トーゴ 遺跡調査4
下りてみると魔物はおらず先ほどの1体だけ階段の近くにいたらしい。
幅2mの真っ直ぐな道を進むこと約800m。
長い。
いりなり広い空間にでた。
周囲に魔物は見当たらないが、魔素が濃すぎて感知しにくい。
地下1階の比ではない濃さだ。
「この通路を使って狩りをするのがいいな。俺が囮になっておびき寄せよう」
「まてまて、行ってる間に魔物がきたらまずいだろ。ヴェルデが行ったら火力が減る」
誰が囮になるかと話している最中に、ゴソゴソと一人不審な動きをしているアソラル。に、気付き、4人ともがじっと見ていると、汚れた手をパンパンと払い満足気な表情を見せる。
・・・・・・・・・
「なにやってんだ?」
「結界を張っていました。ここから5m戻った位置に張りましたので、狩りがきつくなったら一度結界まで下がって、体勢を立て直せば効率がいいと思いまして」
淡く光る結界が通路を塞ぐように出来上がっている。
その光はアソラルの左の指先につながってゆらゆらと揺れている。
「結界の出入りを自由にしますので、皆さん手を出してください」
一人ひとりの手首に光を巻き付け結界と繋ぐと、ロープのような形で安定した。
触ろうとしてもすり抜けてしまう。腕を振ればロープも揺れるのだが。
試しに結界に入ると膜の中に入ったような感覚がして、出るときは何も感じない。
「結界から離れすぎると切れてしまいますので気を付けてください。この階の魔法具の状態を見たいので私が囮になります。皆さんはここで待っていてください」
「無茶するな、魔法に長けているからって前衛がいなきゃ厳しいだろ」
「大丈夫です。その光のロープを切らないようにしてくださいね」
言いながら駆けていくアソラル。
結界とつながる光のロープがどこまでの距離を離れられるのか分からず誰も動けなかった。
うーむ。ソロでやってるヤツだから、なんでも一人でやろうとするんだろうか?
そう考えると、人との関わり方がぎこちなかったような。
話しかければ返事はするし、聞けば答えるし・・・いや、聞かなきゃ答えないのか。
・・・・・無口っつーわけでもないが。
当たり前のように、それ先に言えよ、ってツッコミいれたくなる情報を後出しするのも・・・
今みたいに一人で結界張って囮になって。俺たちはパーティーを組んでるんだからちょっとは頼ればいいんだぞ。
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
あ、なんかだんだん腹たってきたかも。
むう。
「なあ、この依頼が終わったらあいつをパーティーに入れたいんだがいいか?」
「誘うんじゃなくて?」
「入れる。頼ることを覚えさせてやる」
「アソラルは雰囲気がちょっと変わってるよねー。でもいいわよ、嫌なやつじゃないし。魔法をたくさん知ってるみたいだから教えてもらっちゃう」
「本人がいいなら」
「あいつの意見は聞かん」
「えらく強引だな。頼らないのが気に入らないってか?」
無言で頷くトーゴ。
ならいいんじゃね?
