村長さんの修行日程
見世物が終わったとばかりに周囲の人が散らばっていく。
楽しめたようで皆の顔は笑顔だ。
その中で一人だけいい顔しをていないのがいる。ヴェルデだ。
「ミルカの為の練習がこれか?」
「そのハズだったんだけどねぇ、カンキツが自発的に動いてただけか・・・」
「ミルカは一般人だ。いきなり誰かを使って戦うなど無理があるだろう」
「長距離の荷運び兼雑用が一般人な訳ないでしょうが。新人であってもねそうはいかないんだよ」
確かにそうなのだが、村長さんは何か思う事があるらしい。
赤髪さんとのやり取りを傍で聞いているが、私に戦いの指示がだせるとは思えない。
無理矢理指示を出しても悪手になる自信があるわ。
「聖域に魔物がいるのは知ってるだろ。昼間に姿を現わさないのは人が怖がるからだ。だが、この村に魔物はよく来るし普通に接しているのさ」
「え!?カラさんは姿を見せないように魔物に言ってるって話してたわ」
「ここの人間で魔物というだけで怖がるヤツは一人もいないよ。魔物も悪さをしに来るわけじゃないからね」(逆に魔物が一人の村人を怒らせて八つ裂きにされかけたのはあったけどね、内緒だけど)
魔物が来るナナシ村って一体・・・・・・悪さが出来ない程強い村人ってだけでしょ。
きっとそうだわ!
たまに勘が鋭くなるミルカだが確信してないから心の中だけで終わらせる。
もしかして今も魔物がいるのかしら?少しだけど私も魔力を感じることが出来るのだけど・・・・・・
「今も村に魔物がいるのか?」
お、私と同じことを考えてた。
「今はいないね。ミルカとラドが薬草を届けにくる少し前に帰っていったよ。肉を大量に売りにきててね、それでバーベキューさ」
間際までいたの!?全然分からなかった。
結界があるから村にくるのは強い魔物ってことよね、そこまで強いなら私でも魔力を感じられるはずなのに。
んん?
そういえば聖域内で魔力を感じた事ってなかったわ。白の廃墟に山盛りの魔物がいたのに・・・・昼間はどこに隠れてるの???今度カラさんに会ったら聞いてみよう。
「しかも向こうはミルカに気付いているんだよ。魔物といっても温厚なヤツなんだが寵愛を前にどうなるかわかったもんじゃないから、ミルカが自分で身を守るには魔物─今はカンキツしかいないが使えるようにならなきゃね。ミルカとカンキツの主従関係はしっかりしてるからそこは安心してるんだけどね。私は心配なんだよ」
言葉に込められた感情は本当にミルカを心配してる声だった。
大袈裟と思うけど、生活の中で魔物が身近にいる人が心配しているのだ。これは真摯に受け止めるべきだろう。
因みにカンキツとの関係はエポから聞いていたと言う。いつの間にと思ったら薬草採取をしている間に素早く報告を受けたのだと。カンキツが危険な魔物ではない事を伝えてくれていて、掃除テクの素晴らしさを熱心に語っていたとか。
「魔物が出入りするのかこの村は」
眉間に皺を寄せて渋い顔をするヴェルデ。
全く気付かなかった。アソラルの暴露で精神的にダメージを受けてはいたが・・・・・過大評価をするつもりは無いが、Aランクに相応しい実力はあると自負していた。それが昨日のスカートからカンキツ出現、今日のアソラルに魔物と色々とありすぎて、しばらく一人になって心の整理をさせて欲しいくらいのショックを受けている。
「そう、だな。ミルカを鍛えてくれるのは有難いが一旦終わりだ。続きは明日からにしてくれ。それと投擲のセンスがいいからモノにしてやりたいんだが」
「あの時の声はヴェルデだったのかい。ふむ、いいだろう。ミルカとカンキツの連携に投擲を入れてみようかね」
村長さんの中で:カンキツを使う練習:と:投擲の練習:と:ミルカ・カンキツの連携訓練:のメニューが出来上がっていく。依頼もヴェルデ、トーゴ、アソラルに任せてミルカは村長に師事することになった。
昼間に依頼云々の詳細を決めたのに夜には詳細が変更された。臨機応変というか行動が早いというか脳筋ぽいトコがあるというか。
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翌朝、ちょっと疲れている。
