祭り?
これは上等な肉だ。塊の肉をただ焼くだけなど勿体ない!
「アソラル──「嫌です」」
「被せてくんなよ、まだ何も言ってないだろ。嫌ってなんだよ」
「自分で料理すればいいでしょう。私は料理人ではありません」
「冷たいぞっ、俺がどれ程の腕前か知っているだろう?上等な肉だぞ、美味い肉料理が食べたい!」
「炭火で焼く肉は美味しいですよ。よそ見をしなければトーゴの腕前でも十分美味しい焼肉ができるハズです」
ハズ、なにげに酷い事をいう。それもそのはずトーゴの料理の腕前は壊滅的で、出来る料理は「ただ焼く」「ただ煮る」「ただナマ」この三つしかないのだが、あえて料理名をつけるとしたら「完全炭化一歩手前」、「姿崩れ煮これなーんだ?」、「フレッシュ虫さんコンニチハ」となるだろう。
もちろん、食えば本人すら腹を壊す。
数年かけてアソラルが教え続けてきた甲斐がありマシになってきていて、一応食べられる料理ができつつある。ランクを付けるとすれば「罰ゲームで出る料理」に昇格している。アソラルの努力の賜物だ。
「そうだな、いい肉だから焼くだけで十分だ。アソラル、塩をくれ」
同意するヴェルデは塊をナイフで好みの大きさに切って塩をふり焼いていく。肉から脂がたれて炭に落ちジュッと旨そうな音と共に煙があがり肉を燻す。
旨そうな匂い、旨そうな音、塩だけでイケる。エールがあれば最高だ。
「トーゴも食え、旨いぞ」
「うう、ヴェルデまでっ、旨いけど、旨いけどな!俺の口が他の肉料理も欲しがってんだ」
「食わないなら俺達で全部食うぞ」
塩ふり肉は最高だが酒が欲しい。ヴェルデが酒を探すと言ってどこかへ消えてしまった。トーゴに自分で肉を焼いてみろと言い残して・・・・・もちろん美味しく焼けという意味で。
「フ、フフフ、焼いてやろうじゃねーか。ヴェルデに旨いのを食わせて見返してやるぞ。アソラル、俺が肉を網に置く。皿にあげるのはお前に任せた」
「またですか?以前に比べれば料理も上達していますし、焼いた肉の面倒を最後まで見てあげて欲しいのですが」
ため息をつき、肩を落として、変な言い回しで、食べられる焼き加減を覚えましょうと言ってみた。料理関係でこういう時のトーゴは結果の為には手段を選ばない。結果が良ければいいじゃないと堂々と言ってアソラルに振ってくる。何処の我が侭お姫様ですか!と何度思った事か。
今では「我が侭トーゴ姫」がでた時は半分は諦めがつくようになった。
残り半分は、トーゴはやれば出来る子だと信じてあげたいと思う気持ちなのだが。
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これは参ったな
大量の酒樽が置かれている前でコップを片手に無言のまま立ち尽くしている。その場で一杯、二杯、三杯と飲んだのだが、見た目が同じでしかも全部の樽に表示が無く、なのに一樽ごとに違う酒が入っていたのだ。バラバラに置いてやがる。
二人に持って行きたいのだが無差別に持って行くしかないか。あと冷えたエールはどこにあるんだ?飲んでるヤツがいるからどこかにあるハズなんだが・・・・ジョッキも欲しい。
キョロキョロと見回しながら無意識に積んだ樽の一つに触れるとひんやりとしていた。常温の樽の中で冷たい樽だけが纏まって置かれ、それらにだけ小さな模様が刻まれ中心に小さな石が埋まっている。これは魔法具か?冷えているならこの酒樽は!
注ぎ口を開けてみればエール!
うん、うまい。
飲みながらジョッキは何処だと探していると、人だかりが出来ていた。
しかも賑やかな会場にあってそこだけ静かだ。興味をそそられ行ってみると人だかりの隙間からカンキツが見え、しかも武器を持って構えている。
小さくて見えずらいがあれは刀か?
相手は誰だと、視線をカンキツが見据えている先に移すと肉の塊が置かれていた。
肉?
───フッ!
息を吐く小さな音が聞こえたかと思えば切っ先が消え。
───おおおおお!?
驚きの声が上がる。
速い!