決め方が雑すぎるが、チームゾレスはこういうパーティーだ。
あとで拉致る。
──────────────
バキ、バキバキ。
カシャ。 カシャ、カシャ・・・
「ふむ」
通路の壁をみてまわり、見つけた魔法具がどれも機能していることがわかった。
周囲には刃物のように鋭い足をもった蜘蛛の形をした魔物がアソラルを囲んでいる。
飛び掛かってくる魔物を一瞬で壁から生えた無数の槍が串刺しにする。
鋭い足も関節を狙えば簡単にもげる。
一人だけの小さな結界で身を守りながら、気負うことなく片手間に蜘蛛を倒していく。
しかし、襲ってくるのと歩みの妨げになる蜘蛛を倒すだけで、周りにいるだけの蜘蛛には気にも留めていない。
アソラルが張る結界を蜘蛛たちは破る事が出来ず、破ろうと後を追うのだが、まるで一緒に歩いているように見える。
「あまり離れていると彼らが心配するでしょうね。囮を繰り返すしかないか・・・」
寄って来るのは蜘蛛ばかりだが、こいつらだけなら楽でいい。
アソラルの実力なら負けることは無いのだから。
魔法で壁から槍を無数にだし、蜘蛛どもを串刺しにして絶命させる。
死んだあと無数の槍は静かに元の壁に戻ってゆく。
─気になるのは封印がある場所。
ただ位置が知りたいだけで、近づくつもりは無い。
身の安全の確保のために危険な場所を把握しておきたい。
あと、どれほどの魔物が封じられているのかも知っておきたいところか。
今は良くてもこれから先、何が起きるか分からないから可能な限り情報収集を行う。
封印の傍にでかいゴーレムがいるから目印としては最高なのだが、それが居そうな広い部屋が見つからない。
困った。
ここは魔素を吸収する以上に魔素が溢れている状態だから地下3階は確実に機能しているし、最大吸収力で魔素を吸い上げているから封印もゴーレムも強力なはず。
副産物の魔物が湧きまくっているが。
時間もかけられないし、でも走って探すのも・・・・・角を曲がるとばったりゴーレムに出くわすとかやめて欲しい。
「ふう、もどりますか」
結界と繋がっているロープが手首に巻きついている。
ただ、チームゾレスに付けたものとは違って道しるべの魔法のロープ。
魔力が続く限り切れることはなく、他の人には見えないように隠蔽されている。
見えるのはアソラルだけ。それを伝ってもといた場所へ戻る。
──────────────
うろうろうろ・・・・うろうろうろ・・・・・・
「ちょっと二人とも落ち着きなさいよ。鬱陶しいわ」
「「だって遅い」」
「もう、結界が消えてないんだから無事よ!」
トーゴとルルナはどうにも落ち着かない。
短い付き合いだが、微妙にズレたアソラルと認識していて不安で仕方がない。
何が不安なのかと聞かれれば、微妙過ぎて何に不安を抱いているのか分からない。
説明が難しい。
通路から見渡せば、灯りはあるが見える範囲にはなにもない。
光は闇にのまれて広場を照らすには不十分だった。
タッタッタッタッタ。
カシャカシャカシャカシャ。
タッタッタッタッタ。
カシャカシャカシャカシャ。
タッタッタッタッタ。
カシャカシャカシャカシャ。
─────?
「ねえ、何か音が聞こえない?」
「音?」
「だんだん近づいてきてるわ」
タッタッタッタッタ。
カシャカシャカシャカシャ。
「っげ!?」
音のがする方に目を凝らせば闇の中から、結界で身を守りながら軽快な足取りでアソラルが走って来る。
大量の蜘蛛を引き連れて・・・・・
「後ろの何あれ!?」
「ゴメン。心配してたけど、ちょっと今は無事を喜べない!」
「囮にも限度があるだろ!」
「マジか。ジョギングして戻ってきたって感じだぞ。すげえ余裕」
通路を使って確実に一体ずつ狩るしかないな。
一瞬にして全員の気が引きしまる。
近づいてくる魔物を見定め、それぞれが武器を構える。
「お待たせしました」
トーゴ達の背後に周り身に纏った結界をといた。
「はは、大漁だな」
前衛に剣を持ったゾレスと、双剣のトーゴにシュシュが防御魔法をかける。
素早い動きの蜘蛛に体勢を低くして下段から突上げ蜘蛛の腹を見せるように浮かせる、間断なくルルナの雷魔法で絶命させる。
言葉を交わさなくても互いの行動を理解して互いが動く。
一歩さがると、その分蜘蛛が押し寄せてきて間合いを取るのが難しい。
横からゾレスの前にでて蜘蛛の鋭い足の付根を狙って切り裂くが、8本の足が7本になったくらいでは動きが鈍らない。
少し後退させただけだった。