エポさんが何処からか大量の服を持ってきてハイテンションなのだ。反比例してミルカはテンションだだ下がって俯き加減で服を着替えている。もう何着目か分からない。
「うふふ、要らなくなった服を近所から貰って来たの、ミルカに丁度いいサイズが沢山あって良かったわ。今日から村長について鍛えてもらうのでしょ?動きやすい服を用意しなくちゃね」
「とても嬉しいのだけど、どうしてヒラヒラした服まであるの?」
動きやすい服はサイズ調整なしで着れるのが数着あったのだが、ヒラヒラを何度も着替えてサイズ調整する意味がわからない。
「一日中、鍛えている訳じゃないんだから、それ以外の時間は一緒にお出かけするのよ。一年中花が咲く場所が村にあるの。お弁当もって行きましょうね!」
他にも色々とスケジュールが詰まっているらしく、そのスケージュールの数だけ服を見繕うつもりらしい。
ヒラヒラとした服はどれも鮮やかな色合いで着れば気分まで華やぎそうなものばかりだ。これらは祭りのときに着るものだそうで、村の外へ出るときに少し手直しして使い回しているのだという。
さすがに村外へ出るときは過剰装飾は取ってしまうそうなので、ミルカもそれでお願いした。
エポは可愛いのに。と渋っていたが、ミルカの趣味じゃないのでソコは譲れない。
「カッコいいのが好きなの!可愛らしいじゃなくてクールな感じの出来る女性が私の理想なの!」
容姿がカッコいいより可愛らしいから無理だと思う。さらに小柄な身長が可愛らしさを後押ししてるから。
可愛い子がクールな女性に憧れるなんて・・・・・なんて可愛らしいの!
くぅ~~~~、可愛いって叫びたい!
服に顔を埋めて身もだえるエポ。養子にしたいっ。
・・・・・・早くこの場から去りたい、着せ替え疲れる。
ため息をそっと吐く。
試着済みの服の山より、未試着の服の山の方が高いのを見てさらに疲れた顔をするのだった。
朝食を終えると、すぐに村長宅へ出かけて行こうと家を飛び出したミルカを、慌てて追いかけて外へでたが姿が無い。真っ直ぐに伸びる道で数秒の差で姿が見えなくなる筈がないのだ。村長宅へ続く以外の道を見ると少し先を走っているミルカがいた。
ヴェルデが、家を飛び出して行ったのミルカを見たのは偶然だった。本当に偶然だった。そしてこれほど偶然に感謝したのは初めてだ。
ニオブフィラ村の二の舞にならずに済んでよかった。
「何処へ、と聞く必要はないな。村長宅はこっちじゃないぞ。───はぁ、一人で動くなと言ったのに、鈴を付けた方がいいか?」
迷子のミルカを探した記憶が蘇ってきてため息がこぼれた。
「だって・・・・・、でもカンキツも一緒だし。隠れる必要ないから案内してもらって行けると思ったのよ」
「飛び出した理由がエポさんなのは分かっている、捕まりたくなかったのも分かる。だが、家を出るなら誰かと一緒に行け。・・・・・カンキツは村長宅がある方向は分かっているのか?」
「キュ!」
片手をあげ、方向を指さす。
「合っているな。ならばなぜ、ミルカの迷走を止めなかったのだ?」
「キュ、キュユ!キューキュ」
「・・・・・・・何を言っているのか分からん。聞いた俺がバカだった」
「キュッキ!」
「あ、今、怒ったぽいね」
それは俺も分かった。
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「オハヨウゴザイマス 村長サン、清々シイ 朝デスネ。朝寝ヲシタラ キット 気持チガ イイト 思イマス」棒読み
「どうしたんだい?疲れた顔して」
「朝早くからエポさんがミルカを着せ替え人形にしてたからな」
「あっはっは、そうかい。それは大変だったねぇ、エポは女の子も欲しがっていたからミルカが可愛くて仕方がないんだろう。村にいる間は付き合ってやっておくれよ」
なんの罰ゲームですか・・・・・がっくりと地面に両手をつき無言で訴えかける。勘弁してほしい、着替えを連発ってかなり疲れるのよ。
蹲って動かないミルカの襟をつかみ、片手で持ち上げ立たせる村長さん。
「さあ、疲れるのはこれからだよ、まずは投擲を見せておくれ。的はカンキツになってもらおう」
うぇ!?生き物を的にしないで。当然のように言う村長さんコワい!
