村の皆さんが脳筋だから。いや、皆さんというと失礼だな、大半の皆さんと言い直しておこう。怪我をした人はアソラルがその場で治癒魔法をかけて応急処置をして、診療所へ運ばれて行った。村にちゃんとした医者がいるとは珍しく、大抵は薬師がいるくらいだ。
訓練広場の惨状をアソラルが元通りになおしていたら、いつの間にか酒を持ち寄ってきた奴らに打ち上げとだといって拉致られた。昼間から酒を飲み上機嫌の彼らの中で俺達3人だけが疲れている。旨いはずの酒なのに味がしないのは疲れからくる睡魔のせいだろう。アソラルは(会話をしつつ)余程疲れているらしく瞼が重そうでもうすぐ瞼がくっつきそうだ。とりあえずあいつが寝落ちするのを待って酒盛りから逃げ出そう。早く落ちてくれ。