アソラルが出来ない、パーティーの戦い方、その連携は言葉を交わす必要がない。
淀みなく個々が最適な対応をみせる。
次々を倒していく彼らに無駄な動きは一切なかった。
「ちょっとこの蜘蛛固くない?」
「糸がないだけマシでしょ」
「ないと言い切れるのか疑問だがな」
「やばっ毒!毒もってる、シュシュ異常回復たのむ」
「アソラルも回復をっ」
背後にいるアソラルを振り向けば、ただ立ち尽くしていた。
「「「「おい!」」」」
ハッとしてアソラルは何故か嬉しそうに目を細める。
「素晴らしいチームワークですね! 見惚れてしまいました。かっこいい」
いい笑顔を見せる。
ぬぁーっ、ここでズレるな。
この状況で見惚れるって図太い神経してんな。
「見惚れるのはコイツらを片付けてからにしてくれ。回復!」
「アソラルも戦ってー!数が多い」
「すみません!」
慌てて回復をゾレスとトーゴにかける。
二人が淡い光に包まれる。
回復魔法が効いた証だ。
目の前には死んだ蜘蛛が重なり、その死体を乗り越えて蜘蛛どもが襲ってくる。
さすがにチームワークがいいと言っても多勢に無勢だ。
アソラルが回復に徹していが前衛の消耗が激しい。
すぐ後ろに安全な結界があるとはいえ、数で圧倒される。
疲れが徐々にではじめる。
剣をはじかれ体勢を崩し倒れる。瞬間、目の前に二体の蜘蛛がゾレスに襲い掛かる。
「ゾレス!」
庇おうにもトーゴも蜘蛛の鋭い足を受け止めて動けない。
防御魔法は掛かっているが無傷とは言えないだろう。
「ダメ、攻撃魔法が間に合わない!」
───ッザン!
通路の天井・壁・床から無数の槍が現れ全ての蜘蛛が串刺しになり絶命した。
時差もなく通路の全面から一斉に飛び出した槍。
音が消える。
一瞬の出来事に理解が追いついてこなかった。
何が起こったのか・・・・呆然とすることしかできないでいるとゾレスに手が差しのべられる。
「大丈夫ですか。怪我は?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
体を起こしマジマジとアソラルを見る。
全員の視線がアソラルに集中する。
アソラルが倒したのか。
「? どうかしましか?」
どうしたのだろう?と首を傾げる。
アソラルの微妙なズレはこういう時だ。
俺達が驚いてんのに、分かってないとか!
当たり前に常識というか感覚が互いに噛み合ってないとかな。
普通なのか。
これがアソラルの普通なのか。
強えーなおい!
本人にからしたら至極当然の事だろうから、こっちから聞かなきゃ話してくれねぇだろな
「この槍ってアソラルの魔法だよな。土属性?」
「はい、狭い通路なので効果絶大です」
大量の蜘蛛の死体が転がり、槍は静かに元の状態へ戻っていく。
絶大すぎるだろ・・・・・
魔法を使ったら、通常そのままの状態でしかない。
出した槍が壁に戻るとか無いわ。
言葉もなく押し黙ってしまっていると、
「私が素材を取ってきますので皆さんは休んでいてください」
「私もやるわ。ゾレスとトーゴとルルナは休んで回復しててね」
たいして疲れていないシュシュと全く疲れていないアソラルで、蜘蛛の鋭い足先と体の中にある魔石を取り出していく。
結界の中で大人しく休んでいる3人は、実はかなりやばかった。
ゾレスとトーゴは体力の限界だった。
ルルナは魔力が尽きようとしていた。
倒せない魔物ではないが限度というものがある。
初めは数えていたが、途中から余裕がなくなって何体倒したか覚えていない。
「ねー、二人とも」
「「ん?」」
「私が風属性の魔法で入口を開ける必要なかったんじゃない?」
「「あ」」
「アソラルは私達に遠慮してるのかしら? 土属性が使えるのに黙ってて。でも隠すつもりも無いようだし」
「だな。でもランクは隠してるだろ。アイツはBランクだって言ってたが」
「そうねぇ。竃と灯りの時、無詠唱だったのよね。家庭魔法だからそれが普通なんだけど、それでも発動に単語を使うのが常識なんだけど、それも無かったし」
「発動に使う単語ってなんだ?」
「例えば、槍!って。んで、槍がバババーっとでてくる感じ」
うん、わかりやすい。
要するに無詠唱。無単語で魔法を発動できるって常識的にありえねぇ!っな次元ってことだな?
「凄い事はわかった。んで、ランクでいうと?」
「見たことも聞いたこともない魔法の使い方をするのよ。しかも魔法のレベルが高い。私がランクの判断できると思う?」
規格外ってことか。
Sランクだったりして。