驚いているミルカなど気にも止めずに、ヴェルデに今日の依頼内容を告げている。カンキツは地面に降り立ち、準備運動をしはじめ的になる気満々。その場で駆け足して体を温めはじめている。
どうしてそんなにヤル気に満ちてんのよ。
「最後までしっかり見て、目を瞑るんじゃないよ!」
「そんなこと言われてもっ、いきなり素手で投げてきたナイフを掴めって無茶だわ。木のナイフとか、グローブするとか段階を踏むでしょ」
「体で覚えな。感覚を養うんだよ、ほら次、投げる」
無茶ぶり酷い。ただでさえカンキツを的にするのに抵抗を感じているのに・・・・・
実際は何の問題もなく投擲の練習は進んでいる。カンキツに向けて投げたナイフは、当たり前のように掴み、そのままミルカに投げ返していく。何度も繰り返しているのだが、ミルカは一度もナイフを掴めずにいる。
「傷を負ってもすぐに直してやるからどんどん怪我しなさい」
「痛いわ!どうして投げてくるナイフを取らなきゃいけないの?避けてもいいじゃない」
「互いに取った方が拾いに行かなくて楽じゃないか」
「ぅえ!?」
特に深い意味があったわけでは無く軽かった。村人の平均レベルが高すぎて飛んでくるナイフを掴めるのは当たり前なのかもしれない。感覚の差を実感した瞬間だった。
違う、違うでしょ。拾う手間を省くためだけって、もっとこう、意味のあるものだと思ってたのにナニそれ普通なの?ここでは普通なのね!?・・・・・・力が抜ける。朝からエポさんに遊ばれて疲れているのに、さらに疲れが・・・・・私はここの普通にはなれナイわ。
「・・・・・拾うくらいするわよ。やり始めてからずっと拾ってるし」
言いながらも手を休める事無く投擲を続けて、村長との会話の合間に、キューキューと身振り手振りで「こうやって掴むんだ」とカンキツまで私に教えてくれているらしい。でもごめん、わかんない。もう掴むのしないし。
一本投げるごとに拾いに走るのも正直面倒なので、練習に貸してくれている20本のナイフを全部投擲したら拾うことにしようと決めた。なので、ナイフを掴んだらその場に置くように言ったのだが、気を利かせたカンキツはミルカが投擲したナイフを白刃取りにすると、そのままミルカの少し手前に投げて一列に地面に突き刺していく。
「カンキツすごい」
小さい頃にみた旅芸の人達を思い出した。思い通りの場所へナイフを刺していく正確さ。しかもカンキツの手は小さく、人の手に持ちやすい大きさのナイフは扱い辛いはずなのだが、そのような素振りも見せない。
20本全部を投げ切り、足元に突き刺さているナイフを抜き取っていく。
私が主でカンキツが従者なのよね。掃除や、薪拾いや、薬草採取なんかをやってもらって、なのに私はカンキツに何をしてあげたかしら?・・・・・・・・・そういえば初めて会った時は背中に薬を塗ってもらったんだっけか。───何もしてないわね、こんなダメダメな主ってどうよ。仕事上、魔獣に出くわす事があるんだから、自分の身を自分で守れるくらいにならなくちゃ!