しかも魔法を帯びているのか刀に付いた脂が消えて、手入れしたかのように綺麗な状態になっていく。
魔法が無くても逸品だと分かる刀に目を奪われる。
傍にいるミルカが立っているが、どうやら見えていなかったようで皆が驚く声に戸惑っている。
「すっげー!カンキツかっこいい!!」
ラドは一部始終が見えていたらしく刀を羨ましがって覆いかぶさるほど近づいている。
カンキツが見せた技より武器が気に入ったようで、羨ましがって刀を構えた姿を真似している。9歳の男の子らしい反応で微笑ましい。
カンキツの強さを垣間見れて、アソラルが強いと言ったのを思い出す。
気配を読むのはアソラルとトーゴに負けるが、それでも全く気付かれないほどの実力の持ち主だ。侮っていたわけではないが、武器は、本人の実力に見合うものを自然と持つもの。
エールを飲みつつ一度手合せしたいものだと思う。
だがミルカの足首をポンポンと叩きながら呼ぶのはダメだろ。見上げる姿は覗いている以外のなにものでもないぞ。
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考えて取らなければ崩れてしまいそうな焼肉の皿が3つ置かれていた。
焼いた順番が一目両全で、ほぼ黒いカリカリに焼き上げられた肉ばかりの皿、黒でカリカリの肉と赤すぎて生に近い肉の混ざった皿、肉の縁が焦げてるけどこの3皿の中では一番旨いだろう肉が盛られた皿。
「・・・・・・お前の成長記録のような3皿だな」
一応褒めているつもりだ。3皿目だけ食いたい。いや、そうじゃない、残りの2皿は腹痛を起こしそうだから食ったらダメだ。
酒をのせた盆をトーゴに渡しながら即座に焼肉の状態を判断する。
「なんだこの盆は?」
渡された酒を受け取り、乗せた盆をみて顔をしかめるトーゴ。脂で汚れて細かな生肉の欠片も沢山ついている。
生肉を盛っていた盆を使っていてコップの底がぐちょぐちょ。せめて拭いて欲しかった。
「それしかなかったんだ、飲めればいいだろ?」
盆には10のコップが乗り、エールが3つと他のコップに別の酒が入っている。
「ワイン、ブランデー、焼酎、ウィスキー、ラム酒、ウォッカ辺りだと思うが」
分からないならエールを10杯の方がよかった。折角だから全部飲んでみるが、美味い酒なら買うとするか。
トーゴが焼いた肉を一切れ食ったが、自分で焼いた肉の方が旨い。残りの肉はトーゴに責任をもって食わせる事にした。本人はヴェルデが焼けって言ったんだから食え!っと反論していたが、俺は美味しく焼けと言ったのだ。まずい肉はトーゴが処理して当然だろう。元々が貧困の中で育ったトーゴが肉を捨てられる訳もなく。
「そうだ!カンキツは何処だ!?」
魔物でもそれは腹を壊すんじゃないか?カンキツに逃げろと言ってやろうと、どこにいるかと首を巡らせれば、いつの間にか人が少なくなっていた。
歓声が村長宅の向こう側から聞こえてくる。また、何かやっているらしい。行ってみるとほとんどの人が集まっているようで、背の高い人達の壁が出来上がって全く見えない。
「何をしているんだ?」
傍にいる人に尋ねてみたら意外な返事が返ってきた。
「あんたたちの連れの女の子と村長が手合せしてるんだよ。つっても、やり合ってんのは小さいのだけどな」
「手合せ!?」
「うちの村長は酔うと手合せしたくなる人でなー。迷惑な時もあるが見る分には楽しいんだ」
迷惑しかないだろ、眉間に皺が寄りそうになってしまう。ミルカにそこまでの力量はない、怪我をするのが落ちだ。なんとか見えないかと動いてみるが全く見えない。
横にいるアソラルが浮遊魔法を発動させる声が聞こえた。何をしているのかを振り向けば地面を蹴りふわりと飛ぶように空高く舞い上がる。ゆっくりと落ちてしまうから、地面を力いっぱい蹴って出来るだけ高く飛んでいる。
なるほどこういう使い方もあるのか。
ヴェルデとトーゴもアソラルに習い空へ上がる。
手合せと言うから剣を持っているのかと思えば、村長は火箸、カンキツは箒だ。
素早い動きでちょろちょろと村長の持っている火箸やら腕やらに攻撃を仕掛けている。小さいためによく見なければ、纏わりついて遊んでいるようにしか見えない。
村長も、よくあれだけの攻撃を躱し反撃できるものだ。小さすぎて空振りしそうなものなのに的確に隙をついていく。
「面白いな」
思わず呟く。聞かせるつもりなどない独り言だったがアソラルとトーゴも頷く。だが、ミルカは立っているだけ。村長とカンキツの間に入れるはずもない。
「やっぱミルカは動けないよな」
「せめてカンキツを援護出来るくらいになって欲しいところですね」
そうなれば、身を守る術を得ていけるだろう。だが、この手合わせでは経験が積めないから意味がないな、カンキツが自分の意思で動いているに過ぎない。
「ん?村長がミルカに突っ込んでいってるぞ」
「さっきの人が手合せは村長とミルカって言って・・・・」
「せめて攻撃を避けるくらいして欲しいところだな・・・ミルカ投擲!」
声が聞こえたらしく反射的にナイフを村長に向けて投擲した。
弾かれはしたものの、ナイフを取り出し投げるまでの動きは素早く滑らかでいい動きだった。
そのあとはダメダメだが・・・・。目を瞑るヤツがあるか。