拾ったナイフを握りしめ決意する。
「カンキツ、思いっきりいくわよ!」
「キュ!」
暗い顔してナイフを拾い集めていたかと思えば、突然、本気の投擲を始めた。
さっきまではカンキツに向かって投擲するのをためらってユルユルだったのにどういった心境の変化なのか。
「やっと真剣になったみたいだね」
「ああ、カンキツもさっきまでより楽しそうだ」
真剣に練習しているミルカと、本気で遊んでもらって喜んでいるカンキツがいた。尻尾があったら千切れんばかりに振っていそうだ。
二人の実力差がありすぎてちぐはぐ感が面白い。
「コントロールはいいみたいだね、そろそろ動く的にしようか。カンキツ、次はナイフを避けな!ミルカは動くカンキツを狙うんだよ」
「ええっ、そんなの難しい!」
「何言ってんだい、ボケてんじゃないよ。カンキツに一度でも当てる事ができたら馬をやるよ。カンキツは一度でもナイフに掠りでもしたら村にいる間はミルカに触れるのも近寄るのも禁止にするからね」
───────!!!
二人の体が感電したかのように撥ねる。
ミルカは馬をもらえるの!?というショックから。
カンキツはミルカの肩に乗れないどころか近寄れなくなるかもしれないショックから。
嬉しい悲鳴と悲しい悲鳴が同時におこる。
「マジで!?約束だからね、きゃっほぅ!」
「ゥキューーーーーーーーーーーーッ!!」
一人は両脇を締め拳に力をこめてヤル気倍増。もう一人はガクリと膝をつき(短すぎる足だがちゃんと膝があった)両手で顔を隠し(実際には手が小さすぎてムンクの叫びになって)空を仰いで悲壮感がハンパない。
反応が真逆すぎて笑える。
「くっくっ、カンキツに意地悪だな」
「仕方ないさ、わざと投擲を受けるかも知れないだろ。それじゃミルカの為にならないからね」
「これでは確実に馬は手に入らないな」
ヴェルデが二人に笑いつつも憐れんでいるとアソラルとトーゴがやって来た。
家を飛び出したミルカを捕まえてそのまま村長宅へ来ていた為、二人を待っていたのだ。
依頼は3人で、昨日から引き続き果樹園で収穫の手伝いだ。
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手合わせを誘われるだろうと予想はしていたし当たってもいたが、果樹園の仕事を手伝い終えてからのつもりたっだのだ。なのに、
「さぁて、早く今日の仕事を終わらせちまおうぜ」
────おう!
木の根元を囲むように布を広げ、腕力のみで木を揺らして実が乱暴に敷き詰めた布に落ちていく。最後に実をこぼさないように気をつけながら布を数人で袋状にして本日の収穫終了。
速ッ!
「・・・・・・こんな方法があるなら俺ら必要ないぞ」
トーゴが言ってくれた。
全くその通りで、手際が良すぎてかえって不慣れな人は邪魔になってしまう。
「これ内緒な、バレると村長に怒られるんだ。どうしても痛む実がでるだろ、腐りやすくなるからさ」
ネフトラがイタズラをしかけた子供のような屈託のない笑顔で口止めする。
この果実は聖域でもここでしか生らず超貴重な果物なのだと教えてくれた。その為、収穫時期になると村人が交代ではあるがほぼ全員が果樹園で働く。皆、丁寧に素早く熟し過ぎてダメにってしまう前に終わらせようと頑張るのだ。
因みにバレたら村長の運動不足解消に付き合わされ、満足するまで許してくれないのだと遠い目をしながら教えてくれた。
「言わなくてもバレるな。貴重な果実を、それも十数本も収穫しだんだから、痛んでいる実の多さは隠せないだろ」
「確かにバレますね。ですが私達は後から事実を知らされた訳で」
「・・・・・・・とばっちりはゴメンだぞ」
「連れない事いうなよ、死なばモロトモって、古い言葉だがいい言葉があるんだぜ」
とてもいい言葉には聞こえない、むしろ恐ろしい気がする。
全ての果実が順に倉庫に運ばれていくごとに周囲の人達がソワソワしはじめる。早く手合せしたくて落ち着かないらしい。俺達より背が高く体格のいい奴らばかりなのに、何故か遊びたくて尻尾を振ってる犬を連想させられる。
大型犬にも程があるだろ、ダメもとで俺達と3人対1人を提案してみよう。
「ヴェルデ!お前弱すぎ、次はおれがやるからな!」
「すまん、そうしてくれ」
片手で顔を隠しいて項垂れる。
自分がこれほどジャンケンに弱いとは知らなかった。申し訳なくて二人の顔をまともに見れない。
訓練広場へ場所を変え、俺が提案した案は却下されて、代わりに彼らがよく遊ぶルールを提案してきた。
俺達が3人なので上限を3人として2チーム作り、ジャンケンに勝った方が1対1、1対2と組み合わせられるカード全部から好きなカードを選ぶ。制限時間は用意した砂時計が落ちきるまで。
俺たちの相手は、外野の一人ずつが交代で出てジャンケンをし、カードを決めてから必要人数を足している。
ジャンケンに負けて、相手が3対3を希望して残りの2人は周りにいる奴らから適当に選んでいる。これで連続5回も負けて、連続3対3。どいつもこいつも強くて連携も完璧で隙が無い。いつもやっていると言うだけあって、誰と組んでも息があっていて最悪だ。こいつら、全員が俺らと手合わせするまで終わらない気でいそうだ・・・・・・・・こっちは連続でやっているんだ、限界がきたらアソラルの魔法でこの広場を氷柱で埋め尽くしてもらって強制終了をかけよう。
何とかして周囲に気付かれないようアソラルに伝えなければ。
小さな砂時計なのでどの手合わせも決着がつくことはない。だが、村人のテンションは上がりっぱなしで、俺達は必死でくらいつくので精いっぱいだ。だが、分かったこともある。どうも体術が主流のようで、武器を使うと隙ができる者が多い事に気付いた。
それでも身体能力が高すぎて隙ができても躱されてしまうのだが。
「砂が全部落ちた!次!」
やっぱりやるのか・・・・・・・剣を地面に突き立て両手で持ち、頭をその手の甲に置く。座りたいが座ったら立てなくなるだろう。ボタボタと汗が落ちるが拭くことすら億劫で、目を閉じて呼吸を整えることに集中する。
「よし、勝った!3対1だ、俺らが3な!」
やけくそでジャンケンして勝ったトーゴが迷うことなく言い放った。お前らは強すぎるんだ、これくらいのハンデは当然だ!とは言わないが、それなりの付き合いの俺には彼の態度がそう言っているのが分かる。
周囲はブーイングだが、負けた本人はよっしゃー!っと超嬉しそうだ。
なぜ喜ぶのか?───嫌な予感がする。
───伝える必要がなくなりそうだ。
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パン!
ダダダダダッズザーー!
「ひぃ~~~」
パン!
ダダダダダッズザーー!
「はぁ~~~」
パン!
ダダダダダッズザーー!
「ひぅ~~~」
「力が抜けそうな声だしてんじゃないよ、ほれ、あと5回!」
パン!
ダダダダダッズザーー!
「はぅ~~~」
動くカンキツに投擲を当てる処が、移動していなくなった場所にばかり投擲するので予定─村長さんの中では練習メニューが決まっていた─が変更され、投擲された側になり素早く動く練習になった。ナイフは使わず、村長さんが手を叩くのが投擲の代わりで鳴ればその場から素早く移動を繰り返す。
息が上がって喉がヒューヒュー鳴っている、酸欠で頭が痛くなってきた。でも止まったらダメだ。止まったらダメだっ、止まったらダメだ!
「うぅー、うまほしいー!」
とりあえず、やけくそで叫んで気合をいれた。
村長の足元にはカンキツがいて、一緒に手を叩いてぺちぺちと極小音を鳴らしている。ミルカを応援しているらしいが2人が気づくことは無かった




